豪炎寺という最強の戦力が加わり、雷門イレブンの士気は高まっている。円堂は当然の事、一年生達は頼りになる先輩の存在に大はしゃぎしている。
だが唯一、豪炎寺を目の敵にしている染岡だけは心穏やかではない。
「ストライカーは俺と天ヶ原だけで十分だ」
「随分とつまらない事に拘るんだな」
「何だとぉ?!」
豪炎寺に対抗心を燃やしている染岡に対して、当の本人は気にも留めていない。豪炎寺は染岡を見下しているのではなく、ストライカーとして自分がやるべき事をやるだけという、豪炎寺らしいクールなやり方を貫いている。
「フォワード同士……よろしく」
「ああ……」
愛衣は顔には出していないが、豪炎寺が来てくれた事には素直に嬉しいようです、彼を歓迎している。
「良いのかよ天ヶ原?!」
「一緒にサッカーやってくれる人、増えるのは嬉しいから……」
「何か、円堂みたいな事言ってないか?」
「大丈夫かな……?」
そのセリフを聞いた半田や松野達は、愛衣が円堂化していくのではないかと一抹の不安を覚えるようになった。
「皆さーん!尾刈斗中の情報ゲットして来ましたー!」
春奈が勢い良く部室のドアを開けて入って来た。手に掲げているDVDを早速パソコンで再生させると、全員が画面を凝視する。内容は尾刈斗中と他校による練習試合の映像だった。
「ん?」
「これって……」
再生開始直後、円堂と愛衣が異変に気付いたのか声を挙げる。何と対戦校の選手が何故か一歩も動かず、尾刈斗中の選手はどんどん攻められていく。そして何も出来ないまま尾刈斗中フォワードのシュートが決まった。
「何で動かないのかな……?」
「動かないんじゃなくて、動けないんだと思います」
愛衣の疑問に春奈が答える。
「動けないって……?」
「噂によると、尾刈斗中の……呪いだとか!」
うらめしやのポーズをノリノリでかました事で壁山の顔が青褪めた。壁山以外にも呪いという単語が出ただけで怯える者が続出する。
呪いは非科学的なものとされているが、その非科学的なものの方がより恐怖を煽りやすく、広まりやすい。そうやって尾刈斗中の呪いの類の噂が広まったのだろう。
「心配すんなって!呪いだろうが何だろうが、俺達はそれを打ち破るだけだ!」
「けど、そんなものどうやって?」
不安になっていないと言えば嘘になるが、あまり信じていない風丸が円堂に問う。
「それは勿論……特訓だぁー!!」
おぉー!と最初は勢いが良かったが、答えになっていない答えではその勢いは死んでしまった。
とはいえ、特訓は強くなる為には大事である。雷門イレブンはそれぞれ必要に応じたメニューをはじめていく。愛衣はというと、デスゾーンを打ち返したシュートの練習となったのだが……
「はあぁっ!」
ペナルティエリア内から放ったシュートは練習試合で見せたそれを大きく下回る、強いノーマルシュートだった。
あれ以来まったく出来なくなっており、愛衣は勿論、他の面々もその原因が何故なのか分からない。
「もう一回……!」
「よし来い!」
それから何本もシュートを打つが、どれも普通のシュートだった。
「はぁ……はぁ……」
何本も連続でシュートを打っている愛衣の体力は残っていない。荒い息遣いとともに、額から流れる一筋の汗がグラウンドの砂に染み込む。
「天ヶ原!無理するな!一旦休めー!」
「で、でも……まだやれる……。私はまだ……」
「でももまだもありません!」
「おわっ……!」
頑固な愛衣に見兼ねた秋に引っ張られ、そのままベンチに座らされる。すると、秋がスポーツドリンクが入った水筒を手渡す。
「特訓も大事だけど、ちゃんと休んで体力を回復させなきゃ駄目」
「う、うん……ごめん」
秋に諭され、少し落ち込む愛衣。だが秋の言っている事は決して間違いではない為、大人しく水分補給をとった。
「大丈夫か?」
愛衣の前に、豪炎寺が歩み寄って心配してくれた。思わず愛衣は一瞬、目を見開いて驚いた。
「う、うん……大丈夫……」
「……そうか。少し休んだら練習だ」
「……うん」
それを伝えた豪炎寺はグラウンドに戻っていった。
「豪炎寺君も、天ヶ原さんの事が心配だったみたいね」
「え?」
「豪炎寺先輩って、見かけによらず優しいんですね!」
豪炎寺はクールな見た目とは裏腹に、仲間に対する情を持っている。本人にその気がなくても普通の女子ならこれだけでハートを鷲掴みにされるだろうが、愛衣は超がつく変わり者。キョトンとした顔で首を傾げている。
とりあえず愛衣は水筒を秋に返して練習に合流する。それから愛衣は何度もシュートを打った。その回数は既に百を超えている。パワーもスピードも必殺技に引けを取らないはずなのだが、それでも出てくるのはただのシュートだけだった。
「はぁ……はぁ……どうしてっ……なの……?」
デスゾーンを打ち返した時も、まだ完全ではなかったとはいえ、それでも肌にピリピリ来る圧倒的なパワーと迫力。それが一球も再現出来ない原因が分からずお手上げだった。
流石に日も暮れており、もう夜に近かった。これ以上は怪我をする恐れもある為、今日はここまでとなった。
帰宅後、愛衣は両親と夕食を囲っていた。テーブルには肉じゃがや漬物といった、いかにも家庭の味らしい料理が揃っている。
だが愛衣はというと……
コクリ……コクリ……
「愛衣?愛衣?」
「……へっ?」
うつらうつらとしていた愛衣だが、母の声で覚醒する。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ……大丈夫……だいじょう……」
再びうつらうつらとしてしまう。
「サッカーの練習、そんなに大変なのかしら……?」
「愛衣もサッカーを始めて、喜ばしいはずなのに……」
母と父は意識が落ちかけている愛衣を見て心配になる。間もなくして、愛衣の意識は落ちた。
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試合当日、空はまるで不気味な事が起こると言わんばかりの曇天。それでも雷門イレブンの試合を見に来た生徒は数知れず。そのギャラリーの中には、私服姿の鬼道、佐久間兄妹がいた。
「へえ。豪炎寺は正式に入部したのか」
「ふんっ。豪炎寺?あんなツンツン頭、アタシの手で……!」
「何でお前一人で熱くなってるんだ?」
打倒雷門に燃える妹の楓に、兄の次郎は呆れている。
「アイツが帝国から一点入れたってだけで、他の奴らが調子に乗ってるのを見てると、アタシ我慢出来ない!あんな弱小サッカー部、アタシ一人でも……」
「口を慎め楓」
「き、鬼道さん……」
兄に対しては生意気な態度を取っていた楓だが、鬼道を前にすると途端に可憐な少女に様変わりする。
「言ったはずだ。俺達はあくまで任務を果たしたまでだ。一点取られたところで、痛くも痒くもない」
「は、はい……」
「その意気は、フットボールフロンティアまで取っておけ。たとえ雷門がフットボールフロンティアに出れたとしても、俺達と戦う前に消え去る」
すると、楓の心の奥底にある薔薇の花が咲き誇る。同時に、胸のトキメキと高鳴りが抑えられなくなる。
(鬼道さん……!ああ……格好いい!)
憧れの鬼道に声を掛けられただけでなく、そのように言われて心の中で悶える。
「分かりました鬼道さん!」
「単純な奴だな……」
乙女の楓に呆れる次郎。
「そう言えば、デスゾーンを打ち返した女選手っていうのは……何処に?」
デスゾーンを打ち返した女選手、天ヶ原愛衣がどれかを見て探す。
「あいつだ」
鬼道が真っ先に見つけたようで、楓もその方を見る。すると肩にすら届いていない程に短く、白い癖のある髪をした女子を見つけた。
「アイツが……」
愛衣の方も、遠くからの視線を感じ取ったのか、楓を見ている。
「あの子は……」
「天ヶ原ー!こっち来いよー!」
「う、うん……!」
円堂に呼ばれ、ベンチへ走る愛衣。
一瞬だったとはいえ、後にライバルとなる二人の出会いだった。
次回、尾刈斗中戦!