Romansing saga ms~In the Fate~   作:藍鷹

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ツウも、ちょっとだけ成長しました。

本編に至る前の、前後編です。


少女は育む、友情を side Peaceful

わたし達、バルハル族が住むバルハラント雪原にも短い夏がやってくる。

 

一時的に降雪は止み、しかし融雪は緩やかに。

太陽の光の恵みをいっぱいに、今日も今日とてお仕事です。

 

 

 

雪があってもなくても、薬草の類いは見つかる。

けれど、民間で使う分にはやはり夏草の方が良い効能の物が多いらしい。

らしい、と言うのは、非戦闘後方支援組の中に薬師の子がいて、薬草摘みの小遣い稼ぎをしている内に色々と見聞を広げられた結果のようだ。

 

多分、近いうちに正式に薬師の勉強を始めることだろう。彼女の名前はヤア。わたしの一番の友達だ。

 

実は、両親共に戦士の子は意外に少ない。

パン焼き屋さんの子、鋳掛け職人の子、縫製屋さんの子、術法屋さんの子。

バルハル族は蛮族と呼ばれるが、村中で日々の営みの半分以上まかなえたりするのだ。

 

話を戻そう。

今日は村の同年代の子供と一緒に採取の仕事だ。

薬草や自然の果実をかご一杯にする事を目標に、まだ残雪の白が所々広がる、青々した草原を走る。

 

「届いた!」

「わぁ、ツウ凄ーい!」

 

手にしたのは植物油が取れる木の実。

去年は身長が足りず、上手く木に登れなかったが、今年はうまい具合に枝に手足を掛けられるようになった。

その為、木の実が実る枝を直接揺する事が出来るようになったのだ。

 

薬師の子(ヤア)に声を掛けて、木の実を彼女の頭に当たらないように落としてやる。

ヤアはほわほわした性格で、木登りなんてしたら日が暮れてしまうだろう。

だから、多少野生的なわたしがやった方が早いだろうという結論からこうなっている。ちょっと悔しい。

 

拳大の木の実が沢山やわらかい地面に転がり落ちた所で、するすると木から降りる。

まだ沢山実っているが、次に来た時や、他の生き物の糧や来年の栄養分の為に残しておく。それが、礼儀であり、バルハル族の掟だ。

 

「沢山取れたねぇ、ここだけで壺二杯分は油が作れるねぇ」

「今年は本当に大きいよ。香りも良いし」

虫が喰ったものや傷んだものがないかをより分けながら、ヤアの背負いかごに入れていく。

 

そんな時だ。

おーい、と道を下った所で狩りをしていたテアが手をぶんぶん振り回していた。

 

「テアー、どーしたのー?」

口許に手を当て叫ぶように問いかければ、

「リガがすっごいもん見つけたんだ!」

同じように叫び返してきた。

「「すっごいもん?」」

わたしとヤアは顔を見合わせる。

 

 

 

 

 

「確かに、すっごいもん、だねぇ」

間延びしたヤアの声。

 

そこにいたのは、幼体の、それでもわたし達が手を繋いでも囲めない位の大きさの雪原牛(バルハルオックス)。いや、夏場だから草原牛と名付けようか。

 

親からはぐれてしまったのだろうか。

けれど、我関せずの様子で青々した草原をもしゃりもしゃりと食べている。

 

バルハル族ではこのモンスターを間引きと、日々の糧の意味も込めて、成人の通過儀礼の『神聖なる害獣』として扱っている。

一見矛盾しているようだが、他の哺乳生物と違い一胎(ひとはら)で多胎する。しかも、オスメス区別がない。完全な雌雄同体。

エサは今食べているような植物だけでなく、下手をしたら自分たちよりも巨大な体躯の軟体生物すら食い漁る悪食の悪魔。

つまり、増えすぎると他の生態系にも影響を及ぼす。

だから、狩りの獲物の対象にも成りうるという訳だ。

 

「今なら、倒せるかな? おれも一人前にしてもらえるかな?」

テアは弱々しいながらも小弓と鏃のない矢をもっている。兄たちが優秀な戦士なので、自分も武勲を挙げたいと焦っているのだ。来年の春を過ぎれば、自然と成人の儀式を迎えられるのにも関わらず、だ。

 

「テア、やめとけ。僕らが束になっても、たとえあいつが子供のモンスターでも敵わないよ。よく言うだろ? 『酵母を甘く見るとひどい目にあう』って」

見つけた張本人・リガはかなりの慎重派だ。努力がパン釜の炭になる(みずのあわになる)。等、独特の表現を使うパン屋の子。

ちなみにこの場合は人は見かけによらない、的な意味だろう。

 

「あいつのキモがあれば、母ちゃんの病気もなおるのにな」

ちょっと悔し気に一番年下のキバは呟く。バルハル族の知恵たる術法屋の子だ。

体の弱い母親に、あのモンスターのキモをもって帰りたいのだろう。

 

「ツウ、どうしようねぇ?」

「どうするもこうするも、わたしは反対だな。いくらなんでも危険だよ」

ヤアに問われたが、普通はそうだろう。ここにいるのは年齢一桁、一番年上なのはテア。キバは今年五歳になったばかりだ。

 

けれども、テアはわたしの言葉を聞くが早いか、矢をつがえて弓を引き絞り。

あっ、と言う間もなくその手を離してしまった。

 

 

ビィン、と弦が鳴る。

 

 

「ぶもっ?」

たまたまモンスターの眉間に、音なく当たる。

距離にして十尋(150~180m)ただの鏃無しの羽つきの棒切れにしては良く飛んだ。

……じゃなくて。

しまった、やつの目がこちらを捉えている。

 

「やべっ、やっぱ刺さらないかっ」

「あわわわ、だから言わんこっちゃない!」

「ひゃあああん、うしさん怖いよぅ!」

「あぅ、キモ……」

 

上から、テア、リガ、ヤア、キバの順だ。

どんどん近づいてくる。勿論、わたし達は逃げるしかない。わたしはバスケットを放り出し、ヤアとキバの手を引いて走り出す。

しかしながら走っているとはいえ、ひらひらしたものは大体のモンスターの気を引いてしまう。

もったいないけれど、ヤアにキバの手を引くように伝える。

 

少し速度を緩め、首に巻いていた房付き肩掛け(ケープ)を、突っ込んでくるやつの頭目掛けて首もとの紐を外す。

全力で走る速度とちょうど良い向かい風が、ピンポイントに野牛の頭にひっかかる。突然視界を遮るものが現れて、モンスターは暴れまくる。

今しか離れる機会はない。

 

ちょうど良い横穴を見つけて隠れられたのは幸いだ。

 

息切れを起こしかけるが、深く深呼吸して、外の様子を伺う。

どすん、ばすん、びりびりびり。嫌な音が響く。

せっかく貯めたお小遣いで新調した流行りのケープだったのに。けれど、背に肚は変えられない。

 

「村から離れちゃったねぇ、どうしよう、このままじゃ皆やられちゃうよぅ」

「大体、僕は止めろっていったのに、テア! 君はどうしてそう考え無しなんだ!種無しパン(ベーグル)みたいに脳ミソ茹で上がってるのかい!」

「ぼくがキモなんか欲しいっていったから……リガ兄ちゃん、テア兄ちゃんを叱らないで」

「キバ、悪いのは俺だから気にすんな! けど、どうするんだよ。ここから出てもやつの目の前に出ちまうよ」

大声で言い争えば、敵に聞こえてしまう。だ

から、ひそひそと話すしかない。

そして、先程テアが言った通り、今出ていけばまず間違いなく全滅だ。

 

ああ、もう。肚をくくろう。

女は度胸だ、……と誰かが言っていた気がする。

 

「……あるもので、対処するしかないよ。皆、今何を持ってる?」

八つの眼がわたしを見る。

期待、不安。

恐怖、希望。

あらゆる何かかごたまぜになったそれを一度断ち切るように目を閉じる。

大丈夫、きっとうまくやれる。

 

テアは弱弓とあだ名を持った弓と、羽つき棒が三本、(しめ)た鳥が一羽。何羽が捉えたが、きっと怒り狂った牛に潰されてしまっているだろう。

それと、胸元にある銀鈍色の鏃をペンダントにしたもの。刃先は潰れて鏃には使えないが、棒切れには結びつけられる。

 

リガは長い縄の両端に丸い石を結んでブーメランの要領で獲物を捉える、ボリスと言う罠が二つ。それと、ボリスで結わえられた、既に絶命しているウサギが一羽。リガは足が早いので、弓矢や斧と言った持ち運びに不便なものは使いたがらないのだ。

 

ヤアは先程採取した、薬草と油の取れる木の実だ。けれど、走った所為で木の実の半分は潰れて薬草と混ざってしまっている。

 

キバはと言えば採取した卵。手かごに柔らかい布を敷いて割れないように工夫している。

 

わたしは……実はバスケットを放り出した所為で完全なボウズ状態だ。

あるのは火打石と小さなナイフ、それだけ。後は文字通りの身一つで。服を破って火打石をナイフで叩いて狼煙(のろし)を上げる位しか出来ない。

……狼煙、烽。火打石、油の木の実、卵、鳥とウサギ。

 

はた、と思い付く。

どうにかなるかもしれない。

 

かなりリスキーで、リガと、キバの持つ力が特に必要になってくる。

 

じり貧で等、終わらせない。

わたしは四人と顔を付き合わせて、自分の考え(プラン)を話始めた。

 




油と卵と鳥、時々ウサギ。

美味しいものしか出来上がりそうにありません。
自分ならウサギはともかく、油を敷いたフライパンで小麦粉と塩胡椒をまぶした鳥肉をじゅうっ、と焼いて。
白いご飯に半熟とろとろの目玉焼きとチキンソテーを乗せていただいちゃいたくなります。
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