よろしくお願いします。最初なんで短めです。
咽せ返るような鉄の臭いが辺りに広がる。
そこは暗い路地だった。
さっき、ついさっきまで笑っていた筈の少女の生首が横たわっている。死んだ事にも気付かずに、こちらを見て笑っていた。
『妹を救う』そんな大層な夢を掲げた少女は、呆気なくその命を散らした。
「チッ……ハズレか」
その声の先にぐるりと視点を動かし、少しずつ慣れた目がソイツの姿を映した。
身長はどれぐらいだろうか。暗闇に溶け込む様な色の髪が邪魔だ。
手に持っているのは? 刃物だ。幾許かの光を集めて鈍く光っている。
何故殺した? そう考えた時、ポケットに入っている一枚のカードが指に触れた。そして徐にそれを取り出した瞬間、男の目がギラついた。
はっきり言ってパニックになりそうだった。ただそれをなけなしのプライドと生存本能で押さえ付けた。思考を動かし、目の前の状況を見ない様に逸らす。それでも、転がった首は瞳を合わせてきた。
「柄見せろ」
喉からヒュッと空気が漏れる。何処にでも売ってそうな包丁の刃が此方に迫る。
ほぼ反射だった。死を間際にして動いた手が、男にカードの柄を見せた。
それは空に浮かぶ月であった。満月の月、だがその絵に描かれた泉に映る月は満月ではなかった。何かを嘲笑う様な、そう転がった首のような屈託のない笑顔の様な三日月。
それを見た瞬間、男の手がぴたりと止まった。男から溢れる笑みが意識を萎縮させた。
「大アルカナ……月か。当たりじゃねぇか」
月のカードの一番下にはローマ数字で『18』の数字が描かれていた。
「良いカード持ってんな。それくれよ」
殺されない為に。死にたくないその一心で、カードを渡す。
乱雑に取り上げられたカード。そしてその柄を見てニヤニヤしていた男は、その場を立ち去ろうとして、最後に一言。
「俺たちは『ワンドのA』を探してるんだが。誰が持ってるか知らねぇか?」
「しっ、知らないッ!」
泣いてないだけでも不思議なぐらいだった。そんな表情を見てか、本当に知らないのだと判断した男。諦めて体を翻し、路地裏から出ようとする。
「チッ……すっかりビビってんな。まぁ、見つけたら教えてくれや」
そのまま去る男。
ホッと一息付いた所、突然の凶刃が迫る。
男が握っていた包丁だ。鋒は此方を狙い、矮小な命を刈り取ろうとする。突然の事であった。油断させた所の不意打ちに、安堵に一瞬包まれた為反応出来ない。いや、反応した所で手段がない。この状況を打破する方法がない。
人生の帳が降りようとしていた──刹那。
ドグンッ!!
少年の心臓が跳ねる。体が動けと、生きろと、
少年はその僅かな時間の間にふと思い出していた。
『妹を救いたいの。協力してくれる?』
『良いけど……って言ったけどどうやってやるんだよ』
『
『なんか面倒になりそうな予感がする……』
少女の手に握られた『ワンドのⅢ』を。そのカードの意味を。
「やっぱ面倒事じゃねぇか……!!!」
鈍る命に叱咤激励し、少年は凶刃に立ち向かう。
跳ねる心臓を。少女の笑顔を。誰かの願いを。
全てまとめて己の体に抱え込んで。
「天国で待ってろ、妹とまた離れ離れにしてやるから」
そして築島泉はその体を、その意志を嘘で上塗りした。