「え、お師さま、…………冗談ですよね」
「ふむ、具体的に言うなればわしと殺し合いをし生き残れば合格ということじゃ」
「そ、そんなことを聞いているのではありません!」
「…………これがわしの流派の習わしでのう
馬鹿弟子からこないのならわしから行くぞ?」
そういうとお師さまから溢れん殺気を感じ思わず構えてしまう
この殺気覚えがある。最初にお師さまに出会った時に感じた本気で殺す時の殺気だ
………お師さまは本気で
「…………………でも嫌です!!私はお師さまを……………」
突如、私の目の前に手刀が現れる。いや、私が躊躇っている間にお師さまが攻撃してきたのだ
「くっ…………」
すんだのところで身を翻し頬を掠めながらなんとか回避する
「決闘中におしゃべりなど余裕じゃのう」
お師さまの攻撃は止まらない。
確かにあの時よりは実力は上がっているかもしれないが武術においてお師さまには追いついていない
見切ることができず数々の攻撃を掠めながらなんとか回避していく
このままでは本当に殺されると拳を突き出すも闇雲に打った拳などお師さまに通用するはずもなくあっけなく受け流されその勢いのまま背中から体当たりをされ吹き飛ばされてしまう
お師さまは本気で私を殺そうとしている
でも私は………私はあなたを殺したくは…………
その時、私はお師さまの顔を見てしまった
先ほどと同じ殺気に満ちた顔は変わらない
だが、なんでだろう……とても悲しいような………
『わしの兄弟の写真でな。みな同じ流派に属しおった』
そんな言葉を思い出した
そういえばお師さまの兄弟が今どうしているのか聞かなかった
いや、幼かった私は思い当たらなかったのだ。もうその兄弟がいないことに
『生き残れば合格………これがわしの流派の習わしでのう」
ああ、お師さま………あなたが流派の名前を教えようとしなかった理由が今になって分かってしまいました
もう終わりにしたかったのですが?
あなたの代でこの流派に終止符を打ちたかったのですか?
「お師さま!!!」
私はそう思うと思わず声を荒げ叫ぶ
「こんな………こんなやりかたしかなかったのですか!?」
私が何を問いたいのかわかったのだろうか、お師さまは少し俯き応えた
「……………すまぬな」
「!!!」
お師さま、不器用すぎますよ
そんな掟に従わず勝手に破棄してしまえばいいのに
習わしからだろうか、兄弟の無念のためだろうか、真意はわからない
ただ一つ
お師さまは死にたがっている
だったら
私は
「…………お師さま。………いきます」
あなたを殺そう
「来い馬鹿弟子」
構直しお師さまに突撃する
先ほどと違い確実に命を刈り取る拳を突きつける
首、心臓、みぞ、金的、さまざまなな急所に功するがお師さまはまるで来るのがわかっているかのように軽々と受け流し反撃してくる
「ぐっ!?」
「あの時の直上的な攻撃と違いフェイクを入れたうまい攻撃であるな」
「っっ!!だったら受けてくださいよ」
「くくく、まだまだ甘いわ」
そう言って繰り出された拳を防ごうと腕をあげ防御するがその拳はするりと私の防御をすり抜け私の顔面を捕らえる
ぐっ!………やはり武術のやり合いにはお師さまには敵わない
私がお師さまより優っているもの…………威力だろう
あまりつけいれたくはないがお師さまはかなりの老人、筋力が常人より衰えている分攻撃力が劣る
最大の威力を瞬発的に一発で仕留めなくてはいけない
でないと受け流されその力を利用され倍返しに私に返してくるだろう
岩石とか安安と壊してたし
息を吐き心を鎮め機会を伺う
狙うはカウンター
お師さまが接近し拳が迫る
まだ
まだ
まだ
まだ
ここ!!
「…………わしの攻撃を躱し渾身の一撃を加える
読めておるよそんなこと………」
お師さまの拳を回避し一撃を加えようと突き出す直前、その拳はお師さまの手によって防がれてしまう
「お主の攻撃は確かに強い。じゃが、構えてすぐのところを押さえてしまえばこうも容易く止まってしまう」
……やばい!
そう思った時にはもう遅かった
どのようにしたのかはわからない。だが私の体は気付けば宙を舞い地面に叩きつけられていた
起き上がる暇もなくお師さまは私に最後のトドメに心臓めがけ飛び蹴りを押さえつける
衝撃が駆け巡り凄まじい音を立て地面ごと叩き割られてしまう
お師さまの足がめりこみ血が噴き出し始める
どう見ても致命傷だ
……………ここまでか…………
ああ、お師さま………そんな悲しい顔しないでくださいよ……
きっとお師さまを殺してくれる人が現れますから
掠れゆく光景の中お師さまが背を向け立ち去っていく
……………ふふ、これから死ぬというのになんだろう懐かしい気持ちになるな
デジャブというやつだろうか。
こうして前にもお師さまに…………
…………違う
いや、お師さまにもこうして殺されるようなことはあったがそれより前に………………生まれてから出会うまでの間…………………違うもっと前に…………
ああ、なんで今思い出したのだろう。これは二度目の人生であることを
私は………いや俺だっただろうか………前世の記憶がある
20●●年を生きた遥か未来の知識が思い出されていく
と言ってもただただ怠惰に生きた人生だったけどな
普通の学校に通って普通の社会人になってどうやって死んだかは忘れたけどここの違ってとても平和な時代を生きた記憶だ
ふふ、こんなことを死ぬ前に思い出したってどうしようもないのにね。私はこれから死ぬのだ。……このまま、ゆっくり……………ゆっくり………………
いや!!!!!!!死ねるか!!!!!!!!!!!
ああ、最悪だ!!!
お師さまから学び純粋な武術を学び強みに駆け上がっていく武人を目指していたのに
現代知識でダラダラと寝て過ごし美味しい食べ物を食べて幸せに過ごしていた頃の自分を思い出してしまったせいで未練たらたらなってしまったわ!!!
まだ二度目の人生でぐーたらしたり武術極めたり美味しいもの食べたり強いやつと戦ったら寝てたい
まだまだ死ねるか!!!!
確かに致命傷を与えた。だがなぜだろうな、殺したような思いにはならなかったよ馬鹿弟子。
二度目だからかな……………………ふふ
「起き上がってくると思ったよ馬鹿弟子」
振り返るとそこには先ほどと致命傷を負わしたはずの弟子が平然と立っていた
それどころか先ほどと違い気が溢れかえっていた
「…………よくやった馬鹿弟子。強さと弱さ、静と動、相反する二つを掛け合わせ一つにしたか。
紅き獣を脱した、紅き龍よ」
「………お師さま、これはそんな綺麗なものではないですよ。
………ただただ怠惰でいたい自分と目の前のことにただだ突っ走り刻苦していきたいという不純だらけの迷いです」
「それも強さよ」
「!」
「真っ直ぐに迷うことなく突き進むことも強い。だがな、常に悩み葛藤し続けそれでも前に進んで行こうとするそれもまた強さよ
わしはお主を誇りに思うぞ」
「……………ぐすっ。………はい!」
最後の攻防になるだろう
確かに私の気は今膨れ上がっているがおそらくこれは一瞬のことだろう、その前に決着をつける
作戦は先ほどと変わらない一撃で仕留める
それを察してか今度はお師さまからこちらに突撃してきた
不思議だ、ほとんど見えなかったお師さまの攻撃が今見える、いやどこに攻撃来るかわかる。
お師さまの拳を蹴り上げそのままお師さまの頭をめがけ振り下ろすが当たると同時にお師さまが体ごと前に回転しいなす
「おしいのう」
「いいえ、狙いはこちらです!」
そのまま振り下ろした足は地面を踏み抜き砕く
震脚
基本的な武術の動作であるが気を思いっきり流したそれは通常を通り越し地面を瓦解させた
「ぬっ!?」
着地点を失ったお師さまは体幹を崩して身動きが取れなくなりその場に硬直したところを踏み込む
だが、お師さまもすぐに身を翻し避けるどころかこちらの拳に合わせてきた
わずかにお師さまの拳の方がはやい
先程は躱した。その隙をつかれたのだったら
「………なに!」
お師さまの拳は私の脇に突き刺さり貫通した。だがまだ動ける!
私の拳はようやくお師さまに届く
「………………お見事………」
「………ぐすっ、あぁぁぁあ、ああ」
「泣くな馬鹿弟子………」
「だって…………」
わかっている。お師さまだって幸せそうな顔をしている
だから、これでよかったのだ。だけど………
「私は………ぐ、……私は………」
「…………ずっと……考えておった」
「?」
「もう馬鹿弟子では……ないからのう
わしら………紅一族の名を……お前にやろう
そして、……これからは……こう名乗れ………
紅美鈴………と」
「………………ずびっ、………ありがとう………
…………とうさん」
「…………くく、さらばだ……我が弟子………
我が娘よ」
少女、紅美鈴は見晴らしのいい崖の上に簡素ながら墓を立て手を合わせる
「とうさん、私旅に出るよ。ずっと行きたがっていたでしょ?
私が行ったところでってなるかもしれないけど………継ぎたいんだ父さんの夢を……私も世界旅行してみたかったしね、あははは
………じゃあ、行ってくるよ、じゃあね」
美鈴は立ち上がり港へと歩き始める
「さて、では手始めに私の前の故郷である日本に行きますか!!」