牝馬のうつうつ   作:薄迷あかね

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今回の登場人物

・私(球体関節人形)
・老父(とても優しい、人形屋の主人)
・若い男
・メイド
・男の娘
・男2人


人形の夢

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ある時、目が覚めると目の前にはたくさんの工具が広がった机と、汚れたエプロンを着た1人の老父がいた。

 

動こうにも動けず、何とか首を動かそうにも上手く動かせず、辛うじて目線を動かしたら、周りには私のような、可愛らしいドレスを纏った球体関節人形や、子供の人形劇に向けた傀儡があり、あぁ、ここは人形工房店なのかと理解するのに苦労はなかった。

 

 

目が覚めた私に気がついたのか、人形屋の主人である老父はにこっと笑い、

「おはようXXXX。今日はいい朝だよ。

なにせ、お前を迎えてくれるという人がいるんだ。

人形に興味を持つのかと驚くような、若い美青年だったよ」

 

 

そんなことを嬉しそうに話す老父と、時計のカチ、カチ、という音だけが工房内に響いていた。

 

 

 

昼頃になり、時計の鐘が鳴る頃に老父は私の首元に淡いスミレ色のリボンをかけ、微笑んで「よし」と呟いた。

それから数分後、一人の男が人形屋に入ってきた。

 

「お約束していた人形を引き取りに来ました」

 

そう淡々と話す男だ。

たしかに青みがかった黒髪で、それの似合う綺麗な顔立ちだけれども、どこか影があるのでは無いかと思わされるような男であった。

 

 

鳥籠のようなものに座らせてもらい、会計をしている男。人形同士は言葉で話せるのか、「気をつけて行ってきてね」 「いいなぁ、イケメンに買ってもらえて」なんて、他の人形の声もしたのだ。

 

 

会計を済ませ店を出て、私はその男の車に乗り、その男の屋敷についた。

 

赤いカーペットが広がり、所々金があしらわれ、メイドも執事もいる豪邸であったから、私は萎縮しそうになった。

 

「XXXX様お帰りなさいませ。

…まぁ、可愛らしいお人形さんですね!」

 

 

肩くらいの髪を結った一人のメイドがそう声をあげる。

 

「そうか。これで娘も喜んでくれるだろうか」

 

 

そんな声が遠くから聞こえた。

 

 

 

 

夜が明け、私は男に連れられひとつのドアをノックし部屋に入る。

 

「なんで入ってくるの!!」とヒステリックを起こした少女、おそらく先刻話していた娘だろうか。

 

「いや、たまにはプレゼントをやろうかと思ってな…」

 

蒼い、猜疑心を映し出すような少女の瞳と、それを心配し、困惑したかのような男の瞳、とても見ていて苦しかった。

 

私は人形で、心などない筈なのだが、胸の奥の方が痛んだのを覚えている。

 

 

「大丈夫だ、この人形と一緒に遊ぼうか、XXX」

 

男先程の人形屋での態度からは想像もつかないほど慌てた様子であった。

 

そして娘の、彼女の中で何かが沸騰していたのだろう。枕を男に投げつけ、男はそれを躱したが代わりに、籠に入った私が当たってしまった。

 

 

そのままの勢いで私は男の手から離れてしまい、落ちてしまった。

 

 

 

ガチャン

 

 

そんな鈍い音を立てて。

 

 

「あ、、あぁ、、、」

 

 

泣き出しそうな顔をした娘、

それをどうしようもできないと言った顔の男は私を連れてその部屋から出る。

 

 

「あぁ、顔が割れてしまった。

仕方がない。この当たりで修理できるのはあの店だけだし…

 

いや、私にも娘にも人形は必要ないな」

 

 

 

耳を疑う発言であった。

 

 

 

「明日から3日後まで、仕事も詰まっているし、その仕事が終わったら人形屋に返しに行こう」

 

と籠から出されて飾られていたと思えば男の部屋で乱雑に扱われた。

 

投げられ、おそらく飼い犬であろう大きな犬に咥えられ、3日3晩はっきりいって雑に扱われていた。

 

 

そして男の仕事が終わったのか、ついに人形屋に戻すという日が来た。

 

 

車に載せられた私の姿は、頬から目元にかけてヒビが入り、ドレスは多少犬臭かったが大きな破れなどはなく、腕は折れてしまっていた。

 

 

 

人形屋に戻り、変わり果てた私を見て他の人形達が冷たく笑う中、老父は泣いてくれた。

 

 

そして目元と髪、下半身のパーツ以外を全て作り治してくれた。ドレスも綺麗に縫い直して貰って。

そしてみんなと同じ大きな店のショーケースの中に入れてくれた。

 

老父は掃除も丁寧にしてくれ、とても可愛がってくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある時、老父が亡くなった。

 

 

 

老父の息子だろうか?あるいは強盗だろうか?

真相はわからないが男達は人形たちを次々にオークションに出していった。

 

その中で、ほとんどの人形たちは買取手が決まっていく中、私は人形屋のショーケースに残されたままだった。

 

 

 

そして時計もカチ、カチ、となっていたはずなのに、いつからか止まってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づいた時にはかつて人形屋で、埃まみれになってしまったそこに、私は独りだった。

 

 

またある時少し眠りについていたら、パチパチ、と音がして目が覚めた。

 

 

 

 

赫い

 

 

 

 

火柱が上がり、黒煙も立っている。

工房の奥の方からだ。

 

 

 

あぁ、私もあの老父の元へ行けるのか。

皆に笑われず、知らない男に乱雑に扱われず、唯一私に優しくしてくれた、あの人の元へ。

 

 

 

煙が目に滲みたか、目元が熱く、涙1粒零し、

でも私の口角は上がっていた。

 

 

 

 

 

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