僕自身ネトゲ好きなので、たまにそちらにハマることもありますが……(笑)
SAO、ほんとにできないかなぁ。もちろん普通のネトゲとして。
「……」
雑魚モンスターのポップは早い。一通りすぐに沸くし、狩りの効率もいい。
アスナの目の前には俺やキリトが倒したモンスターが立っていた。
「……そこっ!」
一閃。俺のように速さにモノ言わせて滅多斬りにするわけでもなく、キリトのように一刀両断するわけでもなく。アスナの突きは一筋の光となってモンスターを刺し貫いた。……これだけ動けるやつがネトゲ初心者なのかよ……
「どう?」
「文句なしだ、な、ハチマン」
「……ああ」
このパーティ、実力的にも問題はないだろう。
本来なら俺が空気になるか足引っ張るかなんだが……
まぁ、ゲームの世界ではあるからな。俺が多少目立つこともあるんだろ。……出来る限り拒否したいところではあるが。
「じゃあ、パーティの連携とか組んで行くか」
「わかった」
「よろしく頼むぞキリトせんせー」
「ハチマン、茶化すなよ」
とはいえ、あぶれもののパーティだからボス戦でも雑魚の処理が主な仕事であり、ボスとやり合うことはない。ラストアタックボーナスとやらを取れないだろうことにキリトは少し落ち込み気味だが仕方ない。ぼっちはこうあるものだ。
……思ったほどぼっちでいないことにちょっと自分でもびっくりしてる。戸塚辺りに「全然ぼっちじゃないじゃないか八幡!」とか言われそう。言われたい、ああ、言われたい……
「ハチマン……どうしたんだ……? その、変な顔になってるぞ?」
「……いや、なんでもない」
天使を思い出していた、と言ってもわからないだろうからな。
「……? まぁいいか。じゃ、やるぞ」
戸塚を思い出して少し元気になった俺は、自分の剣を構えたのだった。
―――――
「……どうしてこうなった」
「お前のせいだろ、ハチマン」
「ばっかお前、運動したらシャワー浴びたいって思うの当たり前だろ」
「ネトゲ初心者で、おそらく宿もろくに取れてないアスナが食いつかないわけないだろ!」
数時間後、俺達は借りている宿の居間でぐでーっとなっていた。
「疲れたー、シャワー浴びてぇ」なんて言ったのが最後、アスナに詰め寄られ襟首を掴まれて半恐喝のように部屋へ連れてシャワーを浴びさせろ。とのご命令を受けてしまった。いやまぁ、ここはリアルでないし男女同衾してどうのこうのなんてできるわけがないし、そもそも俺もキリトもそんな男らしいことができるような性格ではない。ヘタレ? リスク管理ができていると言って欲しい。
キリトに関しては途中鼠女の襲来でシャワー室を開けられ、鼠女とアスナが鉢合わせしてキリトにとばっちりが行くという出来事のせいか、俺より死にそうだ。
「……ありがと」
「どういたしまして、か。キリト、次お前が入っていいぞ。んでそのまま寝とけ。アスナも、俺の部屋使っていいから寝とけ。鍵しておけば不安ないだろ」
「キミはどうするの?」
「リアルでも椅子に座って寝落ちはよくやる。問題ねぇよ」
フード越しからあからさまなため息が聞こえる。仕方ないだろ本とか読んでるとそうなっちまうんだよ。ってかシャワー浴びたのにフードで顔とか隠すのかよ。
いやまぁ、別にいいんだけど。
「とにかく、休んでおけよ。死にたくないだろ、お互い」
「……わかった」
どこか納得いかないようだが、無理矢理納得させる。
まったく、こういう引率者みたいなのは俺の役目ではないだろうが……本来ならはじまりの街で寝て起きてを繰り返してればゲームクリアされてるようなポジションの存在だろう、俺は。
「明日に備えて、ってことだ」
終わりにする。ボス戦には準備を整えて行く方なんだぜ、俺は。
―――――
「……寝付いたか?」
夜も更けて、深夜に差し掛かったころ、俺は隠匿スキルも使って宿を出た。
村にも人はいない。フィールドにも人はいない。
「……やっぱりすげぇな、ここ」
あのとき見た、感動的な場所。ここに来ると、どうにも気が緩みそうだ。
「……くっ」
手が、震える。思わず、座る。わかってる、動揺している。
こんなに重いの初めてだ。俺は本来空気扱いのぼっち。それが、ボス討伐に加わる。もし、ボスがあり得ないほど強かったら? そんなことばかり脳を過る。
「……帰らねぇと。絶対にクリアして、あいつらに会わねぇと……」
気合いとかそういうのじゃない。奮い立たせてるだけだ。
まだ相模を罵倒したときや、海老名さんに告白もどきをしたときの方がよっぽど気が楽だ。俺は、死ねない。今までみたいなリスクリターンの管理ができない。俺一人がどうにかなっても周りに意味はないし、俺が死んだら、悲しんでくれる人がいる。そしてそれは俺だけじゃない。だから死ぬわけにはいかないし、死なせてしまうわけにもいかない。解消ができない。
「……くっそ、難しすぎるだろ、このゲーム」
ずいぶんなゲームに挑んじまったらしい。まじでどうすればいいんだよ、俺は。
「っ! 誰だ。誰かいるのかよ」
「っ!?」
ガサ。と物音が聴こえてそっちに意識を向ける。直ぐ様索敵スキルを発動させて見ると、凄い勢いでスキル圏外へ走って行くのが一つ。追っかければ捕まえられないこともないが、逃げているってことは俺をどうこうするつもりもないのだろう。ならいい。もし俺の姿に恐怖して逃げた。なんて言われたら明日のボス戦のコンディションも最悪になりそうだし。
「……戻るか」
落ち着いてはいないが、それでも明日は来る。行かないなんて選択肢はあり得ないし、やれることはやるしかない。
なら、せいぜい死なず死なさずやるしかない。
「……茅場さんよ、世界観いいけどクソゲーすぎねぇか? 死んだら終わりなネトゲとかユーザー減る一方じゃねぇか」
どこかでこれを見てほくそ笑んでるであろうゲームマスターに悪態をついて、宿へ戻ることにする。
……アカBANして退場。とかされないよな?
「なんだ、わりと余裕あるな、もしかして大物かもしれないな、俺」
ぼっちあるあるな独り言を呟きながら、宿への道を歩いて帰るのだった。
―――――
「さすがにみんな顔付きが違うな」
「当たり前だ。ボス戦なんてどう転ぶかわかんねぇ。絶望になるのか、希望になるのか」
翌日。ボス討伐に向けて昨日の酒場に俺達は集合していた。最前線を戦う奴らはさすがに装備も整ってるらしい。ディアベルを始めとしてあのキバオウとやらも装備だけならそれなりだ。
キョロキョロ落ち着かないキリトに、俺は答えて息を吸った。……手は、まだ震えている。
「……でも、倒さなきゃ帰れない」
「そういうこった。やるしかないんだから、やるぞ」
「ああ!」
アスナが珍しく話に乗ってきた。ごもっともだ。やるしかねぇ。
……ってなんだアスナのやつ。こっちを見て……
「なんだよアスナ。フード被ってても顔ごとこっち向いてたらさすがに気づくぞ」
「……別に、本当に目が腐ってるなって」
「……悪かったな。戦意喪失するぞ」
言うに事欠いてそれか。なんなんだこの女は……目が腐ってようが実力はそれなりだぞ。足手まといにはならないはずだ。……なりませんよね?
「おうおうおう、昨日の目が腐っとるやつやないか。
せいぜい足引っ張るんやないで」
こちらに気づいたらしいキバオウが俺のところまでやってくる。まだ根に持ってるのかよ。戸部みたいな取り巻きのくせにタチの悪いやつだな、こいつ。
「こいつ――」
言い返そうとするキリトを手で止める。気にくわないのはもっともだが、ここで全員の士気に関わるようなことをしたくない。
こんなやつでも、ボス攻略には使わないといけないんだ。
「……あなたよりは、役に立つと思うけど?」
「なんやて!?」
「おいやめろバカ」
何でお前が言い返すんだよアスナ。くっそ、収拾つかなくなったらお前のせいだぞ……
「ストップだ。これからボス攻略に行くんだからやめろ。お前も、そっちのフードのも、な」
一触即発、となりそうなところで昨日の黒人、エギルが間に入って無理矢理終わらせてしまった。
助かった、こういう第三者がいないと終わらなそうだったからな……
おいディアベル。何ホッとした顔してんだ。こっちに苦笑いするんじゃねぇ止めろよバカ野郎。お前の取り巻きみたいなもんだろうが。
「昨日といい、悪かったな」
「いや、こちらこそだ。昨日はお前のおかげで俺もすんなり言うことができた。エギルだ。お前は?」
「……ハ、ハチマンだ」
……仕方ないだろ、人に自己紹介とかほとんどしたことないんだよ。どもるに決まってるだろ。
「そちらの二人も、よろしくな」
「ああ、キリトだ。よろしく」
「……」
ぷいっと、アスナはフードごと顔をそらせてしまった。……ほんとになんなんだこいつ。
「はは、機嫌を損ねてしまったらしいな。まぁいい、お互い、死なないようにしよう」
「……だな」
悪いやつではないんだろうか。まぁ、ボス討伐という大きな敵がいる以上、今は他に目を向けている余裕はないか。人の本性が出始めるのはもっと攻略が進んでから、か。
「……よし! みんな、行くぞ! 死ぬなよ、生きて次の階層への扉を開くんだ!」
ディアベルの掛け声におおー!っと周りが合わせて、俺達は迷宮へと向かっていく。
……ここまで来たらやるしかねぇ。開き直りもさほど苦手じゃないからな、クリアしてやるさ。
次回、ボス回となります。これからの話を書くにあたって結構重要なポイントです。
基本的に時間の飛び方とかは原作沿いにはなりますが、ここからオリジナル色も増えていきますのでご容赦ください。また、作品の都合上ユイは出せないことが確定してしまっているので、そちらも重ねてお許しください。
では、また次回にて。