神秘を得た代わりに○ん○を失ってしまったゲマトリアのクソガキ構成員が『先生大好き勢』になる話 作:プラハ
「行くか……」
シャーレオフィスビルの前に俺は来ていた。時刻は現在7時20分、『先生』に集合するように言ったのは8時なので、40分前に来ていることになるが、今日は初めてなので早めに行くべきだと思ったので、ここにいる。『先生』について思うことは
「そう言えば連絡先知らねえわ……」
到着したことを『先生』に伝えようと思ったが、あいにく俺は連絡先を知らない。連絡先を知ってそうな人物に心当たりはあるが、それに時間を取られるのもなんか癪だ。先に入って待っていることにしよう。そう思った俺はシャーレオフィスビル内部へと侵入を試みるがあっさりと入ることができたので、かなり心配になった。
あまりにもセキュリティが緩すぎる……。ある程度のハッキング能力があれば誰でも侵入できるレベルでしかない。『連邦生徒会』は何を考えてこんな緩々のセキュリティシステムを構築したのかは分からないが、セキュリティシステムの強化については『先生』に打診すべきだな。ユウカ曰く『先生』はここで寝泊まりしているらしいし……。
「確か執務室のある階はっと……」
エレベーターの中に入って執務室のある階を選択する。エレベーターはかなりの速さで昇っていき、あっという間に執務室のある階層までたどり着いた。エレベーターから出て執務室のあるフロアに出ると、電気がついているので、恐らく『先生』はもう出勤しているのだろうか……?
「おはようございまーす」
挨拶をして執務室のドアをノックするが返事がない。ドアを開けて執務室の中に入ると机の上で突っ伏して眠っている『先生』の姿があった。目の下には大きな隈ができているので、恐らくは夜遅くまで仕事をしているうちに眠ってしまったのだろう。『先生』という仕事はかなり忙しいとユウカから聞いていたが、俺の予想以上に多いらしい。机の上には山のように積み重なった資料が置かれている。一番上にある資料を何枚か拝借して見てみると、書類の内容から見て要望書のようなもののようだ。
「とりあえず運ぶか……。仮眠室くらいどこかにあるだろ」
『先生』を起こさないように、ゆっくりと椅子を引いて先生を持ち上げて抱き抱える。幸いなことに仮眠室はここからすぐ近くにあったので俺は『先生』の靴を脱がして、仮眠室にあるベッドの上へ横にさせた。しかし、前に抱き抱えた時よりも『先生』は軽くなっていた。しかも数キロ単位でだ。仕事熱心なのは良いことだが、このままの体制では確実に体を壊してしまうだろう。
ごみ箱にはカロリーバーやゼリー飲料ばかり入っていたので食事もまともに取っていないのだろう。
「はぁ……人のことを心配する前に、まずは自分のことをどうにかしろっての……」
布団をかけて仮眠室を後にする。緊急の要件がなければ起こす必要はない。好きなだけ眠らせてあげよう。俺は仮眠室を後にして、執務室へと戻る前にコンビニで適当に何か買っていくことにした。最近は野菜や肉など何でも手に入る良い時代になったものだと俺は思う。ただ、銃弾が普通に売っているのは何というか、気分的にあまりいい気はしない。1度1階までエレベーターで降りて、シャーレオフィスビルにあるエンジェル24に入る。
「い、いらっしゃいませ!」
エンジェル24に入るとやや緊張した少女の声で出迎えられた。さて、ここ最近の食生活から考えてあまり重たいものはやめておいた方がいいだろう。そうなるとうどんがいいだろう。つゆと冷凍うどん、ねぎ、牛肉etc……を買い物かごにいれてレジへと向かい、買い物かごを台の上に置く。どうやらこのコンビニは1人で店番をしているらしく、バックヤードの方からパタパタと走る音が聞こえてきた。
「お、お待たせしました!」
ネームプレートに『ソラ』と書かれている水色のエプロンを着た少女が商品のバーコードを読み取っていく。ソラはチラチラとこちらに視線を向けてくるので少し気になってしょうがない。かと言ってこちらから視線を合わせようとすると目線を逸らすので、何か? と聞くとソラはビクッと震えたかと思うと、「す、すみません! ここには先生以外の人は来ないので少し珍しくて……」と少しパニックになりながらそう答えた。その間にもちゃんと商品のバーコードスキャンは行われている。
「え、えっと……! 12点で1470円です!」
「モモペイで」
モモペイのアプリを起動させて画面にバーコードを表示させると、ソラがバーコードリーダーでそれを読み込むとティンティロリンという音ともに支払いが行われた。袋を持って外に出ようとすると、ソラがそれは『先生』に作るものなのかと聞いてきたのでそうだと肯定すると、少しだけ頬を赤く染めて「頑張ってくださいね! 私、応援してますから! またのご利用お待ちしています!」と言った。
「応援するって何を……?」
コンビニの外に出てから、何を応援するのかを考えながら歩くが、答えは出ない。普通に考えれば料理のことだとは思うが、何か違う気がする……。でも今更それを聞きに戻るのは少し面倒だ。それに考えたって分からないことを考えても意味がないだろう。俺はシャーレオフィスビルの中に入って、執務室に来るとさっき買ったものを冷蔵庫に入れた。うどんを作るのは『先生』が起きた後でいいだろう。
今は仕事を優先しよう。ある程度仕事は進んでいるみたいなので、それをもとに判断を行えばいいだろう。机の上の書類を次々と確認しながらパソコンにその内容を打ち込んで纏めていく。ほとんどの内容が自治区内で解決できるようなものばかりだが、重要度の高いものも中にはあるようだ。
俺は重要度の高さに応じて書類をまとめておこうかと思ったがすぐに思い直した。
「あの人にとっては関係ないんだろうなぁ……」
どれだけ些細な要望であっても、『生徒』から来たものであれば、それが間違っているものでない限り、重要度の高さなんてものはないと『先生』は思っているのだろうと、俺はそう感じたから。
「ん……?」
大体1時間半くらい作業を終えて、書類も粗方片付いたので背筋を伸ばしていると、充電器に繋がれているタブレット端末に目がついた。あれは確か『シッテムの箱』、見た目は普通のタブレット端末にしか見えないがれっきとした古代遺物の一種で、『先生』が戦闘指揮を行う時に使用している。
だれが作ったのか? どうやって動いているのか? それを誰も分からない謎の物体。だが、そこまで謎に包まれていると知りたいと思うのは人間の常、俺は『シッテムの箱』のホームボタンを押してみる。
………。しかし何の反応もない。先ほどまで充電器に繋がれていたので、バッテリーがないということはないし、故障しているというわけでもなさそうだ。恐らくは何かしらのセキュリティによって守られているのだろう。だが、俺にはそんなものは無意味だ。
それが電気で動くものであれば、どんなセキュリティを構築していようとないのと同じだ。俺は能力を行使してハッキングを試みる。
「う、嘘!? 弾かれた……?」
ありとあらゆる電子で構成されたシステムに対して、絶対的な優位性を持つ僕の能力が通用しない。システムへの侵入をたった20秒で補足された俺はシッテムの箱のセキュリティによって弾かれてしまった。
「ふーん……」
こうもあっさりやられてしまうと、逆に燃えてくる。さっきのは言わば小手調べ、ここから全力で行かせてもらおう。正直、中のデータには全く興味がないが、俺のハッキングを完璧に防御して見せたセキュリティシステムには大変興味がある。さて、見せてもらおうか――。
「…………」
あれから30分ほど、ハッキングを試みたものの全て失敗に終わってしまった。何度か惜しいところまでは行けたのだがそこから先に進むことはできなかった。まあ、何の成果もなかったわけではないので、ここでやめておくべきだろう。そもそも『シッテムの箱』自体が電子によって構成されるシステムかどうかすら疑わしい。
使用しているパーツから想定される重量よりも重い。その差はおよそ20g。
その差が生まれた理由は恐らく……誰か魂の情報を電子化しこの中に保存したから
「……いや、考え過ぎか……」
頭に過ったおぞましい仮説を頭を振り払って頭から追い出す。『シッテムの箱』を元あった場所に戻して仕事を再開する。『シッテムの箱』について気になる事は半端に知ってしまったせいで増えてしまったが、現状『シッテムの箱』について俺が何かを知るすべがない以上、今は仕事に集中すべきだ。書類整理はもう片付いている。書類はざっと流し読みした程度だったので、一枚ずつ熟読し、解決方法をいくつか考えたうえで付箋にそれを書いて張り付ける。
「もう昼か……」
お昼のチャイムが鳴り響く。集中していたのでこんなに時間が経っているとは思いもしなかった。そろそろ『先生』を起こすべきだろうか……? そう思った俺は仮眠室のドアを開けたが、『先生』はまだぐっすりと気持ちよさそうに眠っている。ここまで気持ちよさそうに眠っているのであれば、もう満足するまで眠らせてあげたほうがいいのかもしれない。そう思って仮眠室のドアを閉めようとした瞬間のことだ。
「嫌だ……行かないで……」
目の端に涙を浮かべて、手を伸ばす『先生』の姿があった。ここにいるよと安心させるよう僕は伸ばした手に優しく触れて、目の端の涙を人差し指で軽く拭う。
これまで多くの生徒たちの心を救い、過ちを正し、希望の未来を作り出してきた。確かに多くの生徒たちは『先生』によって救われた。これからも『先生』によって多くの『生徒たち』が救われていくのだろう。でも、今ここにいる『あなた』が本当の『あなた』なのだとすれば、『あなた』も『救い』を求める存在なのであれば……。
これからやろうとしている僕の『選択』に間違いはない……はずだ。
『崇高』へと至るために必要な『神秘』はもうとっくに集まっている。これまで僕はまだその時ではなからと自分に言い聞かせて、計画の開始を遅らせていた。
何故なら
悪い
――*――
「おーい、起きろー」
「っ……! 今何時っ!?」
「うわっ……! びっくりしたぁ……」
軽く昼食を作り上げた俺は再び仮眠室に戻って『先生』の体を揺らすと、『先生』は目をパッと開いたかと思うと飛び跳ねるように起きた。まさかそんな急に起きるとは思ってもいなかったので俺は少し驚いた。『先生』は自分がさっきまで眠っていたこと、ここまで俺に運ばせたことに気が付いたのか今すぐにでも謝罪をしそうな雰囲気だったので、俺はそれを止めた。
「まずはご飯でも食べよう? お腹空いてるだろ?」
『先生』の手を引いて執務室へと向かう。背の低い机の上には俺が作ったうどんが置かれている。『先生』はそれを見て、俺が作ったのかと聞いて来たので、そうだと言うと、『先生』は嬉しそうな表情を浮かべて俺にお礼を言うと、箸を手に取ってそれを食べ始める。勢いよく食べるものだから『先生』は少し咽ていたのでそれが少し面白くて俺は笑ってしまう。
「あーもう、そんなに急いで食べたら咽るに決まってるでしょ?」
「だって美味しかったから……」
「まあほとんど既製品で作ってるから、完全に手料理とは言えないけどね」
咽てしまった『先生』の背中をさする。俺がしたことと言えば、冷凍のうどんをレンジで温めて、つゆはお湯で割って、牛肉を茹でたくらいだと言うが、「それでもエルナが私のために作ってくれたから美味しくて嬉しいんだ」と『先生』が真っすぐ俺の方を見ながら言った。まあ、そこまで喜んでもらえたのであれば、俺としても作った甲斐があったものだと思う。
俺は『先生』から視線を逸らして自分が作ったうどんをすする。やっぱり冷凍うどんを使った料理は手軽にできるのでとてもいいものだ。
「そんなことより、ごはんはちゃんと食べないといつか倒れるよ? そりゃ忙しいのは分かってるけど……」
「うっ……、でもエルナには言われたくないかな……」
「なっ……! 最近はちゃんとご飯も食べてるし、寝てますー! ほらっ!」
俺はスマホに撮った写真を見せる。元々は俺の欠食っぷりを心配したノノミにちゃんとご飯を食べた証明として撮っていた写真だ。『先生』はそれを見て、苦笑いを浮かべた。
「うどんばっかりだね……」
「だって、便利なんだもん。チンってやればすぐにできるから時間効率もいいし、それに何より一食分がかなり抑えられる……」
確かに俺のスマホに映っている写真の7割はうどんだ。と言ってもバリエーションはそれなりに豊富だし、栄養バランスだってちゃんと考えていると力説すると『先生』も少し興味が出てきたのか自分でもやってみると言っていた。それから冷凍うどんを使った簡単な料理について『先生』に教えながら、『先生』と一緒にうどん食べた。
「それじゃあ俺様は食器を洗ってくるから、書類の確認でもしておいてよ。ある程度纏めてたから」
「………………ねえ」
「ん? どうしたの?」
うどんを食べ終えたので、食器を洗おうと食器を持って流し台へと向かおうとすると『先生』が俺を引き留めて、どこか縋るような、親とはぐれてしまった子供のような表情で俺を見て、「エルナはいなくならないよね……?」と聞いてきた。一瞬言葉に詰まる。
「えっと、どうしてそう思ったのか聞いてもいい?」
「エルナがいなくなる夢を見たんだ。すごく怖い夢だったから不安で……」
「寝不足だったから怖い夢でも見たんじゃない?」
朝来た時ほどではないが、『先生』の目の下にはまだうっすらと隈が残っている。寝不足だと悪い夢を見るらしいし、毎日ちゃんと睡眠をとったほうがいいだなんて、それっぽい言葉を並べて俺は食器を洗うために流し台へと向かった。俺が完全に見えなくなるまで、『先生』はずっと不安そうな表情を浮かべていた。
「え……? なんで固まってんの……?」
食器を洗い終えて戻ると椅子に座っている『先生』が固まっていた。もしかして何か間違っている所でもあったのだろうか? そう思って『先生』の方へと近づくと、ハッと意識を取り戻したのか、少し震えた声でこれは俺がやったのかと聞いてきた。
「そうだけど、どこか間違ってた……?」
「そう言うわけじゃないんだけど……、これを午前中で片づけたの……?」
そういうことかと俺は納得する。『先生』はすごく分かりやすく纏められているからとても助かる、何かコツがあるなら教えて欲しいと言う。その理由は仕事を早く終わらせたいからではなく、より多くの生徒たちの助けになれるからだという実に『先生』らしい理由だと俺が思う。ただ、俺がやっているやり方は『先生』にはできないと思うと前置きして、実際にやってみせることにした。
「普通に書類を一瞬で全部読んで一瞬で片づけてるだけなんだよね……」
「無理!」
「だよね……」
俺がやっている手法はとてもシンプルだ。ただそれを高速でやっているだけ。俺は両利きなので疲れればペンを使う手を切り替えればいい。流石に2枚同時にやるのも右目と右手、左目と左手を駆使すればできなくもないだろうが、結果的に一枚ずつやる方が効率がいい。ああ、そういえば丁度いいものがあった。俺は持ってきた鞄からあるものを取り出して、『先生』の机の上に置いた。
それは封がされたフラスコだ。中身は紅く、おおよそ人が飲んでいいようなものには見えない。明らかに「オイラ毒ありまっせー!」という危険な雰囲気を醸し出している。
それを『先生』は引きつった表情でそれを見ていた。
「えっと、これは……?」
「これは『3倍くん』って言ってね。文字通り通常の3倍の速さで動くことができるようになるドリンクさ」
「へ、へー、それはすごいね……」
『先生』は引きつった表情を浮かべつつも興味深そうにそれを手に取って見ながら、副作用について聞いてきたので、副作用について説明する。
まずこの薬は服用者の体感時間を3倍にすると言う効果がある。つまり、現実で1時間が経過すると、服用者の体感では3時間ということになるので、1時間当たりの疲労が3倍になるということ。次にこの薬には服用者の意識を覚醒させる効果がある。その効果時間はおよそ8時間なので、服用者の主観では24時間眠ることができなくなってしまうということ。そして最後に服用者を傍から見た場合、3倍の速度で動いていることになるので、かなり不自然に見えるくらいだ。
「あとは乱用すると過労で死ぬくらいかな。だから1日1本までなら特に問題ないと思う」
「ほ、ほんとに大丈夫なの……?」
「効果については自分で実証済みだからね。本当はもっと上の倍率のもあるけど常人なら8倍くらいで死ぬと思うからおすすめはしないよ」
ちなみに最大の倍率は100倍だと『先生』に告げると、ドン引きした表情で俺を見ていた。当然この薬にもデメリットはある。例えば待ち時間があるような作業がある場合、体感時間でその倍率分時間が長く感じることになる。そのため常に作業があるような場合でないとこの薬は服用すべきじゃないと俺は言った。
「えっと……、じゃあ少しだけ飲んでみようかな……」
『先生』は恐る恐るフラスコの封を解いて、『3倍くん』の匂いを嗅いで、首を傾げる。多分、強烈な匂いがすることを危惧していたのだろうが、その薬は無味無臭だ。あくまで効果時間を分かりやすくするために着色しているだけだと『先生』に告げるとどうしてこんな色にしたのかと尋ねられた。
「俺様にも分からん……」
「えぇ!? 自分でやったのに!?」
「何でか分かんねえけど、3倍は紅くしないといけないっていう強迫観念に駆られて……」
「分かるような分からないような……」
『先生』は微妙そうな表情を浮かべて、『3倍くん』を4分の1くらい飲み込んだ。と言ってもすぐに効果が現れるわけではない。俺は体調に異常があればすぐに言って欲しいと伝えて、無事に効果が現れるかどうかを観察する。
「お? おおおお……」
「どう?」
「あーははははっ! すごい! すごいぞー!」
「テンション高っ!?」
『先生』が3倍の速さで動き始めた。どうやらちゃんと薬の効果は効いているらしい。『先生』はハイテンションのまま書類を3倍のスピードで片づけていく。山積みになっていた書類は凄まじいスピードで片付いていった。ただ、傍から見るとハイテンションになりながら高速で動く『先生』の様子は控えめに言ってちょっとアレだった。これは誰にも見せられないな……。
それから2時間、『3倍くん』の効果が切れるまで俺は3倍速になった『先生』と仕事をした。俺がある程度進めていたこともあってか、山積みだった書類は全部終わらせることができた。『3倍くん』の効果が切れて等速に戻った『先生』は顔を抑えて床をゴロゴロと転がり始めた。
「は、恥ずかしい……。あれも薬の効果だったりする?」
「うーん……、テンションが上がる効果はなかったはずなんだけど……」
「ぬわあああああっ……!」
「ちょっ! そんなに転がったら服が汚れるって!」
床を転がり続ける『先生』の動きを止めて、体に何か不調はないかと聞くと『先生』は首を横に振った。と、とりあえず体に異常がないようでよかったが、『3倍くん』を『先生』に服用させるのはもうやめたほうがいいかもしれないと俺は思ったので、『先生』にそれを伝えた。
「そ、そんな……あの薬がないと私は……!」
「その言い方だと俺様の作った『3倍くん』が危ない薬みたいじゃんか!」
「ほら、手が震えて……」
「言い方! こんなことになるなら渡さなければ良かったよ! もうっ! それに俺様が手伝えば『3倍くん』を使うよりももっと早く仕事できるっての!」
ため息をつきながらそう言う。いくら『先生』が3倍速になってもこの書類の山を6時間で片づけることは出来なかったはずだ。『先生』もそれに気が付いたのか、急に床から起き上がったかと思うと俺の頭を撫で始めた。い、意味が分からない……!
「な、何だよ?」
「いつもエルナは頑張ってるからね」
「別に……、必要だから、求められてるからそうしてるだけ。そんなことより仕事はまだあるのか?」
「ううん、今日はもう終わりだよ。エルナのおかげでね」
優しく労わるように『先生』が俺の頭を撫でる。不思議と悪くない気分だ。ずっと立っているのもあれなので俺がソファに座ると『先生』もソファに座ると「癒される~」と緩んだ表情でそう言ったので、仕方なく撫でられることにした。
暫くの間、大人しく撫でられていると、心地のいい時間が過ぎていって、『先生』が唐突に変なことを言い始めた。
「膝に座って欲しいな。ほら横にいると撫でづらいから」
「そういうことならしょうがないな……。でも、変なことは禁止だから」
ゆっくりと『先生』の膝の上に座る。『先生』の足は日々色んな所を駆け回っている影響か少し固くて、あまり座り心地はよくない。何となくおさまりが悪いのでいい感じのポジションを探っていると、『先生』にがっちりと体をホールドされる。首筋のあたりに顔が近づいているのを感じて、体が硬直する。ま、まさか……。
「ちょ、ちょっと! 変なことしちゃだめっていったじゃん!」
「変なこと……? はて……?」
「や、やめぇ……。くすぐったいからぁ……」
鼻息が首筋に当たる。反射で体に力が入りそうになるが、それをすると『先生』が怪我をするので必死で我慢する。そう言えば『先生』が人の匂いを嗅ぐのが好きだということを忘れていた。前にシロコからも初対面で匂いを嗅がれたと言っていたし、相当好きなのだろう。あ、そうだ。
「そう言えば、お仕置きは!? ほら、前に言ってたでしょ! お仕置きするよって!」
「うーん、じゃあこれがお仕置きってことで。次はもっとすごいことをするからね」
「これよりも上のレベルがあるの!? 嘘だろっ!? これでも相当なのに!?」
くすぐったさに身を悶えさせながらそう聞くと『先生』はニヤリと笑った。こ、これよりもすごい『お仕置き』ってどんなのだろうか……。全く想像もつかない……。何故かは知らないが少しドキドキしてきた……。
「気になる?」
「確かに気にはなるけど、耳元で喋るのはやめろぉ……!」
「んー秘密かな」
「秘密!? 人に言えないくらいすごいことするってこと!?」
「ふふふ」
「ちょ! 何か言えっ! 余計に気になるわっ!」
しかし、何度聞いても『先生』は曖昧に笑って返すのみで、さらに上の『お仕置き』については何も答えてくれなかった。そう言えば、初めて会った日の夜に、何度言っても聞かない子は『おしり叩き』をするって言ってたような……。うーん、でも『先生』に叩かれても全く痛くなさそう。キヴォトスの外の住人だから非力だし。っ……!?
いやいや、おかしいおかしいおかしい! 何で僕がお仕置きされる前提で思考してるんだ!? これじゃまるで僕がお仕置きされたいみたいじゃないかっ……!?
頭をぶんぶんと横に振って邪念を追い出すと、湯だった頭が冷えていくのを感じる。
「はぁ……! はぁ……! 危ないところだった……」
何かイケナイ扉を開きかけた気がする。それから2時間近くの間、俺は『先生』に抱きしめ続けられ、『先生』の目の下から隈が消えて、とても元気になっていた。なので俺は3日間くらい自分の体に人の疲労を回復させる何かが出ているんじゃないかと調べたが、結局何も分からす、最終的には『先生』が匂いで疲労を回復できる特異体質であると結論付けざるを得なくなったので、なんというか全然納得できなかった……。
バッドエンドIFって書いたほうがいいですか?
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いる
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いらない