Romansing saga ms~In the Fate~   作:藍鷹

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乙女はまみえる、その「敵」と

さて、詩人(ハオラーン)の示した策だが。

果たしてそう易々と成されるものではなかった。

 

それはこの南の洞窟を崩落させ、その悪しき性質を一時的に封じ込める。

その際にバルハル族に伝わる祝詞を以て浄化を促すのだ。

幸い祝詞はツウ(わたし)(そらん)じる事が出来る。しかし言うほど歌わないので音程やらリズム感やら微妙ではあるが。

 

しかし本来なら年の始めに行う浄化の儀だが、南の洞窟(ふるきかみがみのいさん)の成長は異常過ぎた(・・・・・)

それの封印行動はラオハーンの一存で出来るものではない。

つまり、今のラオハーンの言葉偉大なる父神(エロール)の言葉として相違ない。

 

「しかし、やり遂げるには問題があります」

 

まず、夫婦をやり込める事。大元を叩かなければ意味はない。

次に周囲に存在する雑多としたモンスター、数にして数百を下らないそれらを捌く事。でなければ、湧き出てくるモンスターにいつまでもバルハル族は悩まされる羽目になる。

 

そして、この洞窟が封じ込められ変質する前に脱出出来る(・・・・・)か、という事だ。

 

とにかく、ここで話し込んでいても仕方がないだろう。

話は終わったとばかりに、わたしは愛剣を手に動く。

 

同じようなタイミングでリガが動く。

 

ハオラーンが仕込み武器に手をかける。

双長首の弦楽器(ダブルネック・ギター)が、じゃじゃーんと音を立てた。

 

すぅ、と息を吸った神の一欠片は朗々と声をあげる。

「今ここに謡われるはひとつの物語、悲しきも愛ある物語!」

 

夫婦は豚から視線を外した。

家の前で声高らかに語り始めたハオラーンを完全に敵と見なしたようだ。

人とモンスターの体躯に違いがあるように、心地好い声の音質にも差があるのだ。

 

歌詞はよくある悲恋物語だ。

確か都でも人気があるとされ、幾度も劇の演目にもなった、とかいう。

 

貴族と町人という身分差のあるもの同士の恋。

手に手を取り合い、愛の逃避行を行うがそれも僅か数日の事だった。

 

涼やかな歌が、奴等にとっては忌々しい事この上ないのだろう。

 

怒りを叩きつけるように赤い眼を爛々とさせた夫婦の前に、気合いを込めたリガの体が躍り出る。

 

虚をつかれたモンスターだが、それでも瞬きする間に臨戦態勢となり、鋭い突きを繰り出してきた。

心の臓を抉りかねない猛攻に、リガの体を赤が染める。

手にした戦斧は些か草臥れているが、それでもその鈍色の、鋭く強い一撃は極北企鵝(バルハルペギー)の体を浅く深く傷付けていく。

 

飛翔式横回旋(ブレードロール)。いや、独楽のごとく戻ってくる独特の動きはまるで反響(エコー)したように、その負わせた手傷を拡げさせている。肉を切らせて骨を断つ、とまでは行かないが、それでも多少は攻撃が出来た。

 

わたしは剣を抜き、重心を低く体を保つ。

柄を両手で握り、大地に向かい平行に保つ。

走り出す。

大剣の重さで腕が足より遅れてしまうが、この技のキモである。

二メートルを越える巨体に闇雲に切りかかっても厚い脂肪や筋肉に阻まれてしまうだろう。

リガのように太い血管ではなく細い筋肉を経ち切るような技巧では、今の血気盛んな敵の動きを弱めるには調度良いが、止めを刺すには足りな過ぎるのだ。

だから、大剣を、勢いを着けて降り下ろす。

ただ、それだけ。

 

大振りで単調な動きだから、見切られやすい上に外した後が無防備になる。

しかし、この強撃は囮だ。

 

集中に集中を重ねた坊っちゃん(アルベルト)の、光術が炸裂した。

 

その光の矢は、気術に優れた女爵の嘴の奥を、眼を、、リガが加えた傷の痕を、確かに突き刺さり抉ったのだ。

悲鳴にもならない声で、空気を震わせた(よめ)の姿に男爵は後ろ側を見るように首を曲げた。

 

旋律が変わる。

結局貴族は連れ戻され、町人はたばかりしものとして処刑される事が決まる。

幽閉されたはずの貴族はその場所を抜け出し、町人のいる牢屋を訪れ、互いに互いの胸を短剣で貫くのだ。

 

……この世で結ばれぬなら、かの世で結ばれよう。

 

たとい、その世が死の神たるデスの座する冥界だとしても、と……。

 

リガはその隙に武器を十八番である弓矢に換えた。

つがえた矢は銀の月の加護を受けたもの。かつての狂い牛に一子報いた際の物よりは劣るがそれでも鋭さは変わらない。

放たれた矢はわずかに時間差を着けて三つ。

三つ目が突き刺さる前にわたしは身を翻し、刃ではなく幅広の身で丸く太い首、目立つ喉仏を打つ。

如何にその体でも肺に空気を送り込む気管と食物を胃に送る食道を守りきれない。

骨砕きにも近い手応えはあったが、それでもやはり絶命にまでは至らない。

張り手のように鋭く突き出された(ひれ)に、行き掛けの駄賃宜しく髪が切れ、頬がぱっくり裂けてびちゃり、と血の筋が走る。

癒しの光が降り注ぎ、傷は塞がるが流れた血までは戻らない。

わたしは気力が戻ったように感じ、骨が、肉が軋むのも厭わずに一時的に昏倒した男爵の体を力の限りぶん投げた。堅い雪壁に突き刺さるようにぶつかって、大地が揺れたような気がした。

 

三度変わった旋律。

その恋人達の光景を、雲いと高き場所にて見ていた愛の月の神(アムト)

滑らかな白磁の手指に、美しく悲しい愛の形としてその魂を引き揚げられ、永久に空を彩る二つ星になった。

そしてアムトの赤き月が輝くとき、星になった恋人達は地上にいる、新しく生まれてくる恋人達を見守っているのだ。

 

旋律は止む。

この歌が歌われた場は風の吹き込まない、段が下がっている。

どれだけ騒いでも、段より上にいた数百を越えたモンスターには聞こえないはずだが、一時的に無効化したこの夫婦が、仲間を呼ぶ叫びを行わないとも限らない。

 

だから、惨いようだが喉を潰したのだ。

 

しかし、第一の関門は突破出来ただろうか。

 

ハオラーンをちらと見れば、深く被った帽子の下、にやりと笑ったように見えた。

 

そんな折に、リガの体を治療していた坊っちゃん(アルベルト)がなにかを見つけて来た。豚の体から流れた血の赤で多少汚れていたか、花を象った首飾りだった。

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