チセと呪われた子   作:三軒隣の斜向かい

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その2

 

 

 

 

 

 

『何で元の場所に返す必要があるのかしらン?』

 

 隣人らしいと言えばらしいその一言に反対しているのは智世だけである。

 彼女達としては少々質の悪い悪戯やちょっとした可愛い意地悪程度の感覚で、ルツに至っては瞳の色と髪質が気に入ったのか智世に不利益をもたらさないのなら群れに加えようと乗り気である。

 

「ダメだよ。ヘンリーにも帰る家はある筈だから、早く元居た場所に送り返さないと」

「まあ、確かに独り立ちするにはまだ早………ホリーだろ?」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 あまりよろしくない風が吹いていると、仲の良い智世へ声をかけに来た割と律儀な何時ものエアリエルは幼児を相手に慌てふためく彼女達を見るなり目的も忘れキャラキャラと笑い転げてしまう。

 

『あなた、何時の間にソーンとの子供を産んだの?』

「違うって分かってるんだから揶揄わないでよ……」

 

 危なげない手付きで幼児を抱えるルツの腕の中、小さな掌を伸ばし「まま、まま」とこちらへ縋る存在に智世は手をこまねいていた。

 

『正に猫の手も借りたいってヤツよねン』

「犬で悪かったな」

「うぅ…。竜の腕でごめんね、ボク」

 

 吸収した竜の呪いにより変質してしまった躰の力加減が未だ心もとない智世はシルキーからもやんわりと幼児を抱くのを止められ、何時の間にか常備してあった真新しい育児セットを手渡されることに。

 

「何と言うか……着々と外堀を埋められている気がする」

 

 ガラガラを鳴らしながら、もしかしたら訪れるかもしれない未来を想像してしまい僅かに気色ばむ智世の頬にゲンナリとしたルツが「昼間っからやめてくれ」と溢す。

 再びエアリエルの小さな笑い声が響くエインズワース邸は最近の事件と比べるべくもない小事にのんびりとした空気が流れていた。

 

『それにしても珍しいわねン。死の風に乗って世界を渡るだなんて』

「……世界を?」

 

 再び混沌をもたらす風のひと吹きが訪れるまでは。

 

 

 

 

 

 

「つまり……ホリーは異世界の住人ってことでいいの?」

『そうよン。その異世界とやらがこの世界の裏側か外側か、それとも列なる別の場所なのかは知らないけど』

 

 本当のことは話さなくとも嘘は口にしない妖精の在り方を知る智世にとって、この親しい小さな隣人の言葉は頭を抱えるものだった。

 

「竜どころか魔法使いの手にだって負えないかも……」

「俺にはよく分からん」

『人が人の容(かたち)のまま行き着く場所で眠る常世を寝床にしてるあんたには解らないでしょうねン』

 

 過去から未来へ。

 更にはその先へ。

 死を経ても終わりの無い、常に世界で色々なモノを運び届け吹き続けている風は異世界でも当たり前の様に流れている訳で。

 

「ホリーは死に近い分、流され易いってことか」

「へぇりぃー!」

「ホ…ヘリーが死の風に好かれているんじゃなくて?」

「りぃーっ!」

 

 伝えたくとも未だに上手く聞き取れない滑舌の悪い幼児の言い分は脇へと差し込まれたルツの指先のくすぐりにより有耶無耶のまま。

 

「多分逆だな」

 

 脇から引き抜かれた指先が幼児の前髪を掻き分ければ稲妻型の傷痕が露なった。

 

 

 

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