がんばれ、クライム君   作:ナハトAB

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変化

 

(一体、彼に何があったと言うのだ……)

 

リ・エスティリーゼ王国の王国戦士長である、ガゼフ・ストロノーフは心底そう思わざるを得なかった。それほどの変化が、クライムには起きていた。

 

――まず、彼から感じ取れる雰囲気がガラリと変わっていた。どこまでも真っすぐであった彼の瞳は、以前よりも激しく燃え上がる“炎”を幻視させられるほどに気迫さを持つ瞳になっていた。

 

――次に、手合わせする際の“構え”。以前の彼とはまるで何もかもが違うほどに、“戦士”たる者の覚悟がひしひしと強く伝わるほどの構えだった。手合わせの様子を見る周囲の兵士達は、さほど違和感を持たなかったようだが……実際、こうして相まみえたガセフとしては、顕著にと言っていいほどに違った。

 

「―――<斬撃>」

 

――最後に、<斬撃>。本質が、明らかに以前とは違ったモノになっている。

 

確かに<斬撃>は、剣術を修めている者であればほとんどが習得している武技と言えよう。

 

だが、今のクライムが繰り出す<斬撃>は、明らかにオリジナリティがある。

 

彼の<斬撃>を受け止めた際、気を抜くと自分が吹っ飛びかねない、強い突風がこの場に吹く。

 

あまりにもの威力に風が吹いた……とも考えられるが、これは違う。

 

<斬撃>に、風という属性が乗っているのだ。

 

自分でさえ、気を抜いたら体勢を崩しかねない……並程度の兵士ならまず耐えるのは不可能だろう。

 

今はただ相手の体勢を崩すという程度の威力でしかないが――もし、これが魔法と言えるレベルの威力だったら紛れもなくクライムだけが使える、オリジナルの武技となる。

 

(最早、ここまでとは……ッ)

 

ガゼフは、ただ驚愕していた。こうして手合わせするだけで嫌という程に分かってしまう。

 

手合わせという形でやっていたつもりが、いつの間にか命のやり取りに近いモノになる――いや、()()()()()()()()()()()()()()を彼からひしひしと感じさせられる。

 

こんな心境になるのは、かつての相手――ブレイン以来のこと。

 

間違いなく、今のクライムは“強者”。たとえまだ実力が追い付いていなかろうと、どこまでも食らいついてくるその姿勢は、紛れもなく強者そのものだった。

 

――ガセフは、一種の感動を覚えていた。クライム本人が、己の才能に限界を感じており悩んでいるというのを知っている身としては。どうアドバイスをしようとも、その悩みを解決するのは本人次第。

 

クライムと同じく命を投げうってでも守るべきものがいる同士、何かと気を掛けてきたガセフだからこそ。

 

(クライム……お前は……)

 

目覚ましいほどに成長を見せてみせた、クライムを心から称讃する。

 

―――彼は、クライムは……一つの壁を打ち破ったのだ、と。

 

(これは――私もうかうかしてられんな)

 

 

 

 

「あぁ……クライム」

 

――一方、リ・エスティリーゼ王国の王城。その中にある一室にてラナーは少年の名を呼ぶ。

 

「クライム、クライム」

 

まるで壊れたスピーカーのように、ただそれだけのみを繰り返してそう声に出す。

 

「クライム……」

 

ラナーにとって、この世界は()()()()()()()()()()()()()。天才、とそう一言だけでは済まされないほどの知能を持った彼女にとっては、周囲の者がひどく幼稚にさえ感じる。戦闘能力こそ持たないが、精神という一種の域では“精神の異形種”と言い換えてもおかしくはないほどのものを持つラナー。

 

だが、真に“精神の異形種”にならずにその一歩寸前で留めていられるのは――クライムという存在があるからこそ。

 

色褪せたこの世界に、唯一といってもいいぐらいに鮮やかな色を映し出してくれている存在――それがクライムなのだ。

 

クライムと生涯共にできるのなら、自分が生まれたこの故郷すら滅ぼしててもその機会を掴む。それほどにラナーにとってクライムが最優先なのだ。

 

そんなクライムに――変化があったというのは最早語るまでもない。

 

誰よりも、それすらも人生で一番関心を向けている存在だからこそ、誰よりもいち早く気づけた。

 

「クライム……」

 

一室にある大きな窓から顔を覗き、外に目を向ける。当然ながらそこにクライムはいない。今頃クライムは稽古をしているのだろうから。

 

「あぁ、クライム、クライムっ」

 

彼女の容姿は、世界のどこを探しても引けを取らないほどの美貌さを誇る。だからこそ、今恍惚としている、艶めかしさが滲み出ている彼女を目にしたならば思わず息を呑むほどのそれ。

 

自分の変化などとうの昔に分かっている彼女は、己の激情を収めるために――小さくため息を吐く。

 

「ふふっ」

 

その次に、頬が緩む。クライムに変化が起きた。それも()()()()()()()()()()()()()

 

今のクライムは、まさに“姫を護る騎士”そのものだ。

 

もちろん以前の彼も良い。今の彼も良い。比較などできようもない。

 

あぁ、彼に一体何があったのだろうか。他の誰かが彼に変化を起こさせたのか。少なくともラナーの思いつく限りでは、そのような要素などなかった。

 

――まさしく今のラナーにとって、クライムは“未知”だ。

 

「あぁ……貴方がいけないのよ、クライム」

 

最早――異常と言える知能を持つラナーにとって、“未知”の味は凄まじいもの。それだけならずそれが自分が最も関心を持つ存在とくる。

 

――ますます興味が溢れんばかりか、一種の“情愛”を彼に向けるのは無理もない。

 

――私を見つめるその眼が愛おしい。

――私を護ろうと努力する彼が愛おしい。

――私の苦痛に同情してくれている彼が愛おしい。

――彼の存在自体が愛おしい。

――待ち焦がれるこの時間が愛おしい。

――彼と共にあれるこの瞬間が愛おしい。

 

――クライムというそのものが、愛おしい。

 

今のクライムからは到底有り得ないだろうが――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その時の彼は一体どういう表情をして。一体どういう心境なのだろうか。

 

無理やりに事に及んでしまい、罪悪感に苛まれるのか。

 

それとも、罪悪感に押しつぶされ廃人と化すのか。

 

あわよくば、壊れて私をただのはけ口のように使いつぶすのか。

 

――私の本性はまだ彼に知られていない。本当の私は、ひどく打算的でクライム以外の者など取って捨てるような存在にしか映らない。

 

そう考えると、非常に興味が尽きない。私はクライムになら何をされてもいい。それすら私の本性を知ったクライムに殺されるといった事態になったとしても。

 

その時のクライムに起こる変化が何なのかが知りたくてたまらない。激情に駆られて殺すのか。それとも無表情で殺すのか。苦痛に駆られた顔で殺すのか。あぁ、どれを取っても興味がある。

 

「駄目よ、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ」

 

あえて演技のようにそう自分を諭す。

 

気を抜いたら、あっという間に()()()()()()()()()()()()()()

 

もちろん食い散らかしたからといって、クライムを捨てるなどこの世界が滅亡してもあり得ないが。

 

周囲に己の本性が見抜かれないよう、日常を送っているラナーを以てしてもつよく情に訴えかける存在こそがクライムなのだ。

 

「……そうだわ」

 

先ほどとはまるで別人のように、純情さを感じさせられるような振る舞いをしその場でひと回り舞うラナー。

 

――そうだ。私にとって、この世界は苦痛そのものだけれど。この世界は私にとって一つだけプレゼントをくれた。

 

それは言わずもがなクライムという存在。

 

偶然、という現象をこの世界が起こしたものならば――少なくともその一点だけは認めていいのかもしれないと、そう思うラナーであった。

 





頭いいキャラクターって……作者には満足に書けませぬ……(白目)
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