明日、寝不足だなぁ……
と、そんなわけでよろしくお願いします。
――side キリト――
「キバオウ……」
「なんでディアベルはんを見殺しにしたんや!」
キバオウの言葉が俺を貫くようだった。
……いや違う、手遅れだった。そんな言い訳も浮かぶけど、多分違う。その答えは間違いだ。
「もしかして、あんたベータテスターやな? だからあんな武器も知ってたんや。なのに、ディアベルはんを見殺しにしたんやな! そのコートだって、ラストアタックボーナス言うたか? それ欲しかったんやろ!」
ざわざわと声が聞こえる。やっぱりベータテスターって……とか、ラストアタックボーナスに関することか……この場にいる他のベータテスターも、おそらく居心地が悪いだろう。
まずい、このままだと俺以外のベータテスターにまで……
「謝れや! 今すぐそのコート脱いで、この場の全員に、ディアベルはんに謝れ! やっぱりあの場で身ぐるみ剥ぐべきだったんや。なぁ!」
キバオウのパーティメンバーらしきやつらがそうだそうだと騒ぎ立てる。自然と、周りもそう言う目で俺を見る。
……くそ、こんな、なんでこんなことで……上手くやれてたってのに……
「……くはっ」
悔しくて、悔しくて拳を思いきり握りしめていたら、後ろから不気味な笑い声が聞こえた。
今の声は、ハチマンだ……普段から低めで小さな声で話すけど、今の声は……おそろしく聞きやすくて、どこか冷めた笑い声だった。
「ハチ……マン……?」
――side ハチマン――
……なんだこれは。
立役者であるはずのキリトへ向けられる欺瞞の眼差し、敵意、悪意。おい、違うだろ。キリトへ労いをかけて、それから全員で、みんなで二階層を開くんじゃないのかよ。
なんだよ、それは。どういうことだよ。
「……おかしいだろ。……いや、おかしくない、のか」
自問自答は、いやに早かった。何を勘違いしてたんだ俺は。この世は欺瞞で満ちている。
それが奉仕部に入れられた理由だろ。あの二人が異質なだけで、世界がこんなにすぐ変われるはずがない。
見ろ、この場の"正常"を。一部の声の大きさが、それを正しいと掻き立てる。したら、ボス討伐の立役者が一瞬にして悪役だ。
……ああそうさ、そんなものだ。知っていただろ、期待したら裏切られる。勘違いするなと、何年言い聞かせた?
それがこのザマだ。
「……くはっ」
「ハチ……マン……?」
泣きそうなキリトの顔が見える。あー、別にもういい。お前は望んでぼっちになってるわけじゃないみたいだしな。しかるべき場所に置いてやる。
なんだよ、結局はやることは変わらない。また雪ノ下や由比ヶ浜に怒られるかもしれないが、まぁ、あいつらに早く会うためだ。許してくれるだろ。
それに、こいつらと、クリアしてからまで会うわけでもないしな。死なせる気はないが、仲間だなんだってことをやる気もない。やはり、そういうのは葉山の役目だ。
「お前、バカか? ディアベルが死んだのはあいつの自業自得であって、見殺しにしたのはお前らだろうが」
「なんやと!」
「なんであいつが一人でボスに挑む必要があるんだよ。ナイト気取りか? 余計にバカバカしい。あいつこそラストアタックボーナスが欲しかったんじゃねーか。ってことは、ディアベルこそベータテスターだな。まぁ、別にそこはどうでもいい。体験版と製品版じゃ中身が違うって昨日も言ったはずなんだがな、聞いてなかったディアベルの自業自得だ。で、だ。お前ら、なんで一人でボスに行かせたんだよ」
それは、誰にも喋らせない。糾弾、罵倒、卑屈なものなら得意だ。雪ノ下のおかげで問答や詰問にも慣れてきてるまである。
「普通に考えてボスにソロで突撃なんざよっぽどの理由がないとしねぇだろ。ましてや何があるかわからない、最初のボスだぞ? そんなのにディアベル一人向かわせて、見殺しはお前らじゃねぇか」
今度は俺の言葉に同調する声。――あぁ、鬱陶しい。違うだろそうじゃないだろ。俺はいつも通りにやる。
「キリトがラストアタックボーナス取ったのだって当たり前だろ。お前ら、ディアベルが死んでからまるで役に立たねぇ。最前線で戦ってるって聞いて呆れるぞ、まじで」
反感買われる? 結構なことだ。こういう感情論を抜きにしても、これから攻略してく人間には高水準でいてもらわないと困る。
そしてキリトは要だろう。アスナだってそうだ。こいつらはネトゲ内でのトップカーストにあるべき奴らだ。だから、切り離すわけにはいかない。
「悔しかったら言い返せるくらい役に立ってくれ。まだあと何層あると思ってんだよ。俺はこれからも攻略はするつもりだが、役に立たないなら躊躇わず見捨てるぞ」
「なっ……」
「ギブアンドテイクってやつだ。俺はお前らをクリアの為に利用する。お前らも俺をクリアの為に利用する。安心しろよ、ちゃんとボス討伐には出てやるし、指示も的確なら従ってやる。が、役に立ってやるんだから役に立ってくれよ? 茶番は懲り懲りだ」
……おおう、なかなかのヘイト稼ぎができたな。そろそろいいか。
「キリト、そういうわけだ。お前ともさよならだな。
もう少し役に立つかと思ったが、どうにも噛み合わねぇ」
「ハチマン、何を言って……」
「じゃあな。お前からもらった情報、それなりには役に立ったぜ? 次会うときはボス討伐かな。お互い生きてたら、だけどな」
一切合切無視をして、ボス部屋を出ていく。そのまま隠匿スキルを発動して、索敵に引っ掛からないようにして消える。
……まぁ、こんなもんだろ。結局リアルじゃ二度と会うかもわかんないしな。奴らにPKされないようにだけ気を付けてリスクリターンを管理しないと。なんだよ、結局俺はこういう立ち回りの方が合ってるんじゃねぇか。
「……はぁ、武器どうするか」
まずは自分に合った武器探しだな。身軽になった分、ゆっくりできるか。
……と、そうだ忘れてた。
「キリト、フレンド登録削除……と」
これで俺のフレンド欄はクラインと鼠女のみ。クラインにはそもそも会えてないし、鼠女もあれは情報屋だからまた別だ。金さえ払えば口も固いしな。
「……どうしたもんかな、まったく」
襟足を掻いて一人ごちる。意図せず多分な意味を持たせてしまったその言葉には、大きなため息も乗っかっていた。
Episode1,Fin
これで終わります。あまりすっきりしないかもしれませんが、ここからオリジナル展開てんこ盛りの続きになります。
キャラの感情移入の方向先、起こすべきイベントなどは構成してあるのですが大雑把なものばかりで、少しずつ書いていけたらと思います。
どうかみなさま、コンゴトモ、よろしくお願いします。
ひとまず、ここまで読んでくださりありがとうございました!