神秘を得た代わりに○ん○を失ってしまったゲマトリアのクソガキ構成員が『先生大好き勢』になる話 作:プラハ
これからは週一ペースにはなると思いますが、なるべく更新できるように頑張ります!
夢の始まり
新月の夜、電灯の消えた病室は表情を覆い隠す。
「どうして……。私にはまだやりたいことが……」
ベッドの上で少女が泣いている。恐怖に怯え、身を震わせて、涙を零す。部屋の外にいる『何か』は少女に触れることはできなかった。
しかし、その『何か』には少女を救う手立てがあった。辛い
だが、その『何か』はこの期に及んでまだ迷っていた。何故なら、そこから一歩踏み出せば、もう後戻りすることはできないのだから。
あの穏やかな春の日差しのような世界にはもういられなくなる。本当にそれが正しいことなのかも、もうその『何か』には分からない。だけど、このまま少女が絶望し続けなければならないなんてことは絶対に間違っているということだけは確かだった。だからその『何か』は闇の中へと足を踏み出した。
やあ、ネムリ。
「え……、どうしてここに……? だって……」
今日はネムリにあるものを持ってきたんだ。
『何か』の手には金色に光るリンゴが手に載せられていた。ネムリはそれを怪訝そうな表情で見つめている。時刻は深夜、お見舞いの時間には遅すぎる。受付もとっくに終わっている。周囲が静寂に包まれる。窓の外で鳴っている風の音がやけに大きく聞こえる。
今日はお見舞いの品を持ってきたんだ。これは『夢の果実』って言ってね。食べればどんな願いも叶う。ネムリには叶えたい願いがあるんだよね?
「本当に……?」
本当だよ。と『何か』が告げると、ネムリは恐る恐る『夢の果実』を口元に近づけて、シャクリという音ともに一口齧りつく。
「あ……れ……?」
ネムリが見えている世界がぐにゃりと歪む。意識が保てなくなる。体の力が抜けて『夢の果実』がボトリと床に落ちる。
おやすみネムリ。どうかいい夢を。君の幸福を僕はずっと願っているよ。
『何か』はそう告げると、その場から蕩けるように姿を消した。ネムリが食べた『夢の果実』ももうそこにはない。何もかも全部、最初から一夜の夢であったかのように、もうそこには何もなかった。
ねえ、知ってる? 食べるだけでどんな願いも叶う果実があるんだって。
そこはどこかの路地裏か、あるいは放課後の教室、モモトーク、様々な場所で流れている噂話、それは単なる噂話の1つ。最初に誰が言い始めたのか分からない。誰かのための大衆娯楽。たとえそれが真実か虚構のどちらかなんて、大衆にとってはどうでもいい。
何それ、めっちゃ胡散臭くない?
と、思うじゃん?
実は先輩の友だちが実際にそれを食べたんだって、そしたら宝くじは当たるわ、成績は急上昇するわでいいことづくめらしいよ。
ますます胡散臭くなってきた。
で、それってどこにあるの?
胡散臭いとかいう割に興味津々じゃん!
確かブラックマーケットに流通してるらしいよ
へー、もうすぐお小遣いが入るし、ちょっと行ってみようかなぁ……
そして噂はますます加速していく。誰かにとって都合がいいように。誰かが望んだ結果へと導かれるように。一度流れた噂は止まるところを知らず、大きく歪んで誰も知らない結末へと進んでいく。
「おはよう」
「おはようエルナ! 今日もよろしくね!」
「……………………」
半ば強制的にエルナをシャーレに所属させてから1か月の時が過ぎた。これまでの生活で多少は仲良くなれたとは思うけど、まだ心からの信頼を得られていないように私は感じている。それにここ最近エルナの様子が少し変だ。前よりもどこか近づきがたい雰囲気を醸し出しているようで、こちらに一線を引いているみたいだ。
何かあったのかと直接聞いてみてもエルナは何もないとしか答えない。それにエルナと仲のいいゲーム開発部の子たちやユウカやノアもエルナの様子には気が付いているようで、彼女たちも何があったのかを聞き出せていないらしい。
「ん……?」
モモメールを起動すると、メールが届いていた。差出人はゲヘナの風紀委員、トリニティの正義実現委員会、ミレニアムのセミナーなどの各学園の治安や運営を担う組織からだった。メールの内容はどれも緊急事態への協力をお願いしたい。詳細については学校で話すと書かれいている。
「これは……」
ほぼ同時に送られてきたメールから推察するとキヴォトスの各地で何か大きな問題が発生したようだ。私はエルナにメールの件について何か知らないかと聞いてみることにした。
「ユウカ先輩とノア先輩からは何も聞いてない。でも、最近忙しそうにしてたのは見たから、何か起きてるんじゃねえかとは思ったけどな。多分、緘口令みたなものがでてるんじゃねえかな」
エルナは少し考えるそぶりをして、そう答える。何となく違和感がある……。嘘はついていないけど、真実は話していないような、そんな感じだ。もっと突っ込んで聞いてみたほうがいいのだろうか……?
「ユウカとノアからは聞いてないってことは、他の人からは何か聞いたってこと?」
「…………いや、他の人からも何も聞いてない」
「そっか……」
「で、どこから行くんだ?」
「一番早く送ってきたのはゲヘナ学園だから、まずはそこから行こうかな」
メールの送信時間は朝の6時くらいだった。他の学園もそれよりは後だけど、大体同じくらいの時間に送られてきている。今回の事態はそれほどに重いということなのか、それともいつもこのくらい朝早くから働いているのか……。私が言えたことじゃないけど、皆は少し働きすぎだと思う。
「んじゃ、行ってらっしゃい。俺様はここで書類整理してるから」
「エルナにも一緒に来て欲しいんだけど……」
「何で? 俺様が行く必要なくねえか? ゲヘナ学園の知り合いなんて1人もいねえんだけど、誰お前って顔されないか?」
「えっと……、一応今はシャーレの所属だからね」
「ふーん、まぁいいけどさぁ……。だけど部外者は出ていってくれって言われたら、その時は帰るからな」
いつも外出する時は、当番の生徒を連れていくことはほとんど無い。基本的には待機してもらうか、長引きそうなときは当番の仕事をそこで終わりにすることもある。それに、こうも一斉に多数の学園から要請があるということは、かなり重大な案件なんだと思う。エルナはかなり博識だし、連れていけば何か気づくことがあるかもしれない。
「おはよう先生」
「おはよう皆」
ゲヘナの風紀委員会と挨拶を交わす。エルナのことは事前に1人連れていくことを伝えておいたので、特に問題なく風紀委員会の執務室まで来ることができた。風紀委員会のメンバーは皆目の下に隈ができており、ここ最近はあまり睡眠時間が取れてい無さそうだった。そして話は本題へと移る。
ヒナがアコにデータを画面に映すように指示を出すと、アコはそれを承諾して執務室のカーテンを閉めるとスクリーンに棒グラフが投影された。下には日付が書いてあり、そのグラフは日付が増えるごとに急速に増加している。
「これはゲヘナ自治区で発生しているとある症状の発生者数を示したものです」
「とある症状って?」
「昏睡者だ。それも原因不明。一体誰が何の目的でしたことなのか、それすらも分からない。全てが謎に包まれている」
続けてイオリは語る。被害者に共通点は全くなく、年代もバラバラで、被害者の足取りもバラバラ。手口すらも不明。被害者の体内から薬物は検出されていないため、少なくとも薬物によるものではないということしか分かっていない。
「先生にはこの事件の解決に協力して欲しいの」
「もちろんだよ」
それにと私は付け加える。この事件はゲヘナだけの問題じゃない。他の自治区からの要請も同じだと推察される。ゲヘナ自治区内だけですでに被害者は2000人を超えている。つまりキヴォトス全土での被害者数は1万人を超えるだろう。こんなことをしそうな輩に心当たりはあるが、目的が分からない。
あいつらは非道なことをする連中だ。でも、意味のないことはしない。ただ眠らせるだけだなんてことをするのだろうか?
「エルナはこの事象について何か気づいたことはある?」
「今ここに出てる情報から判断するには判断材料が少なすぎて何も言えねえな。もっと色んな観点から調べてみねえと」
それからお互いに話し合いながら意見交換を行ったが建設的な意見は特になく、何としても共通点を探し出すと風紀委員会のメンバーたちは聞き込みに向かうこととなった。私たちは他の学園に行って、何か他に情報はないか調べることになった。
やはりというべきか、他の学園から届いていたメールの内容は同じ内容だった。しかも、今の所どの学園も全く手掛かりを掴めていないとのことだったが、ミレニアムでは科学的な見地から色々と調査してみた結果、被害者は皆、レム睡眠の状態にあることと、脳波から『セロトニン、オキシトシン、ドーパミン』などの幸せホルモンが大量に検出されていることがエンジニア部の調査で判明したとユウカから教えてもらった。
あちこちの学園を巡って帰ってきた頃には日は完全に沈んでいた。今日は全く執務仕事をしていなかったので、かなり時間が掛かるのではないかと覚悟していた。しかし、思ったより多くなかったので疑問に思っていると、アユムから連邦生徒会の方でも今回の事件について把握しており、今はそっちの解決の方を優先して欲しいとのことだった。
「お疲れ様、今日も手伝ってくれてありがとう」
「別に、大したことじゃねえ。それに大変なのはあんたの方だろ?」
目の下に隈ができているとエルナは指摘する。
「忙しい身なのは知ってるけどさ、あんまり根を詰めすぎると倒れるぜ? ただでさえキヴォトスでは貧弱な身なんだからしっかりと労われよな。あんたが倒れたらきっと色んな人を悲しませることになるんだからさ」
「そのためにも一刻も早くこの事件を解決しないとね!」
「思ったんだけど……さ」
エルナはそこで言葉を止める。私のほうに真っすぐと視線を向ける。蛍光灯に照らされる赤い瞳が妖しくきらめいた。1秒にも満たない沈黙だがやけに長く感じる。見上げるようにこちらを見ているはずなのに、どうしてか見下ろされているような感じして、息が詰まる。
「今回の事件さ、別に解決しなくてもよくないと思わない?」
「何を……言っているの?」
「ユウカも言ってたでしょ。被害者の脳波から幸せホルモンが検出されたってさ。それってつまり被害者は『幸せな夢』を見てるってことだ、つまりその被害者には見たくない現実があるってことだ。僕たちが事件を解決するということはその幸せを破壊することになる」
「……………………」
反論が思いつかなかった。エルナの言っていることは間違っていない。でも、同時に正解じゃない。このまま放置し続ければ被害者はもっと増えていくだろう。そして最後にはキヴォトスの住人全てが幸せな夢の中で永遠の眠りにつくなんてことになるのだろう。
「それにさ、見てくれよ。これはキヴォトスで起きている事件発生数のグラフだが、昏睡事件が始まってから減少してんだよ。つまり被害者が増えるほど、キヴォトスは平和になっているってことだ」
このペースで被害者が増えていけば、一月もしないうちに事件発生数は0になるだろうとエルナは語る。
「だから、この事件は放置したほうがいい。僕は知ってる。いつも後ろで見て指示を出すことしか出来ないあんたがどれだけ歯がゆい思いをしているのか。本来『大人』である自分の役割のはずなのに『子ども』を戦わせないといけないことにどれだけ心を痛めているのかを」
「そんなことは……」
ないとは言えなかった。エルナの言っている通りだったから。だって私に『戦う』ことはできない。ただ後ろで指示を出すだけだ。ここは『そういう世界』だからなんて理由で納得なんてできるはずがない。いつか私の出した指示のせいで『子どもたち』が傷つくかもしれない、そう思うととても怖かった。
ただ後ろから指示を飛ばしているだけなのに、慕われる自分がたまらなく嫌な存在に思えてならなかった。自分のやっていることはあの『大人たち』と何ら変わりはないんじゃないかとすら思ったこともあった。
「だって、あんたはただ少し子どものことが好きな普通の人間だ。そんな人間がこの世界について何も思わないはずがない。だったら、ここで見ないふりをするのがあんたのすべき『選択』なんじゃないのか? 『子どもたちの幸福』を願うのがあんたの『大人としての役目』であるのなら」
エルナは「どう『選択』するかはあんたの自由だ。でも、僕の示した道を選ぶことを祈ってるぜ?」とそう言い残して部屋から去って行った。私は暫くの間立ち尽くすことしか出来なかった。
ここはとある学生が住むアパートの一室、いつものように部屋でくつろいでいるとピンポーンと玄関のチャイムを鳴らす音が聞こえてくる。
「宅配便……? でも、何か頼んだっけ?」
不審に思いながらも少女はドアチェーンを掛けながら家のドアを開ける。しかし、そこには誰もいない。もしかして悪戯だろうか? 全く、今時ピンポンダッシュをするような人がいるとは、呆れながらドアを閉めようとすると、ドアの前に小さなダンボールの箱が置かれていることに少女は気が付いた。
「なにこれ……?」
少女は一度ドアを閉めるとドアチェーンを解除して、ドアのすぐそばに置いてあったダンボールの箱を回収して部屋に戻ると、机の上にその箱を置いて観察する。
「何の箱だろこれ? すっごい怪しい……。爆弾とか入ってないよね? うーん、でもこのサイズなら大したことはなさそうだし……」
少女はダンボールについているガムテープを剥がして、箱を開けるとそこには金色のリンゴが1つ入っていた。開けた瞬間、リンゴの甘い匂いが部屋中に広がっていく。とても美味しそうな見た目をしているそれを見て少女はごくりと唾を飲む。
「あ、もしかしてこれって今噂になってる……」
食べるだけでどんな願いも叶う果実の噂について、少女は友達から聞いたことがあった。単なる噂話に過ぎない、信ぴょう性の欠片もない都市伝説のようなものだと思っていたのに、まさか本当に存在するだなんて思わなかった。一体誰が自分の部屋の前に置いたかなんてどうでもいい。今の少女の頭の中にはこれを食べたことで得られる栄光しか見えていなかった。
だから、少女は何の疑いもなく、そのリンゴに齧りついた。
「あ……」
それと同時に甘く蕩けるような甘さが口の中に広がっていく。それはまさしく夢心地の気分と言ってもいい。幸福に包まれていくような感覚の中、少女はそれに浸るように目を閉じる。
「まさか、本当にあったなんてねー」
時を同じくして別の少女が金色に光るリンゴを手にしていた。それはブラックマーケットで少女からしてみればそれなりの大金を支払って手に入れたものだ。正直、食べるだけで願いが叶う果実を本物だとは少女も思っていない。それなりにお金はかかったが、話題づくり程度にはなると思ったのだ。それにこの金色のリンゴからはとてもいい匂いがする。
きっとこの果実はどんなフルーツよりも甘くて美味しいのだろう。それを思えば、あれだけの大金を支払うだけの価値は十分にあると少女は思った。
「でも、思ったより安かったなー」
正直、願いが叶う果実と言うくらいだから、どんな法外な値段を付けられているのだろうかと思っていたが、いざ蓋を開けてみると、少女でも頑張れば手に入る程度の金額だったことはとても驚いた。まあ、だからこそ偽物だろうという確信が少女にはあった。
「あ、そうだ折角だし。あいつら誘って食べてみようかな~」
少女はスマホを取り出すと、グループに「例のブツを手に入れた」とメッセージとともに金色に光るリンゴの写真を送るとすぐに返信がきた。メッセージの内容はマジ? とかもしかして例の都市伝説のやつ? だったりだ。ある程度の承認欲求が満たされた少女は折角だからみんなで食べないかとメッセージを送る。
少女を賞賛するようなメッセージが返ってきたので、少女はすかさず、その代わり少しはお金を払ってよ~! これめっちゃ高かったんだからとメッセージを打ち込むと少女は家に戻った。
「それにしても本当に美味しそうだなぁ……」
少女は金色に光るリンゴを焦点の合わない瞳で見つめながら歩く。本当は今すぐにでも食べたいが、それをこらえる。だからこそ、少女は全く気が付かなかった。
どうして、ブラックマーケットの売人は金色に光るリンゴに手を付けていなかったのか?
どうしてブラックマーケットが恐ろしく静かだったのか?
だけど少女はそんなことには気が付けない。
それに気が付いていれば、少しでも不審に思っていれば、結果は変わったかもしれない。だが、そうはならなかった。
ただ1つ言えることがあるとすれば。
少女と、その友達の夢は叶った。それだけである。
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いつもありがとうございます!
僕が思うに、外の世界からまともな感性を持ってる人間なら子供が戦うことに、心を痛めてないわけがないんですよね。どこまでも『子ども』の味方でありたいのに、その『子ども』を戦わせている自分って……ってなりそう。
そうでないとアレにはならないと思うんですよね。
バッドエンドIFって書いたほうがいいですか?
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いる
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いらない