尾刈斗戦長すぎたなぁ……
愛衣の超ロングシュートによって、再び同点へ追いついた雷門。だが引き分けてはフットボールフロンティアに出場する事は出来ない。残り時間僅かで一点をもぎ取らなければならないが、ゴーストロックを破った雷門の前に怖いものはない。
尾刈斗中のキックオフで試合が再開。武羅度が幽谷にパスを出すが、すぐさま少林寺がカットした。
「ファワードにボールを回せ!」
「けど、染岡さんのシュートじゃ……」
円堂の指示に、少林寺が異を唱える。ゆがむ空間がある以上、ドラゴンクラッシュは簡単に止められてしまう。二度も止められては三度目も止められるのは目に見えている。だがそれでも円堂は投げかける。
「信じるんだ!アイツを!」
仲間を信じる。サッカーは11人全員が一丸となって戦わなければ勝てない。弱小であれば尚更、一人でなんて勝てやしない。だからこそ、ディフェンダーが守り、ミッドフィルダーが繋ぎ、フォワードが決める。11人全員が力を合わせて。
「……信じよう。皆で、皆を……!」
無口な愛衣が第一声を挙げた。その一言が、皆を頷かせた。
「染岡さん!」
少林寺が染岡にパスをした。さっきまで豪炎寺にパスを回せと染岡を蔑ろにしていた彼が、染岡を信じてボールを出した。
「……ありがとよ」
染岡が屍を抜いて、ゴール前へと駆ける。託されたからには今度こそ決めてやると息巻く染岡だが、既に鉈はゆがむ空間を発動している。
染岡の表情がわずかに歪む。だがそれは、豪炎寺の確信に変わった。
「奴の手を見るな!あれも催眠術だ!」
「何だと?!」
「平衡感覚を失い、シュートが弱くなる!」
ゆがむ空間を見た瞬間、染岡の平衡感覚が狂わされた。それでは強烈な威力を誇るドラゴンクラッシュであっても、正確なシュートが出来なければ弱くなる。
対称的に、愛衣の必殺技はゆがむ空間を発動する前にシュートを打った。それでゆがむ空間を見ていない為、威力は落ちる事なくゴールを決めた。それが、ドラゴンクラッシュが止められた最大の要因。
「まさか、ずっとそれを探って……!」
どんな時でも冷静に、相手を見抜く豪炎寺。そして、ストライカーとして最高のプレーを決める。そんな豪炎寺が羨ましかった。豪炎寺を超えると息巻いて、大事な事を見失っていた自分を恥じた。
自分もやってやる。ストライカーとして最高のプレーを。
「《ドラゴンクラッシュ》!」
染岡がドラゴンクラッシュを打った。だがその軌道はゴールへと向かわず、空へと上がっていった。
「何処狙ってるんだ染岡!」
必殺シュートがあらぬ方向へ飛んでいれば蒼ツッコまれるのは当たり前だ。
「あれって……!」
何と、豪炎寺が反応して高く飛んだ。ドラゴンクラッシュはシュートではなく、豪炎寺へのパスだった。
「《ファイアトルネード》!」
ドラゴンクラッシュをファイアトルネードで繋いで打った。その瞬間、ドラゴンが猛火に包まれ、赤い竜となってゴールに襲い掛かる。
「うおおおおぉぉぉ……!!」
ゆがむ空間が破られ、鉈の悲鳴とともにボールはゴールへと突き破った。
雷門4-3尾刈斗
ドラゴンクラッシュとファイアトルネードが合体して、シュートを決めた。その光景を目の当たりにした雷門イレブンの心は大きく震えた。
「ドラゴンクラッシュとファイアトルネード……。《ドラゴントルネード》……」
愛衣がポツリと命名した。同時に試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
「勝った……んだよね?」
「ああ!勝ったんだ!フットボールフロンティアだぁーー!!」
この勝利でフットボールフロンティアに出場出来る。皆がこの勝利を爆発的に喜んだ。
「染岡!豪炎寺!お前達のお陰で教わったよ!『一人で出来ない事も、二人でなら出来る』ってな!」
逆転ゴールを決めた豪炎寺と染岡を褒め称えた。
「それと、天ヶ原!」
「え、えっと……」
「ゴーストロックを破れたのは、お前のお陰だ!」
何故自分がゴーストロックを破った立役者になったのか、理解出来ずキョトンとしている。
「お前があの呪文に気付いたから、ゴーストロックを破る事が出来たんだ!それに、あのシュート!」
「ああ。お前があれを打ったお陰で、ゆがむ空間を破る事が出来たんだ」
円堂のみならず、豪炎寺も愛衣を褒めた。咄嗟に打った超ロング必殺シュート、あれがゆがむ空間を破るキーとなった。
だが今まで出来なかった必殺シュートが、あの土壇場で出来た事に疑問を抱いていた。
「けど、私……何がなんだか……」
あの時、どうやってやっていたのか。愛衣は無我夢中になっていて、詳しいやり方など覚えていなかった。
「けど、逆転の切っ掛けを作ったのは間違いなくお前だ!ありがとな!」
「え、円堂君……」
円堂に褒められ、恥ずかしさと照れで顔は赤くなるが、どこか満更でもない愛衣。
「よーし皆!次はフットボールフロンティアだぁー!」
おおぉーー!!
フットボールフロンティアの出場が決まり、雷門イレブン一同は拳を天に突き上げる。彼らの士気は益々高まり、どんな相手が来ようと負ける気などしない。そう思えてしまう愛衣だった。
練習試合が終わり、今日は解散となったが……
「天ヶ原」
豪炎寺が愛衣に呼び掛けた。
「疲れているだろうが、今から河川敷のグラウンドに来てくれ」
「……う、うん」
豪炎寺からの呼び出し。何が起こるのか検討もつかず、また不安を抱く愛衣であった。
「あれが……天ヶ原愛衣……」
雷門中と尾刈斗中の練習試合を見終え、帝国学園に戻る鬼道と佐久間兄妹。だが妹の楓は愛衣の必殺技を見て、震えが止まらなかった。
(あんな滅茶苦茶なシュートを打つなんて……)
あの超ロング必殺シュートは見た事がない。いや、必殺シュートというにはかなり特殊すぎるものだ。普通、距離が長ければ長くなる程、必殺シュートの威力は弱くなっていく。だが愛衣が打った必殺技は、威力は落ちるどころかその相乗効果で威力が跳ね上がっている。
「どうしたんだ?さっきまであれだけ騒がしかったお前が……」
「兄貴には関係ない……」
「気になるんだろう?」
「き、鬼道さん……はい」
兄の次郎にはツンケンとして、鬼道には素直な物言いだった。
雷門中という弱小サッカー部に、自分と同じ女子でありながらあんなプレーが出来る人がいるとは思わなかった。自分とはまるで違う。上手いわけではないが、決して下手ではない。それどころかかなり異質で恐ろしささえ感じている。
「負けたくない……。アイツを倒したい……!アイツを、還付なきまでに叩き潰したい!」
だがそれは、逆に楓の闘志を燃やしている。負けたくない。愛衣を還付なきまでに叩き潰したい。心の奥底にある闘争本能がそう訴えている。
「……期待しているぞ」
「えっ……?!」
まさか一番の新入りである自分に、憧れの鬼道にそのような言葉を投げかけられるとは思わなかった。
(鬼道さんが私に……!そんな……そんな……身に余るお言葉を……!)
恋する乙女となった楓の決意。今の彼女を止められる者は鬼道を除いていないが、その鬼道が後押ししている今、止められる者はいない。
「はい!頑張ります!」
こうしてはいられないと、鬼道に一礼してから走り去って行った。その背中を見ていた次郎が呆れる。
「やれやれ、恐れ入るよ。あのじゃじゃ馬を、ああも簡単に制御してしまうからな」
「俺は何もしてないさ」
「まあアイツの事は置いておくとして、雷門をこのまま放っておくのはマズいんじゃないのか?」
いずれ雷門は最大の強敵となって再び相対するだろうと次郎は懸念するが、鬼道は余裕の態度を崩す事はない。
「既に手は打ってある」
同じ頃、雷門中の校門前に一人の少年が立っていた。
「へえ、面白そうな奴らじゃん。鬼道さんが興味を抱くのも分かるな」
勝利に歓喜喝采する円堂立ちを不敵な笑みで見ていた。