神「オマエ転生さしてやるからちょっと頑張ってこい、ちなみにチートはナシじゃ」 俺「は?」   作:ND内

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 気が向いたので我らがエビワラーさん目線の過去〜現在譚となります。

 頭は良いけどマサオと意思疎通しているわけではありません。


閑話 先輩との出会いは割と投げやりだった Sideエビワラー

 

 

 俺はヒーローに憧れていた。

 

 バルキーとして産まれ、三種の進化系に進化している数多くの先輩方を見ながら、いつかかっこいいヒーローになれたら…という情景を胸に抱いて体力を付けたくて走っていた。速くなくとも、止まらずに、毎日、一歩一歩しっかりと走っていた。

 

 当時、道場でヒーローごっこを楽しむ少年がいた。彼は仲間を率いて、悪役をしていた少年を成敗する喜劇を楽しんでいた。

 …正直俺は彼らの関係などはわからなかったが、やり返すこともできない悪役の少年に多少の苛立ちを感じていた。

 

 そんな日常が過ぎ、少年の一人が旅立つこととなった。

 彼はかの日にヒーローごっこで仲間を率いていた少年だった。

 

 「よろしくなバルキー!お前を最高のカポエラーにしてやる!」

 

 彼は迷いのない真っ直ぐな目で、俺にカポエラーの影を重ねた。

 俺は真っ直ぐな彼の期待に応えたいと思い、気合を入れて返事をした。

 

 …今思えば師範のあの時の目は心配していたんだろうな。

 

 

 俺はその日から少年と町を旅立った。様々なポケモンと戦い、『タフなバルキー』と様々な人間に言われた。憧れていたヒーローに近づくために今まで体力を付けてきた甲斐があったってものだ。

 

 そんなバトル漬けの順調な日々が続き、彼と初のジム戦を目指して森のポケモンとバトルしていた。

 

 

 ーその時に倒した一匹のビードルが、黄色い糸を空に向けて吐いた。

 …それから程なくして、森の奥からスピアーの大群が彼を襲いに向かってきた。

 子が親を呼ぶ。動物の自然の摂理だ。これも含めて修練なのだろうと思い、彼に指示を仰いだ。

 

 しかし、少年()は群れに恐れをなし、木の裏で蹲っていた。

 

 更に雨も降り始めたが、俺は絶望しなかった。少年が立ち直るまで、主人である少年を守ろうと鍛えた足腰を活かして、必死に守り続けた。

 

 

 

 …もう何時間守ったかわからない。しかし、必死の抵抗のお陰かスピアー達を追い返すことに成功した。耐え抜いたことを少年に褒めて貰おうと木の裏で蹲っていた少年のもとに向かった。

 

 褒めてほしかった。ただそれだけだった。

 「お前ッ!!なんで勝手にエビワラーに進化してるんだよッ!!」

 

 ー少年から飛んできた感情は、喜ではなく、怒だった。

 

 最初は理解できなかった。理解する間もなく、少年は俺をモンスターボールに閉じ込め、開けることなく町に戻った。

 

 次に解放された時には、俺は道場にいた。

 

 どうやらカポエラーになれなかった、だから捨てられたらしい。俺はスピアーの群れと戦っていた間にエビワラーに進化してしまっていたみたいだ。

 

 少年は自分勝手だった。しかし、その少年の心を守れなかった。故に、期待に応えられず、捨てられた。

 

 悲しいのは悲しかったが、この悲しみをどう表現すればいいか分からなかった。

 捨てられてからしばらく悲しむ表現を試行錯誤していたが、段々疲れて、俺の中のヒーローは腐って行った。

 

 

 

 腐っている間にだいぶ時間が経った。

 突っ返された時はまだ少し小さかった師範の娘がポケモンを持てる年齢に達した。

 

 色々思考は巡らせたが、俺にとってのヒーロー像など、バラバラに崩れ落ちており、今は緑茶を飲み、そのほろ苦さと渋さから、現実への理不尽を己の中で無理矢理納得させることが、日常だった。

 

 そんなある日、師範と娘さんが全く見たこともない青年を連れて道場に帰ってきた。

 青年は、背が高く、師範ほどごつくはない体格で、常に無気力な表情でのらりくらり、だらだらとした雰囲気を漂わせていた。

 

 今まで表現を思案することが多かっただけに、様々な人間を見てきたが、彼のような人間は初めてのパターンで、どこからどう見ても不思議でままならなかった。

 

 珍しいものを見たと思い、しばらく考え込んでいると、これまた珍しく師範のパシリが駆け込んできた。

 

 今日は嵐でも起こるんじゃないか?

 

 そんな微妙な不安を心の中で半信半疑な気持ちで抱きながら、ぽつぽつと歩き始めた。俺からすれば、何の変哲もない、唯のなんとなくである。

 

 「おぉ、昼に歩くのは珍しいな。エビワラー。」

 

 師範に出くわした。

 確かに今思えば、最後に昼に歩いた記憶がいつか思い出せない。昼寝して夜中に散歩するのが日常になっていた。

 

 「どうした?あいつが気になるか?」

 

 師範は俺の思考を遮り、青年の事を俺に尋ねてきた。個人的には凄く気になるので、のんびりと頷いた。

 

 「…そうか。わかった。」

 

 師範はそれだけ言うと、部屋に戻った。

 …え?教えてくれる訳ではなかったのか?

 

 色々思うことはあったが、あの師範は即断即決当たり前の様な人だ。一々振り回されてたら心臓と胃が500は足りない。

 

 如何せん面倒なのでそこへの思考は放棄して門の近くのため池の側で日向ぼっこでもしよう。昼寝に良さそうだ…。

 

 

 …師範に叩き起こされ、腕を掴まれ連れて行かれた。

 その先には、青年がいた。どうやらもう出発するらしい。

 

 「こいつな、トレーナーに捨てられたんだよ。バルキーの時にカポエラーに進化させようとして失敗したって言うくだらねえ理由でな。」

 

 

 

 「・・・」

 

 青年は無気力の様な仏頂面だったが、その時だけ眉間に少しだけシワが寄った。すぐに戻ったけど。

 

 「よかったら連れてやってくれねえか?言っちゃあなんだが、このエビワラーはトレーナーの勝手でくすぶらせて良いようなタマじゃねえんだ。」

 

 師範、一人で突っ走ったのに偶にはかっこいいことしてくれるじゃないか。ほんの少しだけ見直した気がする。

 気になるのなら己の眼で確かめてみろってことだな。心技体の心に通ずる部分だ。師範の口癖だから覚えてたぜ。

 

 その時の間が物凄く長く感じた。緊張していた訳じゃないが、何というか、凍てついた空気の中で永遠みたいな言葉が近いかもしれない。そんな感じのを昔、道場のテレビで見た。

 

 「…わかりました。」

 

 その言葉の後、仏頂面の青年の口元が、初めて動いた。

 

 「…エビワラー、良かったら今お前が過ごしている惰性、俺と貪ってみないか?」

 

 …言葉とは裏腹に凄く爽やかな笑顔だった。見たものはいい笑顔と言う様な表情である。

 しかし、その表情に俺が感じたのは、悍ましいほどの冷たさであった。

 

 「ワラー…。」

 

 俺は恐怖のあまりに、珍しく己の溜め息のコントロールを間違え、大きな声を出してしまった。

 

 「大丈夫だ。無理は求めない。強くなりたいなら話は別だけどな。」

 

 青年は前半まで冷ややかな心情を感じさせたが、表情の変化と共に徐々に熱さを露呈させる。

 

 そして青年は、俺の目の前にゆっくりと拳を突き出す。

 

 「一緒に来る気があるなら、俺の拳に誓いを交わそう。お前がどうなりたいか、そんなもん俺には今のところ一切合切わからんが、俺はなるようになるし、掴みたいものは意地でも掴む主義だ。どうする?」

 

 不思議と青年の言葉に嘘は感じられなかった。その言葉を受けたとき、彼の中に強い芯を見た。もしかしたら、彼はかつて俺が憧れたヒーローのような人間なのかもしれない。

 

 「…そうか、よろしくな、エビワラー。」

 

 俺は拳を突き合わせた。

 …彼は、その時初めて、とても穏やかな声色で俺に寄り添った。

 

 俺は、青年の芯に期待した。

 

 

 …蓋を開けてみれば青年は常に無気力だった。できる限り無駄な労力を省いて、楽に楽に過ごそうとするような人間だった。

 

 別にそれが悪いとは思わない。実際に彼は自分自身に甘い分、周りにも期待せずに等身大で見た上で甘く接する。

 

 このマサオという人間は苦労してないように見せているが、他者や俺との会話の節々では、一瞬だけ極稀にとても苦々しい目になったりと見れば見るほど分からなくなる。

 

 先程も、頂いた缶コーヒーが俺の手からすっぽりと滑り落ちてしまって、悲しみに暮れていたところをゴローンに追いかけ回されたところだ。

 

 流石に申し訳ないと思うが、青年は俺を怒らない。怒るどころか、『まぁ、あるよね。』みたいな感じの、それは仕方ないから切り替えようぜ。と言わんばかりの振り切った諦観的目線で何一つ気にしていなかった。この人間の沸点が本当にわからない。

 

 そんなこんなで野営地を探していたら、傷を負って弱っているイーブイを見つけた。

 

 青年はすぐさまイーブイの状態を確認し、命の危険がないことに安堵すると、俺に声をかけた。

 

 「エビワラー、オニドリルとヘルガーには気をつけろよ。」

 

 唯それだけの言葉だったが、俺にはその時の言葉にほんの少し怒気を感じた。

 

 それは声の調子だけだったが、青年も怒る時には怒るのだと、一瞬で理解してしまうぐらいの鋭い棘を感じる怒気だった。

 

 青年はその後、迅速に処置し、イーブイの治療を終えた。

 今更になって思ったが、この青年は本当に何でも出来るのか?と思うほど、どんなことも手慣れていた。

 

 

 「エビワラー、すまん、残業っぽい。」

 

 青年は鳴き声だけである程度察知したのか、呆れた声で残業、と言い放った。深い意味は理解できないが、どうやら向こうのモンスター達を俺もどうにかしなければならないのだろう。というのは理解できた。

 

 「エビワラー、気持ちはわかる。奴らにはお灸を据えなければならん。これが終わればゆっくり休もう。重役のように。」

 

 青年は言葉と語気はおちゃらけて見せていたが、その目にははっきりとした意志を感じるものがあった。

 

 「ワラワラァ!(やってやらぁ!)」

 

 ならば俺も、全力で応えるべき!

 

 「エビワラー、お前、あいつらに勝てる自信ある?」

 

 それは唐突だった。負けない覚悟はあったが、確実に勝つ自信は俺にはなかった。

 

 「ワラ?ワラー、ワラワラァ…。(っ!?今の俺には…ない…。)」

 

 悔しいが無いものは無い。ここに在る全てを守れる自信なんて俺にはない。

 

 「お前自信なさそうだなぁ…。そりゃそうだよなぁ、レベル20だし。

 

 自信のなさは彼にも伝わっていたみたいだ、しかし彼はまた怒らない。

 

 「だけど俺ならお前を勝たせてやれると思う。」

 

 …衝撃だった。彼は自身の裁量になんの疑いも持たなかった。楽観的といえばそれまでだが、そうじゃない。彼からは威厳と言う名に相応しい絶対的な自信の圧力を感じた。それ故に、彼に対して疑うこと自体が失礼なことだと理解させられてしまった。

 

 更に彼は言葉を続ける。

 

 「嘘じゃないさ。エビワラー、お前は足が遅い。だが早く走れないだけで、持久力もあれば足腰もえげつないのはさっきの走り方を見ていればわかった。」

 

 …なんてやつだ。彼はさっき走っただけで俺の自慢のタフな足腰を見抜いたのだ。

 一体どんな目持ってたらそんなことを見抜けるんだか…。

 

 「エビワラー、今のお前の技構成に俺の知ってる動きを組み上げれば、ーーーやつらに勝てる。」

 

 もう驚きの連続だった。彼は種族の違う俺たちポケモンにも動きを教えられると言うのだ。

 

 「一緒にやるか?エビワラー。」

 

 「ワラワラァ!!」

 

 俺は彼に、生まれて二度目の信頼と言う名の賭けをした。

 

 

 

 そこからはあっという間だった。

 

 彼の教え方はどこまでもわかり易く、また徹底的に効率的な修正をその場で入れてもらえるので、すぐに習得し、練度を高められた。これが彼の知識のほんの一端というのだから、彼の凄まじさの底が全く見えず、恐怖すら感じた。

 

 そして野生のポケモン達に実践もした。嘘のように相手に攻撃が入りまくり、自分の手を何度も疑った。

 

 

 彼の異常性はわかったが、それよりも、彼に見た英雄の姿を、守れる強さを強く感じた。

 

 彼のことはまだ知らないことだらけだが、俺の人生を預けて、何かが見える気がした。

 

 これから何卒頼む。主人(マスター)





 マサオが思ってるよりエビワラーさんは真面目です。

 ※ただ、腐っていた時期の動作が染み付いて哀愁を感じるのは事実らしい。
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