神秘を得た代わりに○ん○を失ってしまったゲマトリアのクソガキ構成員が『先生大好き勢』になる話 作:プラハ
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私たちは衝撃の真実を知った。アリスの正体が『名もなき神々の王女』というオーパーツで世界を滅ぼす存在であるということを。エルナが作られた生命でとても大きなけがをしているということを。私たちはアリスが連れていかれることを黙ってみていることしかできなかった。
そして今、無理をしてアリスを助けにいこうとするエルナを止めるための戦いが始まった。
見た目上エルナは綺麗な状態のままだ。でも恐らくは何かしらの技術を使ってそれを誤魔化している。顔はとても苦しそうに歪んでいて、体はふらふらだ。そんな状態で助けにいけばどうなるのかなんて容易に想像がつく。ここで何としても食い止めないと……。
だが下手に攻撃をすれば怪我が悪化する。かと言って攻撃の手を緩めれば容易に突破して突き進むだろう。ここまでの戦いでエルナの速さを見てきたが間違いなく、キヴォトスにおいては最速……、追いつける生徒は存在しないだろう。一度でも突破されればそこでゲームオーバーだ。
「速っ……! 全然当たらない!」
「強いとは思ってたけどここまで強いなんて……!」
「攻撃の手を緩めないで! 一瞬でも気を抜いたら突破される!」
攻撃の手を緩めるなと指示を出す。現にエルナは攻撃を回避することに集中している。超電磁装甲があれば迷いなく突っ込んできたはずなので、今は使えない状況にあるのだろう。多分あの時に壊れてしまったと予測できる。エルナの息が上がっていく。まだ諦める気はないようだ。
「はぁ……はぁ……。厄介だね、僕が突破できない……なんて……」
「いい加減諦めろ。今のおめえじゃ突破は不可能だ」
「じゃあこれはどうかな!? 『CODE:XVIII』」
「エルナが消えた……!?」
エルナの姿が消えていく。光学迷彩のようなものだろうか……? だが今見ている景色に揺らぎはない。影も見えない。完璧に消えているようにしか見えない。でも、そこにいることは確かだ。ネルはエルナの居場所が分かっているのかそこに向かって発砲すると、くぐもった声とともにエルナが姿を現した。今にも倒れそうだ。
「はぁ……はぁ……。やっぱりダメか……」
「お前の光学迷彩もどきで誤魔化せるのは視覚だけだ。聴覚や嗅覚は誤魔化せねえ、見えなくなった程度で見失うほどあたしは甘くねえぞ」
「もうやめようよ……! こんなの……!」
「うるさい! ここで諦めたら僕は……何のために……! もうこうなったらなりふりなんて構ってられるか!」
エルナが静止する。エルナの足にローラーブレードが装着され、甲高い音が鳴り響く。ジェットブースターに空気を取り込んでいる、恐らくは現状出せる最高スピードで強引に突破してくるつもりだ。みんなはローラーブレードやエルナの武器に弾丸を放つが弾丸は見当違いの方向へ飛んでいく。超電磁装甲は使えないはずなのに、どうやって……?
「残念だけどこれ以上ここで足止めを喰らってる場合じゃないんだよ。だからここまでだ」
「クソっ!」
目にも留まらないスピードでエルナが不規則な軌道で飛んでくる。そしてついにエルナに突破されてしまった。私はまた見てることしかできないのか……。
「いいえ、ここまでなのはエルナ……貴方です」
突如としてシャッターが降りる。月明かりに照らされた車椅子に乗っている儚げな少女が姿を現した。エルナは強引にシャッターを突破しようと試みたがシャッターは大きく歪んだものの壊れることは無かった。車椅子の少女は得意げな表情を浮かべてこうなることは読めていた。だからここのシャッターを昨日のうちに取り換えておくようにしておいたと言った。それと同時にエルナが倒れ込む。
「くそ……僕は……」
「エルナ!」
エルナは気を失ってしまったのか、それによってエルナの嘘が剥がれ落ちていく。エルナの体は想像しているよりもずっとひどい状態だった。制服のほとんどは真っ赤に染まって、顔色は死人のように真っ青で、体はとても熱い。もしかしたら何かしらの感染症にかかっているかもしれない……。私は救急隊を呼ぶように指示を出してエルナの元へ向かった。
「全く……世話が焼ける後輩だ……。説教は任せたぞ」
ネルはそう言って私のほうを見たので頷いた。それから程なくして救急隊によってエルナはシャーレの緊急治療室まで運ばれていった。医者によるとエルナは多数の感染症に罹患しており、おまけに出血は推定される量で体内の半分以上も失われており、臓器も傷がついているらしい。傷の処置も正しいやり方ではなく、縫合も正しいものではなかったとのことで、このままではいつ死んでもおかしくなかった上に、何かしらの障害を抱えていた可能性すらあると言っていた。
現在エルナは集中治療室で治療中とのことだった。
――*――
治療は8時間にも及ぶ大手術だったが無事に成功したらしく、特に障害も残っていないと報告があった。現在は安定しているらしく面会は許可された。私はエルナがいる病室に向かうと、エルナは眠っていた。エルナがあんな状態でも向かおうとした理由はきっと過去になにかあったのだろう。でもそれを私が聞いても話してくれることはないだろう。何故ならそれには『大人』が関わっているからだ。私はようやくエルナが『大人』を嫌っていた原因が分かった。
思わず拳を固く握りこんでしまう。どうして世界はこんなにも優しくないのか。いつだって犠牲になるのは『子供たち』なのか。私はただ眠っているエルナを見ることしか出来なかった。
「っ……、ここは……!?」
「良かった……!」
それから大体3時間くらいでエルナは目を覚ました。少しぼんやりとしていたが、自分が今どこにいるのか理解したエルナは起き上がろうとするが体にうまく力が入らないのか起き上がれないみたいだった。私はそれを慌てて止めると、エルナは私を睨みつけた。
「離せよ……! こうしてる時間はないってことが分かってるのか!?」
「だとしても絶対に行かせない」
エルナが声を荒げるが私は冷静にそう答える。エルナは藻掻くがまだ麻酔が抜けきっていないせいか私でも簡単に動きを止めることが出来た。それでも藻掻くことをやめないので、このまま暴れ続けるならベッドに完全拘束するし、その間の世話は全部私がすることになると言うとエルナはピタリと動くことをやめた。
「全部……って」
「全部は全部だよ。医者は最低でも2週間は絶対安静だって言っていたからね。その間に必要なことは全部私がやる。何から何まで……ね」
「は、はぁ!? な、ななな何言ってんだアンタは!?」
エルナは顔を真っ赤にして驚愕する。そして何を言っても私が引く気はないと分かったのか、観念して小さく「分かったよ……」と答えたので、私はエルナの腕にリングを取り付けた。これは追跡用のGPSが仕込まれているリングでエルナが病院から抜け出したり、これを破壊したり、無理やり取り外そうとしたり、何らかの形で位置情報が発信できなくなると私のスマホに緊急連絡が飛ぶようになっていると説明するとエルナは「用意周到すぎるだろ……」と呟いていた。なので、だってこうしないと私がいなくなったタイミングで抜け出そうとするでしょ? と聞くとエルナはバツが悪そうな表情で視線を逸らした。
「エルナが作られた生命だって言うのは本当?」
「それを聞いてどうする?」
エルナは警戒した表情で私を見つめる。私はどうもしない。ただエルナが何かを抱え込んでいるならそれを少しでも軽くしたいだけだと告げる。だって私はエルナのことがもっと知りたい。エルナは大切な生徒の1人だから。
「ふーん、まあ別に隠してたことじゃないからね。いつかは知られると思ってたし、いいよ教えてあげる」
エルナは自分の出生について語り始めた。自分は遺伝子操作によって産まれた人間で、とある目的を理由に作られたと。とある理由について尋ねると、敵を滅ぼすためだと答えた。だから自分は天才で最強なんだと答えた。全てを答えてくれたと言うわけではなさそうだ。でも、これ以上どんな言葉を投げかけても絶対に答えてくれない気がする。モモイ風に言うなら好感度が足りないと言ったところだろうか。だけど1つだけはっきりさせておきたいことがある。
「エルナの出生に『黒服』は関わっているの?」
「『黒服』……? どうしてあいつの名前が今出て来るんだ……? あいつは別に関係ないぞ……?」
…………どうやらエルナの出生に『黒服』は関わっていないらしい。もしかしたらゲマトリアの別の構成員が作ったのだろうか……? それとも………………いや、今はとりあえず置いておこう。急に黙り込んでしまった私を見てエルナは首を傾げている。さて、ここに来た目的を果たさないと……。
「どうしてあんな無茶をしたの?」
「無茶……? あんなの無茶の範囲に入らないでしょ」
「無茶に決まってるでしょ! あのままだと死んでたかもしれないし、障害を抱えることになってたかもしれないんだよ!」
「でも俺様死んでないし、それに障害の1つや2つ抱えたところで支障が出るほど軟な体じゃないし」
エルナは本気で言っているらしい。私の言っている言葉の意味が全く伝わっていないように感じる。このままだとまた同じことが繰り返される。何か危険なことが起きるたびにエルナはその身を危険に晒すのだろう。誰かを守るためにどこまでも傷ついて無茶を続けてしまう。それによって、エルナを大切に思っている誰かがどれだけ傷つくのかエルナは分かっていない。
「エルナがそんな状態になってるって知った時、私は胸がとても痛かったし悲しかった。アリスだって、モモイだって、ミドリだって、ユズだって絶対にそう思ってる」
「それくらい分かってる。だから隠してたのに……」
「エルナは全然分かってない! 隠されてたっていう事実を後から知る方がずっと傷つくんだよ?」
「だったら隠し通せばいいだけの話だろ。それを観測できなければその人にとってはないのと同じなんだから」
エルナは冷静に言葉を返す。言葉ではエルナの在り方を変えることが出来そうにない。何か大きなきっかけがないと変わろうとすら思わないだろう。今回は失敗したから次はより巧妙に隠そうとするはずだ。こうなった以上は最終手段しかないだろう。私はエルナの前に1枚の書類を手渡した。
「えっと、これは……?」
「任命書……かな」
エルナに渡したのはシャーレへの所属を強制的に命じる命令書のようなものだ。本当は無理やり所属させるなんてことはしたくなかったが、定期的に監視しないとエルナがまた怪我をした時に気づくことが出来ないなんてことになりかねないと判断しての行動だ。あと、ユウカ曰く定期的にセミナーの仕事を手伝ってくれているらしく、相当助かっているとのことなので、毎日大量に増えていく仕事を手伝って欲しいと言う気持ちも少しはある。
なぜか5万円分くらい失ったような気もするが、これでエルナが無茶できなくなるならこの程度は安いものだ。
「こんなの無視すればいいだけだし……」
「そんなことしたら家まで迎えに行くからね!」
「お、横暴だ! 職権乱用じゃん!」
「ふふふ……『大人』はずるい生き物なんだよ」
「ぐぬぬ……」
エルナはふてくされてしまったのか布団を被ってしまった。布団の中からくぐもった声が聞こえてくる。
「どうして僕なんかのためにそこまでするの?」
「そんなの決まってるよ。エルナは私の大切な生徒だからね。それに前に話したときにも言ったけど、たとえエルナがどんな存在であったとしても、たとえどんな立場であったとしても私はエルナの味方だよ」
「馬鹿だねアンタは……」
エルナの言葉はどこか優し気だった。表情は布団で隠れていて見えないけど、笑っているような気がした。それから少しするとエルナは布団から顔を出して、どうせシャーレの仕事が忙しいからっていう名目でもあるんでしょと言ったので、思わず固まってしまうとエルナはやっぱりだと笑った。何でもユウカからシャーレの仕事がかなり溜まっていて大変だったという話を聞いたことがあるらしい。
「でも勘違いしないでね? アンタのためじゃなくてユウカ先輩のためだってこと。ユウカ先輩は割とシャーレに来てるかもしれないけど結構忙しい人なんだからね?」
「は、はい……」
それからしばらくの間、エルナは私に説教を始めた。ユウカを働かせすぎだとか、モモイとミドリとの距離が近すぎるとか言っていた。つまりこれは要約すると、ユウカが最近構ってくれなくて寂しいとか、モモイとミドリと一緒にもっとゲームがしたいってことでは? と聞くとエルナは顔を真っ赤にした。
「そんなんじゃないっつーの! 馬鹿っ!」
それからしばらくの間エルナは布団の中に籠ったまま出て来なくなった。でもこれで少しだけエルナのことが分かった気がする。エルナは素直じゃないけど、とても優しくて不器用な女の子。それがエルナという人間の本質なのだろう。エルナが何を考えているのか、何を感じているのか少しずつだけど理解出来てきた気がする。多分まだ心が未成熟なのだろう。だったらこれからみんなと関わって心を育んでいけるようにと私は願った。
心の中に宿った1つの疑念を考えないようにしながら……。
バッドエンドIFって書いたほうがいいですか?
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いる
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いらない