ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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お待たせしました!
当初の進行からちょっと思わぬアイデアが浮かんで進路を切り替えてたら時間ががが……
クライマックスへ向けて進む準備を整えている最中でございます。
では、どうぞ。


Episode6,part8

「やぁ、奇遇だね、影纏い君」

 

 

「……うす」

 

 

珍しく、俺のホームがあるこの層でオウルと遭遇した。

こいつも相変わらずと言うか、所々プレイヤーの気分転換になるような催し物はやるんだが、帰結する所が自己への評価。つまるところ自分の株上げだからなんとも言えない。

それでいて上手く煽ってちゃんと成果を出してしまう辺り、恵まれてるというか、運がいいというか。

人の扱いが上手な相模とでも言えばいいか。本心の隠し方もあいつよりは上手いだろう。自分にできることで最大限自己の利益を得ようとする。ネトゲのプレイヤーとしては典型だが、間違いではない。

……ネトゲならな。

 

 

「デュエル大会、そろそろだけど君はやはり参加しないのかい?」

 

 

「ああ、残念ながらな。抜刀術の攻撃力じゃ危険すぎる」

 

 

建前としてはこれだ。面倒ということも伝えてあるが、この建前も嘘ではない。抜刀術はそれほどまでに攻撃力が高い。

即死させてしまう危険性もある。だから余計に人に切っ先を向けたくないんだ。

 

 

「ラフィンコフィン討伐における英雄の参戦を待ち望む声も大きいんだけどな、残念だ」

 

 

「何が英雄だ。一番殺したやつって言ってくれていいんだぞ、別に」

 

 

英雄なんてのは嘘だ。そんなのは認めない。

俺を肯定すると言ったアスナにだって肯定させない。

ここはゲームだ、でも日本だ。

向こうに戻って、俺は果たしてどんな顔して歩けばいいんだろうな。

 

 

「自分を卑下しないでくれよ。君がいなかったらみんな危なかった。これは事実なんだから」

 

 

「……そうかよ」

 

 

こいつ、こういうところで話は盛らないんだよな。だからこそ、あの謎の扇動力が生まれるのかもしれないが。

 

 

「そういや、シンカーやキバオウはどうしてるんだ?」

 

 

「……彼らかい? 意外だね、君からその名前が出るとは」

 

 

「シンカーは見たことしかないが、キバオウとはまぁ、話したことまではあるからな。軍と言えばあの二人ってイメージだったからな」

 

 

……おお、なんとかく会話を繋げちまって出した話題だったんだが、琴線に触れたらしい。

オウルの表情がわかりやすく歪んだ。

 

 

「彼らがまともな運営をしてたとは思えないけどね」

 

 

「それに関しては同意してやる。つってもシンカーは中層や初心者の後援に力を注いでいたそうだが」

 

 

「そう、あんなにも大規模なギルドをね。もったいないと思わないかい? キバオウは立場と身の程を弁えずに無理をして自滅した。シンカーは大規模なギルドのリーダーという立場にいながら日陰に止まった。わかってない、彼らはわかってないんだ。力は使うべきで、身の程は弁える。そして、チャンスは自分で作っていく。そういうものじゃないか、こういうのは」

 

 

「その結果、死んで終わるかもしれないんだぞ。お前わかってんの?」

 

 

「その線引きはしっかり弁えているさ」

 

 

「……誰もお前のことを言ってねぇよ」

 

 

ひとりごちて、俺はため息を吐いた。こいつはやり方さえ正しければ本当に攻略の為のいい扇動役にはなっただろうな。が、ダメだ。少なくとも自分の野心のために周りの命をなんとも思わないこいつの言動は少なくとも今リアルに焦がれる俺に対して嫌悪感しか抱かせない。

らしくないと言われようと、こんなくだらないゲームで命を落とすなんて、あっていいわけがない。認めるわけにはいかない。

負け続け、負けに慣れた俺でも、このゲームにだけは負けてはいけない。今ここがリアルだとしても、ゲームだと言うことだけは認識し続ける。

絶対に手の届かないこのクソゲーの開発者への、せめてもの悪あがきだった。

 

 

「……茅場、か……」

 

 

思えば、あいつは何を思ってこんなことをしたのか。

今ごろ俺達が必死に足掻いてるのを見て楽しんでるのか。……どこで?

 

 

「影纏い君……? ……なぁ、ハチマン君、いきなり黙ってどうしたんだ?」

 

 

「……なぁ、お前はここを肯定してるよな。居心地良いってさ」

 

 

「え? あぁ、せっかくこんな世界へ来たんだから、相応のものを求めてもいいかなって思っているよ」

 

 

「茅場はどう考えるだろうな。お前ならどうする?」

 

 

「俺? 俺が茅場の立場なら……まぁ、間近で見るだろうね。俗物のようかもしれないが」

 

 

「放火犯は現場に残って燃えてるのを見てる。ってのに近いな。気持ちはわからんでもない。自分で企てたいたずらの末路くらい、見てみたいからな」

 

 

……そんな相手がいなかったから結局一度たりともそんなのやったこともやられたこともないけどな。

いいし、今度由比ヶ浜辺りにやってやるし。……雪ノ下にフルボッコにされそうだが。

 

「だよねぇ……って、まさか、茅場もここにいると思ってるのかい?」

 

 

「いてもおかしくはないだろうな。断言はできないが」

 

 

「なるほどね。……そうか、確かに。それなら……ありがとう影纏い君。とても有意義な考察ができたよ」

 

 

「そりゃ良かったよ。なんだ、もう行くのか」

 

 

こういう社交辞令が言える俺マジ大人。

とっとと行ってくれ。俺は有意義でもなんでもねぇ。

 

 

「当初の目的である君の大会勧誘は果たせそうにないからね。でも、もう一つ目的が見つかったからそちらに行こうかと」

 

 

「あ、そ。なら良かった。んじゃま、頑張ってくれ」

 

 

「もちろんさ。全てが終わったら改めて君を軍へ勧誘しよう」

 

 

「断らせてもらうだろうけどな」

 

 

「それはどうかな。では、また」

 

 

足早に去っていくオウルを見届けて、俺は空を見上げた。

あいつ、いきなりテンション上がってどうしたんだか。

 

 

「……にしても、茅場がここにいる、か」

 

 

あいつは空の向こうのリアルで俺らを見てるかと思ってたが、ここで俺らを見ててもおかしくない。

ゲームマスターたるあいつなら死なないよう弄ることもできるだろうし、保険はかけ放題だろう。

 

 

「――ふざけやがって」

 

 

もし、その茅場を見つけた時。

この切っ先を人へ向ける嫌悪感すら振り切ってしまいそうなくらいの憎悪を茅場へ向けてる俺は、果たして理性の化け物のままでいられるのだろうか。

……その自信は、あまりなかった。




案外、会話させると誰とでも成立する八幡は万能型なのかもしれない。
ずいぶんお節介と言うか説教っぽいことも言うようになってますが、SAOのせいで主人公らしくなったとでも思っていてください。
キリトとは対称的に静かな八幡は、だからこそ感情が振り切れると怖い。激情型のキリトとは真逆に怖い。

ALO編の導入ももう構成ができてきてますので、すんなり入れそうです。
なので、もうしばらくお付き合いお願いします。

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