休日はばんばんいけるけど平日は一つ上げられればいいな……
とにかく、はじまります。
「ボス部屋が……」
「……発見された?」
「そうだヨ」
俺がキリトの宿に根城を変えて三日ほど経ったのち、鼠女――情報屋のアルゴがやってきて事の次第を伝えにきた。
ボス部屋の発見。つまり、一層をクリアできる、ということだ。
「キー坊もハッチも、モチロン行くんダロ? ボス」
「まぁ、な」
「当たり前だ。その為にハチマンとレベル上げしてたわけだしな」
「ずいぶん懐かれてるナ、ハッチ」
「俺の人徳の為せる技だな」
「ぼっちが聞いてあきれるヨ。で、本題ダ。明日、会議を開くそうダ。ボス討伐に行くなら出とくとイイ」
鼠女はこれを言いたかったのだろう。まぁ、問題はない。会議なんて適当にステルスヒッキーをしてればどうにかなるだろ。
「ハチマン、やるぞ」
「言われなくても。つかお前、結構熱血系なのな」
「え、そうか?」
主人公気質ってのか。まぁ、それにしちゃコミュ力が足らない気もするが。
―――――
「えっと、はじめまして。俺はディアベル。気分的に職業はナイトをやってます」
ボス会議とやらにて、酒場で挨拶をする爽やかイケメンの言葉に笑いが起こる。え、なんで今の笑うの?
イケメンパワー? つかなんだあの葉山もどき。
そもそもナイトってなんだよ。光と闇が合わさって最強に見えちゃうのか? ソルを使い手なのか? ハイスラでボコっちゃうのかよ。
「ハチマン、どうしたんだ?」
「……いや、なんでもない」
多分、某ネトゲネタはキリトの世代ではなさそうだ。
ネトゲ珍事と言えばこの人と某お兄ちゃんどいてそいつ殺せないのイメージが強いが……やめよう、脱線しそうだ。
「と言うわけで、まずはパーティを組んでくれ」
「うぇ?」
はいきましたー。いや、忘れてた……とりあえず、キリトと組んで……と。
あとは……
「キリト、あそこのフードのやつ。あいつ、どうだ?」
見るからに和に入らなそうなのが一人、ぽつんと座っていた。これはいい、あいつ入れればとりあえず三人だ。でも、俺は話しかけない。なんでかって? できるかよそんなの。
「俺はキリト、こっちの目が腐ってるのがハチマンだ」
「……よろしく」
「目が腐ってるは余計だ。……まぁなんだ、短い間だが、よろしく」
キリトが上手く引き入れてくれた。名前はアスナ……女か?
なら、このむさ苦しい和に入れないのも、フード姿なのも頷けるが……
「……どうでもいいか。キリト、軽く連携組むぞ。俺らに協調性なんてありえん」
「自信満々に言わないでくれよ……まぁ、そうだけど……」
ぼっち同士、上手くいくとは限らない。むしろぼっちだからこそ連携なんてないものだからな。
なんて思いながら会議部屋の酒場を出ようとしていると、大きな声が俺たちの動きを止めた。
「ワイはキバオウってもんや。この中に、謝らなあかんやつがおるの、わからんか?」
いきなり出てきたトゲトゲ頭の言い分は、つまりこうだった。
今まで死んだプレイヤーは、ベータテスターが情報や狩り場を独占したから。
なので、ここにいるベータテスターはここの全員に土下座した後、身ぐるみ全部置いてけ、と。
「……恐喝じゃねぇか」
バカも休み休み言えよ。と、隣のキリトが顔を青ざめていた。あーそうか、こいつベータテスターなんだっけ?
他にもぼっちスキルである人間観察で見てみれば、ベータテスターっぽそうなやつは所在無さげにキョロキョロしている。……仕方ない。
「おい」
「なんや!」
「言い分がそれだけならもういいか? パーティも組んだことだし解散しようぜ」
「なっ、何を言ってるんやアンタは! ワイは――」
「死んだプレイヤーのうち、自殺とモンスターやPKが多い。そのうちのモンスターによる死亡者の多く……まぁ初心者や無茶する人間なんだが、この無茶する人間は誰だかわかるか?」
「……」
「答えはベータテスターだ。大方、お前の言う通り情報や狩り場を独占しようとして返り討ちに遭ったんだろう。体験版と製品版でゲーム内容が違うなんて当たり前なのに、ばか野郎共だ。
少なくともここにいるベータテスターは、そういったことはしてない、足並みを揃えてる連中だろ。
俺もお前と同じ、製品版からのプレイヤーだがおそらくベータテスターは俺らよりはまともに働くだろうよ。そいつらから身ぐるみ剥いでどうするんだ? 俺はお前の自殺に付き合うつもりはないぞ」
これだけ言えば問題はないだろう。こんなばか野郎のせいでボス討伐に支障を出されても困るからな。
と、不意に黒人のスキンヘッド男が手を挙げた。
「俺はエギルというものだ。ついでと言ってはなんだが、ガイドブック、あんたらも知ってるだろ?
あれ、ベータテスター達の協力で得たものなんだ。それに対して、仇で返すようなことをしていいのか?」
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
「……はい、やめよう。明日みんなでボスを倒すんだ。仲間割れしたって意味はない」
みんなで、か。なんだよますます葉山っぽいな……
が、リーダーの一声だ終了。俺達が酒場を出るまで、あのキバオウとやらの一行はこちらを睨んでいた。
―――――
「……ハチマン、ありがとな」
「無駄な時間を過ごされるのが嫌いなんだ。別に他意はない」
「捻デレめ」
「お前までそれを言うか……」
「他にもいるのかよ!」
「……妹が、な」
らしくない。それは俺が一番わかってる。が、やはりこういう環境は人を変えるのだろう。キリトのああいう表情を見て、あのキバオウってやつにイラついたくらいには、人を信頼してるらしい。
「そんなことはいいんだよ。キリト、連携、やっとくぞ」
迷宮にて、俺達は会話をしながら歩いて行く。アスナってのはどうやら細剣……いわゆるレイピアを使うようだ。
「スイッチとか、組み合わせ変えないとだな」
「そういうことだ」
「……あの、スイッチって、なに?」
「「……え」」
アスナの質問に、俺とキリトは目を見合せて、それからアスナを見たのだった。
―――――
「ってなわけで、アスナの実力と、システムの説明をしたいと思う」
「わー、がんばれキリトー」
「お前も手伝うんだからな!?」
くそ、逃げられなかったか。
「……なんで私の名前を?」
「モニターの左上見てみろ。パーティの名前が載ってるだろ」
「……これね。わかったわ」
「ならよし」
「の前に、あなた達の実力も見せてよ」
「……だ、そうだ。ハチマン」
「頑張れキリト」
「だからお前もやるんだって!」
そんなわけで、アスナに俺達の実力お披露目。
まぁ、ここらならどんなことがあっても早々死なないからな。
「次、絶対ちゃんとやれよ、ハチマン」
「わかったわかった」
キリトは背中から剣を抜いた。片手剣で、ここらで手に入る中でもかなり大きく、そして重い。更に言えばキリトはあれを重量上げて装備している。
……バカ力ってのはああいうことを言うんだな。
「……よしっ」
それでいて、身のこなしもかなり早い。相手は盾持ちの小さなソルジャーモンスターだが、あっという間に懐に入り込んだキリトはその盾ごと、モンスターを真っ二つに切り裂いてしまった。
「っ……」
アスナも驚嘆したようで、視線こそわからないもののキリトを見つめている。
「まぁ、こんなもんだ。充分だろ、これで」
「……あなたの実力はまだ見てないけど」
「自分だけやらないってのはさせないからな、ハチマン」
「……へーへー、わかりましたよ。ったく」
忘れられてるかもしれないが、俺は専業主夫希望なんだよなぁ。
……あ、こいつらには言ってないか。
「ハチマン、本気でな」
「……はぁ」
キリトの声に深くため息。こういうの、柄ではないんだがな……仕方ないか。
出てきたのはソルジャー型の同じモンスター。敵としては既に役不足。ドロップすら魅力がないほどだ。
「……さて、と」
面倒だからとっとと終わらせるか。おそらく、先ほどのキリトよりも更に速く、俺は懐へ飛び込んだ。
モンスターが盾で防ぐ構えを取るが、そんなのは関係ない。遅すぎる。
「そら、おしまいだ」
一太刀、二太刀、三太刀。数えるのも面倒なくらいの攻撃を全部ぶつける。俺は武器もキリトのに比べると圧倒的に軽く、そして脆い。代わりに切れ味が鋭く一方的な攻撃なら相性がいいそうだ。敏捷に振りすぎたせいか、スキルも攻撃速度の速いものが多く、隠匿性と相まって忍者みたいだな。
なんて思う間に、滅多斬りにされたモンスターがポリゴンとなって消えていった。
「驚いた……キミも強いのね」
「悪かったな弱そうな外見で。ほら、次はお前の番だぞ」
レイピア使いの女、アスナ。俺達の動きを見ても軽く驚くくらいだし、おそらく、弱いってことはないんだろう。
とりあえず、使えるかどうかはこれを拝見して、だな。
というわけで戦闘回。キリトも八幡もちょっと強くて困ります(笑)
本当に戦闘になるのはもっと先になるのかな。八幡には忘れていた中二の頃を思い出していってもらいましょう。
ではでは、ありがとうございました。