ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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お待たせしましたー。仕事が忙しくて困ります(笑)
出勤前になんとかあげれて良かった。
コメ返答もしていきますのでよろしくお願いします。


Episode5,part8

「酷い……」

 

 

あれからアスナと合流した俺は共に第一層、はじまりの街へと来ていた。

もう何人追っ払ったかわからない。最下層ともなれば攻略にさして興味を抱けない連中が多いからか、アスナが相手でもお構い無しだ。と言うか、認知されてない。それでいいのか軍よ。

 

 

「はじまりの街だってのに、ここに残ってそうな連中は全然歩いてないな。いるのは軍の連中か、俺らみたいな理由があって降りてきた連中か……」

 

 

聞いた話じゃ子供を保護してる場所もあるって話なのに、これじゃあそもそも話すら聞けないな。

さすがにはじまりの街まで来るのは失敗だったか。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

「は、はい」

 

 

アスナはさっき軍の連中にしつこく付きまとわれてたらしい女のプレイヤーに近づいて、安否を訊ねていた。

俺はと言えば、さっきのキリトとのやり取りでおかしかったのが少し落ち着いたのか街を見回しているくらいの余裕は戻っていた。

まぁ、内心は荒れに荒れてるけどな。どんなに足掻こうが俺は心は17歳で止まってる。キリトとかアスナとか、あいつら俺より年下なのにメンタル強すぎだろ。

 

 

「お待たせ、ハチくん」

 

 

「ん。で、どうするよ。こんなのじゃ情報集められないぞ」

 

 

「そうね……うん、ちょっと予想以上に酷かったわ。

戻ったら団長に報告しておくね」

 

 

「それは好きにしてもらってもいいけど。にしてもあれだな、ここは、いかにもな場所だ」

 

 

「いかにもな場所?」

 

 

「見てみろよ。弱肉強食、欺瞞に満ちてる。見かけるのは俺達みたいなのか軍かで、はじまりの街にいる連中は見かけない。わかりやすいカースト分けだ」

 

 

徒党を組んで、面倒なことをやっている。その割を食うのはいつだってカーストが低い者だ。俺のように望んでぼっちになってる人間じゃないと、これは耐えるのは難しい。

やっぱり俺はその辺りロンリーウルフと言える。孤高……はダメだな。雪ノ下くらいできないとそう言えない。

 

 

「ここがある意味、一番リアルに近いかもな」

 

 

どう思ったのか知らないが、アスナは無言で俺を見ていた。

 

 

「お前はまだ世界を変える。なんつっていろいろやらかしてんのか。雪ノ下」

 

 

ふと、奉仕部に入った時のことを思い出して、やっぱりため息を吐いたのだった。

 

 

「あの、ハチくん……?」

 

 

「なんでもない。家に帰って寝てたいって思ったくらいだ」

 

 

「……もう。すぐそうなんだから」

 

 

「平穏無事に生きてたい人間なんだよ、俺は」

 

 

「ずいぶんその平穏無事から離れた所にいるように思えるけど?」

 

 

「それに関しては我ながらやらかしたと思ってる。他力本願にしとけば良かったか」

 

 

「そうだったら、攻略はこう進んでたか怪しいけれどね。ハチくんの存在も、やっぱり大きいよ」

 

 

「……自覚はしてるさ」

 

 

だからこそ、こうして戸惑ってるんだ。お前が、お前らがどうしてハチマンだけを見ようとしないのか。

 

 

「いたぞ! あいつらだ」

 

 

「あ?」

 

 

「え?」

 

 

不意に、槍やら何やら持った奴らに囲まれる。なんだなんだ、時代劇かよ。

 

 

「軍の連中だな」

 

 

「そうね。……報復ってところかしら」

 

 

「妥当な線だな」

 

 

オクターブの下がった声でアスナがぽつりと言った。

軍の対応ややり方を見て、かなり頭に来てたみたいだからな、うん、怖い。

 

 

「どうする、ハチくん」

 

 

「個人的には相手するの面倒だから逃げたい。どっちにしろこれじゃ得られるものもないだろ」

 

 

「それもそうね」

 

 

とりあえず適当に脅かしておいて、そのまま逃げるとするか。

面倒事はごめんだ。リアルでも、ゲームでも。

 

 

「待て」

 

 

不意に、声が聞こえた。囲んでいた軍の連中の動きが止まって、道が開ける。

 

 

「モーゼかよ」

 

 

「あ、それ私も思った」

 

 

隣から同意の声を頂けた。って、そんなのはいいんだよ。

目の前に来たにこやかなイケメンスマイルを浮かべるいけ好かない感じの男は誰だ?

 

 

「四強のハチマンさんとアスナさんだね。こんなところにいるなんて、どうかしたのかな?」

 

 

「ちょっとした用事だ。つーか、誰だお前」

 

 

「俺はオウル。今の軍の攻略を任されてる」

 

 

「……なるほど」

 

 

ってことは、こいつが例の。確かに、装備は良さそうだな。……やっぱりキナ臭い。

 

 

「つーことは今の軍の攻略のメインはお前か。噂で聞いたが二刀流使うんだってな」

 

 

「そこは、ノーコメントで。直に俺も攻略には参加するから、そのときに、ね」

 

 

「……そーかい」

 

 

パッと見て葉山っぽい雰囲気に似てるかと思ったがその中身はまるで違うな。

なんというか、まぁ合わないだろうな。

 

 

「時にハチマンさん。君は無所属を貫いているとのことだけど、良かったら軍に来ないか?

四強とあらば、かなりの地位が用意できるけど」

 

 

「いらねぇよ。俺はギルドとかそういうコミュニティが嫌いだし、お前らのマスコットになる気もない。それに地位なんて何の役に立つんだよ。クリアする気あるのか? お前」

 

 

これまたずいぶんゲームに入れ込んでる奴だな。

こんなのが今の主導で大丈夫なのか? 本当に、ロクなことにならないといいが……

 

 

「それじゃ、俺達は行くとする。シンカー達によろしく言っておいてくれ」

 

 

「……ああ」

 

 

甘いな、葉山っぽい雰囲気ならそこでもにこやかな笑顔を浮かべておけ。そこで嫌悪感を出しちまったらお前はそこまでだ。

大きくため息を吐いて、俺達は一層を出ることにしたのだった。

 

 

―――――

 

 

「どう思う、ハチくん」

 

 

「……できれば関わりたくないな」

 

 

どうあったってあんなの無理だ。アスナ、無言を貫いてるつもりだろうけど渋い顔になってるからな、お前。

 

 

「とりあえず、団長に報告するわ。はじまりの街を含む下位層のこともね」

 

 

「それであいつが動くとも思えないが」

 

 

「いいのよ、勝手に人員借りるから。軍の横暴を許すわけにはいかないわ」

 

 

「あまり下手に衝突し過ぎるなよ? 攻略の時とか面倒になるぞ」

 

 

「わかってる。けどねハチくん。それでも私は見過ごせない。ただでさえ死の恐怖に怯えなきゃなのに、ここでの生活そのものも脅かされるなんて、許されないことよ」

 

 

「ほー、攻略の鬼がずいぶん丸くなった発言するじゃねぇか」

 

 

「……よ、余裕ができたの! 今までより、ずっと。料理スキルとか、取ってみたりしてるんだから」

 

 

「そりゃ良かった。まぁ、好きにやってくれ」

 

 

あのアスナがそこまで、ねぇ。

まぁ、なんにせよ本人がいいならいい。俺がとやかく細かく口出すことでもないだろ。

 

 

「今は、私達はちょっと立場が逆になっちゃったかな?」

 

 

「そうでもねぇよ。確かに俺はリアルに戻らなきゃいけない焦がれるほどの理由はあるけど、ゲームの範囲でならそれなりに楽しませてもらってるしな」

 

 

単純に割り切れているだけだ。いつも通り全部を打算と計算で決めている。

……別に、雪ノ下や由比ヶ浜はいないしな。それに最初こそいつも通りにやったが今回はトッププレイヤーというカーストを利用してすらいるんだ。あいつらだって文句はないだろう。

 

 

「他人のプレイングに文句はない。よほどのことがない限りはな」

 

 

今回はそのよほどのことになるわけだが、果たしてあいつはどうするんだかなぁ。

 

 

「ハチくん、なんだかんだで懐広いよね」

 

 

「お前自分で言ってただろ。俺はどうでもいいことには素直なんだ。そいつらの行動にまで責任なんて持ってやれないし、どうにかしてやる余裕もない。そういうこと」

 

 

なるほど。と何か納得したらしいアスナ。それから不意にぐい、とこちらへ顔を寄せて。

 

 

「おい近い離れろ」

 

 

「ハチくん」

 

 

「あ?」

 

 

「私は、全ての行動に自分で責任を負う。負ってるつもり。だから、これからもパーティとか組ませてね?」

 

 

「……好きにしてくれ」

 

 

キリトと言いアスナと言い、どうしてこうもまっすぐというか、素直なんだこいつらは。

こいつらだけじゃない。このゲームで俺の周りにいる人間は全て、こんな奴らばかりだ。清算しようとしたってできそうにない。まったく、どうしてこうなった。

 

 

―――――

 

 

アスナと別れて、俺は夕飯を食うために適当な階層の飯屋にいた。

料理スキルとかは取ってない。ゲーム内マネーは相当に貯めてあるし、普段戦ってるんだから、こういうときは働きたくない。

そもそもからして働きたくない。

 

 

「俺は、どうしたいんだろうな」

 

 

明確な答えはないままに、独り言はそのまま消えた。

次いで思考しようとして、勢いよく開いたドアに俺はそちらへと意識を向けられた。

 

 

「いタ、ハッチ!」

 

 

「……どうしたんだよ、アルゴ」

 

 

どうやら俺への来客らしい。今日は本当に忙しいな……ったく。明日はホームから出なくてもいい?




久々にアスナさん。そして次回は遂にハチマンの対人戦予定です。
このエピソードも次回かその次の回で終わりの予定で、八幡ヒロイン編も一応の決着を付けようと思います。
軍のオリキャラについては、徐々にうざさを出していけたらと思います。ではでは。

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