狭間の地で傀儡にされた魔術師   作:蟹たま

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#1 幼年学徒、エマ

 

 魔術学院レアルカリア。

 リエーニエの中央に位置しており、各地より集った英賢の頭脳の持ち主たちが魔術の深淵へ到らんとする学び舎。

 魔術師アズール、及びルーサットを最高師範と仰ぎ、学徒たちは今日も己が智慧を鋭く研ぎ澄ませていく。

 

 学徒たちは口々に言う。

 アズール師とルーサット師が同じ時代に生きていることは何という僥倖かと。

 そしていつかは自分たちも石の知、遥かその先へと知識の触手を届かせるのだと。

 

 そんな学徒たちを見て、私は思うのだ。

 

 

 

「もうマジ無理やってらんない」

 

 

 いやほんと何なのこいつら。

 お前ら啓蒙高過ギィ!(煽り)

 

 アズール師? ルーサット師? どう見てもヤバいじゃん。

 私たちを見る眼差しとか、完全に実験動物見るソレですよ。

 だいたい、私は知っているんだ。

 この二人、確か源流の魔術師とかいうヤバい奴らだったって。

 数多くの魔術師を “原材料” にして星の種*1とかいうグロテスクなものを作り上げることになる智慧狂い、魔術狂いだって。

 いつかは私も人知れず星の種にされちゃうんだ。

 時折うめき声を上げるだけの石の塊になっちゃうんだ。

 

 もう嫌だ! こんなところにいられるか! 帰らせてもらう!

 

 ……って帰れたら良かったんだけど。

 生憎と、現状では帰る家がない。

 魔術学院の門を一度くぐったのなら、少なくとも一つの系統の魔術を修めなければ学院を去ることを許されない。

 

 や、もちろん、一つの系統を修めることもできずに落第する者もいる。

 いるよ。

 じゃあ、『ザンネンだけど、君はここまでだね』って平穏に、学院を去ることができると思う?

 

 はっはっは。

 

 ……話が変わるようだけどもともと魔術っていうのは、天文学だったり鉱物学、その前提となる化学、物理学だったり、多くの知識を頭に入れた上でようやく学びの一歩を踏み出すことができる、難解な学問だ。

 この時代、幼少期からそんな教育を受けることができる人物というのは非常に限られている。

 

 貴族。

 

 これに尽きるわけだけど……そんな貴族の間でも、魔術学院レアルカリアに足を踏み入れることは、大変な名誉とされている。

 

 で、話を戻そう。

 『あなたのご子息、魔術学院に入るんですって? 素晴らしいですわ!』『あら、わたくしの子ですもの、当然のことでしてよ?』*2みたいな会話があるわけだ。

 それで落第したからとおめおめと、実家に帰らせてくれる親がどれだけいるだろう。

 いないのだ。

 

 全く、と言って良いほどいないのだ。

 そんな、行く宛もない学院の落伍者は、結晶坑道送りである。

 岩盤砕きの魔術だけ修得させて、一生輝石を掘らせるのだ。

 実家としては恥を晒さなくて済む。学院としては多少なり授けた智慧を無駄にせず、研究に欠かせない資源を確保できる。

 Win-Winの関係だ。素晴らしいことである。

 

 血の繋がりも社会的地位も失って奴隷のような扱いを受ける学徒本人のことを含めなければ、だ。

 

 ……そんなわけで私は、落第するわけには、帰るわけにはいかない。

 かといって、魔術の研究の犠牲にもなりたくない。

 幸い、今は一幼年学徒に過ぎず、ある程度の安全は確保されていると言えるだろうけど、これから私が魔術師として成長していくにつれて源流を覗くための犠牲にされるリスクも上がっていく。

 触媒は上質な方が良い、とは容易に想像の付く話だ。

 

 だから、上に出過ぎず、下に落ち過ぎず。

 良い方にも悪い方にも目立たずやっていく、それが今の私の方針である。やはりラノベ主人公は偉大だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ELDEN RING。

 “ソウルライク” のオリジナルとしても有名なフロム・ソフトウェアが発表した、オープンワールドな死にゲー。

 

 前世の私は、それをプレイしている最中に死んだ。たぶん。

 『右手には使命の刃、左手には黒き刃、サブ武器に黒弓と嵐矢でエ○ヤRP(ロールプレイ)だぁ!』とか言いながら魔術学院を走り回っていたところ、突然意識が薄れて、途絶えた。

 死んだ、ということなのだろうと自分では考えている。

 

 目が覚めたらさる貴族の三女。

 私が生まれたときには既に長女も次女も嫁に行っており、家督は唯一の男児であった長男が継ぐことになっていた。

 どうしてそんなに年が離れて私が生まれたかといえば、この時代――黄金樹の時代――にあって長き生を得た人々には、適齢期などあってないようなものだったからである。

 

 私、エマ・ハミルトンが生まれたハミルトン家の現当主であったロナルド・ハミルトンは考えた。

 そうだ、この子を魔術学院に入れて我が家の名誉をさらに高めよう、と。

 

 そうして私は、魔術師になるための道を歩み始めた。

 で、学んだこととか狭間の地での慣れない日常生活とか色々すっ飛ばして、今。

 魔術学院の魔術師見習い、幼年学徒をやっている、という経緯である。

 

 ゲームで得た知識と照らして、今の時代はいつ頃かと言えば……うん、よく分からない。

 

 破砕戦争はまだ起きていないこと。

 ホーラ・ルーは狭間の地より追放されて久しいこと。

 カーリア王家は大昔に興っていること。

 ラダゴンとレナラ陛下の間にラダーン殿下、ライカード殿下、ラニ殿下、三人のデミゴッドも大昔に生まれていること。

 カッコウとカーリア王家との戦争は近年になって終結し、レナラ陛下は幽閉状態にあること。

 アズールとルーサットは追放されていないこと。

 セレンという魔術師はまだ学院に在籍していないこと。これはトープスも同様。

 

 これらの情報を総合すると、今は原作開始の何十年前か、百何年前、そのあたりじゃないだろうか。けどあるいはもしかしたら、何百年前かもしれない。

 何しろ、何度死のうともしばらく後の朝にはルーンを元にして修復されるこの世界、この時代である。作中でも時間は大どかに流れていただろうし、具体的な年代設定などは見た覚えがない。

 

 つまり、これ以上は考えるだけ時間を無駄にすることになる。

 いつこの平和(魔術学院内は置いておいて、学院の外はそれなりに平和である)が壊れるとも分からないことを、覚悟だけしておけば良いのだ。

 

 今日も今日とて、私は魔術を学び、深めるだけである。

 

 ……さて、学びを深めるにあたって、だけど。

 ここ、魔術学院では、概ね次のような教育課程を辿る。

 

 幼年学徒

  ↓

 上級魔術師/下級魔術師

  ↓

 カロロスの教室/オリヴィニスの教室/ハイマの教室/ヤロダスの教室/ラズリの教室/双賢の教室

  ↓

 卒業/更なる研究/別の教室へ

 

 幼年学徒から次の課程に進むためには魔術《輝石の大つぶて》を修得する必要がある。

 一定期間内にこれを修得できなかった場合、例によって坑道送りだ。

 また、《輝石の大つぶて》の性能に応じて、上級魔術師と下級魔術師に振り分けられる。

 

 ゲーム内の登場人物だと、“鈍石のトープス” が下級魔術師だった。

 彼の《トープスの力場》とかいう魔術としては異色も異色な研究はさておき、一般的な魔術師としての能力には乏しかったのだろう。

 ただし、だ。

 学院から追放されていないという事実だけでも誇るに足ることは、この学院に入ってからというもの嫌になるくらい実感していること。

 彼があそこまで自分を卑下していたのは、セレンという才媛に目を焼かれたこと、あとは時流の中で学院から締め出された*3せいもあったんじゃないかと思う。

 

 閑話休題。

 

 今の私は幼年学徒である。

 そして、上級魔術師を目指して輝石の魔術を学んでいる真っ最中でもある。

 魔術師としての出発点でもある『屑輝石』を使った実習や《輝石のつぶて》、《輝石の速つぶて》の修得を経て、いよいよ《輝石の大つぶて》を修めんとしているのである。

 

 まあね。

 

 実は、もう使えるんですけどね(ドヤァ

 

 ゲームで《大つぶて》に必要とされていた知力は16。

 対して、私の知力はゲーム内で言うところの36……くらい、たぶん。

 見様見真似でこっそり練習していた《輝石の彗星(、、)》が、つい先日ようやく撃てたからね。

 理論は《輝石のつぶて》からそう変わらないはずで、《速つぶて》と《大つぶて》を比較して共通する要素を抽出したり、背反の要素を入れ替えてみたり……と、何やかんやしているうちに撃てるようになっていた。

 

 ともあれ、これで試験対策はばっちり、と。

 試験までの間、私は次なる一手を打つことができるわけだ。

 さしあたっては……、と私はある教授への手紙を書くためにペンを執った。

 

*1
みんなのトラウマ

*2
※想像図

*3
破砕戦争が始まると、学院は門戸を閉ざし、輝石鍵をもたない魔術師を拒むようになった

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