神秘を得た代わりに○ん○を失ってしまったゲマトリアのクソガキ構成員が『先生大好き勢』になる話   作:プラハ

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VS  セミナー

 「やっぱりズボンは落ち着くな……」

 

 落ち着かせるものなんて無くなってしまったわけだが、やはりズボンを履くと落ち着く。しっかりと守られている感があってとても安心するものだ。

 

「完璧だな!」

 

 俺は鏡に向かって得意げな表情を向けて、ミレニアム学園へと向かうために家を出る。

 

「エルナちゃんおはよー!」

 

「おはようエルナちゃん」

 

「おはよう、モモイ、ミドリ」

 

「って! エルナちゃんズボンになってるじゃん!?」

 

 登校の途中俺はモモイとミドリと出会ったので、挨拶を交わすと、モモイは俺のズボンを指さした。

 

「スカートだと防御性能に難があるからな。あと足元に風が通るのが気持ち悪くて気に入らない」

 

「えー! スカート似合ってたのに……」

 

「別にそんなこと言われても嬉しくねぇっての!」

 

 かっこいいなんて言われたい訳じゃないが、可愛いとかそういうことを言われると何故か背筋が震えるのだ。

 

「でもズボンも似合ってるよ」

 

「流石ミドリ! 同じズボン族だから分かってくれると思ってたぜ!」

 

「別に私はスカートが嫌だからってズボン履いてるってわけじゃないんだけどね」

 

 ミドリが苦笑いしながらそう言った。どうやら同じズボン族ではなかったらしい。少し残念だが、人の好みに口を出すつもりは無いが、せめてこのズボンの良さは語らせてもらおう。

 

「実はこのズボン。昨日のスカートが守備力2くらいだとすると150くらいあるんだ」

 

「やば! ドラテスなら最強防具と同じくらいの守備力じゃん!」

 

 昨日通話を終えた後、俺はゲームについてひとまず有名所はある程度抑えておいたのだ。現状知識しかないのでにわかもいいところだが、いくつかのゲームは既に購入してあとは届くのを待つだけだ。

 

「ふふふ、それだけじゃあないんだぜ? 通気性抜群、伸縮自在、防弾、防炎、防汚、防水、おまけに温度調節までできるからオールシーズンに対応した優れものさ」

 

「でも高いんでしょ?」

 

 ミドリが値段を聞いてくる。開発費はかなりかかったし、素材もそこそこ高いものを使用している。

 

「まあ材料費だけで40万くらいだ」

 

「高っ!」

 

「でもお姉ちゃん、店売りで4000Gって考えると凄い安いと思わない?」

 

「た、確かに……。って! 店売りでそんな防具売ってたらバランスブレイカーじゃん!」

 

 ドラテスの敵の強さや一般的な防具と守備力について俺はよく知らないが、どうやらこのズボンは相当に高い性能を誇っているらしい。

 

「まあでも性能だけでものを選ぶ人ばかりじゃないからね」

 

「なるほど……。そうなるとスカートバージョンも作った方がいいのか? だがそうなると防御範囲が狭くなる、だったらバリアを付けて対策を……、いやそうするくらいなら周囲にバリアを展開できる小型装置を作る方が……。いや、ダメだ……。装置をいちいち使う度にエネルギーを充填する羽目になる。そもそもスカートやズボンに拘る必要なんてどこにもないじゃないか……。それこそタイツとかストッキングでもいい。ん? そうなると……」

 

「エルナちゃん?」

 

「完全に自分の世界に入ってるみたい」

 

「だね」

 

 思考を続けながら歩き続ける。ちなみにたどり着いた結論は限りなくその人の肌の色に近い全身タイツを作ること。そうすればその人のありとあらゆる需要は満たせるはずだ。

 

 「そうと決まれば早速……」

 

 「エルナちゃん! 授業始まっちゃうよ!」

 

 「はっ!」

 

 俺は外へと向かう足をピタリと止めて何事もなかったかのように席に着いた。うっかり自分がここにいることを忘れてしまっていた。モモイはニヤニヤとしながらこちらを見ている。チャイムが鳴ったので俺はモモイに「授業に集中しろ」と小声で言った。

 

 ――*――

 

 放課後になると、俺はセミナーを目指して歩いていた。制服の『制服改造申請届』を提出するためだ。ミレニアム学園では制服の改造が認められている。だが、それをするためにはセミナーに『制服改造申請届』を提出して承認してもらう必要がある。 あまりにも派手すぎる恰好だったり、露出が多かったり、もはや原型を留めていなかったりとかでない限り、申請が却下されることはない。

 

 「ここか」

 

 セミナー室と表示されている部屋のドアを開けて中に入ると、俺は目的の人物のもとへ向かう。

 

 「ちょっと! ノックくらい……」

 

 「ほい」

 

 ユウカに『制服改造申請届』を手渡す。ユウカはため息をついて、俺が出した『制服改造申請届』をチラ見した後、ニッコリと笑ってそのまま俺に返してきた。

 

 「残念だけど、これは受け取れないわね」

 

 「は!? 何でだよ!」

 

 「何でも何も、マナーも守れような誰かさんの許可届を受理するわけないでしょ?」

 

 「~っ! だったら別の人に渡す!」

 

 俺は周囲を見渡してノアの姿を見つけたので、ノアのところに『制服改造申請届』を持って行くことにした。ノアならきっと受け取ってくれるはずだ。

 

 「ノア! これを頼む!」

 

 「ごめんなさいエルナちゃん。 『制服改造申請届』の承認は今は会長からユウカちゃんに一任されているんです。なので、私ではどうにも……」

 

 「そ、そんなぁ……」

 

 ノアは申し訳なさそうにそう言った。どうやらユウカに受け取って貰えないと、俺はまた明日からスカートを履かなくてはいけなくなってしまうようだ。それは絶対に嫌だ……!

 

 「出直す!」

 

 俺は踵を返して外に出るとノアも着いてきた。俺は一回深呼吸をして、コンコンとドアをノックする。

 

 「ノックは3回行うのがマナーですよ?」

 

 「わ、分かってる……!」

 

 ノアが耳元でそう囁く。俺は一つ遅れて、もう一回ノックをした。「どうぞー」とユウカの声が扉の向こうから聞こえてくるので、部屋に入る。

 

 部屋に入るとユウカは書類に向かって作業をしていると思ったが、よく見たら手が動いていなかった。

 

「失礼します」

 

「し、失礼……します!」

 

 ノアがまた耳元でそう囁いてくる。さっきから耳がくすぐったいので、やめて欲しいと視線を送るがノアは微笑んでいる。

 

「ユウカ先輩! 少しお時間よろしいですか!?」

 

「ええ、構わないわ」

 

 俺だってこの程度のことは造作もないとノアを見るが相変わらず微笑んでいる。少しくらい驚いてくれてもいいじゃないか……。うーん、今度『びっくり人形くん』でも仕掛けてみるか……?

 

「ほら、ユウカちゃんが待ってますよ?」

 

「『制服改造申請届』を持ってきました」

 

「ええ、書類に問題は無さそうだし、受理します。格好にも特に問題はなし……。承認っと」

 

 ユウカは『制服改造申請届』に『承認』の判子を押した。つまりこれでスカートから解放されたということだ……!

 

「はい、よく出来ました」

 

ノアが俺の頭を撫でる。まあ、助けにはなってくれたので、これくらいは甘んじて受け入れることにした。別に嬉しくなんてない。

 

「………………」

 

「…………ふふっ」

 

「…………って、長いわっ! いつまで撫でる気だ! ったく……、もう……! 帰る!」

 

 3分程、ノアに頭を撫でられたところでちっとも止める気配が感じられなかったので、俺はノアからバッと身を離すと扉の方へと向かう。

 

「エルナちゃん、実はそろそろ休憩にしようと思っていたんですが、エルナちゃんも一緒にどうですか? お菓子もありますよ?」

 

「お菓子!?」

 

 勢いよく振り向くと、セミナーの生徒たちの何人かが胸を抑えて蹲っていた。大丈夫かと声を掛けるが、皆少し苦しそうな声で大丈夫と言うだけだった。どう見ても大丈夫には見えなさそうだが、体に特に異常は見えない。

 

 もしかすると心因性の発作かもしれない。だって鬼みたいな人がいるわけだからな……。

 

 そんなことを考えているとユウカからキッと視線が飛んできたので、俺はとっさにノアの後ろに隠れる。

 

「まあ、今日はそんなに忙しくねえし、一緒に休憩してやるよ! あ、言っとくけど別にお菓子に釣られたとかじゃないからな! 勘違いとかすんなよ!」

 

「はいはい、分かってるわよ」

 

「ええ、分かってますよ」

 

 俺がソファに座ると、ノアが冷蔵庫から箱を取り出して、机の上に置いた。見た感じ、洋菓子店のものみたいだが、中には何が入ってるんだろうか……? ノアが箱を開くと、そこには5種類のケーキがあった。チョコレートケーキにショートケーキ、チーズケーキ、モンブラン、ミルクレープ……。

 

 「エルナちゃんはどれにしますか……?」

 

 「お、俺様から決めていいのか!?」

 

 ノアがほほ笑んでそう聞いて来る。最初から食べたいものは実は決まっていたが、多分食べられないだろうと思っていた。俺はそれに指をさした。

 

 「じゃ、じゃあイチゴのショートケーキ……」

 

 「ふふ、分かりました。どうぞ受け取ってください」

 

 ノアがイチゴのショートケーキを皿に置いて渡してくる。皿の上にあるイチゴのショートケーキはさっきよりも輝いて見えて、思わず感嘆の声が出る。これがイチゴのショートケーキ……! 恐る恐るフォークで一口サイズに切り分けて口に運ぶ。

 

 「ん~っ! 甘くて美味しい~!」

 

 「お口にあったようで良かったです」

 

 ノアは俺の前に紅茶を置いてそう言った。ユウカはミルクレープを、ノアはチーズケーキを選んだらしい。

 

「あげないわよ」

 

「別に欲しくて見てたわけじゃねえ!」

 

 ユウカはニヤリと笑ってそう言う。どんな味なのか気になっただけで、欲しいと思ってなんかいない……! 食べたければ、自分で買えばいいだけなのだ。俺はケーキが入っていた箱を見て、店の名前を記憶する。ふふっ、これでまたケーキが食べられる……。前居た世界では食べたことがないし、こっちに来てからはそもそも口が無かったので、食べたくても食べられなかったのだ。だから、気になってもしょうがないことだと俺は思う。

 

 「食べてみますか?」

 

 「べ、別にいい……! 今度自分で買うし……」

 

 「まあまあ、そんなこと言わずに」

 

 ノアはそう言って、俺の前にフォークの上にチーズケーキを載せて、俺の前に差し出した。まあ、折角ノアが差し出してくれたわけだし、ここで受け取らないのはノアに失礼だ。だから、これは別に俺が食べたかったからとかじゃない。俺は口を開けて待つが、チーズケーキは俺の口へ入る前にUターンして、ノアの口の中へと吸い込まれていった。チーズケーキ……。

 

「ごめんねエルナちゃん、少しからかってみたくなっただけで、ああもう、そんな顔しなくてもちゃんとあげますから……」

 

「ふん……」

 

 ノアからチーズケーキを一口貰う。さっぱりとしたチーズケーキの甘さが口いっぱいに広がっていく。俺はイチゴのショートケーキが載った皿と紅茶が入ったカップを持って、ユウカの隣に移動して座ると、ユウカが無言で俺の前にミルクレープを差し出した。

 

「食べないなら、私がこのまま食べるわよ?」

 

「ううん、貰う。ありがとうユウカ」

 

「ユウカ『先輩』でしょ? 全く……」

 

 ユウカは呆れたようにため息をついた。口の中に優しい甘さが広がっていくのを感じる。俺はユウカにショートケーキをフォークで一口分切り分けてユウカに渡す。ユウカはそれを食べると俺に「ありがとう」と俺にお礼を言った。ノアのほうを見ると少し羨ましそうな表情でこちらを見ているが俺は目を逸らす。

 

「ノアは意地悪だからあげませーん」

 

 俺はわざとらしくそう言うと、イチゴのショートケーキを口に運んで、にやりと笑う。さっきのいたずらのお返しだ。恨むならさっきの自分を恨むといい。

 

「あ、そうだ。エルナ、『セミナー』に入る気はない?」

 

 ケーキを食べ終えて、紅茶を飲んでいるとユウカが突然そんなことを言い出した。ノアも「いいですね」だなんて言って賛成の立場のようだ。でも、俺の答えは決まっている。俺は首を横に振る。

 

「俺様にはやらなくちゃいけないことがある。だから『セミナー』には入れない」

 

 俺は昨日モモイとミドリにも『ゲーム開発部』に入らないかと誘われたが断っている。『神秘』の放出の理由を探るためにどこからしらの組織、部活動に参加すべきだと、頭では分かっているが、どうしても入る気にはなれなかった。

 

「やらなくてはいけないこと……ですか?」

 

 ノアが首を傾げてそう聞いて来る。俺はコクリと頷く。

 

「俺様は『世界』という『方程式』を解き明かす。この世界におけるありとあらゆる『事象』は『式』によって成り立っている。『世界』という『方程式』を解き明かすということは、全てを知るということだ」

 

 ユウカとノアはぽかんとした表情を浮かべている。まあ、こんな途方もない話を聞かされたのだから当然のことだろう。俺だって別の人から同じことを聞かされれば同じような反応をするかもしれない。できるわけがないと馬鹿にする人間も中にはいるだろう。そんなことは百も承知だ。

 

「まあ、俺様からしたらこの学園の成り立ちである『千年難題』なんてスケールが小さいってことだ」

 

「そういえば、エルナちゃんはそのうちの1つを解き明かしたんですよね?」

 

 俺が編入試験で暇だったので、答案用紙の裏におまけを書いた。それは7つある『千年難題』の内の1つを証明するものだ。まあこの手のやつが認定されるにはそこそこ長い期間の時間、もしくは世間に周知され支持されなくてはならない。俺としては賞賛も、名誉も、金銭もいらない。まあおまけを書いておいたのは、編入試験でコミュニケーション能力、つまり面接のほうに入学時の選考要素に重きを置かれている場合を想定したものだ。まあ、それは杞憂だったので、今思えばあんまり意味はなかったかもしれないが……。

 

「まあ、そうだな。そんなことは正直どうでもいいが」

 

「いやいや! とんでもない『偉業』よ!」

 

「俺からすればそんなものちっぽけな謎に過ぎないんだよ。『世界』を解き明かすことに比べればな」

 

 大きな声でそう言ったユウカに俺は紅茶を飲みながらそう言う。『世界』という『方程式』を『解明』するということは、逆説的に言えば『世界』を自分の好きなように『できる』ということ。『千年難題』を解くというのは、『世界』という『方程式』に至るための小さな一歩に過ぎない。俺からすればただの通過点に過ぎない。今はそのとっかかりすら掴めていないが、『崇高』に至ることができれば、『世界の全て』が分かるはずだ。

 

 「じゃあ、俺様はもう帰るぞ。こう見えて俺様は結構忙しいからな」

 

 紅茶を飲み終えた俺はソファーから立ち上がる。ユウカとノアは何かを言いたそうな表情でこちらを見ている。間違っているもしくは馬鹿げている、できるはずがないとでもいうつもりなのだろうか? 俺は二人が何か口を開く前に出口へと向かう。

 

「紅茶とケーキありがとう。とても美味しかったぞ。まあ……、またお菓子を用意してくれるなら『セミナー』には入らないが、たまになら『仕事』を手伝ってやってもいい。じゃあな」

 

 俺はドアを開く前にユウカとノアのほうを振り返って、ニヤリと笑みを浮かべて、そう言い残して、部屋から退出した。窓の外から見える空はどこまでも青く澄み渡っていた。

 

 

 ――*――

 

 私はエルナが出ていったドアのほうを暫く見つめていた。

 

『栄道エルナ』、事前の調査でヴェリタスが総力を挙げても全く情報が得られなかった謎の少女。一切の痕跡もなく、まるである日突然この世界に現れたみたいだと、彼女について調べた生徒たちは言っていた。

 

 会長もエルナを監視するようにと私に命令している。私は最初、随分と生意気な後輩だと思ったものだが、少し関わってみれば、彼女の素は善良で素直なほうだとすぐに分かった。

 

「世界を解き明かす……ね」

 

「でもエルナちゃんは『本気』みたいでした」

 

 子どもでもそんなことは『不可能』だと知っている。でも、エルナはそれを本気でやろうとしている。私から見れば、エルナはかなり歪に見える。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのように、エルナの知識量と精神性は比例していない。

 

 エルナ自身も『世界』を解き明かすことなんて不可能だと分かっているはずだ。それでも『世界』を解き明かしたいと言っているということは、きっとそうしなくてはいけないと思うような理由があったのだろう。そこまでしないと叶えられない願いがあるのだろう。

 

 「まあ、エルナが間違えそうになった時は『先輩』として、道を正す。それだけの話でしょ?」

 

 「ふふっ、そうですね」

 

 私とノアは顔を見合わせて笑う。本当は寂しがり屋な癖に心の奥底には絶対に踏み込ませない、少し小生意気で可愛い後輩がこの学園で心から笑って過ごせるようにと私たちは願った。




Tips
『びっくり人形くん』

エルナが作ったドッキリ用の人形。指向性スピーカーと特殊光学迷彩が施されており、対象にした人間以外には見ることができず、音も聞こえない。完全に木っ端微塵にしない限り、自動的に修復する機能付きだが、下手に壊すと余計に見た目が怖く音声も低くなっていく。
 作った理由はベアトリーチェがあまりにもムカついたので、その仕返しとして使う予定だったが、何であのおばさんのために自分の時間を使わなければいけないのかと完成してから気が付いたため、結局使われずに倉庫に仕舞われている。

少し先の未来でリアクションが良さそうなモモイに仕掛けており、その後なんやかんやあって『びっくり人形くん』は二度と使わないことを約束させられた。



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