Romansing saga ms~In the Fate~ 作:藍鷹
前話の後編にあたるお話です。
わたしが考えた作戦はこうだ。
まず、わたしが相手の目を文字通り、引き付ける。
やり方は至ってシンプルで、投石によって、目潰しかそれに近い状態にする。
なぜかというと、投石に限ればわたしがこの中で一番コントロールが良いからだ。正直な話、弓矢は苦手だ。何故かはわからないけれど。
その間に、一番足の早いリガに村へ助けを呼びに行って貰う。
リガは嫌がっていたが、最終的に首を縦に降った(脅したりは断じてしていない。
ヤアは、背負いかごから油にまみれた薬草を集めて、ハンカチと貸したナイフで叩いたりしごいて集めて貰う。
多少混ざりものが多い油脂にはなるが、使えないことはない。
テアには何個か石ころを集めて貰い、油を染み込ませた布(皆の服の裾を使った。適度に柔らかい布だ)で石を包む。
キバから卵を貰い、洞窟入り口でタイミングを見計らう。
やつがこちらを向いてはいけない。
抜き足、差し足、忍び足。
相手の視野から消えたように見えるという術法があれば、かなり楽なのだが。
しかし無い物ねだりた。
今は、光の神エロールに神頼みするしかない。
果たして、その時は訪れた。
背を向けていたその巨体ががゆっくりとこちらに体を向ける。
その右目を狙って。
卵をぶん投げた。
ぶつかった卵はどろりとした内容物と殻とにすぐ別れる。
「ブモァアアアア!?!?」
再びの混乱と叫び。しかも今度はケープと違って何時までも粘っこく付きまとう。
今度は左目を狙うが、嫌々と首を降る為上手く当てられない。
なんとか当てられたのは、卵を三回も無駄にしたあとだ。
もう手元にはリガから預かった
だから、ここで第二の勝負に出る。
あの巨体をひっくり返すことが出来たら、なかなか起き上がれないだろう、そう踏んで。
わたしの背後、洞窟の入り口付近で待機していた、口に棒切れを啣えこんだテアが弓に矢をつがえる。まず一本、牽制を込めて早打ちを行う。
先程の半分くらいの距離だが、やはり効果は薄い。
しかし僅かにでも気を引くには十分。あえて鳥の羽をむしり、香りの強い香草を矢羽に刷り込んだのだ。
そして、テアの手にはそのほろ苦いような青臭さが、べったりついている。
牛が、頭を持ち上げる。
突進の合図だ。
縄を長く伸ばし、適当な切り株に縛り付けている。
高さは目検討だが、狙うのは蹄と足首に当たる部分。
やつが、走り出す。
わざと緩くしていた縄を急激にピンと張る。自らの重さも相まって無様に転んだモンスター。
しかし、あまりの重さにわたしの両手にも多数の擦過傷が出来てしまった。
ジリジリと痛むか、なんとか転ばないように踏ん張れた。
けれど、柔らかい地面にロングブーツが足首までめり込んでしまう。なかなか抜けない。
「ぶるぁああああ!!」
それでも、モンスターは立ち上がる。身を翻してわたしの方へと突っ込んできた。ブーツは、未だ土の中だ。
また、木の矢が飛んだ。
けれど、勢いを殺しきれずに、わたしは洞窟そばの崖に叩きつけられる。肺の空気が押し出され、思わずえずいてしまう。
そばには細長い木の枝。とてもよくしなり、子供の重さにも耐えられる、そんな木の上。
「ツウから離れて!!」
ボトボトぼとぼと。
いつの間に登ったのか、ヤアと、背負いかご。
あの中身を全部を絞り、かごごとぶちまければ、牛は油まみれになる。ついでに、石を油付き布で包んであるから、地味だが攻撃の意味も十分ある。
ヤアは木登りが出来たのか。と、隣を見やって理解する。
「ツウ、手を伸ばせ!」
目の前に差し出されたテアの腕を掴み両手で掴んだ。どこにそんな力が在るのか、枝の上へと引き上げられた。
なんとか受け身は取れた(と思う)、骨が折れたりはしていない、はず。
「キバ、未だやれ!!」
「
テアが叫ぶ。
頭で
あの子はその一度だけのチャンスを無駄にはしなかった。確かに効力はあったのだ。
火花が走り、周りの油に引火する。
叫び暴れる牛は、確かに身悶え、巨体が揺れた。
これでアルコールがあれば更に激しく燃えただろう。
粉塵を巻き起こせば、爆発を起こせただろう。
どちらも無い物ねだりだ。
幼体とはいえ、その生命力は人間のそれよりも高い。
黒煙を巻き上げながらも、踏み止まる巨体。
ここからはお互いの耐久力勝負になる。こちらは援軍が来れば勝ち、相手はわたし達を殺せばご馳走にありつける。
切る事が出来るカードは少ない。
けれど、
自分自身が不思議なくらい、落ち着いて。
でもこんな状況にも関わらず、気分は高揚しっぱなしで。
何故だろう。
両手の擦過傷を見る。
血のにじんだ両手。
こんな時なのに、生きている実感がする、自然と頬が緩み、口許が弧を描く。
バルハル族は、野蛮な戦闘民族。確かに言われたらそうだ。
今、この時に、こんなにも命のやり取りか楽しいと思えてしまうのだから。
「ツウ、動けるな?」
「ああ、いつでも」
そうか。唐突に理解する。
テアはいつも父兄達が狩りに行く時は、自分が置いていかれるのを嫌がっていた。ワガママでもなんでもなかった。
その理由は、これだったのか。これを知っていたから、焦っていた。
戦うことは、生きること。
ならば、死なない程度に、楽しまなくては。
「はああっ!」
ゴロゴロ転がり、ようやく火を消した
両手の血を太ももで拭い、弛く握る。
左半身を手前に。足は肩幅。
このチャンスは一度。
黒くなった毛皮、焦点が合わない瞳に。
「やるよ」
呟いた言葉は、気合いを入れる為のスイッチだ。
それから。
殴る。殴る、殴る。
踏み込んで顔面にパンチを三度叩き込む。
骨がみしりと軋んだ。硬い、けれど一度焼けたそれは確かに攻撃を通している。
わたしがサッと屈めば、その上を風が通り抜けた。
今まで露見しなかった弱点とおぼしき首元に矢が
「
驚いたわたしの目の前にはテア。首元のペンダントの鏃はない。
まさか、大事な宝物をこの為に使ったのか。
横倒しになったまま、そいつは動かない。
ついにやったのだ。
わたしの三度の殴りかかりと、テアのとっておきの弓術、確か弦を引く際に弓を扱う神でもあるエリスへの祝詞を謳い上げ、加護を受ける術、弓術のひとつがうまい事作用したのだろう。
ほっとすると同時に体に痛みが走る。アドレナリンが、ガンガン出ていたのだろう。反動で、世界がぐわんぐわんと揺れる。
近づいてきたテアの存在は分かった。手をあげて、わたしはハイタッチをする。
その時だ、洞窟の壁に寄りかかるように立っていたキバが叫んだ。
「気をつけて、まだそいつ生きてる!」
「!」
ぐぐぐ、と倒れた体を起こすなんて、とんでもない生命力。
もはや、わたし達の手には負えないのか。
一瞬、悩んだ。
でも、
やはり、
神は私たちを見捨てなかった。
「させない!」
「間に合え!!」
二人の声が、シンクロした。
リガの
そして、再び驚いたことにヤアもまたあの木の上から降りて攻撃に参加していた。
手にあるのは、わたしが貸していた
リガの動きよりも早く。
断末魔も上げずに、
ゆっくりと、先ほどわたしが足を取られた泥に沈むように落ちる。
リガに引き連れられ、崖を滑り降りるように、大人達が降りて来る。
誰か、角を持った人が。
何かを話しているようだが、異様に眠い。頭が働かない。
いつしか、わたしは自分自身の意識を真っ白に塗り潰していた。
戦いは命懸け、けれどそれこそを楽しむ。
バルハル族のイメージは、まさに攻めること。
逆にタラール族のイメージは守ること。
原作ではサルーインの復活が大地の神ニーサよりタラールに知らされて。ニーサは自身が産み出した地底人とタラール族だけを助けるという、まさに守りを体現していたので、野蛮だけれど退くことを良しとしない姿を表せたらと思い、今回の話を書きました。
次は閑話を挟んで原作に入りたいな……なんて。
8/6
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