翌日、河川敷のグラウンドで練習に勤しむ雷門イレブン。初戦の相手は昨年地区予選準優勝校の野生中。帝国を上回るフィジカルという事もあり、雷門イレブンは新必殺技の特訓に勤しんでいた。
だがその必殺技の特訓は早速壁にぶち当たっていた。
「「新必殺技!ジャンピングサンダー!」」
栗松と少林寺が高さを生かした必殺技の特訓に挑んでいたが、シュートも着地も失敗した。
「シャドーヘアー!」
宍戸がボールをアフロ髪に隠してドリブルする……という技らしいが、その中からボールが二つも落っことした。あまりにふざけた必殺技に愛衣から冷たい目で見られ「す、すんません……」と謝るしかない。
「必殺!壁山スピーン!」
平たく言えば壁山がコマのように回転しているだけである。しかも止まることが出来ていない。
「新必殺技……完成するのかしら」
「あはは……」
秋のボヤきに春奈が苦笑いする。そこにドゴォン!と、先程のお気楽な必殺技とは明らかに違うシュートが放たれた音が聞こえた。
「おお!あっちは凄そうですよ!」
「《ファイアトルネード》!」
「《リベンジサンダー》……!」
豪炎寺が打ったファイアトルネードを、愛衣のリベンジサンダーで打ち返し、ボールはゴールネットを揺らした。
「スゲェ!スゲェよ天ヶ原!必殺技をドカアァーン!と打ち返せる必殺技なんてよ!」
「そ、そうかな……」
円堂に褒められ、恥ずかしさと嬉しさで顔がポっと赤くなるが満更でもない様子。
「これなら野生中にも勝てるぞー!」
「いや。天ヶ原のリベンジサンダーだけでは、野生中には勝てない」
はしゃぐ円堂とは違い、豪炎寺は至極冷静だった。
「野生中にも通用するだろうが、これを使うには天ヶ原がゴール前まで下がらなくてはならなくなる。リベンジサンダーに頼りきりになると、天ヶ原の体力はフルタイムどころか、前半が終わる前に限界を迎えてしまう」
リベンジサンダーの弱点を、豪炎寺なりに分析していた。その要因は、主に愛衣のフィジカル面にある。
愛衣の体力は他のメンバーより少ない上に、リベンジサンダーの為だけにゴール前まで走らせたらあっという間に体力が無くなってしまう。
ましてや相手はフィジカル面では帝国を凌ぐ野生中。リベンジサンダーに依存すれば、愛衣は間違いなくスタミナ切れになる。
かと言ってディフェンダーに転向させても愛衣はディフェンスが大の苦手であり、リベンジサンダーを打つ前に抜かれてしまえばそれまで。愛衣の強みを殺してしまう事になる。
「そうなると、やはり新必殺技は欠かせない」
それが豪炎寺の結論だった。
「そうだな。天ヶ原ばかりに負担をかけさせるわけにはいかない。」
「その為に天ヶ原にはもう1つ、新必殺技を覚えてもらおうと思ってな。」
愛衣が無言で頷いた。
「スゲー!リベンジサンダーだけでも凄いのに、また必殺技を作り出すなんて!で、出来たのか?!」
「え……いや……そんな……出来ないって……一日じゃ……」
愛衣の言う通り、必殺技は編み出すまで相当な努力が必要になる。もし一日で出来ていたら、今のようなグダグダな練習にはなっていない。
「そもそも……必殺技ってどうやって作ればいいのか……分かんないし……」
リベンジサンダーは元々、愛衣が無我夢中で打った、言わば当てずっぽうから生まれた必殺技。ちゃんとした練習から作られたわけではないので、どうやって作ればいいか分かっていないというのが今の状態だ。
「どうしよう……ん?」
「どうしたんだ?あ、誰だアイツ?」
愛衣が河川敷沿いの道路からグラウンドを見下ろす1人の少女を見つけた。少女は紫色の長い髪にジーパンに臍が少し出ている半袖Tシャツという服装をしている。だがその手にはサッカーボールを持っている。
人見知りの愛衣が彼女を見ていたのは、尾刈斗中の練習試合で試合に見に来た少女その人だった。
円堂も愛衣が少女を見ている事に気が付くと、他のメンバーも気になるのかその続々と少女の方を見る。
「あいつ……」
その中で、土門がポツリと呟く。
「おーい!そこの君ー!」
円堂が少女に手を振って呼びかけてみる。少女も円堂の大きな声に反応した。
「君もサッカーやるのかー?!こっち来て練習しようぜー!」
「え、円堂君……?!」
「何言い出すんだお前は?!」
まさかの見ず知らずの少女を練習に誘うという突拍子もない行動に、愛衣と染岡が驚く。
だが少女は手に持っているサッカーボールを地面に踏んずける。そして円堂を、まるで標的を定めたように目を細め……
「そらよぉっ!」
「えっ?!」
ボールをそのまま円堂に向かって蹴った。見覚えあるこの光景に、円堂は一瞬構えが遅れてしまう。
「円堂君!」
だが円堂を守るように、愛衣がボールを蹴り返えそうとした時だった。
「えっ?!」
何とボールは愛衣の右足が届かないくらいの弧を描くような軌道で抜き、そのままゴールネットへと突き刺さった。
「な、何だ今のボールは?!」
「信じられないくらい曲がったぞ!」
半田と染岡でもあんなシュートは打ったこともなければ見たこともなかった。豪炎寺も、少女のシュートに目を見開いて驚いている。
「なーんだ。こんなのも止められないなんて、デスゾーンを止められたのはまぐれだったようね」
見下すような態度をしながら少女は石階段を跳んで降りていく。それに真っ先に反応したのは染岡だった。
「何だとぉ?!ふざけた真似しやがって!誰だテメェは?!」
「よっと。まあ、アンタみたいなショボイストライカーじゃ、あのシュートは打てないわよね」
強面の染岡に怖じけるどころか、高飛車な態度を貫いている辺り、自分は強いんだと自信があるようだ。これにはマネージャーの秋と春奈も黙っていない。
「酷い!そんな事を言うなんて!」
「そうですよ!大体あなたは誰なんですか?!」
「アタシ?ふふん。良いわ、教えてあげる!」
そう言うと、少女は雷門イレブン達に指を指した。
「よく聞きなさい!私は帝国学園サッカー部、佐久間楓!帝国のエースストライカーになる女よ!」
「て、帝国だって?!」
この少女が帝国学園サッカー部だと言われ、雷門サッカー部は驚きを隠せなかった。
「佐久間……もしかして、お前はあの帝国のフォワードの……」
「あれは兄貴よ。アタシは妹。……ふーん」
「え?」
楓はデスゾーンを打ち返した愛衣の顔を見ている。
「あ、あの……な、何ですか……?」
流石に同じ女子でもまじまじと見られると赤面してしまう。
「アンタがデスゾーンを打ち返した天ヶ原愛衣ね。覚えとくわ。それよりも!」
楓は再び雷門イレブンを指した。
「良い?アンタ達がまぐれで帝国から一点取ったからって、調子に乗るんじゃないわよ!アンタ達なんか、鬼道さんが本気を出したらプチッよ!まぐれが二度も続くと思わない事ね!」
仲間をバカにされて円堂が珍しく怒りを向けるが、ある事に気がついた。
「あれ?でもこないだの練習試合にはいなかったよな?」
「え?ま、まあ、そりゃあ、入ったのはその練習試合の日だからね。改定されたからアタシも入ったの」
「って事は、まだ下っ端ッスか?」
「は、ははははぁ?!あ、アンタ何言っちゃってんの?!こう見えて一軍に入ったんだから!」
平たく言ってしまえば壁山が言った通りである。図星を突かれたのか、先程の高飛車な態度から分かりやすく動揺している。
「っていうか、帝国でも練習はあるんだろ?練習はどうしたんだ?」
「まさかのサボりでやんすか?」
「ち、違うもん!今日は休みだから、たまたまここを通りかかって!」
ちなみに今日は本当に練習は休みなのだが、先程図星を突かれたのが響いているのか、楓は動揺したままで上手く言い返せなかった。
「もしかして帝国ってのは嘘なんじゃねえのか?」
「て、帝国よ!本当よ!お兄……兄貴と同じ帝国に通ってるんだから!」
雷門イレブンのほとんどがジト目で楓を見ている。こんな公開処刑同然の立場に耐えきれなくなった楓の両目には涙が浮かび……
「う、う……うわあああぁぁーーん!!」
大声で泣き出した。
「何よぉ!どいつもこいつも馬鹿にしてぇ!アタシ本当に帝国サッカー部だもん!鬼道さんだって認めてくれたんだからぁ!」
先程の態度はどこへ行ったのか、泣き喚く子供になってしまった楓の変化に皆がポカーンとなっている。
「アンタ達なんか……アンタなんか!アタシが纏めて叩き潰してやるんだからぁ!!」
「え……私……?」
何故か愛衣ピンポイントで指して宣戦布告。言いたいことだけ言うと楓は走って行った。
「うわあああぁぁーーん!コイツらにコケにされたぁ!お兄ちゃああぁぁーーん!!」
まさかのお兄ちゃん呼びで逃げ去った。
「な、なんだったんだアイツ……?」
「どうせ帝国の名を騙るろくでなしだろ?放っておけ!」
「いや、アイツは帝国だ」
染岡の悪態をつくが、豪炎寺が楓が言っていた事は間違いないと受け止めている。
楓のシュートはまるで旋風のように速く、そしてトリッキーかつパワーあるカーブ。豪炎寺でもあんなシュートを打つ選手は見た事がない。
「俺も、豪炎寺と同じ意見だな」
土門も豪炎寺に同調した。そして……
「俺もそう思う。確かに、アイツは仲間を馬鹿にした。それは許せないけど、あんなシュートを打てるようにまで努力したって事だ」
「……うん」
円堂もそしてそのボールを目の当たりにした愛衣もまた、楓の言うことを信じた。
「お前達!帝国に勝つ為にも、必殺技の練習だぁー!」
おおぉーー!!
楓にバカにされたのが悔しい者、帝国に勝ちたい者、流れに乗る者、思いはバラバラではあるが、勝ちたいという気持ちは一緒だ。そのせいが、グダグダだった練習にかなり熱が入った。
佐久間楓 その2
高飛車な言動や態度が多い楓ではあるが、メンタルが弱く、自分が手に負えない状況に陥ると兄の次郎を「お兄ちゃん」と呼んで助けを求める。