神秘を得た代わりに○ん○を失ってしまったゲマトリアのクソガキ構成員が『先生大好き勢』になる話 作:プラハ
無事にアリスの武器『光の剣』を手に入れた俺たちはゲーム開発部に戻ってきた。
「さてっ、もう廃部の危機は免れたんだし、これで安心してゲーム三昧できるね!」
「え……? テ、テイルズ・サガ・クロニクル2は……?」
「えっと……、それはまだ慌てるような時間じゃないというか……」
「ミレニアムプライスまでに作るって言ってたのに……!」
モモイが目を逸らす。ミドリに聞いてみるとまだモモイがシナリオを完成させていないため制作に入れていないらしい。そ、そんな……。とても楽しみにしてたのに……。
ショックのあまり俺は膝から崩れ落ちるとアリスが俺の頭を撫でた。
「アリス……、俺を慰めてくれるのか?」
「その通りだ、我が友よ」
「お姉ちゃん気を抜きすぎじゃない? まだ廃部が免れたって正式に言われた訳じゃないんでしょ!?」
ミドリがそう聞くとモモイは部員の最低人数が規定に達したことをユウカに報告したと言っていた。あれ……?
「モモイ? 1つ聞きたいことがあるんだけど」
「え? どうしたの急に?」
「もしかしてだけど、最近部活の活動条件が人数だけじゃなくて実績も必要になったってこと知らないとかないよね?」
「ええええええええええっ!? う、嘘だよね!?」
モモイがコントローラーを投げ捨てて俺にしがみつく。ミドリは驚愕した表情でこちらを見ている。この反応ってことは本当に知らなかったのか……。どうりでこんなにゆったりとしていたわけだ……。
「嘘も何も、3日前の全体部長会議でユウカが説明したって言ってたぞ。今後の部の活動について重大なお知らせがあるから絶対に参加するようにってセミナーから通達が来てたはずだろ?」
「あれ……? 確か全体部長会議ってお姉ちゃんがユズちゃんの代わりに参加することになってたはずだよね?」
ミドリがそう言うとモモイは目を逸らして、その時はアイテムドロップ率2倍キャンペーン中だったからと言い訳して、ミドリがモモイに詰め寄っている。
そもそも部活に実績を必要とする羽目になった原因は簡単に言うと予算不足だ。俺の試算では予算は充分足りているはずだが、何故か書類上はどう計算しても予算が足りなかった。
何者かが裏から手を回して予算を横領しているとしか思えないが、書類上は完璧で資金のやり取りにもおかしな部分は全くなかったのだ。もちろん試算と実数値が異なることは大いに有り得る。
だが、額があまりにも試算と違いすぎる。おそらくこの学園における相当な権力と情報関係のスキルを持っている相手だと俺は予想している。
ちなみにこの話はまだ誰にも話していない。何故なら誰が関わっているのか分からないからだ。不用意に話してしまったせいで犯人を取り逃がす羽目になりたくないからだ。なんてことを考えているとゲーム開発部のドアが開いた。
「失礼するわ……って、何やってるのよ……」
ゲーム開発部に入って早々呆れた表情でユウカがそう言った。なんと言うか声にいつもより覇気がない気がする。どうやらかなり疲れているのか目の下はコンシーラーで上手く隠しているようだが隈が出来ている。ほほう……、これはやったな?
「どうだった?」
「確かにシナリオやゲームシステムには見直す部分が多々あるわ、でもこのゲームを作った人はゲームが大好きなんだって気持ちや、これが手抜きじゃなくて全力で取り組んだ結果だってことは感じられたわ」
ユウカは微笑みながらそう言った。モモイとミドリもまさかユウカが褒めるなんて思っていなかったのか驚愕した表情のまま固まっている。ユウカはスタスタと歩くとアリスの前に立つ。
「あなたが噂のアリスちゃんね。ゲーム開発部に入った4人目のメンバー。私はてっきりエルナのことかと思ってたけど……」
ユウカはアリスのことを頭のてっぺんからつま先までじっくりと観察する。アリスはジロジロと観察されているせいか少し居心地が悪そうだ。ユウカはミレニアムの生徒は全て把握しているはずだが、こんなに可愛い子がいたことを知らなかったのは信じられないと言うと、モモイが動揺する。
「まあ最近転校してきたらしいからな。ユウカ先輩が知らなくても不思議じゃねえだろ。そうだろアリス?」
「はい、その通りです。受講申請のタイミングを逃してしまったため、まだ授業の登録ができていないのですが、来月から正式に授業に参加する予定です。授業には参加できなくても、部活動には参加できるとのことだったので、ゲーム開発部に入部しました」
俺がフォローを出すと、アリスは事前に用意しておいたテンプレートに沿って言葉を並べていく。しかし、ユウカはまだ納得していないらしい。
「確かにこれで部の規定人数は満たしたわ。でもそれは本当にこの子が自分の意志でここに来た部員だったらの話。だから、これからアリスちゃんには簡単な取り調べ……いや、いくつか簡単な質問をするわね」
「ユウカ先輩すげぇニコニコしてる……、あれが本当のオーガスマイルか……」
「誰がオーガですって……!? ……コホン、そんな時間はとらないから、早速始めましょうか」
俺がボソッと呟いた言葉はしっかりとユウカの耳に届いていたらしい。ユウカは真剣な表情をアリスに向けると、アリスは緊張しているのかゴクリと息をのんで、『選択肢』次第では『バッドエンド』になるのかと問うとユウカはそれを肯定した。
「……アリスちゃん、もしゲーム開発部に脅されて仕方なくこの場に居るのなら、左目で瞬きをして」
開口一番にユウカは小声でアリスにそう言ったが、普通に聞こえていたのでモモイはそんなことするはずないと言うと、アリスの学生証を掲げて、これがミレニアムの生徒であるというまごうことなき証明だと声を上げるが、ユウカは確かにDBにも登録されていることは確認済みだが、自分はそんなに簡単に騙される女じゃないと一蹴すると、モモイとミドリは動揺する。
モモイはいくら何でも動揺しすぎでは……? まあ、最近のユウカは割とポンコツな時があるが、基本的には優秀な部類に入る人間だ。モモイとミドリの様子を見てユウカの目が少しずつ鋭くなっている。
「アリスちゃん、あなたがゲーム開発部に来たきっかけは何?」
「気が付いた時はすでにここに、ではなく……」
「あいたっ!」
モモイがアリスを軽く睨んでいたので、軽くチョップをしてやめさせる。モモイは頭を抑えてこちらを見ているが、そんなことしたら余計にユウカに疑われるから、今はアリスを信じてあげるようにと言うと、モモイは渋々ながら納得した。
「えっと……『魔王城ドラキュラ』がやりたくって……それでゲーム開発部の存在を知って……」
「でも、ここはレトロ―ゲームをプレイする部じゃなくて、ゲームを開発する部。つまり、あなたもゲームを開発するということよね? 何を担当するの?」
「タンク兼光属性アタッカー……」
俺は思わず頭を抱える。アリスがユウカと戦いを繰り広げるにはまだアリスのレベルが足りなかったみたいだ。ただ幸いユウカは一瞬、聞き間違いか何かだと思ったようで、アリスに聞き返した。
「じゃなくて、えっと、ぷ、ぷ、プログラマスです!」
「えっと……、プログラマーじゃなくて?」
「はい、その通りです。間違いなく私は完璧なプログラマーです」
モモイが焦った表情を浮かべる。ユウカの質問が続くたびに、モモイの表情が悲観的なものへと変わっていくのと反比例するように、ユウカの表情から険しさが失われていく。まあユウカの視点から見れば、少し言動に妙なところがあるが、純真無垢な可愛い子として映っているだろう。ユウカは一度ため息をつくと、アリスについては概ね分かったと言った。
「まだ少し怪しい部分はあるけど……。規定人数に達しているのでゲーム開発部を正式な部活動として認定。部としての存続を承認するわ。ただし『今学期』までは……ね」
「それって部としての成果がないとってことだよね!?」
「ええそうよ。今は部員がたとえ何人であっても、成果を出せなければ廃部よ。この間の全体部長会議でも……ってそういえばいなかったわね。ああ、なるほど……」
ユウカが俺の方を見たので俺は頷いた。
「モモイ、あなた私に言ったわよね? ミレニアムプライスで必ず結果を出してみせるって」
「そ、それはそうだけど……」
「新しいメンバーも増えたことだし、前よりももっと面白いゲームが作れること期待してるわよ。じゃあね~」
ユウカは笑顔でそう言うと出口まで向かって足を止めたかと思うと、俺の方に視線を向けた。
「エルナ、さっき私を『オーガ』と呼んだことについて話があるからちょっと来なさい」
「えっ……」
ユウカが俺の腕を掴んで外に連れ出そうとしてくるので、モモイとミドリ、アリスに助けを求めるが視線を逸らされてしまった。
「モモイ! ミドリ! アリス! 俺様を見捨てるのか……!?」
「私ではまだその妖怪と戦うにはレベルが足りません……」
「へぇ~、まさか初めて会う子に妖怪扱いされるとは思ってなかったわ。これはまた一つお話が増えたわね~?」
「ま、待ってユウカ先輩! アリスに教えたのは俺じゃないって! ノー! アゲインストバイオレンス! あぁぁぁぁぁぁぁっ……!」
そうして俺はユウカにゲーム開発部の外に連れ出された。扉の向こうからモモイの叫び声が聞こえる。全く……素直に話があるといえばいいものを、わざわざこんな面倒な呼び出し方をするなんて……。だから鬼とか悪魔とか妖怪とか呼ばれるんじゃないだろうかと考えていると、ユウカが俺を睨んだ。そうして俺はユウカに連れられて、屋上まで連れてこられた。
「あの子は何者なの?」
「ただの可愛い女の子じゃ、ユウカ先輩は納得できないか?」
「ええ、私はミレニアム学園の全生徒の名前と顔を覚えてるもの。転入生がいるならそれは絶対に私の耳に入ってるはず。それなのに、私の知らないうちにDBに登録されていたということはヴェリタスが絡んでいるということは明白、本来であればそれを指摘して廃部にしてもよかったんだけど……」
一般生徒に恐れられているユウカだが、その実、かなりの人情家でもある。アリスと話しているうちに情が湧いてしまったのだろう。まあそれをみんな知っているからこそ、ユウカはみんなに慕われているのだと俺は思う。
「ユウカ先輩はもう少し気楽になってもいいと思うぜ? まあ確かにアリスはモモイが無理やり連れてきたみたいなもんだが、ユウカ先輩もアリスと話して、アリスが自分の意志であそこにいるって分かっただろ?」
「そうね……。短い時間しか話していなかったけど、ゲームが好きだってこと、新しい世界で冒険したり、仲間と何かを一緒にやり遂げたりするストーリーが好きなんだってことは、十分に伝わってきた」
「だろ? だからアリスは大丈夫だよ。ユウカ先輩が心配するようなことは何もないし、起こさせねーよ」
俺はそう言ったがユウカを納得させることはできないようだ。近々何かを仕掛けてきそうな予感がしたので、正直に聞いてみるとユウカは図星だったのか、わずかに動揺した。
「そんな感じだから『悪魔』だの『鬼』だの言われるんじゃねえの?」
「うっ……、私だってやりたくてやってるわけじゃないのに……。はぁ……あの子に意地悪な子だって思われてたらどうしよう……。それに『先生』にだって……」
「だ、大丈夫だって! 俺たちだって最初は結構険悪だったけど、今では一緒に昼ごはん食べたりする仲じゃん! だからユウカ先輩もアリスと仲良くなれるって! それに『あの人』だってユウカのこと結構頼りにしてるっぽいし、ちゃんと分かってくれるって!」
俺は落ち込んでいるユウカを慰める。最近忙しいこともあってか『先生』には会えていないようだ。当番の日が近づくとソワソワしてるし、当番の日が終わっていればぽわぽわしてる。だが最近そうなっていないので間違いないとみていいだろう。
「『先生』が私のことをそんな風に思ってたなんてっ……!?」
「あー……ぽわぽわしちまったか……」
ユウカは顔を真っ赤に染めて時折、小さな声で何かを凄い早口で喋ったかと思えば、顔を綻ばせたり、身をくねらせたりした。一度こうなってしまうとユウカは暫く戻ってこない。雲を眺めながら待っていると、大体5分くらい経ったところでユウカは戻ってきた。
「ご、ごめんなさい。少し取り乱したわ……」
「お、おう……」
「エルナはアリスちゃんが何なのか知ってるのよね?」
「知ってるよ」
周囲から一切の音が消える。風も、喧騒も、小鳥の囀りもない。完全な静寂が広がっている。
「何かを知るってことは、何かを知らなかった時にはもう戻れないってことになる。知ってしまった事実から絶対に目を逸らさない覚悟、ユウカ先輩にはある?」
「…………」
ユウカは雰囲気に飲み込まれたのか黙り込む。まあ、どう答えていたにせよ、初めから答えるつもりなんてなかったのだから。俺は屋上から出ようと出口へと向かう。
「ま、何をするつもりなのかは分からねえが、その時俺はアリスの方に付くからな。じゃ、そういうことで」
出口から出ようとしたところでユウカに腕を掴まれる。
「まだ私の話は終わってないわよ? 私のことを『オーガ』だとか『悪魔』だとか『妖怪』呼ばわりしたことについては……ね」
「え……ちょ、ちょっと待って! あれって建前でしょ!?」
「いいえ、私は最初からそのつもりだったわよ。」
ユウカはにっこりとほほ笑んだ。それからおおよそ30分ほど、俺はユウカから『お小言』を受けることになるのだった。