しかし、できる限りはやるを方針に行きたいと思います。
ではでは、始まります。
「おおおおっ!」
ボスエリアの中で、キリトの剣が鋭く振られた。
50層のボスラストアタックボーナスでドロップしたらしい"魔剣"エリュシデータ。かなり要求が高いそうで、しばらくは装備できないとか言ってたのに、もう装備できてるじゃねぇか。どんだけレベル上げしてるんだよ、あいつ。
「ハチマン!」
「わーってるよ」
刀の範囲上位スキル。裂空。
腕と、刀の重みを一気に利用して、遠心力を使って周囲を薙ぎ払う。
どうでもいいが、やっぱりサチに大声で名前を呼ばれるとびくっとなる。
「っと、取り零しは……早いな、サチがやったのか」
「今回は私がハチマンの背中を守るからね」
「……キリトじゃなくて悪かったな」
「もう! ボス戦なんだから茶化さないで!」
言いつつも顔を赤くしたサチを背に、俺は迫りくる雑魚モンスターを一息で倒していった。
56層のボスは雑魚沸きが今までの比ではないほど多く、メインでボスを攻める血盟騎士団の面々以外は全員雑魚狩りに担当変更となった。
俺は今回キリトやサチ、ササマルという黒猫団組とパーティを組んで雑魚処理に当てられている。
「ハチマンも言うようになったなぁ」
「あんなの誰でも気づくだろ、本人以外は」
俺の目の前で忙しなく移動してボスを攻撃するキリトを見つめ、ボス戦にも関わらずササマルと二人で緊張感のないため息を溢した。
わかりやすく、サチはキリトが好きらしい。黒猫団の面々はみんな当たり前のように知ってることなんだが、キリトは気づいてなかったりする。鈍感系ってやつか……イケメンにのみ許されることの一つだな。
「さて、と」
話を無理矢理そらしはしたものの、俺は若干動揺していた。
背中を守るとか、言われたことねぇよ。つーかさっきのササマルのとだって、まるで友達――
「違うだろ、勘違いするな」
……それこそ違うだろ。わかってはいる、あいつらに打算とかなくて、いいやつらなんだとは。
だからって、今さら俺に根付いたものが変えられない。どう変えればいいかわからない。
「……くっそ、マジでクソゲー過ぎるだろ」
……らしくないことに、唐突に、凄く雪ノ下や由比ヶ浜、小町に会いたくなってしまった。
「ハチマン、どうしたんだ?」
「なんでもない。ほら行くぞ、ササマル」
何回目、何体目かわからない雑魚沸きにため息を吐いて、俺は雷切丸を構え直したのだった。
「ササマル、遅いぞ」
「ハチマン基準で言わないでくれよ。そっちが早すぎるんだよ!」
真っ二つに敵を切り裂いて、そのまま沸く位置まで駆け出す。
面倒になった俺はもう沸いた瞬間にやってしまおうという魂胆で裂空を放っていた。
「ボスは……と」
血盟騎士団の面々はさすがと言うべきか、なかなかに高水準な連携を組んでいた。
最強プレイヤー率いる最強のギルド……か。
「出来すぎてる気がする……って、どうしたんだ、あれ」
ボスの行動パターンが変わった……ってあれ、刀に持ち変えたのか。まるで1層のボスのときみたいだな。
「……ハチマン」
「どうした、キリト」
「刀の攻撃って転倒させるのあるだろ。念のためフォローの準備をしておこう」
「あいよ」
キリトの読み通りと言ったところか。旋車を放ち、血盟騎士団の面々は転倒する。アスナを含めた何人かは立っていたけど、こけてる方が多い。
「キリト」
「ああっ!」
「くっ、リニアー!」
アスナ、そりゃダメだ。お前は今回のリーダーなんだから落ち着いて体勢を立て直さねぇと。
まだボスは死ぬ体力じゃないだろ。
「っらぁっ!」
突きを見舞ったアスナへ振り下ろされた斧を雷切丸で受ける。
片手でアスナを突き飛ばしたこともあってか受けも片手でしかできず、斧は俺のわき腹へ軽くめり込んだ。
視界が赤くなる、体力バーが一瞬でレッドゾーンだ。
「――っ!」
思わず頭のおかしな声をあげそうになって、必死で取り止める。
くっそ、なんでこんな怖い思いしなきゃいけねぇんだよ。
「ハチマンくんっ!」
「うるせぇ早く体勢を立て直せバカ野郎が! 大したボスでもねぇのに素人みたいに突撃しやがって!」
悲鳴にも似た声を出すアスナへ大声で言って、俺はハイポーションを飲んだ。HPが全快していき、視界が晴れていく。
最近、大声出すことも躊躇わなくなってきたな……今回はわりと動揺しまくりだからってのもあるが。
「あー、死ぬかと思った。もう動きたくねぇ、あとはやってくれ」
「……わかってる」
アスナが走り出すのを見て、俺はため息を吐いた。
……くそ。なんだってこんな、俺らしくもないことばかりやらされるんだか。
ああ……やっぱり小町に会いたい。戸塚にも会いたい。
―――――
「で、ハチマン。どうしてこうなってるかわかる?」
「……いや、全然なんだが」
ボス戦後、俺は何故か月夜の黒猫団のギルドホームに拉致され、椅子に座らされ、俺をめちゃくちゃ睨むサチを筆頭にオロオロする男陣を眺めていた。
「私は、凄く怒ってます」
「そうだな」
「理由はハチマン、キミです」
「いや、それはわかるんだが、なんで?」
俺、何かサチを怒らせるようなことしただろうか。
っておい男共。お前らも何頷いてやがるんだ。
「腕を攻撃するとか、他にやりようはあったでしょ」
「あー、それか」
「ハチマン、防御は俺らより低いんだから無茶しないでくれよ」
「……しかしだな、あれは適材適所というか……」
「ハチマンの適所は、誰よりも早く動けるってところでしょ! ああいうのは盾役の動きで、ハチマンの役目じゃないの!」
「……はい」
なにこいつ、怖い。
「……あのさ、ハチマン。俺、ハチマンが死んだら、泣くぞ。絶対泣く。ハチマンだけじゃない、他のみんなが死んでも嫌だ」
ダッカーが心配げな様子でこちらを見てくる。いや、なんか盛大な勘違いをされてそうだな。
「俺も、ハチマンが死んだら嫌だな。もしここにいるみんなが死んじゃったら、後追いしそうだ」
「……あのな、ケイタ、ダッカーも。別に俺は自己犠牲がしたいわけじゃない。あのときはたまたま、身体がそう動いてたんだ。少し焦ってたってのもある。
……その、なんだ、悪かった。サチも、すまなかった。次は気を付ける」
……自分でもびっくりするくらい。言葉が自然と出た。
いや、わかってるんだ。今回ばかりは、俺が悪い。奉仕部の時とは話が違う。切れる最善の手札を切ったわけでもないし、下手したら俺は死ぬし、それはこいつらにも重い影を落とすことになってしまう。
「……ハチマン、謝れたんだな……」
「おいキリト、それどういう意味だよ」
キリトの言葉にみんな笑って、とりあえずの話は打ち切りらしい。
……こいつらと同じように笑ったりとかはできないしする気もないが、悪くないなと思えるくらいには俺も思えるようになっていた。
八幡が主人公みたいなことしてる……
心を許すわけではないのに和に溶け込んでいく系主人公とかなかなか新感覚。
これからは黒猫団も徐々に話に入ってきたりします。
より難しくなるけど、なんとか頑張りますのでよろしくお願いします。