やっぱりストライカーなのでね!
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佐久間楓の乱入というハプニングがあった雷門イレブンだったが、彼女の挑発とも言える宣戦布告が効いたのか、練習にいつも以上の熱が入った。だが、それでも新必殺技は何一つ作り出すことは出来なかった。
帰り道、一緒になった愛衣と円堂は話し合っていた。
「どうすの円堂君……?新必殺技……出来なかったらどうしよう……」
「まだ諦めるには早いじゃないか。まだ試合まで日にちはあるんだから」
「そうだけど……」
分かってはいたが、必殺技の練習はそこまで甘くはない。たとえその兆しが見えたとしても、それでも相当な練習量と努力が必要になる。
日にちがあるからと言って、それまでに必殺技が出来上がる保証などどこにもない。円堂に励まされても、愛衣の不安は拭えなかった。
「大丈夫だって!」
「ひゃぃっ!」
突然、円堂に左肩を掴まれて愛衣はビクッと驚く。
「俺はアイツらの事も、お前の事も信じてる!たとえ、新必殺技が出来なくたって、お前達が必ず何とかしてくれるって信じてる!」
そう言うと円堂はニッと笑った。だが肝心の愛衣は恥ずかしさで円堂を直視出来ない。最近までボッチだった愛衣は人に触られる事に慣れていない。ましてや相手は男の子。以前に手を握られた事はあるが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
「え、円堂君……」
グウゥゥ……
突然鳴る腹の虫。まだパニック中でまともに思考が機能していないせいでまた自分かと慌てふためくが……
「あ、俺か。ハハハ!」
「え、円堂君か……ホッ」
自分ではないと分かった途端、安堵する愛衣。
「よっし!じゃあ雷雷軒で作戦会議だ!行こうぜ天ヶ原!」
「えっ……うわっ!」
突然手を掴まれ、そのまま引っ張られて走っていく。突然の事で恥ずかしさが再びこみあげる。だが……
行こうぜ天ヶ原!
小学校の時も、同じ事があった事を思い出した。そんな懐かしさがあったお陰か、愛衣は少し嬉しい笑みを浮かべていた。
とはいえそれはそれ。野生中に勝つ為には必殺技は必要不可欠。愛衣と円堂は雷雷軒のカウンター席でラーメンを食べながら、今後の練習について考えていた。
「必殺技、思ってたより難しい……」
「そうだな。俺も、ゴッドハンドを身につけるまでかなり時間が掛かったからな。けど、諦めなければ何とかなるさ!お前のリベンジサンダーだって、そうだろ?」
「リベンジサンダー……」
あの時、円堂と一緒にフットボールフロンティアに出たいという思いでいっぱいだった。だがそれは、見方を変えれば諦めたくないという意思だったのかもしれない。
「伸びるぞラーメン」
「えっ……?あっ……うん……」
考え呆けていた所に、円堂に促されてラーメンを啜る。
「けど……円堂君のお祖父さんって、イナズマイレブンなんだよね?どんな練習してたのか、ノートに書いてないの?」
「それが書いてないんだよな。じいちゃん達、どんな必殺技持ってたんだろうな」
とはいえ、伝説のイナズマイレブンがどんな必殺技を持っていたのか、孫である円堂ですら分からない。
「……イナズマイレブンの秘伝書がある」
グラサンと紫色のバンダナ、無精髭が特徴的な雷雷軒の親父が静かに言った。
「へー。秘伝書なんてあるのか。何て書いてあるんだろうなぁ……」
「秘伝書……えっ?」
今『イナズマイレブンの秘伝書がある』と、確かに雷雷軒の親父が言っていた。愛衣がカウンター席から立ち上がる。
「あ、あの……!」
「ん?」
だがヤクザと間違えられてもおかしくない雷雷軒の親父の強面に縮こまってしまう。
「どうしたんだよ天ヶ原?」
「あ、あのね円堂君……」
あれほど大事な事を言っていたにも関わらず、円堂は事の重大さが分かっていないようだ。愛衣は円堂に秘伝書について話す。
「えええぇーー?!秘伝書だって?!じいちゃんの特訓ノートなら俺ん家にあるけど、秘伝書なんてあるのか?!」
「ノートは秘伝書の一部にすぎん」
「秘伝書の一部……?」
口ぶりからして、この親父はノートの事を知っている。どうしてそれを知っているのか、愛衣が問おうとした時、親父は円堂に気付いた。
「お前、円堂大介の孫か?!」
「うん!」
「そうか……大介さんの孫か!ハッハッハッ!」
雷雷軒の親父の高笑い。どういう意味か愛衣と円堂はよく分からず置いてけぼりをくらっている。親父が高笑いをやめるとカウンターを強く叩いて……
「秘伝書はお前達に災いを齎すかもしれんぞ?それでも見たいか?」
脅すように二人に問う。愛衣は効いているのか不安な表情を浮かべる。
「災い……円堂く……」
だが円堂は不敵な笑みを浮かべていた。秘伝書を手に入れるつもりだ。
サッカーの事なら災いと言われて、円堂がやめるわけがない。そんな強さを持つ円堂だから、愛衣は不安を拭うことが出来た。
翌日。練習前に秘伝書の事についてメンバーに話した。当然、秘伝書の存在について皆は驚きを禁じ得ない。
だがイナズマイレブンの秘伝書となれば、今よりも遥かにスキルが上がるのは間違いない。それだけあって皆の期待が膨らむ。
だが肝心の隠された場所というのが、雷雷軒の親父曰く、理事長室の金庫にあるのだという。
普段、理事長室は一介の生徒が簡単に立ち入る事は、許されない、というのは過言ではあるだろうが基本的に用もない生徒が入れる事はない。
ましてや秘伝書は金庫の中。持ち主の許可なく勝手に開ければ普通に強盗で捕まる。故に秘伝書を手に入れるべく理事長室の前まで訪れた愛衣達はこっそり忍び込もうとしている。
「良いか?サッと入るぞ」
おう
声を潜めていざ潜入。が、愛衣と土門以外の殆どが同時になだれ込むように入ってしまう。もはや潜入には程遠い。
それは置いておいて、いよいよ金庫とご対面。金庫はダイヤル式になっていて、番号が合致する事で開く。
だが円堂はもちろん、ここにいる面子でその番号を知る者などいるわけがない。
円堂がダイヤルを回して開けられるわけもなく、強引に開けようとしてもガッチリとロックされている為、開けられない。モタモタしている円堂に、風丸と染岡が
「何やってんだ円堂?!」
「早くしろよ!見つかったら……」
「とっくに見つかってるわよ」
声がする方、理事長室の出入口にもたれ掛かる雷門夏未姿があった。無断で理事長室に侵入、学校の金庫を開けようとした姿をバッチリ見られては弁解の余地はない。
「あ、あのな!これは、敵に見つからない為の特訓で……」
「お探しのものはこれ?」
円堂の弁明を無視して右手に持つ一冊のノートを見せてやる。
「それだー!」
「けど意味ないわ」
「え……どうして……?」
どういう意味か、愛衣が夏未に問う。
「読めないもの」
「……あっ」
夏未の発言を唯一理解した愛衣。当然、部室に秘伝書を持ち帰って中身を見た他のメンバーも夏未の言った事の意味を理解した。
そう、円堂大介の特訓ノートに書かれていた文字があまりにも汚すぎて読めないのだ。愛衣も小学生の時に見せてもらったが、一文字も読めなかった。それどころか象形文字なのかと思ったくらいだ。
それを目の当たりにしたメンバーの気分は一気に落ち込んだ。イナズマイレブンの秘伝書と言うのだからどれだけ凄いのかと期待してきた分、その反動も大きい。ただ一人を除いて。
「スゲー!ゴッドハンドの極意だってさ!」
読めるのかよ?!
「だって、俺じいちゃんの特訓ノート読んでるからさ」
かく言う円堂も最初は読めなかったが少しずつ読めるようになったのだとか。
それは置いておいて、唯一読める円堂が秘伝書のページを開いて野生中に対抗出来そうな必殺技を探していく。
「あった!これだ!これなら相手の高さに対抗出来る、《イナズマ落とし》!」
「イナズマ落とし……どんな必殺技なの?」
そのネーミングからドキドキし始めた愛衣。もちろん、他の者もどんな必殺技なのか期待が膨らむ。
「えっと……『一人がビョーンて飛んで、もう一人がその上でバーンとなってクルッとなってズバーン!これがイナズマ落としの極意』……えっ?」
あまりにも奇天烈で理解出来ない文面に孫の円堂ですら目が点になる。
「円堂、お前の祖父さん国語の成績良かったのか?」
「ま、まあ……サッカー一筋の人だったから。けど、じいちゃんは嘘をつかないよ。ここには、確かにイナズマ落としの極意が書かれてる!あとは特訓あるのみだ!」
どこからその自信が湧いて出てくるのだろうか、ほとんどの部員が呆れる。だが愛衣はそんな円堂を見て、イナズマ落としがどんな必殺技になるのか、想像を膨らませただけでもドキドキしていた。
「ビョーンと飛んでズバーン……」
そんな中、豪炎寺は秘伝書に書かれていた極意をポツリと口にしたのだった。
「でもどうするの?イナズマ落とし」
「うーん……そうだよな。どうやれば良いんだろうな」
練習を染岡と風丸に任せ、円堂と愛衣はイナズマ落としのやり方について話していた。書かれていた極意はズバーンやビョーンといったオノマトペを交えた雑な文面。そしてグチャグチャな一つの絵のみ。
解読のしづらさは古代文明の文字に匹敵するのかもしれない。そう悩んでいた時だった。
「円堂、天ヶ原。ちょっと良いか?」
二人の話し合いに豪炎寺が入ってきた。
「イナズマ落としについてなんだが……こうじゃないか?」
豪炎寺が言うにはこうだ。
イナズマ落としは二人の連携技。一人はシュートを打つ役で、もう片方は踏み台役。
同時に二人が飛び、シュート役が踏み台役を足場にしてさらに高く跳躍。十分な高さに達した所でオーバーヘッドキック。
というものだ。
「そうだよ……そうだよ豪炎寺!絶対それだぁ!」
「そ、そうか……」
それがイナズマ落としだと確信した円堂の目が燦然と輝いている。愛衣も何度も頷くように首を縦に振っている。
「そんな不安定な状態から、オーバーヘッドキックを決められるのは、豪炎寺と天ヶ原だ!」
意気揚々と二人を指すが、本来シュート役は一人だ。そう言いたげな愛衣はジト目で円堂を見る。
「大丈夫だって!どっちかがマークされても、もう一人かが打てれば……」
「残念だが円堂、試合までもう日にちがない。お前の提案も悪くはないが、それだと時間が掛かってしまう。どちらかに集中してイナズマ落としをマスターするしかない」
イナズマ落としを打つストライカーが二人いたとしても、踏み台役は壁山以外に適任者がいない。二人がイナズマ落としをマスターしようとすれば、壁山への負担が多くなる。試合に絶好のコンディションで臨む為にもそのリスクだけは避ける必要があるのだ。
「なら……豪炎寺君が……」
「これは天ヶ原、お前がやるべきだ」
「え?!」
まさかの豪炎寺の推薦に戸惑うばかりの愛衣。
驚くのも無理は無い。豪炎寺は自分よりもストライカーの能力が高く、試合の状況も把握出来るエースストライカー。
その豪炎寺が対野生中の勝利の鍵を握るイナズマ落としを、愛衣にやれと言ったのだ。
「ま、待ってよ豪炎寺君……!私……イナズマ落としなんて……」
「いいや。これはお前が、お前だからこそだ」
経験不足と自身の性格が重なり、自分には出来ないと愛衣は辞退しようとするが、それでも豪炎寺は愛衣を推した。リベンジサンダーの時とは違い、イナズマ落としは野生中に勝つ為には必ず完成させなければならない、という重圧が愛衣にのしかかる。それに押しつぶされそうになって俯いてしまった時だった。
「大丈夫だって!」
「……え?」
円堂の声に愛衣は顔を上げた。
「やってみろよイナズマ落とし!リベンジサンダーだって、諦めずに頑張ったんだから出来たんじゃないか!そんな天ヶ原を、俺は信じるさ!」
愛衣なら出来る。そう信じて疑わない円堂の期待。不安だらけで自信がない愛衣が円堂に問う。
「出来るのかな……私に……。イナズマ落としなんて……」
「挑戦なくして、必殺技の完成はなしさ!ほら、やってみようぜ!」
「円堂君……」
自分から一歩、前に踏み出す事の出来ない少女の背中を円堂ど豪炎寺が押してくれた。答えが決まった愛衣は二人を見る。
「……やってみるよ。円堂君と豪炎寺君が託してくれた必殺技、完成させる」
自信なんてない。だが無気力だったあの頃のように、何もしないでただ見ているだけの自分には戻りたくない。
円堂と一緒にフットボールフロンティアを優勝出来るのなら、イナズマ落としを会得して見せる。
「……がんばるよ」
二人には聞こえないようにポツリと呟いた。
というわけで、イナズマ落としは愛衣に覚えてもらうことになりました。