装甲車と言っても過言ではない大型車両から帝国イレブンが姿を現した。40年間無敗を誇るだけあって、彼らが登場してから、それまで普通の中学校の雰囲気だったのが一転、戦場のような雰囲気に変わった。
キング・オブ・キーパー源王の名で知られている《源田幸次郎》、チームの参謀役である眼帯をつけた浅黒肌のフォワード《佐久間次郎》、その他の面々も選ばれし選手の一人。そして、彼らを率いるドレッドヘアーとゴーグルが特徴の少年。彼の左袖にはキャプテンマークが着けられている。そして彼だけ赤いマントを羽織っている。
彼こそが帝国学園キャプテンにして天才ゲームメーカーと謳われている《鬼道有人》だ。
「鬼道さん、何でうちがこんな弱小チームと試合しなくちゃいけないんですか?」
帝国学園ミッドフィルダーの辺見が鬼道に尋ねる。こんな弱小チームとの練習試合をする事に不満があるようだ。
「面白いものが……見られるかもよ?」
鬼道が不敵な笑みで答えた。
帝国学園が到着して早々、彼らはグラウンドでウォーミングアップを始めた。その練習を見て、雷門イレブンもそうだが、愛衣もその技術力とパワーに圧倒される。
「帝国学園……」
40年間無敗を誇る彼らの強さは試合を見なければ分からないと言うが、これだけでもその一片が垣間見える。
すると、鬼道がチームメイトに合図を送った。その瞬間、寺門がボールを蹴り上げ、辺見がオーバーヘッドで鬼道にパス、そのままボレーシュートを放った。
だがそのボールはゴールにではなく、円堂に向かった。彼らはわざと円堂に向けて打ったのだ。
円堂はすぐさま止める体勢に入ったが、その間に割って入る者がいた。
「っ!」
「天ヶ原?!」
鬼道が打ったボールを、愛衣が蹴り返したのだ。まさか蹴り返されるとは、それも女子によるものとは予想しなかったようだが、冷静にそれをインサイドトラップで受け止めた。
「大丈夫か天ヶ原?!」
「……平気」
ローファーに傷が入っているが、足に怪我をしたわけではない。グラウンドの地面をタップしてそれを証明してみせる。
「何だコイツ?女じゃねえか」
ピンク髪のボウズ、《染岡竜吾》が愛衣を見て円堂に尋ねる。
「そんな事はどうでもいいよ。……円堂君」
「ん?」
「部員、揃ったんだね……。頑張って。応援してる」
以前にサッカー部を覗いた事があったが、見た事がない人が何人かいた。部員が揃った事を確認してそれだけ伝えると、愛衣はグラウンドから離れる。
「おう!絶対勝つからなー!」
円堂は手を振って、その背を見届ける。愛衣はすぐ近くの木陰に座ると、そこにお尋ね者がやってきた。
「あの、すみません!新聞部の《音無春奈》です!今のキック、凄かったです!もしかして、サッカーをやってたんですか?あのキャプテンである円堂さんとはどういった……」
「待って待って……」
セミロングの青髪の眼鏡をかけた女子生徒、そんな矢継ぎ早に質問されても答えられるわけがない。一旦落ち着いてから質問に答える。
「……前はサッカーやってた。今は違う……」
「今は違う……?やめちゃったんですか?あんな凄いボールを蹴れるのに何故?」
「それは……あ、もう始まっちゃうよ?」
「え?!あっ!そうでした!すみません!また後で!」
そう言うと春奈は急いで雷門側のベンチへと向かった。
「凄いボール、か……」
褒めてくれた事が嬉しかったようで、ちょっとばかし愛衣の口角が釣りあがった。
「何だ……あいつは?」
一方、円堂に放ったはずのボールを蹴り返した愛衣を見る鬼道。見るからに気弱な少女のはずだったが、その見た目とは裏腹に強力なボールを蹴ることが出来る。男であれば、サッカー部で活躍できたかもしれないのに、女である事がもったいないとさえ思った。
「おい佐久間。何でうちがこんな弱小とやらなくちゃいけないんだ?」
まだ辺見は雷門と試合する事に不満があるようだ。確かに帝国学園が部員不足だった雷門とやる意味などない。辺見は佐久間に尋ねる。
「どうやら総帥がここに転校してきた男を気にしているみたいだ。そいつの実力を見極めて来いとの事だ」
「へえ、一体誰なんだそいつは?」
見渡す限り、そのような男子生徒は誰もいない。鬼道も、その人物が何処にいるのか分かっていない。
「まだいない」
「まだいない?!面白いものが見れると言ったのは鬼道さんでしょう?」
「まだと言ったはずだ。慌てるな」
「へぇ、それじゃあそいつはうちに来ても使えるんですか?」
「それは総帥が決める事だ。俺達は俺達のやるべき事をやるまでだ」
鬼道はあくまでも帝国学園サッカー部監督にして総帥の《影山零治》に従うまで。雷門中との練習試合もそれに過ぎない。
「ではさっきの女は?見たところ、良い筋してるそうですが?」
「興味はあるが、奴は部員ではないようだ。
自分達のボールを蹴り返した愛衣に目をつけている事を、当の本人は知る由もない。
いよいよ雷門と帝国の練習試合が始まる。開始の整列を終えるとそれぞれのポジションに立つ。
雷門
帝国
先攻は雷門。審判のホイッスルが鳴り、試合開始。染岡がボールを松野にパス。雷門の攻撃陣は帝国側のフィールドへ上がっていく。
再び染岡にパスが回った時、佐久間と寺門がスライディングでボールを奪いに来たが、染岡はボールと共に飛んだ事で二人抜きをする。
「染岡!こっちだ!」
風丸からパスの指示。染岡の正面から洞面がディフェンスに入って来た為、風丸に繋げる。風丸から松野に、松野から宍戸へとパスが繋がり、そのまま右サイドから上がっていく。
「先輩!」
センタリングを上げ、半田が決めるかと思われたがそのままスルー。本命はその先にいる染岡。染岡がシュートを決める。これには源田も反応出来ない。だが彼は不敵な笑みを浮かべ、そして……
「決まった……っ!」
決まったと思われたそのボールは弾かれてしまった。取れないと思われていた源田が瞬時に動いたのだ。愛衣もこれにはガッカリしてしまう。
「鬼道!俺の仕事はここまでだ!」
ボールをキャッチした源田が鬼道にボールを投げ渡す。
「ああ、始めようか。帝国のサッカーを」
ボールはそのまま寺門に渡り、シュートを打った。その威力は凄まじく、止めようとした円堂を吹き飛ばしてゴールネットを揺らした。
雷門0-1帝国
帝国のシュートが正面から決められてから、一方的な試合になった。次々とゴールを決められては技と選手にボールをぶつけて痛めつけるなど、前半が終えた時には既に雷門の選手達はボロボロだった。
「酷い……」
サッカーでラフプレーはよくある話ではあるが、故意にボールをぶつけ、スライディングタックルで倒すなど明らかにやりすぎである。それでも彼らはファウルを取られないよう立ち回っている。
そして帝国の選手達は息一つ切らしていない。彼らは余裕綽々と後半に望む。また彼らの、もとい影山の目的はまだ果たされていない。恐らく果たされるまで雷門の選手を嬲るだろう。
予想された展開ではあるが、こうも大差をつけられては雷門の選手達の士気はガタ落ちだ。
「後半もやるんスか?」
「やるだけ無駄でヤンス……」
壁山を始め、栗松や宍戸など、大半のメンバーが諦めている。
「まだだ!後半もやるぞ!」
だが円堂は不屈の闘志を燃やしている。どれだけ大差をつけられようとも、彼は最後の一秒まで諦めるつもりなどない。
だが後半、帝国側のキックオフ直後に鬼道は動き出した。
「行くぞ。《デスゾーン》開始」
鬼道が指示を下し、佐久間、寺門、洞面が前線へ走り出した。
「そして奴を、引きずり出せ!」
鬼道がボールを高く打ち上げた。前線へ走り出した三人が高く飛びながら回転、三人の中心にあるボールにエネルギーが集中する。その陣形はまさに三角形をなしている。
明らかにあれは必殺シュートだ。それも切り札級のもの。それを打たれれば、必殺技を持たない円堂であっても止める事は不可能だ。
「「「《デスゾーン》!!」」」
三人が同時にボールを踏みつけるように蹴った。デスゾーンが円堂に襲い掛かる。
「止め……ぐあああぁっ!!」
デスゾーンを正面から受けた円堂はなす術なく吹き飛ばされ、ゴールを決められた。
雷門0 - 帝国11
だが彼らはそれでも攻撃の手を緩める事はせず、雷門の選手達は帝国によって蹂躙される事になった。
数々のラフプレーの凄まじいシュートを決められ、帝国は15点となった。
「……っ!」
雷門イレブンが倒され、なす術なく点差を広げられるこの惨状を見せられてもなお、試合に出れないこの歯痒さに、愛衣は苛立っている。
だがサッカーは男子のフィールド。女子の出る幕はないと、何度も突きつけられた。どんなに言い返しても、結局サッカーは出来なかった。
女がサッカーなんかしてんじゃねえよ!
女子はお断りだ!
人形遊びでもしてなー!
女がサッカーなんかするな。また同じ蔑まれの繰り返し。女だからという理由でフットボールフロンティアにも出れず、サッカーをやりたくても周りがそれを許してくれなかった。
天ヶ原さんは、サッカーがしたいんじゃないの?
秋の言葉を思い出した。あの日サッカーを諦め、空っぽになりながらも周りの体裁に取り繕う為に偽りの自分で塗り固めていた自分を打ち壊す一言。
自分が本当にしたい事、やりたい事。それを見ないふりをして蓋をしていた自分。愛衣は、そんな自分が大嫌いだった。
座っていた愛衣は勢い良く立ち上がる。自分を偽ってまで見て見ぬふりはしたくない。本当に好きなもの、やりたかった事を思い出した彼女の瞳に、生気が蘇ったかのような光が灯る。
(私も……戦いたい……!円堂君と、もう一度……!)
愛衣は一つの決意を胸に走り出した。
雷門イレブンの勝利はもはや絶望的であった。15点も入れられ、度重なるラフプレーによって選手達は皆ボロボロ。さらにエースの証である10番のユニフォームを着ていた目金欠流こと《メガネ》がこの惨状に耐えきれなくなり、ユニフォームを脱ぎ捨てて逃亡した。
彼は元々サッカーはおろか、運動が苦手であるにも関わらず、ヒーローになりたいという目的で入部したようなものだ。心が折れてしまっても不思議ではない。
だがこれでは10人で戦う以外他にない。頼みの円堂もボロボロ、雷門のフィールドプレイヤーは誰一人立ち上がる事すら出来ない。観客に来た雷門生徒達もガッカリしている。
雷門のベンチにいる木野だけは、最後まで応援すると決めていた。だがこの絶望的な状況を前に、奇跡を願うほどにその気持ちは揺らいでいた。
「ねえ、木野さん」
「天ヶ原さん……?」
「ユニフォームの余りって、ある?」
「え?」
「何番でも良い……貸してほしい!」
それは愛衣がそのユニフォームを着るという事だ。即ち、愛衣も雷門の選手として出るという事を意味する。
必死に奇跡を祈っていた秋の顔に、笑みが浮かんだ。だが冬海がこれを許さない。
「ま、待ちなさい!君はサッカー部じゃ……そもそも君は女子じゃないか!」
だが愛衣にギロッと睨まれ、冬海は後退る。ろくに顧問として部の面倒を見てこなかった冬海に、やりたい事が定まった愛衣を止める事など出来やしない。
「俺達は構わん」
グラウンドから鬼道の声が。
「降りて来い、女」
挑発ともとれる言動。愛衣の眉が一瞬ピクッと動く。
「木野さん、お願い」
「うん!その前にこっち来て!」
秋に手を引っ張られて連れて行かれた先は、サッカー部の部室。そこで12番のユニフォームが手渡された。
「私が外で見張ってるから、すぐに着替えて」
「……ありがとう」
秋が扉を閉めると、愛衣は制服を脱いでユニフォームに着替えた。
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