神秘を得た代わりに○ん○を失ってしまったゲマトリアのクソガキ構成員が『先生大好き勢』になる話 作:プラハ
太陽の光が瞼を透かす、その明るさで意識が覚醒する。どうやら眠ってしまっていたらしい。頭を酷使しすぎたせいで疲れていたのだろう……。久しぶりに心地のいい眠りにつくことが出来たので、気分はとても晴れやかだ。目を開けると、俺の前に見知らぬ赤い髪の少女が俺の腕の中で眠っていた。だ、誰……!? 意識が一気に覚醒する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
驚きのあまり大きな声が出る。大きな声に驚いたのか、赤い髪の少女はビクッと震える。そして目を覚ましたのか、俺とばっちり目が合った。赤い髪の少女は目を見開いたかと思うと、顔を真っ赤にして俯いた。頭頂部から湯気が出ているように見えた。
「な、なに!?」
モモイとミドリが大きな声で目が覚めたらしく、ガバリと勢いよく起き上がる。そして俺と目が合うと、モモイはニヤニヤとした表情で俺の姿を写真に収めた。
「エルナちゃんのレアスチルゲットだぜー!」
「モモイ~っ!」
「エルナちゃん顔真っ赤」
体を起こしたいところだが、左腕が赤い髪の少女の下敷きになっているため動かせない。早く離れてくれないと動けないと伝えると、赤い髪の少女は目をぐるぐるさせながら、ものすごい勢いで俺から離れた。ようやく解放された左腕を軽くマッサージして俺は体を伸ばすと、『Fin.』のまま止まっている画面をモモイとミドリに見せると、2人は驚いた表情をしていた。
「ね、ねえ、直接聞くのはちょっと緊張するんだけど……」
「何だ?」
「「私たちが作ったゲームどうだった?」」
モモイとミドリは緊張した表情でそう聞いて来る。俺は自分の思ったことを『正直』に伝えることにした。
「正直、シナリオはよく分からなかった」
「ガーン!」
モモイが涙目にになる。全く気が早い……、まだ喋っている途中なのに……。
「でも、伝わってきた。みんなのゲームへの愛とかゲームが好きだって気持ちが伝わってきた。このゲームを作るためにどれだけ情熱を込めたのかそれが感じられた。全力で楽しませたいっていう気持ちが理解できた。みんなの夢と希望が見えたから、自分もまるでみんなが作った夢の中にいるみたいに思えた。できることなら、記憶を消してもう一度最初からやりたいくらい本当に! 本っ当に面白かった……!」
俺の言葉を聞いたモモイとミドリは涙を流して俺に抱き着いてきた。ゲームをクリアしたときの気持ちがぶり返してきて、俺も視界が滲んでくる。3人で抱き合っていると、俺の前に赤い髪の少女が立っていた。赤い髪の少女は顔を真っ赤にして、ようやく意を決したのかゆっくりと喋り始めた。
「ありがとう……! 私たちが作ったゲームでこんなに楽しんでくれて……ありがとう……! もう一度やりたいって言ってくれて……ありがとう……。泣いてくれて、本当に……ありがとう……」
「み、見てたのか!?」
赤い髪の少女はさらに一歩近づいて来る。もしかしてあの時の『妖怪MAX』も赤い髪の少女が買ってきてくれたものなんだろうか……? というか、いつからいたんだろうか……? 赤い髪の少女は感極まったのか涙を流している。
「ずっとそういう言葉が聞きたかった。だから、本当にありがとう……」
「こちらこそありがとう。このゲームと出会わせてくれて……」
それから俺たち4人は暫くの間、泣きながら抱き合っていた。そこに『哀しみ』はなく、あるのは喜びの感情だった。
――*――
「そういえば、名前は何て言うんだ?」
ようやく涙が落ち着いてきたので、俺は赤い髪の少女に話しかける。
「ゲーム開発部の部長、花岡ユズです」
「俺様は栄道エルナ、よろしくなユズ」
「うん……、よろしく……エルナちゃん」
俺とユズは互いに握手を交わして、モモトークを交換した。そこで俺は気になることをユズに聞くことにした。
「そういえば、ユズっていつからこの部屋にいたんだ?」
「え、えっと、最初から……」
「そうだったのかー。ってことは『妖怪MAX』を差し入れてくれたのも?」
ユズは溜めらいがちに頷いた。
「ありがとなユズ!」
「どういたしまして……」
ユズは恥ずかしそうに俯いている。
「このゲームってすっごい面白かったし、評判もいいんだろうなぁ」
そう言うと、3人はピシリと固まってしまった。ミドリは少し苦笑いを浮かべて、俺の前に一冊の雑誌を手渡した。どうやら1週間くらい前に発行された雑誌らしい。付箋が付いているページを開くと、少しだけしわが付いているページに……。
「今年のクソゲーランキング一位『テイルズ・サガ・クロニクル』……」
本文を読み進めていくと、評論家を気取っている人物が『ゲームとしての完成度がダントツで絶望的』だの、『このゲームに一番足りてないのは正気』だのと、ひどいことが書かれていた。なるほど、完成したゲームがあるのかと聞いたときにモモイとミドリが微妙そうな表情をしていた理由にようやく納得がいった。指先がぷるぷると震える。ふつふつと怒りが湧き上がってくる。俺は雑誌を閉じると、勢いよくそれを机に叩きつけた。
「ふざけんなっ! こんなに素晴らしいものをクソ呼ばわりだとっ! 何様のつもりなんだこいつはっ!」
俺は鞄を持って、外へと向かう。まずは調べものからしないといけないな。
「エルナちゃん! どこに行くの……?」
「ちょっとお話に行くだけだ。モモイ止めないでくれ……」
俺はニッコリと笑って言った。モモイとミドリ、ユズが一生懸命作ったものを晒しものにして嘲笑っているやつがいる。そんな奴はどうせろくでもない人間に決まっている。絶対に許すつもりなんてない。
「ま、待って! それ絶対後に(物理)ってつくやつだよね!」
「大丈夫だ安心しろ。怪我はさせないし、ただ死ぬよりも怖い目に遭ってもらうがなぁ!」
「安心できる要素が1つもないんだけど! お、落ち着いて……!」
「落ち着いていられるかっ! お前らが一生懸命作ったものがこうして馬鹿にされてんだぞ! ここで何もしなかったら俺様はお前らの『友だち』を名乗れないだろっ! ええい離せっ!」
モモイは俺にしがみついて止めて来る。ミドリとユズも加勢して俺を止める。3人を引きずって俺は扉を目指す。そして扉に指をかけたところで、ミドリが俺の耳に息を吹きかけた。
「ひゃんっ!」
腰から力が抜けて地面にへたり込む。3人は俺を優しい表情で見ていた。モモイがしゃがんで俺の頭を撫でる。
「お前らは悔しくないのかよ……。こんな風に笑い物にされて……」
「そんなの悔しいに決まってるじゃん!」
「うん、私も悔しい」
モモイが声を荒げる。ミドリは同意して、ユズは頷いた。でも、そこに怒りは感じられない。3人とも未来を見ている人間の表情をしている。
「だからね、絶対に見返してやる~って思ってるんだ! じゃーん! 他の皆にはまだ内緒だよ?」
モモイはノートPCを鞄から取り出して、俺の前に見せてきた。画面には『テイルズ・サガ・クロニクル2』と書かれていた。
「これは……」
「続編はすでに作り始めてるんだ! これを『ミレニアムプライス』で受賞できる最高のゲームを作って、皆を見返す! これが今の私たちの目標だよ!」
「まあ、まだお姉ちゃんの脚本ができてないから、全然進んでないんだけどね」
「そっか、そうなんだ……。みんなはすごいね……」
思わず声が漏れる。過去に囚われないで、ちゃんと前を進んで生きていられる。それはとてもすごいことだ。俺は心から、モモイ、ミドリ、ユズに尊敬の心を抱いていた。
「エルナちゃん、『ゲーム開発部』に入らない?」
ユズが俺に入部申請書を差し出してそう言った。正直な話、俺の心はかなり揺れ動いている。だけど……。
「うん、私も『エルナ』が入ってくれたら嬉しいな〜」
「私もエルナちゃんに入って欲しい」
モモイが俺の名前を呼び捨てにする。少し前から俺だけ『ちゃんづけ』だったのが少し気になっていたので、呼び捨てにしてくれたといつことはもっと仲良くなれたと思っていいんだろうか……? そうだったらとても嬉しい。
モモイとミドリ、ユズは仲間になってほしそうに俺を見ている……。
「う、うう無理……」
「ど、どうして!?」
「みんなが作ったゲームは一番最初にやりたい……! でも、手伝ったらネタバレになるだろ……!」
そう言うと、3人は納得した表情を浮かべる。でも、このまま何もしないのも何というか嫌だ……。
「あ、手伝いはできねぇけど、資金援助ならできるぞ!」
俺は両手をパッと開いてモモイたちに見せた。
「10万円ってこと!? そ、そんなに貰えないよ!」
「え? 桁の話だけど……」
そう言うと、モモイは指を折って、一、十、百とカウントを始める。そして、十本目の指を倒すと同時に固まった。
「「「じゅ、10億っ!?」」」
「俺様としてはこの作品にはそれを出すだけの価値があるって思ってるからな」
モモイ、ミドリ、ユズは口を開けて固まっていた。俺が調べた情報によるとゲーム開発には億単位の金がかかると聞いていたので、少し多いくらいかなと思っていたが、もしかして違うのか? そう思っていると、モモイが最初に動きを取り戻した。
「いやいや! えっ!? 10億!? 私の数え間違いじゃないよね!?」
「あってるぞ」
「数え間違いじゃなかった……」
モモイとミドリは頭を抱えてしまった。ユズはあたふたと慌てていたが、次第に様子を取り戻していった。
「エルナちゃん、こういうのは数少ない資金でやりくりして作り上げることに意味があるから……。それに『友だち』からお金は受け取れないから……!」
「た、確かにその通りだな……。でも、だったら俺様はどうすれば……」
ユズに諭される。自分が介入してしまったら、『ゲーム開発部』の皆が作り上げるものが良くないほうに変わってしまうかもしれない……。せめて助けになれたらと思っていたが、俺には何もできないのだろうか……? そう思っていると、モモイが俺の肩を叩いた。
「だったらさ! たまにでいいから息抜きに付き合ってよ!」
モモイがコントローラーを持って俺に手渡した。でも、これが助けになるんだろうか……?
「お姉ちゃんが息抜きしすぎだって私は思うけど?」
ミドリがモモイを半目で見る。モモイは目を逸らした。その様子がおかしくて俺はつい笑ってしまう。すると、3人も一緒になって笑い始める。
すると腕に電流が流れるのを感じた。俺は腕に取り付けられている。『神秘測定くん』を確認する。これは空気中の神秘量を測定し、それが一定量に達すると微弱な電流でお知らせしてくれる機械だ。
「何これ壊れてるよ? あれ? でも時計とは何か違うような……?」
モモイが俺の腕につけている『神秘測るくん』を見てそう言った。ぱっと見はただの腕時計にしか見えないのでそう見えてもおかしくはない。
「あ、ああ……これは『青春測るくん』って言ってな。青春っぽいことを検知すると教えてくれんだよ」
「へぇ〜」
「確かに今の私たち凄い青春っぽいかも」
「そうだね」
モモイが感嘆の声を上げて、ミドリとユズは青春っぽいということに同意した。咄嗟に着いた嘘としてはなかなかに苦しい言い訳な気がするが上手く誤魔化すことができて良かった。
「あ、そうだ! 折角4人いるんだし4人で出来るゲームやろ!」
「うん、いいよ」
「そうだね」
推論ではあるが、恐らく『神秘』は感情に呼応して放出される。だけどそれは、何かしらの感情を感じるようなことがあればある程……。
「エルナ! エルナも一緒にやろ!」
「分かった今行く!」
『別れ』が近くなっていくということだ。でも、そんなこと俺は……。モモイに呼び出されたので4人でソファーに座る。俺は『神秘測れるくん』の電源を落とした後、腕から外した。どうせ早いか遅いかの違いでしかないなら、きっと後でもいいはずだ。と自分に言い聞かせる。
「あれ、『青春測れるくん』……だっけ? それ外すの?」
「プレイの邪魔になるかもしれないからな。ふふふ、実はあれ重りでもあるんだ……!」
「な、なんだってー!?」
「それにしてもなんというか『青春測れるくん』って……」
「可愛い名前だろ?」
ミドリに向かってそう言うと「う、うん……、そうだね……」と肯定した。天才な俺はネーミングセンスも抜群だ。どんなものなのか非常に分かりやすくて可愛い名前だと俺は思っている。
「というわけでこれをやりまーす! ぶっ飛びシスターズだとユズが無双しそうだし……」
「ユズってそんなに強いのか?」
「そんなにどころじゃないよ。格ゲーと音ゲーのランキング1位の最強プレイヤーだから」
「すごいな!?」
そう言ってモモイが取り出したのは『ウルトラマリンパーティ∞』と書かれているソフトだった。ユズに視線を向けると照れているのか、頬を染めていた。少しだけ挑戦してみたい気持ちになったが、今挑んでも絶対に勝てない気がする。
「ま、待ってもしかしてユズとエルナってサイコロ目押し出来るの……?」
「え? できるけど?」
「うん、できるよ」
1戦目は俺とユズが1位2位争いをしたが、このゲームの知識の差で、惜しくも負けてしまった。何回かヒトデが自分から遠いところに出現してしまったのでそれさえなければ勝てたかもしれない。
「エルナちゃん連打早っ!」
「ふははは! 俺様の勝ち〜!」
「り、理論上最大値……!」
「他のミニゲームでは負けない……!」
「ユズが本気モードだ!」
2戦目は俺とユズが全力でミニゲームを戦っている隙をついて、着実にヒトデを集めていたミドリが勝った。ミドリは渾身の得意げな表情を浮かべていた。
それから何回もやって、時にモモイがオルカマスを踏んでヒトデを全部オルカに奪われたり、俺が強烈な運の悪さを発揮してヒトデを1個も取れなかったりと、気がつけばあっという間に時間は過ぎていって、時刻は既に夕方になっていた。
「あ〜疲れた〜。ねぇ帰りファミレスにでも寄っていかない?」
「いいんじゃない?」
「わたしも行く」
「エルナちゃんは?」
モモイがそう聞いてくる。確かに昼ごはんは食べていなかったので、お腹が空いている。それにここで別れてしまうのは少し寂しい。
「俺様も行く!」
「じゃあ行こっか!」
この後みんなでファミレスにいってごはんを食べながら、ポテトを摘んで色んな話をした。俺に話せることはあまりないので基本的に聞くことがメインになったけど、色んな話が聞けてとても楽しかった。
あ、でもモモイが変な味の飲み物を渡してきたのは少し怒ったけど……。まあ、その後ちゃんとやり返したけどね。
ずっとこんな日常が続いてくれればいいのにと俺は思った。だが、今から1ヶ月後、キヴォトスの外からやってきた『大人』と、廃墟で見つけた1人の『少女』との出会いをきっかけに大きな物語が始まることを俺はまだ知らない。