Romansing saga ms~In the Fate~   作:藍鷹

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お久し振りでした。
更新再開です。
ある意味外伝?リハビリリハビリ。


乙女の帰還と目覚めた金貴鳥

村長(ガト)の家に青少年が運び込まれて二日。

その日が暮れる少し前。

 

 

私は新人バルハル戦士数名を引き連れての、東洞窟の大掃除(モンスター掃討)を終えて帰還していた。

三名は無傷で、一名が武器の破損によって手に怪我を負った以外は予々(かねがね)良好であったと言える。

 

 

わいのわいのとはしゃぐ彼らを横目に、時代の変化(ジェネレーションギャップ)を感じながら、戦利品の分配を促しつつ、村の入り口で解散とした。

なんだか、妙に疲れてしまった。

青少年の事や長への報告もあるが、やはりお風呂に入ってからにしようと決めた。

 

 

 

 

 

 

熱水が涌き出る源泉をパイプで流し入れている風呂は一家に一施設、ではなく共有スペースにそれぞれの家の風呂桶を持ち込んで、番頭に(きん)を払って湯を桶に流し入れる。

 

桶と呼ぶには大きく、樽と言うには小さいそれに薬湯を八割流し入れ、汲んだ湯で体を清める。

 

そのままの熱湯では肌が荒れるので、こうして薬湯を加えてお湯をやわらかくしてから入るのがバルハラント流だ

水圧で肺から空気が押し出され、思わず大きく息を吐く。

すっかりきれいになった体を拭き、桶に外付けされた栓を抜き汚れた水を排水孔(溝ではなく、普通に(あな)だ。)に捨てる。

 

家に桶を担いで帰り、作戦ですっかり落ちてしまったペイントを……本職のバルハル戦士は刺青を行うが、旅商として活動する時はこの刺青をよく思わない人がいる為、植物性のペイントを入れる……額・両頬と手の甲に施し、ようやく戦利品を長の家へ運ぶ手筈が整った。

 

未だ外で遊び回る雪ん子達に早めに帰るよう促しながら、かって知ったるなんとやらで邸の丸扉を押し開く。

長への報告もそこそこに、わたしがいない間の青少年の話を聞こうとしたその時だった。

 

悲鳴、何かバサバサと落ちる音、それから静寂。

 

相も変わらずむっつりとした表情の長に、見てこいと促され、恐る恐る緞帳を持ち上げ、音が鳴り響いた部屋を覗く。

音の割には部屋が荒れているという事はなかった。時間にして五分も経過していない気がするが。

看病に当たっていたヤアもまた、困惑の表情を浮かべている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やたら乱れていた寝台を整え直し、寝台に青少年を横たえる。

汗で張り付いた金髪を寄せて、青ざめて強ばっている顔を布で拭えば幾分か表情が緩んだようにも感じた。

「かなり(うな)されていたわ。それで、自分の悲鳴で目が覚めて。で、寝台から転げ落ちて気絶しちゃったの。うわごとで、海が、波が……って言ってたわよ」

「……なんだってまた……」

状況を聞くに、相当パニックを起こしていたようだ。

振り回した右手には痛々しく血が滲む。よく効く塗り薬と包帯を、薬師(ヤア)は手際よく巻いていく。

 

しかし、いつまでも既婚者を束縛する訳にも行かないだろうと、今日は彼女を家へと帰す。

 

わたしも休みがてら、青少年の看病に当たる事にした。しばらくは東の洞窟のモンスターも増えないだろう。

 

しかし、本職に比べはるとわたし自身が出来る事は少ない。

時折青少年の汗ばんだ体を拭く以外は、本を読んだり、大剣を研いだり、角が欠けた頭骨を磨いたりして時間を潰す事にした。

無論、バルハラントの冬の夜は長い。仮眠を取るつもりで家人より毛布も借り受けた。

 

 

 

 

 

青少年が目覚め、再び気絶してから半日以上が過ぎた頃。

 

辺りはすっかり闇夜のとばりの中。

月のない夜は、三柱神がひとつ闇の女神(シェラハ)の世界だ。

むやみやたらに出歩けば、闇の国へ連れ去られるとはこの世界の寓話であったりする。

 

時折橙色の火の粉が音を立てる暖炉の側。

わたし自身の夜食として、肉と野菜のスープの鍋をかき混ぜ、家畜化した雪原雌牛(バルハルカウ)のチーズをラクレットよろしく熱で溶かし、青少年が目覚めるのを待つ。

部屋は暖かく、甘い乳の香りに包まれて眠気も増してくる。

 

そんな時だ。

薪がはぜる音よりも小さく、鼻から抜けるような微かな声を、無駄に鍛えられたわたしの耳は逃さなかった。

振り向けば、青少年は後手(うしろで)に身を起こそうとしている。

 

微睡(まどろ)んだような瞳は辺りを見渡す。

やがてそれは、わたしを捉えた。

「……。」

「あー、……気分、は、……どう?」

 

共通語で話しかける。

バルハラントの独自の言葉回しはどうにも他の国には通用しないようだから。

それでも。

なんとか途切れ途切れの言葉(たんご)を聞き取れたのか、はっと開かれた眼の色は、空を思わせるような抜けた青色。

 

「貴女は、 私はっ! ここは、何処です、今はいつです!?」

 

声変わりがまだ終わっていないような、掠れた声がわたしの耳に責め立てるように響く。

つんのめるように寝台から転げ落ちるその身体を押し留めたが、あの娘(ヤア)の前でもこんな無理な動きをしたのだろうか?

 

肩を掴み、押さえ込む。

その瞳を逃さないように覗き込めば、わたしの姿が相対する空に映る。

「落ち着きな。わたしはツウ。で、ここはバルハラント、バルハル族の村長の家だよ。君は帝国から流れ着いた難破船、唯一の生存者」

 

久々に共通語を使ったので、大丈夫か心配だったが、どうにか伝わったらしい。

青い目を一杯に見開き、半ば血眼になりかけていた青少年を宥め、(たず)ねられた問に答えた。

 

興奮していた彼は短い呼吸を繰り返していたが、やがて落ち着いたようだ。

ポツリと、私以外の人は皆さんは……とこぼした。

 

 

 

 

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