Romansing saga ms~In the Fate~ 作:藍鷹
「助けていただき感謝します。私はローザリア領イスマス侯ルドルフの息子、名前をアルベルトと言います」
アルベルトと名乗った青少年はどうやら広義の意味で『王子様』らしい。
村長ガトへ丁寧な挨拶は、先程の息急ききるような言葉ではなく、久々に共通語を聞くわたしにもわかる速度で話してくれている。
成る程、気配りは出来るようだ。
「イスマスと言えば、帝国との境目にある城だな」
「……坊っちゃんは遊学の旅でもしてたの?」
「ぼ、坊っちゃん!? いや……遊学、なら良かったんですがね……」
わたしに坊っちゃんと呼ばれた事に一瞬ムッとした彼は、表情を、渡した水で口を湿らせてから、語りはじめる。
それは、彼の旅路の話だった。
しかし、楽しいものではなく、むしろ悲惨・不運の連続でしかないものだった。
成人の儀式を迎える間近(それでも十七才……年下とは思っていたが、わたしより五つも年下だった!)に起きたイスマスの悲劇。
本来ならば統率して動いたりしないモンスターによる襲撃。
倒しても倒しても際限なく湧き上がるように現れるそれら。
彼は姉と共にクリスタルシティへ救援を呼びに向かうも、
共に戦うと約束した矢先に、姉の手により海へと逃がされる事になった。
海流の関係からか、帝国領ローバーンに流れ着き、そこでジャンとモニカという一風変わった
ローザリア国籍にあまり良い顔をしない兵達の目を盗んで街を脱出、どうにか港町ブルエーレに到達し、そこから貨物船にて
話を聞けば既に一月は経過しているではないか。
「いったい何が悪かったのでしょう、私は……僕は……」
再び顔を伏せて落ち込む青少年。
そこまで聞いた長は、まあゆっくり休んでいきなさいと、その肩を叩き、部屋を出ていった。
わたしは少し迷ったが、木の匙を入れたスープを差し出す。
あまり量はないけれと、彼の目の前でひとり食事を取れるほど豪胆じゃあない。
「とりあえずはメシ……じゃなくって、ご飯にしようか。王国みたいに白パンはないけど、これもこれで美味しいからさ」
「ありがとう、ございます……いただきます」
雑穀を挽いて焼いたパンはプチプチとした食感が楽しめるが、目の前の青少年は、ただ出されたものに貪り付く。
熱さに舌が焼けそうになりながらも、下品に見えない速度で、だ。
……パンは買ってきた物だし、スープも
……少しは味の感想が欲しかったのは秘密だ。
※
さて、急ぎローザリアへ向かいたいと望む青少年、もとい
焦る気持ちはわかるが、今は一年間の内でも特に交易が難しくなる冬の季節。
玄人の扱う手練れの犬橇で踏破に徹夜を含めて1日半、もし普通に行軍であれば三日は掛かるだろう。
さらにモンスターとの戦闘が絡めば、また吹雪に見舞われでもしたなら。
余計に時間を食う事になる。
それと、雪原を抜けた後のルート吟味も難しい。
どんなに頑張っても、『ローザリアには海を
一度、海と言う単語を出しただけでアルベルトはガタガタと震える程トラウマとなっている。
あそこまで取り乱すのだから、なるべくなら航る時間を短くしたい。
雪原を抜けて、
街道で馬車を掴まえれば恐らく半月でローザリアの首都に着くだろう。しかし、その安全は殆ど
もしくは、オイゲンシュタットから街道沿いにコパー峠を通り、
イナーシーに比べてもその運航距離は短いと聞く。
こちらを通れば北エスタミルから馬車の定期便があるし、クリスタルシティまではほぼ直線距離だ。しかし、クジャラートはあまり治安が良いとは言えない現状がある。何せ、世界最大規模の貧民街があるのだ。
昔手に入れた地図を開いて悩む。
「ツウさん?」
寝台に腰かけて何か思案していたらしいアルベルトは不意に顔を上げた。
「なんだか色々すみません。私の為に、そこまで悩んでいただいて」
「構わないって。助けたのも何かの縁ってやつだと思うしね。まずはしっかり体を直さないと」
「しかし、なにもせずにいるのも……」
……君、今すごーく暇なんだね、とは言えなかった。
とりあえず、次に何をすべきかの相談は日が上ってからにしようと、青少年に諭すのが精一杯だった。
なんだか、年が離れていると、伝えたい物事がはっきり伝えられないと感じる一日であった。