神秘を得た代わりに○ん○を失ってしまったゲマトリアのクソガキ構成員が『先生大好き勢』になる話 作:プラハ
私は自分がすべき『選択』について考えていた。しかし、考えている間に眠ってしまっていたようで、窓の外からは朝の陽ざしが差し込んできていた。結局のところ『答え』は見つからなかった。エルナの言っていることは間違っている。
だけど、例えばキヴォトスの全住人が幸せな夢の世界に落ちてしまえば、もう誰も泣かなくていいし、傷つかなくていい世界になるだろう。そんな世界を私は間違っているとは思えない。
ドアをノックする音がする。返事をするとエルナが部屋に入ってきたので、おはようの挨拶を交わすとエルナは『答え』は決まったか? と問いかけてきたので、私は首を横に振る。
「エルナの言っていることは多分、間違ってると思う。でも、正しくないとも思えない。だから、私は見極めようと思う。この事件の進む先に『私の望む世界』があるのかどうかを」
「ふーん、そっか……」
エルナは少し残念そうにそう言った。
「それにこの事件の主犯の目的が分からない以上はどちらにせよ無視はできない。私が『選択』するのは全てが明らかになってからでも、遅くないと思うから」
「ま、それもそうだな。で、今日はどうすんだ?」
「ひとまず、ゲヘナ学園に行こうかなって思ってるよ。昨日の聞き込みの結果も聞きたいからね」
私がそう言うとエルナは出発の準備をはじめる。事件解決には消極的な態度を見せたのでついてきてくれないのではと思っていた。エルナは私が見ていることに気が付いたのか、何してんだと半目で視線を返してきたので、私は「だって、ついてきてくれるとは思わなかったから」と言い訳を返した。
「昨日は無理やり付き合わせたのに?」
「うっ……それは……。でも、やりたくもないことはさせたくないというか……」
私がそう告げるとエルナは呆れた表情を浮かべて、大きくため息をついて、別にあんたがどっちの道を選んでもいいし、それに自分も結末をきちんと最後まで見届けたいからと言っていた。
「それにどうせ最後にはみんな、幸福な理想郷で永遠に暮らすんだから」
とても小さな声でエルナが何かを呟いたような気がしたので、何か言ったのかと尋ねるとエルナはニッコリとほほ笑んで何にも言ってないと否定した。微妙な空気になってしまった。
「そ、そういえば朝ご飯は食べた?」
「食べてない。ていうか俺様、朝は食べない派だから」
「駄目だよ! 朝はちゃんと食べないと!」
「あんた人のこと言えんのかぁ?」
正論に正論で返されてしまった。忙しくて食べる機会があまりないので、朝食は食べないことが多いし、仮に食べたとしても栄養機能補助食品ばっかりだ。こんな生活を続けているとまたあの子に怒られそうだ……。そう思ったところで、私はふと思い立つ。
「なら、一緒に朝ご飯を食べない?」
「別にいいけど、どこで食べるんだよ」
「それは着いてからのお楽しみかな」
私がそう言うとエルナはそう……とだけ返した。相変わらず淡泊が過ぎる反応に少し心が折れてしまいそうになる。エルナからはそれなりに『信用』される程度には仲良くなれたと思っている。でも、『信頼』までには至れていない。多分、今のままだとこれ以上仲良くなることは出来なさそうだ。
「それじゃ行こうか! しゅっぱーつ!」
「……………………」
エルナを助手席に乗せて車を発進させる。ゲヘナ学園へと向かう道すがらエルナはずっと窓の外を何かを懐かしむようにぼーっと眺めていた。
ゲヘナ学園の第8学生食堂に着く。朝早くに来たということもあって、いつもより少し静かだ。
「お待たせしました~」
「わざわざ持ってきてくれてありがと……う?」
「へー興味深いねこれは……!」
ジュリがわざわざ朝食を持ってきてくれたのでお礼を言うと、私の前に置かれたのはパンケーキと思われる物体だった。全体が紫色になっており、緑色の液体が垂れ流され、手足のような触手がうねうねと動いている。エルナはパンケーキのようなものを興味深そうに観察したかと思うと、手に持ったフォークで目にも留まらぬ速さでパンケーキのようなものを一刺しする。するとびくびくと動いた後、パンケーキのようなものは動かなくなった。
「結構美味いな」
「「えっ!?」」
「ほ、本当ですか!?」
エルナはフォークを器用に使ってパンケーキのようなもの切り分けて顔色1つ変えることなく食べていく。その表情には笑みが浮かんでおり、とても美味しそうに食べている。ジュリはそんなエルナの様子をキラキラとした目で見ている。
「結構癖のある味だけどな……。それにしても感服したぜ……。ゲヘナ学園は自由と混沌が学風だって聞いてたが、食べるものまでそうだとは……! これってゲヘナの伝統的な朝食か何かなんだろ?」
「違うけど!? って体は大丈夫なの!? お腹痛くなったりしてない!?」
「別に何の問題もないけど? あ、おかわりとかある?」
「おかわりですね! 分かりました! すぐに作ります!」
「調理風景とか見せてくれない? これどうやって作ったのかすっげー気になるんだわ」
そう言うとエルナはジュリと一緒に調理室の方へと向かって行った。そんな二人の様子を私とフウカは見つめた後、死んだ目をしているフウカと目が合った。それから数秒後、意識を取り戻したのか、ハッとした表情を浮かべる。
「ジュリが運ぶ前は普通のパンケーキだったんです」
「えっ!? じゃあ、どうして……」
「いつもはこんなことにはならないはずなんですけど……。あっ……!」
フウカには何か思い当たる節があるらしい。フウカは少し言い辛そうにしながら、もしかしたら、メープルシロップをかけ忘れたかもしれません……と答えた。私とフウカの間に何とも言えない微妙な空気感が漂っている。私の前にパンケーキのようなものがびったんびったんと音を立てて動いている。私は意を決してフォークを握りしめると、パンケーキのようなものに照準を合わせた。
「先生!?」
「エルナは美味しいって言ってたから……多分、いやきっと……大丈夫だと……」
「私はやめた方がいいと思うんですが……」
「ううん、折角フウカが作ってくれたのを残すなんてできないよ……」
「先生……」
私はパンケーキのようなものにフォークを突き刺して口に運ぶ。すると冒涜的な味が口の中に広がっていく。意識を失いそうになるが、私はそれを気合で乗り越えて全部食べきった。前に食べた時よりも、明らかに成長を感じながら、私は意識を手放した。
爆音で体が飛び跳ねる。目を開けると、フウカの顔が目の前にある。どうやらフウカが膝枕をしていてくれたらしい。私はフウカに礼を言おうとすると、フウカの目が死んでいた。
「奇遇ですね。先生」
「おはよう、みんな。今日はどうしたの?」
そう言うとハルナは待ってましたと言わんばかりに表情を輝かせて、こちらに近づいて来る。私はフウカの太ももから体を起こして、話を聞くことにした。
「じつは、最近食べると願いが叶う果実があると言う噂を耳にしまして」
「食べると願いが叶う……?」
「ええ、まあ私は効果には興味がありませんが、味には興味があります。聞くところによるとかなり美味なのだとか。これはもう美食研究員として調べないわけにはいかないでしょう?」
「ただその噂少し変なのよね」
ワクワクとした表情のハルナとは裏腹にジュンコは微妙そうな表情を浮かべている。気がかりなことがあるらしく、彼女たちがその噂について色々調べた結果、実際に存在することは判明したのに、それを食べた人が一人も見つからないのだと言っていた。しかも、それを手に入れようとした人の連絡が急に取れなくなっている。
「その噂が出回り始めたのっていつから?」
「う~ん、正確には覚えてないんですけど、確かここ1~2週間くらいだったはずですね~」
この噂と今回の事件は全くの無関係ではなさそうだ。少なくとも調べておいて損は無いように思ったので、私はこの噂について調査が終わるまでは口にしないほうがいいと告げると、ハルナは不満げながらも納得したのか、分かりましたと言った。
「最近食堂に来る人が減っていたのはそういう理由だったんですね……」
「そういえば、隣のクラスが学級閉鎖になってた!」
思い当たる節があるのかフウカとジュンコがそう話す。いつもより静かだと思ったのは、朝早いからではなく、登校する生徒が減っていることが原因らしい。暗い面持ちのフウカに安心して欲しいと告げて、は給食部と美食研究会のメンバーに別れを告げて、風紀委員会の部屋へと向かうことにした。
風紀委員会の部屋へと向かう道すがら私はエルナにさっき聞いた手掛かりのことを話す。
「食べるだけで願いが叶う果実ねぇ……」
「うん、ブラックマーケットで取引が行われているらしいんだ」
「ふーん」
そう言えばエルナはジュリの作った料理を美味しそうに食べていたことを私は思い出した。しかもおかわりまでしていた。しかし、エルナの体調に変調は見られない。観察を続ける私を訝しんだのか、エルナが何? と聞いてきたので、私は本当に何ともないのかと聞く。
「別に体に異常はねえけど? 毒物は入ってなかったし、まだ胃袋の中で動いてる感じはするけど、普通に食べられるしな」
「それは大丈夫とは言わないんじゃ……」
「あん? 何言ってんだあんたは……。別に喉が焼けるわけでも、臓器が腐り落ちるわけでもないんだしさ」
「それは最早、料理とは呼ばないんじゃ……」
何てことを話しているうちに私たちは風紀委員会の部屋までたどり着いたので、ドアをノックするとどうぞとアコが言ったので部屋に入ると、非常に疲れた表情を浮かべている風紀委員会のメンバーがいた。ヒナが来客用のソファーに座るように言ったのでそこに座る。
「まずは昨日の調査で判明したことを報告するわ。アコ、先生に資料を渡してあげて」
「承知しました。では、先生こちらの資料を」
アコから資料を貰うと、そこに書いてあったのはさっき私が知った事実だった。ヒナは被害者のスマートフォンの会話履歴を調査した結果、被害者のほとんどが昏睡状態に陥る前に『食べると願いが叶う果実』を口にしていることが判明した。原因が把握していない被害者もたくさんいるが、恐らくはこれで間違いないと報告した。
私はとある『噂』が出回っているということを美食研究会から聞いたことを話すとヒナは頭を抱える。
「ただ、問題は『何故』首謀者はこんなうわさを流布したのかが分からないということ」
「これだけのことをしてるのに、何の動きも犯行声明もないのは変だ」
「そこで行き詰ってるんです。首謀者の目的が分からない以上は対策のしようがありませんし……」
ヒナは非常に疲れた表情で、仮に例の果実に対して、例えば警告したとしても興味本位で手を出す生徒たちが現れる以上、被害者が0になることは絶対にないと断言する。その点については私も同意見だ。私はエルナに首謀者の目的について尋ねる。
「首謀者の目的? まあ普通に考えるなら目的はもう達成しているとかじゃね?」
「どういうことだ?」
「例えば、誰か眠らせたい人がいて、それを隠すために他の人たちを巻き込んだとかさ。ほら、よく言うだろ? 木を隠すなら森の中ってさ」
私は妙に説得力のあるエルナの言葉に納得した。確かに目的がすでに達成されているなら、もう何もする必要はない。それこそブラックマーケットで流通させれば、あとは人の手で勝手にキヴォトス中に拡散していくだろう。だけど、何か少し足りないような気がする。
本当の狙いを隠すためなのであれば、あまりにも度を越えている。エルナの予想する目的は正しいような気がする。でも、首謀者の目的はそれだけじゃない。恐らくはさらに上の目的があるように思えてならない。それを知らない限りはこの事件を解決することは出来ないだろう。
「ブラックマーケットに行こう」
「そうね。そこにいけば首謀者に繋がる手掛かりが手に入るかもしれないわ」
「『例の果実』が手に入れることができれば昏睡状態の治療するための情報が手に入ると思います」
こうして情報交換は終了し、これからブラックマーケットへと向かうことになった。目的は『夢の果実』を入手すること、それと首謀者の手掛かりをつかむことだ。しかし、もうすでに事態は首謀者すら想定していない事態へと発展しようとしていることに気づくことは誰もできなかった。
ここはミレニアム自治区内に存在するミレニアム最先端医療技術センター。キヴォトスで最も大きい敷地面積を誇るその施設では、様々な最新医療技術が日夜研究され、多くの患者たちの命を救っている。その中でも特に重篤かつ余命の少ない患者が集められる治療棟、そこで眠り続ける1人の患者がいた。
「それにしても変ですよね。急に昏睡状態に陥るなんて……」
「でも、私はきっとこの方がいいと思うわ」
「そうですね。死に怯え続けるのはこの子にとってはとても辛いでしょうから」
「何も分からないまま死ぬ方がきっと幸せだもの」
眠り続ける茨姫ネムリの世話をしながら、看護師たちはそう話す。彼女たちにとって茨姫ネムリは『罪の象徴』だった。何せ、何故彼女の命が蝕まれつつあるのか全く分からなかった。体に、遺伝子には全く異常が見当たらない。それなのに、茨姫ネムリの体は穏やかに、緩やかに死へと向かって行く。
患者の『死』を見たことはこれまで何度もあった。だからこそ、彼女たちはいつだって戦ってきた。少しでも長生きできるように、少しでも悔いのない最期を迎えられるように戦ってきた。だが、茨姫ネムリには何もできなかった。どれだけ、最新の治療技術を施そうとも、何も変わらなかった。
茨姫ネムリの治療は不可能だった。茨姫ネムリの心に寄り添うことすらできなかった。
「ごめんなさい。私たちにもっと……」
「先輩……」
眠り続ける茨姫ネムリの頬に優しく触れて、謝罪の言葉を漏らす。眠り続ける茨姫ネムリに少しでもいい夢が見られるようにと看護師は祈る。そんな時だった。
「先輩!」
「どうし――!? 何よ……これ……」
茨姫ネムリのベッドから突如として茨が這う。一体何が起きているのか理解不能だった。しかし、それでも彼女たちはプロだ。すぐに冷静さを取り戻すと、後輩の看護師は部屋から飛び出して人を呼びに、先輩の看護師は部屋に残ってこの部屋にある通信装置を作動させようとした。
しかし、通信装置は作動しなかった。この部屋の電源が落ちてしまったらしい。先輩看護師は緊急連絡用の通信端末を使おうとして驚愕する。
「圏外……!? 嘘でしょ、ここは山奥でも何でもないのよ!」
どんどん成長を続ける茨は部屋の半分を覆いつくす。先輩看護師は自分の体に傷がつくことも厭わずに茨姫ネムリの方へと向かう。
「予想よりも茨の成長がずっと早い……! 早く茨姫さんを外に連れていかないと……」
「駄目よ、そんなことしちゃ……」
「誰!?」
先輩看護師と茨姫ネムリ以外、誰もいるはずのない場所から第三者の声がする。さっきまで誰もいなかったはずの場所に1人の少女が立っていた。腰のあたりから蝙蝠の羽を生やす扇情的な衣装に身を包む甘く蕩けるような声の主はほほ笑みながら先輩看護師へと視線を向ける。その様相はまさしく『夢魔』と呼ばれる存在に非常によく似ていた。
「お嬢ちゃん、今ここは危ないの。だから早くお逃げなさい」
「うふふ、私が危ない存在だって分かってるくせにぃ」
夢魔の少女は官能的にクスリと笑う。その仕草に先輩看護師は少しの間だけ我を忘れそうになる。恐らくはこの夢魔の少女がこの事態を引き起こした存在であることは明白だった。現に茨の生成スピードが上がっている。茨は部屋中を埋め尽くし、先輩看護師と茨姫ネムリは部屋に閉じ込められた。
「貴方は何者なの?」
「私? そうねえ私たちを総称する名前はCODE:XV。顕現するは堕落の夢。
「貴方の目的は何?」
「もう! いけずなんだから!」
エスピナは蠱惑的にほほ笑んでそう言うと、期待通りの反応をしなかった先輩看護師にぷんすこと怒ると、再び蠱惑的な笑みを浮かべて先輩看護師の耳元まで顔を近づける。
「私は鏡、人の望みを映す魔鏡の乙女。私の産まれた理由はね、人の望みを読み取って甘い夢の中に堕とすことよ」
「何を……!」
「あら? さっきまでそっちの方が幸せだって言ってたじゃない」
先輩看護師が動揺すると、その周りに茨が這う。体の身動きが封じられ、エスピナと先輩看護師の瞳が合うと、エスピナは蠱惑的にほほ笑んで、そして口を開く。
そしてしばらくの時間が経つと、頭を抱えている蹲る先輩看護師の姿がそこに在った。それをどこまでも愛おしそうに熱い視線を送るエスピナの姿があった。
「人は皆弱いものよ。誰だって
エスピナは先輩看護師の顎に手を添えて軽く持ち上げると濃厚で甘く蕩けるようなキスをした。一切の抵抗をすることなくそれを受け入れている先輩看護師の口から甘い声が漏れる。そしてエスピナがキスを終えると先輩看護師はバタリと地面に倒れ込む。その表情はどこまでも穏やかで幸せに満ちていた。
「さて、次は誰にしようかしら?」
夢の茨が現実の侵食を開始する。産まれた目的を果たすために領域を広げていく。人の望みを映す力を持つエスピナがミレニアム最先端医療技術センターを陥落させるのにそう時間はかからなかった。
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