男女逆転世界で生まれた狐神が最近会った人間に勝てないのでわからせたい模様 作:イソン
「やだあああ買っでえええええ!」
「買っでええええ!」
「ああもう、あんたらどうせなくすだけでしょ! 前もそうやってなくしてんだから、いい加減やめなさい! ほら、周りも見てるんだからっ」
まだ幼い男児と女児の二人組、きっと兄妹なのだろう。仲睦まじく手を握り合って泣きながら母親におねだりをする姿は、当の母親からすれば面倒なことこの上ないのだろうが、傍から見ている人達にとってはなんとも微笑ましい物だった。特にこのご時世珍しく、男児がいるというのもあるのだろう。年齢が上がっていけばいくほど兄妹の中は悪くなりがちになっていく方が多い傾向にある。だからこそ、兄妹がいない人は自身も欲しかったと羨み、いる人は仲良くなれないかなと後悔する人もいるのか色々な方面でその光景を見て悶える人たちが続出していた。
水巻 弥生もその光景を見て羨ましそうに眺めていた。あれぐらいの年齢から出てくるわがままであればなんとも可愛らしいものだとほほ笑みながら考える。
「お願い買っでえええええ」
水巻も二つ年上の兄がいる。もう十年ぐらいたつだろうか、高校受験の頃に一族という立場に縛られることを嫌って親と喧嘩し、半ば家出レベルで大都会東京の方に進学していなくなってしまったが、まだ幼い頃はあんな風にいつも一緒だった。
「あと一個でコンプリートなのぉぉぉ!」
願わくば、あの兄妹は大人になっても仲睦まじくいてほしいものだと、水巻は裾を引っ張る力に対抗しながらそう思った。定期的にメールで兄とやり取りはしているが、いかんせん一族の仕事が多忙につきなかなか会いに行くことも出来ない。
こればかりはこの立場を悔やむことも多いが、仕方のない所でもある。仕える主神は私がいないとだめだもの。
「ご当地限定ぐまモンンン!」
「いい加減にしてくださいよこの馬鹿狐!」
ドゴンと。怒りの鉄拳が飛ぶ。
「やーちゃんがぶっだああああ!」
交換してくれないだろうか。そんな物騒な考えが頭をよぎるほどに、水巻が置かれている状況は最悪だった。
顔をくしゃくしゃにしながらガシャポンが並ぶ場所で子供たちと一緒に泣き叫び、ガシャポンの機械から体を離さない一人の少女がいた。黄金色に輝く髪に、長髪が多いといわれる稲荷一族の中では珍しく短めの髪には、頭頂部に見事なアホ毛がくるんと一回転して居座っている。体は寸胴、身長は高校生ぐらいはあるだろうか、あまり肉体的特徴を彼女の前で述べるととんでもなく不機嫌になるため滅多なことでは言えないが、上に白狐の白様と黒狐の黒様が大人の女性且つ妖艶な姿をしているのもあり、ネットでは二人の隠し子なんじゃなかろうかと物理的に無理だろそれはという噂まで立っている次第だ。
そして何よりも周りとは違うのは頭頂部に生えている対の狐耳、そして尻尾穴を通してにょきっと生えている立派な尻尾。彼女が人間ではないことを示していた。
引きこもり駄神、一花。それが今目の前で子供たちと一緒に泣いて懇願している少女の名前である。そして巫女である水巻が仕える主神でもあった。
「今絶対私の悪口考えてだあああ!」
「ええい、うるさいですよ! というかまじで勘弁してくださいよ周りも見てるんですから!」
ちらりと周りを見渡せば、苦笑いしながらこちらに携帯を向けて取る若者たちや微笑ましく見るご高齢の方たちがいた。どの人たちも、水巻と目を合わせると労わる様な、何とも言えない眼でこちらを見ている。
「だっでええ! こごの道の駅限定ぐまモンはここだけでしか買えないんだよぉ!」
「買っでえええええ!」
「おがあさあん!」
「ちょっ、まっ、一花様やめて! 大声出さないで連鎖してるっ。周りに連鎖しちゃってるから!」
蛙の大合唱みたいになり始めた目前の光景に水巻は悲鳴を上げた。誰もが一度は経験したことがあるであろう、子供たちの多感な共感性により一花の駄々が連鎖していく。連鎖ゲームも真っ青の連続コンボだ。このままではおじゃまがどんどん落ちてきて取り返しのつかないことになってしまう。
どうしたものかと頭をひねる。この状態になると長いのだ一花様は。そう、この光景は初めてでなく見慣れた光景の一つ。収集癖のある一花様は普段外に出ようとはしないものの、稀に外に出たりするとこういった収集要素のあるガチャやご当地限定の物を買いあさる節がある。今回もこれで二度目なのだ。ここに来る前の鹿児島では、各地域のご当地ゆるキャラグッズをコンプリートしようと水巻に内緒でご友人の狐神と一緒に出歩き、経費として勝手に買い巨大な袋を持って帰ってきていた。ホテルを出る際に、フロントの人からお預かりしている荷物はどこあてにすればよろしいでしょうかと聞かれた際の自身の表情は一花様曰くとんでもなく怖い顔をしていたというが、当然のことである。
経費の手続きを最終的に確認するのは自分なのだ。提出するのは一花様だとしても、共犯として肩を担ぎたくはないのである。憧れの対象である白狐様と黒狐様に、一花の巫女は同レベルだと思われたくないのだ。まぁ、そんなことを一花様の前で言った日にはどんな癇癪を起すかわからないので絶対に言わない。
それにしても、どうしてこうも毎回厄介ごとを起こすのか。巫女として傍にいる自分の身にもなってほしい所だと水巻は眉間にしわを寄せてため息をつく。
「買っでえええ」
「ああもう、だから引っ張らないでくださいってば! その機械、壊さないでくださいよ」
ただでさえ目立つ容姿をしているというのに、子供と一緒になって泣き叫ぶその姿はなんともシュールで、ある意味芸術的ですらあった。これが絵画であればタイトルは『神の泣き顔』だろうか。そんな馬鹿げたことを考えながらも、水巻は必死に抵抗する。
しかし、そんなにもこのぐまもんとやらは人気があるのだろうか。水巻には理解できないジャンルの為一花様が考えていることはまったくもってわからないが、この熊をデフォルメ化した正直目が怖いぬいぐるみの様なキャラは空港や各道の駅だけでなく、至る所で見かけるほどだ。ちなみに、一花様が一回五百円もするこのクッソ高いガシャポンに手を出しているのは『道の駅シリーズ・標識ぐまモンキーホルダー』というシリーズで、ピンポイントにここの道の駅キーホルダーが当たっていないらしい。ガシャポンの横に置かれている空容器入れには一花様が開けた容器が山高く積まれていた。なお、ダブりにダブっているせいで渡していた今日の小遣いが消えてしまっている。
「だっで、だって、だってぇ……」
「まーじでいい加減にしてくださいってば! 今日中に例の件を確認しにいかなきゃ――」
「あのー、すいません。一花様でいらっしゃいますでしょうか?」
その時だった。
突然の声に、水巻は思わず振り返る。聞きなれない声の方に視線を向ければ、そこにはふくよかな男性が立っていた。職員だろうか、このご時世に男性の職員がいる道の駅とはなんとも珍しい。胸に取り付けられたネームプレートを見れば、『佐藤 昭』という文字が刻まれていた。
隣にはスーツを着た黒髪の女性。こちらも胸のあたりにあるバッジを見て、国営の男性ボディーガードだと理解する。
――一花様の事を考えるあまり、声をかけられるまで気づかなかった。
冷や汗が流れる。神様飽和時代とは言え、一花は上から数えたほうが早い力のある神だ。だからこそ、なんやかんや融通を聞かしてくれる人達がほとんどだったが、相手が男性となるとまた話は変わってくる。水巻も男性を相手にすることは稀だ。一応、巫女になるにあたり男性に対しての会話練習や対応の仕方については国から指導を受けてはいるが、いかんせん学んでから実践する機会がなかったためちゃんとできるかどうか不安である。
ガシャポンと水巻の腰に巻き付いていた一花も声をかけてきた男性を見て泣き叫ぶのをやめていた。さすがに声をかけてきた男性を無視するには無理があるのだろう、涙と鼻水で顔をガビガビにしながら水巻を盾に男性の方を見ている。
「ゔ、ヴぇ、私が一花です……」
(何ちゅう声出してるんですか)
とんでもない声を出す一花にあきれながら、人見知りもここまでくればすごい事だと水巻はポケットティッシュを取り出し数枚抜いて一花の顔を拭いてあげる。大人しくそれを受け入れつつも、ガシャポンの機械に尻尾をタコのように巻き付けているあたり、それでも絶対に離さないという本当に鬱陶しいほどの意志が感じ取れた。
「わたくし、この道の駅の管理者である佐藤と申します。何やら問題が起きたと警備から連絡がありましてこちらに来た次第なのですが……」
チラリと、水巻と一花を交互に見る。察しがいいのだろう、先ほど一花様の名前を呼んでいたあたり、ここに来るまでの間に情報は仕入れているに違いない。
「本当に申し訳ございません。一花様が久方ぶりの長旅に浮かれ本分を見失った姿を露にし周りの方々にご迷惑をおかけした事、主神に代わり巫女である私が謝罪致します……」
なんにせよまずは謝罪せねばと水巻は言葉と共に頭を下げる。何やら後ろの方で浮かれていないもんとぶつくさ言っているような気がするが無視である無視。こちらに非がある場合はよほどの場合を除いて先に謝罪するのが得策なのだ。
「あぁいえ、頭をお上げください。稲荷一族の一花様と言えば、今や知らないものはいません。そのお付き人に頭を下げさせたとあってはファンの一人としては心が痛くてですね……」
水巻の謝罪に慌てた様子で佐藤は両手を振った。
「ファン……ですか?」
「えっ、あぁはい。実は配信を追ってる口でして……。いやーまさか一花様がこの道の駅に来てくださるとは思わず、ついつい足が動いてしまいました」
「そ、それはまぁなんとも物好きな……痛いっ!」
佐藤の言葉に、水巻は驚いたように目を見開いた。ネットという不特定多数の数多き人達が見ることのできる環境のため、女性だけでなく男性にもファンがいるというのは信者の口から聞いてはいたが、こうやって目の前で一花のファンを公言する男性がいるというのはなんとも不思議な光景だ。なんてもの好きなんだろうか、こんな年がら年中引きこもりの駄神のファンだなんて。そう頭の中で考えたはずだがどうやら口から漏れてしまっていたらしい。後ろから一花の尻尾が水巻の尻をびしびしと引っ叩いていた。
「ま、まぁその話は置いておきましょう。それで、一花様に御用でしょうか? このありさまなので、逆にご迷惑をおかけするかもしれないですが……」
これ以上はいけないと話を戻す。このままでは話が脱線していつまで経っても本題に入れない。
「あっ、そうでした。実はお二人にお願いしたいことがありまして……」
そう言って、佐藤はスーツの内ポケットから一枚の紙を取り出す。隣にいたボディーガードの女性がそれを受け取ると水巻に手渡してきたため、折りたたまれた紙を開いて内容に視線を落とした。
そこには直筆であろう、丁寧な字で書かれた文章が綴られていた。
「……これは」
「実は、私ではなく別の人がお二人に会いたいとの事でして。内容の方は神様にお渡しするものでもあるので護衛官に確認させていただきましたが、特に問題ないとの事だったので渡しに来た次第です」
「こ、この手紙を書いた人ってどなたなんでしょうか!? できれば話をお聞きしたいんですが」
「すいません……実はもう帰ってしまいまして」
「えっ、そうなんですか……」
佐藤の返答に水巻はがっくりと肩を落とし落胆する。手紙にはとある住所と日付、そして稲荷一族でしか知りえない情報が書かれていた。きっと誰に見られてもいいように断片的な情報しか書いていないのだろう、この手紙を書いた主はそれなりに頭の切れる人物だという事がこの手紙の内容だけで読み取れる。
肩を落とした水巻を見て、
「さすがに往来で立ち話をするのもなんですし、いかがでしょう。近くに男性専用のイートインスペースがあります。そこで話の続きをしませんか?」
そういうと、佐藤はボディーガードに指示を出した。指示されたボディーガードが、ポケットから携帯を取り出し連絡をする。男性専用のエリアを使用する許可でも取っているのだろう、確か授業で習ったことがある。男性専用のエリアに女性を入れる際は許可申請がいると。なんとまぁ面倒な事だと考えつつも、初対面でそこまでしてくれる佐藤に感謝しつつ水巻はさきほどから尻尾で尻を強打し続ける一花様を何とかしなければいけないと、引きはがせるか試すことにした。
「一花様、ほらっ。用事が出来たので行きますよ!」
と、なんとかガシャポンに巻き付いている尻尾をはがそうとする。しかし、ガシャポンに巻き付いた尻尾はなかなかに頑丈でビクともしない。
「うぅ、だってぇ……だってぇ……」
(あぁっ、また泣き出した!)
どうやら相当にこのガシャポンから離れたくないようだ。もはやこの機械ごと一花様を引っ張っていこうか、そんな物騒な考えが頭をよぎる。
と、その時だった。その様子を見ていた佐藤が懐から何かを取り出し、再度ボディーガードに手渡した。キーホルダーだ、あれは恐らくぐまモンの。
「こちら、一信者として一花様に献上したいとの事です。ここの道の駅限定ストラップのぐまモンなので――」
「えっ、一花様! これ、一花様が欲しかった奴じゃ」
「……」
(黙った……)
一花は水巻の言葉にピクリと反応を示す。そしてゆっくりとガシャポンから尻尾を離すと、水巻の腕に抱き着いてきた。
「行くわ。案内して頂戴」
そこには先ほどまで駄々をこねていた駄神の姿はなく、神々しい、稲荷一族の代表と言っても差し支えないほどの顔になった一花が凛と立っていた。水巻でも中々に見ることのできない、神事を執り行う時だけに現れる完全外行用のお姿である。
――後で思いっきり尻引っ叩いてもいいかな。
思わずそう考えてしまうほどの、一花様の変わり身の早さだった。
けれども水巻も、とりあえずは一花様へのお説教は後回しにしようと意識を外した。今水巻が最優先にしなければならないのは白狐様から下った指令を終わらせること。時間をかけすぎればそれだけ自分たちの仕事は後回しになるし、一花様の無駄遣いもこれ以上重なれば費用を計上する際にどんな事が起こるか想像もつかない。そうなれば秋にもらえる休暇も無くなりかねないので、腕を引っ張って催促する一花様の後ろについて歩き出した。
なお、後日手紙の場所に行き、秋の休暇が完全になくなるのが確定したのはもう少し後の話。
FF16を2週目までやってたら投稿遅れたマン。許して許して……。
ジブリの最新作が今日上映らしい。ジブリに影響されてオリジナル小説書くこと多いので早く見に行きたいですね。
次の投稿は一つストックがあるので早めになります。
そして誤字脱字報告、本当にありがとうございます。また感想も励みになります。頑張っていきます。