Romansing saga ms~In the Fate~   作:藍鷹

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金貴鳥の少年は夢見る、其の運命を

それは、夢。

目を閉じ、眠りについた際に見えるもの。

 

夢の中ではいつも僕は英雄だった。

愛剣を持ち、傍らには敬愛する姉さん、父上と母上。

部下となった兵士がいて。

 

魑魅魍魎蠢く洞窟に潜り、悪鬼羅漢を成敗する。

民草より奪われた金銀財宝を取り返す。

大抵はそこで目が覚める。

今日はこんな冒険の夢を見たと、家族が揃う朝の食卓でそれを自慢げに話すのだ。

 

 

 

……いつからだろう

そんな幸福な夢を見なくなったのは。

 

いつからだろう。

自分の叫び声で目が覚めるようになったのは。

 

記憶にある夢の中で、一番古くて印象に残っているのは凶悪な悪魔が、城を蹂躙する。

どこから現れたかはわからない竜が、火を吐き全てを燃やし尽くす。

城が大量の水の下に沈んでしまった夢を見た事もある。

やがて、城以外の夢を見るようになった。

 

どこか彼方を彷徨う夢。

知らない町を、砂漠をひたすら歩く。

疲れはしない。

夢だとわかっているから。

 

人の足による地を踏みしめる事以外にも、鳥の翼を持って空を羽ばたく事も、魚のように海底を泳ぐ事も夢の中では経験した。

竜人となったこと、詩人になったこともある。

いつだってそれら全てが夢だと、頭の片隅では理解していた。

 

昨夜見た夢の内容が、はっきり思い出せなくなったのは、ここ数ヶ月のこと。

 

そういう時に限って、誰か顔の見えない人物と一緒にいる。

きらびやかな宮殿で踊ったり、背中合わせに目の前の強大な敵に立ち向かう。

何故かは知らないけれど、僕はその人を信頼している。

その人も僕を信頼してくれている。

それだけはわかった

 

姉さんに話をしたなら、運命の人だとか、恋愛話に発展した。

 

母上に相談した時は、優しく髪を撫でてくれた。

 

兵士や侍女にも尋ねてみたが、忙しいのか、あまり足を止めてまで話を聞いてくれない。

 

父上に相談した事もある。

けれど、その時はたまたまイスマスを訪れていた隊商(キャラバン)のひとり、占い師のおばあさんを紹介してくれただけだ。

何か原因がないかと尋ねれば、唯一教えてくれたのが、僕自身が見るその夢が、なにかとてつもない予言の一端なのではないかという事だった。

 

けれど。

 

けれど、僕は名門貴族。

かの強大なるバファル帝国と唯一陸路で結ばれた国境を数百年守り続け、今や鉄壁の異名を持つイスマスの次期城主。

貴族の決まりごとは勿論適応される。

生まれた時から、婚約者は決まっているし(姉上の婚約者はローザリア皇太子たるナイトハルト殿下だ)恋愛なんて物語の中だけの話だ。

だから、よほどがない限りあの夢のように旅にでたりはしない。そんな予言はハズレもハズレ、良いところだ。

 

なにより、確固とした血筋の婚約者がいる身なのに、誰か知らない女性と踊るなんて、気障(キザ)な優男のやるようなものじゃないか。

 

だいたい、恋愛物語の最後というやつは大抵悲恋で締め括られている。

くだらないと一蹴したら、姉さんにはなんとも言えない表情を向けられた。……なんでだろう。

 

ともかく、今は宴の真っ最中だ。

何せ、ナイトハルト殿下が直々に姉さんに……求婚なんてしたからだ。

 

生まれながらの婚約者に、わざわざそんな手間の掛かるような事を何故するのか。

 

手紙一枚、使者に託せば良い話だと思った。

でも、口になんて出さない。出せない。

出したら最後、姉さんのスープレックスで吹っ飛ばされるだろうから。

……あれは、怖い。

悪魔すら何もわからずに絶命するくらいなのだから。

 

そういえば。はたと思い出す。

ナイトハルト殿下は護衛も付けずに、それを言う為だけに此処(イスマス)に来たのだろうか?

早馬を飛ばしても首都からはそれなりに日にちはかかるはずなのに。

 

そんな事を考えていると見慣れた金の髪が目の前に現れる。

姉さんだ。

家臣やその家族から祝福の言葉を歩く度に掛けられていたが、疲れた様子を見せずにいた。

流石、場馴れしているな、と感嘆を覚えたが、本人はあまり嬉しそうではないように思えた。

促されるままバルコニーへ出ると、今日は銀の月(エリス)も、赤い月(アムト)も出ていない。夜天には幾ばくかの星がちりばめられている。

 

「皆、お祝いしてくれるのは嬉しいのだけれどね」

そう切り出した姉さんはなんだか寂しそうだ。

 

「ナイトハルト……殿下は、いつかは貴方を駒に使おうとするかもしれない。だから、肝に命じなさい」

「それは、殿下が仰られていた、新設される騎士団に入団した後、ですか。それともイスマスを継承した後……ですか?」

「いつか、はわからない。……けれど、」

私の知っている()はあんなにも冷たい目をしていたことはないわ。

不安に満ちた瞳で、晴れ渡った日にはクリスタルシティがよく見える方角を見やった。

僕は、その女性(ねえさん)の言っている事の意味がわからなかった。

 

姉さんはどうしてあんなことを言ったのか。

それを知るのは、ずっとずっと後の事だった。

 

 

それから。

沢山の、なにかがあった。

 

 

 

 

そこで、私は。

……ぼく、は。

 

 

 

 

 

 

不安気に誰かが僕の顔を覗き込み、身体を揺する。

金の髪の毛。

 

不意に身体が浮き上がる。

これも、夢の続きなのか。

 

嗚呼、波が、波の音が。

酷く近い。

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