いつのまにか寝ていたのだろうか。目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った。気だるい体を起き上がらせ辺りを見渡すと小綺麗な部屋にいることがわかった。誰かの家だろうか。
少なくとも私がいた場所ではないだろう。あそこにこんな綺麗なところがあるわけがない
しかし、………たしか私はあの老人に殺されたはず
思考が追いつかずキョロキョロしていると扉が開きあの時の老人が入ってきた
その顔を見るやいなや飛び上がり警戒するがあの時のような殺気は感じなかった
「ーーーー。ーーーーー」
何かを言っているがよく分からない。分からないが敵意が無いことだけは理解できた。
暴力的で憎しみ溢れた感じや冷たく蔑まされる感じもしない
「ーー。ーーーー」
相変わらず何を言っているのか分からないが不思議と温かいものを感じた。
これが何なのかは分からないがとても心地よいもの安らぎを感じる
安心したからか眠くなってきた。
状況は分からないが寝るとしよう
「ほう、目覚めたか」
少女を持ち帰って数日、いつものように看病しに扉を開けると赤い髪を靡かせた少女が起き上がり不思議そうに辺りを見渡していた
ようやく起きたかとため息をつきながら一声かけると少女は驚いたように飛び上がりこちらを警戒する
ふむ、まあ殺そうとしておったのだ。そんな反応もするかと思っていたが何かを察知したのだろうか、すぐに警戒を解いた
「…………敵意が無いことがわかるのか?」
少女は首を傾げ不思議そうにこちらを見つめてくる
「くく、ここにいるのが不思議そうじゃのう。
まどろこしいのは嫌いでな、単刀直入に言おう。お主わしの弟子になれ!」
「…………………」
「………………」
「………………」
沈黙が流れる
少女は何も答えない。否、答えることができないように思えた
「……………お主、もしや言葉がわからぬか。………いや、あのような場所で育ったのだ、わかる方が珍しいか
ということは座学から………」
老人がぶつぶつと独り言を言っていると少女は眠そうに目を擦り、元いたベットに入り込み丸くなって寝てしまった
「…………お主、あのような場所におったのに少々無警戒すぎぬか?
気持ちよさそうにねおって………これでは獣ではなく子犬だな」
なんとも呆れた気持ちとは裏腹に老人の顔は笑みが溢れる
少女が眠るベッドに腰をかけ眠る少女の頭をそっと撫でる
「くく、沈黙は肯定と受け取るぞ」
「さて、馬鹿弟子。今日もはじめるとするか!」
『おしさま。わたしねむいのでねます』
「寝るな馬鹿者!!!!!!!!!!」
「馬鹿弟子、今日から一ヶ月間この死の森で生き抜いてみせよ。
まあ、お主の出生を考えればこれくらい朝飯前であろう」
『おしさま。すたーとちてんがおかしいです!
なぜがけのうえなのですか!?』
「こういうのはそういうものだろう?
ええい、つべこべ言わずさっさと行かぬか!」ドンッ
『あああああああーーーーー!』
「人間にはそれぞれ特殊な力が備わっておりそれを操作するのが我々の流派である。
この力を気と呼ばれることもあればタオと呼ばれて……………寝るな馬鹿弟子!!!!!!!!!!」
『アイッターーー!』
「うまいか馬鹿弟子?」
『ふぁふおふぃーでふ。おふさまふのふぉりはふせいちでふ!!!』
「くくく、肉饅を頬張りながらしゃべるでないわ」
『いったいですおしさま!!』
「まったく何度言えばわかる。お主はただただ力に任せて殴っているだけ。力を使うのではなく頸というのを使うものである。
見ておれ」
おしさまが掌を岩石に押さえつけると岩石に亀裂が走り崩れ落ちる
『すごー』
『おしさま。なにをみているのですか?』
「ん?ああ、わしの兄弟の写真でな。みな同じ流派に属しおった」
『そういえばおしさまのりゅうはをしりません。なんてりゅうはですか?』
「ふふ、古臭くどうでもいい流派だよ」
『おしさまにゆめってありますか?』
「なんじゃ突然?」
『このほんにかいてました。にんげんもくひょうやゆめがあればつよくなれると。
わたしのゆめはおしさまをこえることです
おしさまはなにかゆめはありますか?』
「くく、年寄りにそのようなことを聞くか馬鹿弟子
そうじゃのう……………」
『……………………』
「旅をしてみたいのう。わしのまだ知らぬ文化、知らぬ国々を回ってみたい気持ちはあるな」
『………いかないのですか?』
「ふふ、いけぬよ……」
『?』
「馬鹿弟子、お主いくつになった?」
「そうですねえ。お師さまに拾われてから10年なので…………15歳くらいでしょうか?」
「くく、馬鹿弟子を鍛えてそんなに経っていたか。
時間が流れるのは早いのう」
「そうですかー?
私はもう殴られてばかりの濃密な時間でしたよ」
「かかっ、覚えが悪いお主が悪い」
「お師さまが厳しすぎるのですよ!」
お師さまは愉快そうに笑いあげる。普段苦笑くらいしか笑わないお師さまが珍しい。何かいいことでもあったのだろうか
「さて馬鹿弟子…………」
「………………ゴクリッ」
「お主に教えることはもう無い」
「…………え?」
「よくぞ今日までついてきたな。お主ならばやり遂げると信じておったぞ。
まあ、まだまだ未熟なところはあるがな。今までの鍛錬を怠るなよ?」
そう言ってお師さまは私の頭を撫でくりまわす
突然の報告にびっくりしたが笑顔で言うお師さまを見て嬉しくなり思わず顔を伏せてしまう
「記念と言ってはなんだが………受け取れ」
そう言ってお師さまは一つの小袋を取り出し渡してきた
何かと思いおそるおそる開けてみるとそこには華人服とチャイナドレスを足したような淡い緑色の衣装が入っていた
「え!えっ!?ほんとですか!?
お師さまから!私に?!」
「そんなに驚くことか?」
「そりゃお師さまから贈り物なんて初めてですよ!
思わず爆弾かと思いましたよ」
「……………はっはっは。この無礼者め!やはり無しじゃ!返せ!」
「いやです!もう受け取りました!もう私のものです」
言い争いをしてはいるものの少女は嬉しそうに服を抱え込み笑顔で駆け巡る
「まったく……。さて、馬鹿弟子」
空気が変わった
おふざけは終了ということだろうか。
背筋を伸ばしてお師さまの前に立つ
「明日より最終試験を行う
体調を万全にし全力で行えるように準備しておけ」
「はい!」
この時私は浮かれていた
翌日、長年の修行の成果を出し切るのだとウキウキしながらお師さまから受け取った服に裾を通しお師さまの前に歩み出る
「さて、馬鹿弟子。これから最終試験をおこなう
最後の試験………
わしを殺せ」
「……………………………え?」