もう一人のイナズマガール   作:レーラ

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本当の気持ち

 いつも通り家路についている愛衣。何処にも寄る予定もなく、そのまま真っ直ぐ家に帰るのがいつもの帰り道。

 

 そのはずだったのだが、今日は違う。愛衣が向かった先は鉄塔広場。かつて円堂と一緒に練習した思い出の場所。何故だか無性にそこへ行きたくなったのだ。

 

「たああぁっ!」

 

 そこでは木にロープで括り付けた大型タイヤをボールとして、正面から止める円堂の姿があった。小学校の頃から変わらない練習方法、小学校の頃から変わらないサッカーに対する情熱。何もかもが、あの頃と変わらない。

 

「円堂君……」

 

 対する自分はどうだ?円堂と一緒にサッカーが出来ない事に絶望してサッカーへの情熱も消え失せ、諦めて、木の陰に隠れて見ているだけ。

 

「え……えんど……っ」

 

 円堂とサッカーやりたい。隠してきた想いをさらけ出す為に呼ぼうとしたが、上手く出せない。

 

(私だってやりたい……円堂君と一緒に……。けど……)

 

 所詮自分は女子。女子はサッカー部の選手になれない。その枷がある限り、自分は円堂と一緒に戦えない。

 

「やっぱり……私には……」

 

 また諦める。練習する円堂に背を向けてこの場を去ってしまった。トボトボと道を歩いて帰る。

 

(ごめんね……円堂君)

 

 少しの勇気すらふり絞れない自分に懺悔するように、サッカーを押してくれた友達を思って謝る。

 

 その帰り道、愛衣は河川敷のすぐ側の道を歩いている。この河川敷にはサッカーグラウンドがあり、小学生のサッカーチーム『イナズマKFC』が練習場として使っている。

 

「行くよー!」

「こっちこっちー!」

 

 小学生特有の無邪気な声に反応して、サッカーグラウンドで練習する小学生達を見ると、彼らが純粋にサッカーを楽しんでいるのが分かる。

 

「ねえ」

「……えっ?」

 

 突然呼びかけられて、その方を見ると同じ制服を着た女子が目の前にいた。

 

「ど、どうも……」

「天ヶ原愛衣さん……だよね?」

「は、はい……」

 

 どうして名前を知っているのか、初対面であるはずの彼女を不気味な目で見る。

 

「あ、ごめんね!円堂君から聞いたの!」

「……円堂君?」

「うん、私は木野秋。サッカー部のマネージャーをしてます」

 

 サッカー部のマネージャーという言葉に反応する。

 

「知ってるよね?今度、帝国学園との練習試合があるって事」

「……うん」

「でも部員が足りないから、円堂君と部員集めをしてるんだけど、なかなか人が入らなくって」

 

 笑顔でそう言っているが、かなり致命的な問題だ。部員が足りなければ試合なんて出来やしない。

 

「大丈夫なの……それ?」

「あははは……それは返す言葉もないね」

 

 ジト目で秋を見る。それで負けたら廃部だというのに、呑気なものだと愛衣はため息をつく。

 

「ねえ天ヶ原さん。もしかして、サッカーやりたいんじゃないの?」

「……なんでそうなるの?」

「だって、いつも練習見てたじゃない。今だって、私の話より、あの子達がサッカーやっている所が気になるみたいだし」

「……っ」

 

 確かに気にはなっている。だが自分は参加できない。

 

「だけど、女子だからってサッカーから一線を引いている。自分から」

「……何が言いたいの?」

「そうね……。ちょっと待ってて」

 

 そう言うと秋は河川敷の階段を降りて、グラウンドで練習していたKFCの子供達と話す。どうやら彼らとは知り合いのようだった。

 何を話しているのか首を傾げていたが、話し終えると秋と小学生達がこっちを見ている。

 

「天ヶ原さーん!こっち来てー!」

 

 秋に呼ばれると、愛衣は階段を降りてグラウンドに入る。すると、同じ女子である小学生如月マコが話しかけて来た。

 

「お姉ちゃん、サッカー上手なんでしょ?」

「……あ。ど、どう……かな?今はやってないから……あんまり……」

「なぁなぁ!シュート見せてくれよ!」

 

 純真無垢な彼らに何を吹き込んだのか、秋の方を見て問おうとする間もなく彼女からジャージを渡された。

 

「スカートじゃ出来ないでしょ?貸してあげるから、やってみて」

「あの……私、やるとは……」

「やってくれないの?」

 

 マコの潤んだ上目遣い。何故小学生にそんな事が出来るのかは置いておいて、それを見せられては愛衣でなくても断りにくくなる。さらに他の小学生達にもせがまれ、愛衣には選択の余地は無くなった。

 

「……分かった。やるから、待ってて」

 

 溜息をつき、ついに折れた愛衣。近くの公衆トイレでジャージに着替えと準備運動を始める。

 

「ルールは天ヶ原さんとイナズマKFCの3人のミニゲーム。天ヶ原さんが二人を抜いて、ゴールを決めたら天ヶ原さんの勝ち。逆にボールを取られたらイナズマKFCの勝ち」

 

 愛衣一人と如月マコ含めたKFC三人によるミニゲーム。数的には不利ではあるが、小学生相手ならこれくらいのハンデは必要だろう。

 

(久しぶりにやるけど、出来るかな……)

 

 センターサークルにボールを置いて、右足でそれを踏む。準備完了の頷きを秋に向ける。それを合図に秋はホイッスルを鳴らした。同時に、愛衣はボールを蹴って走り出した。

 

「行くぞー!」

 

 KFCの一人、バンダナを巻いた間竜介が愛衣からボールを奪おうと走り出した。愛衣は右へと走る。抜かせまいと竜介はそこへと立ち塞がろうとするが、愛衣の左アウトサイドでボールの軌道が左へと逸れた。

 フェイントに釣られた竜介はすぐに反応しきれず、対する愛衣は素早いステップで抜き去った。

 

「今度は私!」

 

 今度はマコがディフェンスに入るが、愛衣はそのままドリブルを続ける。このまま一対一に持ち込まれるかと思われた次の瞬間、愛衣はヒールリフトで高く上げたボールがマコの頭上を通る。

 唖然としたマコは何も出来ず、そのまま愛衣に抜かれた。

 

 残すはキーパーの宗像大翔ただ一人。イナズマKFCの正ゴールキーパーとして、点をやらせないと構える。

 

「たあぁっ!」

 

 振りかぶった愛衣の右足が、ボールを力強く蹴った。宗像は止めるべく飛び込む。パンチで弾くはずだったが、愛衣のシュートの方が上手だった。その手は逆に弾かれ、ボールはゴールネットへと納まった。

 

「入っちゃった……」

 

 あれから一度もやっていなかったにも関わらず、ここまでの事が出来たことに、愛衣自身も開いた口が塞がらない。

 

「おーい!」

「へっ?!」

 

 河川敷の上にを敷しかれている橋から聞き覚えのある声。その声に驚いて見上げると、そこには鉄塔広場で練習していたはずの円堂が手を振っていた。

 

「え、円堂君……?!」

 

 円堂は走って河川敷を降り、グラウンドに入った。

 

「凄いじゃないか!いつの間にあんなプレーが出来るなんて!」

「い、いや……私は全然っ……!練習なんて……」

「なあ!今度付き合ってくれよ(・・・・・・・・)!」

「えっ?!」

 

 まさかの告白に愛衣だけでなく秋、小学生達も目が点になる。愛衣に至っては赤面している。

 

「ま、まままま……待ってよ円堂君!わ、私は……その……き気持ちは嬉しいけど……こ、心の……準備が……」

「大丈夫さ!あれだけ出来たら十分だ!今度の練習試合に間に合う!」

「……練習試合?」

 

 練習試合という言葉が出てきた事で、《付き合ってくれ》のもう一つの意味が変わってくる。熱いムードもどんどん冷めていく。もう分かっているが、一応問いかける。

 

「も、もしかして……付き合ってくれっていうのは……」

「え?サッカーの練習だけど?」

 

 やっぱり……

 

 サッカー馬鹿による紛らわしい頼み。これでは恋人の告白と勘違いされても仕方がない。俯いてプルプルと震えている愛衣をよそに、円堂は熱心に勧誘する。

 

「そうだ!それならいっそ、天ヶ原も練習試合に……」

「……バカ」

「え?」

 

 

 

 円堂君の馬鹿ああああぁぁ!!

 

 

 

 バチイィンと叩かれる音が夕暮れの空に響いた。円堂の左頬に大きな紅葉が出来上がった時には、愛衣はカンカンになって帰ってしまった。

 

「なあ、俺何かマズいこと言ったか?」

 

 叩かれた理由を理解出来ない朴念仁な円堂は秋に問うが、目を逸らして答えてくれなかった。

 

 そして家に帰った愛衣はというと……

 

「ただいま!!」

「お、おかえり……ってちょっと愛衣?どうしたの?」

 

 帰ってくるや否や、自分の部屋に入ってドアを乱暴にしめては着替えずにベッドの布団に包まる。

 

(馬鹿!本当に馬鹿!あのサッカー馬鹿!)

 

 年頃の女子中学生らしい初心な反応。久しぶりに話したのにあの誤解を招くような勧誘。

 あまり人と関わりを持とうとしない愛衣でなくても、付き合ってくれと言われたら誰だってその気になってしまう。

 

(付き合ってくれって言われたの……初めてなのに……)

 

 布団を乱暴に投げ飛ばし、今度は枕を何度も叩いた。

 

「どうしちゃったのかしら……」

 

 ちなみに愛衣の母は部屋の外から娘の身を案じていた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それから一週間後、ついに迎えた雷門中vs帝国学園の練習試合。場所は雷門中のグラウンドで行われる事になり、全校生徒がこの一戦の行方を見届けようと、グラウンドの外や校舎内で見守っている。

 

 愛衣はグラウンドのすぐ近くにある体育館の出入り口に座り込んで、その様子を見ている。あれから気まずくなってしまった愛衣はサッカーの練習に顔を出せなかった。

 

 何も無かったグラウンドは、試合の為にフィールドに白線が敷かれ、それぞれのコートにゴールポストが一つずつ置かれている。

 そして、片方のベンチには帝国学園と戦うべく11人揃った雷門中サッカー部が、ユニフォーム姿で帝国学園の到着を待っていた。

 

(まだ来ないみたい……遅れてるのかな?)

 

 今か今かと帝国学園の到着を待っていたのだが、突如ゴールネットが揺れ始めた。それをきっかけに木々も校舎も揺れ始めた。

 

(地震……?)

 

 その地震の正体は雷門中の正門の前に現れた巨大な車両だ。見るからに装甲車であるがその車両の上には旗が掲げられており、その中心には帝国学園の校章が刻まれている。

 

 その車両の扉が開くとレッドカーペットが敷かれ、出入り口から帝国学園の制服を着た生徒と思われる中学生が一糸乱れぬ動きで整列、さながら軍隊である。

 

 そして、その車両から深緑色のユニフォームを着た10人とオレンジのユニフォームを着たゴールキーパーの選手が降りてきた。

 




愛衣の容姿

髪:銀色のショート 猫耳みたいな癖っ毛がある

瞳:黄色。目の形はクララっぽい感じ
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