神秘を得た代わりに○ん○を失ってしまったゲマトリアのクソガキ構成員が『先生大好き勢』になる話 作:プラハ
とても励みになっています!
最初エルナちゃんが私の名前を知っていることを知ったときに、私たちを狙いに来た刺客なんじゃないかと思った。多分私よりもずっと強い、体つきは戦う人間のそれじゃない。体の動かし方も少しぎこちない。だけど、『戦えば絶対に勝てない』と私の直感が全力で警鐘を鳴らしていた。だからこそ、戦いになったらたとえ差し違えることになってでも戦うつもりだった。
少し接してみれば、言葉遣いは乱暴だけど、根は善良な子だって分かったから、その心配は杞憂だったみたいだし。ただ、私には分かった。
エルナちゃんは『大切な何か』を失った人間の顔をしていた。瞳の奥には深い絶望と孤独、後悔、拒絶。でも、エルナちゃんが自分の友だちについて語るときだけ、それは和らいでいたから、それは良かったと思った。あの子には何かをやらかしてしまいそうな雰囲気があった。道を間違えた時に止めてくれるような誰かがいないとどこまでも突き進んでしまいそうな危うさがあったからだ。
昔の自分とそっくりとまでは言わないけれど、エルナちゃんはもしかしたら私が辿っていたかもしれない未来の1つなのかもしれないとそう思った。だからこそ、放っておけないとそう思った。しきりに外を気にしていたエルナちゃんがこうしてこっそり抜け出そうとすることは読めていた。エルナちゃんが私を睨みつけて来る。本当律義だよね~。私なんか無視して逃げちゃばいいのにさ~。それができるだけの力はあるのにね~。
「俺様は別に話すことなんてないんだけど?」
「まぁまぁ、そんなこと言わずにお話しようよ~。私いいところ知ってるからさ~」
「お、おい! 離せ!」
「そんなに大きな声出しちゃうと皆起きちゃうよ~?」
エルナちゃんを無理やり引っ張って、校舎へと戻る。最初は抵抗しようとしていたけど、皆が起きてしまうと言った瞬間、大人しくなって、黙ってついて来るようになった。私は手を握ったまま屋上へと向かう。そこには満点の星空が広がっていた。この辺には星の光を遮るものがあまりない。だから星がよく見える。
「どう? すっごい綺麗でしょ~? おじさんのお気に入りの場所なんだ~」
「すごいな……これは……」
私が屋上に立てかけて置いている折り畳み式のデッキチェアーを2つ用意して、隣に座るように言うと、エルナちゃんは黙って隣に座った。
――*――
きらびやかな星の海。普段いる場所では見ることが出来ない景色。元の世界でもこんな景色は見たことがなかった。空を見上げようとしたことなんて一度もなかった。誰かが昔見てみたいと言っていた景色がそこにはあった。折り畳み式のデッキチェアーに2人並んで暫く星を眺めて、俺は口を開いた。
「どういう風の吹き回しだ? 俺のこと良く思ってなかったんじゃなかったのか?」
「ん~、まあただの私の勘違いだったみたいだしね~。エルナちゃんってただのいい子みたいだし」
「俺様がいい子だなんて、そんなことあるものか」
自嘲気味に笑う。俺は悪の組織の構成員で、罪人だ。そうでなかったら、俺は立ってなんかいられない。今更何もかも忘れて生きるにはもう色々と遅すぎる。
「そうかなぁ~? おじさんはそう思わないけど? 壊れた道だって直してくれたでしょ?」
「あれは俺様が壊したものだし、あの時セリカに止められなかったら俺は何もせずに帰るつもりだったし……」
「でも、結局直してくれたでしょ? 無視して帰ることだってできたのにさ~」
俺は思わず黙り込んでしまうと、ホシノが俺の頭を撫でた。ジッと睨みつけるが、ホシノはニヘラ~と笑うだけだった。
「俺様はあんたのことが気に食わない。それだけの力を持ってるくせに、何もしようとしない。心の底でどこか諦めてるだろ?」
「あはは……、痛いところを突かれちゃったね~」
俺を撫でる手がピクリと止まる。ホシノは相変わらず笑っていた。
「少しくらい怒れよ。あんた今、俺様に馬鹿にされてるんだぞ」
「まあ本当のことだからね~。それこそ手段を選ばなかったら、どうにかできる方法はいくらでもあるわけだしね~。でもそれじゃ意味がないから」
ホシノは俺の頭から手を放して、星空を見上げる。その顔はどこか寂しそうで俺は何も言えなかった。沈黙だけが辺り一帯を包み込む。そして、暫くするとホシノが口を開いた。
「エルナちゃんは『奇跡』ってなんだと思う?」
「人間の力では到底起こせない現象のこと」
即答した俺にホシノは苦笑いをする。奇跡は起こそうと思って起こるものじゃない。奇跡に縋るなんていうのは愚か者のすることだ。誰かを救ってなんか……くれない。
「私は違うと思うんだ。私も昔は同じことを思ってたんだけどね~。でも今は違うんだ」
ホシノは自分の手の平を見つめていた。何なのかと聞いてみたが、それは自分で見つけないと意味がないことだからと教えてくれなかった。
「なあ? って寝てるし……。これ俺が運ぶのか……?」
ホシノはぐっすりと眠りについていた。こんなところで眠ったら風邪を引いてしまう。俺はホシノを持ち上げようとして、屋上の閉まっている扉の先から、何かが動く音が聞こえた。俺は全速力で扉まで向かうと扉を開けて、誰かを確認する。
「誰だ!?」
「ご、ごめん……! 盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」
そこには『先生』が立っていた。恐らくだが、2人で屋上へ向かうところを目撃してこっそりついてきたのだろう。
「俺はホシノ先輩を運ばないといけないんで。これ以上ここにいるつもりはないんであんたもさっさと元の場所に帰れば?」
「ねえ私と「しない」」
「あんたと話すことなんてない」
俺がそう言うと『先生』は露骨に落ちこんで、地面に膝をついた。いやいや、落ち込みすぎだろ……。
「ね「話すことなんてないって言ったの聞こえなかったか?」」
俺は膝をついて落ち込んでる『先生』を無視して、ホシノの元へと戻ろうとする。
「もしかして私、何かしたかな?」
思わず足を止める。本当にしつこいやつだ。この際だ、はっきりと言ってしまおう。
「あんたは別に何もしてない。いや、この言い方は違うな……。何もしてないからあんたが気にいらない。俺様から見たらアンタは『子ども』を戦わせる『大人』でしかない」
「それは……!」
『先生』が目に見えて動揺する。俺はずっと、何で子どもが大人を守って戦っていることに、どうして誰も疑問に感じないのか不思議だった。
まあいきなりこんな世界に連れて来られて『先生』として働くことになって、自分よりも遥かに強い戦闘力を持つ生徒たちを指揮するなんて、そんな夢みたいなことが現実で起きているんだから、いまいち現実味がなくてもしょうがないことだ。だが、このまま進めばいつか『現実』に打ちのめされる日が来る。その時が来て後悔しても遅い。どれだけ足掻こうが、時間を戻すことなんて人間では不可能だ。
「確かに君の言う通りだよ」
「ふーん、認めるんだ」
「君に嘘はつきたくなかったから」
ここで、分かってるだなんて嘘を付こうものなら、俺は二度と『先生』を信用も信頼もしなかっただろう。少しだけ興味が湧いてきた。今までは目すらも合わせないようにしていたが、改めて『先生』の姿を見る。どこまでも真っすぐとこちらを見つめる視線と目が合った。初めて会うタイプの大人だ。よく見ると目の下に隈が出来ている。なるほど、ユウカが手伝いたくなるのも少しだけ理解できた。恐らくはそれなりに大変なのだろう。
「確かに私は生徒たちを戦わせるひどい大人かもしれない。私だってそんなこと本当はしたくないけど、ここでは私はあまりにも無力だ。だけど、せめて戦い以外の全部で、ここに住む全ての生徒たちの力になりたい。私はそう思ってる」
「じゃあ、その『生徒』の中に悪い奴がいたらどうする?」
「悪いことをやめるように説得する。『子ども』が間違った道を進もうとしたときにそれを正すのが『大人』のすべきことだから」
「それでも止まらなかったら?」
「何度だって説得する。それでも止めないならその時はおしり100叩きかな?」
迷いなく答える姿を見て、俺は笑ってしまう。『先生』はきょとんとした顔でこちらを見ている。まるで当たり前のことを言ったのに、どうして笑うのだろうか? と言った表情だ。どこまでも甘い存在だ。
「それって、あんたが『生徒』のおしりを触りたいだけじゃないのか?」
「ち、違うよ!」
「アハハ! そんなに必死に否定すると逆に怪しいだろ! フフフ、あ~おかしい。本当に……。でもさ、それはあんたが本当の悪ってやつを知らないから言えるんだよ。どんな悪でも変われるわけじゃない。それを胸にはっきりと刻んでおいたほうがいい」
「そうだとしても私は絶対に諦めない。例えどんなに悪い子であってもね」
ここまで言われてしまうと、これ以上俺が何を言っても意味がないことが分かった。どうやらこの男はどこまで言っても『善』らしい。『大人』というよりは夢を見続ける『子ども』のような存在だ。だが、悪くない。まあ、それはそれとして気に入らない存在であることに変わりはないが……。でも、少しだけなら認めてあげなくもない。
「じゃあ、最後に1つだけ質問。自分と『生徒』どちらかが犠牲にならないといけなくなった時、あんたはどうする?」
「最後の最後まで足掻いて両方が助かる道を探すよ」
「うんっ! いいね! どちらかが犠牲にならないといけない選択肢なんてクソくらえだ」
俺は自嘲的な笑みを浮かべる。
「君ならどうするの?」
「そうだな。俺様なら初めからそうならないようにする。そんな世界自体変えてやる……」
「いい『答え』だと思う」
「俺様は天才だからな。じゃあ俺様は戻る。あんたも早いとこ寝ろよな? 隈、ひどいことになってるぞー」
俺は折り畳み式のデッキチェアーを元の場所に戻すと、眠ってしまったホシノを抱えて、元居た場所に戻った。止めに来たのに自分が先に寝てしまっては意味がないだろう……。俺は少しだけため息をついて、しょうがない……、もう少しだけここに居ようと思った。
――*――
次の日の朝がやって来た。眠気を覚ますために顔を洗っていると、後ろから足音がした。
「ん、タオル……」
「あ、どうも。シロコ先輩」
シロコからタオルを受け取って、顔を拭く。確か趣味がライディングだと言っていたので、その辺を自転車で走り回った後なのだろう。シャワーを浴びてきた後なのか髪が少しだけ湿っている。俺がタオルを返すと、シロコはジッとこちらを見ていた。
「エルナは天才だって言ってたよね?」
「ああ、そうだけどそれが何だよ?」
「銀行強盗のプランを一緒に考えて欲しい」
「え?」
あまり聞きなれないフレーズだったので、聞き間違いかと思って聞き返したが、返ってくる答えはまるっきり同じだった。思わず俺は頭を抱える。
「ごめん、急に言われても思いつかないよね……」
「は? そんなわけないだろ! 完璧なプランニングを見せてやるよ!」
「うん、教えて」
俺とシロコは椅子に座って、銀行強盗の計画について話し合いを始めた。
「ターゲットは決まってんのか?」
「ん、ここ」
シロコがスマホを俺に見せる。『第一銀行』、大通りに面した場所にある。つまり車での逃走がしやすいということだ。しかも、金庫の位置や、警備員の動向、現金輸送車の走行ルートまで記されている。ガチすぎる……。
「逃走用の車両は? なるほど、そうなると予め用意するか、現地調達する必要があるな。そうなると逃走用車両は2台あったほうがいいな」
「陽動に使うってこと?」
「その通り。一台だけだと大まかな逃走方向がばれるからな。それに金庫から現金を奪取するのはあまりよくない」
「どうして?」
「簡単に言うと身バレ防止のためだ。この手のは機械的にIDが控えられてる。つまり、どこかでお金を使うとそれが銀行に預けられる。そしてそれが盗まれた現金のIDと一致すると……」
「大まかな住んでるところがばれる?」
俺は頷く。もちろんマネーロンダリングを行うことで、回避することもできるが、手数料を取られる上に、弱みを与えることになりかねない。裏社会の人間は弱みを見せればとことん付けこんでくるような奴らだ。そう言った状況は避けるべきだろう。狙うのであれば金塊などでも構わないが、金塊は重すぎるので、大量に持ち運ぶことは難しい。そうなると現金輸送車を襲う一択だ。
「襲うなら銀行に輸送車が到着したとき、人は安心したタイミングが一番油断してる。やるならその時が1番」
「私も同感」
「ただ相手も訓練は積んでいるだろうが、とっさに訓練通りに動けないのが人間ってやつだ。だから相手に選択できる暇を与えないように一気に追い詰める」
一人以外全員伏せさせて、一人だけ残すのが一番いいだろう。
「まあ、あとは顔を隠すとかコードネームを使うとか、ハンドサインを考えるとかじゃないか?」
「覆面なら用意してある……。あ……」
「これ手作りか? よくできてるじゃねえか」
俺はシロコが作った5人分の覆面を見ていく。手編みで作られているが見たところ一切ほつれが見られない。それに頭頂部についている耳に負担がかからないようにしている。
「エルナの分、まだ作ってない……」
「どうして俺様まで銀行強盗することになってるんだよ!?」
「え……?」
そんな不思議そうな表情で見られても正直困る……。
「あーもう! 分かったって! 銀行強盗には手は貸さんけど、知恵くらいは出す! それでいい?」
「ん、十分」
そして俺とシロコはモモトークを交換することになった。このことを俺は今でも少しだけ止めておけばよかったと思っている。だって、普通3日に1回くらいのペースで計画書送ってくると思わないだろ!? まあ、暇つぶし程度にはなるのでありがたいと言えばありがたいけど……。この後、俺はアビドスの皆+1名に見送られてアビドスを後にした。まあ、直接的な介入は無理だろうが、間接的に何かするくらいはやってもいい。俺はそう思った。