男女逆転世界で生まれた狐神が最近会った人間に勝てないのでわからせたい模様   作:イソン

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のじゃロリ狐は初めておはぎを食べる際、あんこだけを先に食べてしまったらしい。


第八話

 屋根の瓦の一枚一枚に雨粒が落ちていく。雨水が線を這うように流れ、縁から落ちて金魚たちが住む壺に波紋を起こす。一定のリズムで鳴り響く自然の音楽。恵は久しぶりに客のいない空間で耳を澄ませた。

 朝のニュース番組で言っていた通り、風も吹かずしとしと降り続ける天気だ。この様子では客足も遠ざかるというものだ。

 販売に立つ恵は、そう思いながら外を見た。

 

 大粒の雨が降っていた。街路樹には雨粒が優しく当たり。路面では、たまった雨が水たまりとなって静かに揺れ動いている。

 雨は嫌いではない。どちらかというと降っていた方が趣味の読書もはかどるしなにより自然の匂いが濃くなっていく感じが恵は好きだった。

 けれども、梅雨の時期でないにもかかわらず、ここ数日の降りようは雨が好きな恵としてもさすがに憂鬱な気分になりそうだ。

 

 (従業員が休憩から戻ったら自分も休もう)

 

 静かな日だ。

 

 ほんの数日前まで、おはぎを作ろうと意気込んでいた神様の相手をしていたのがなつかしく感じる。

 あの後、神様は苦労して作り上げたおはぎを目を輝かせながら大事そうに懐にしまおうとして祖母に折檻を受けていた。懐に大事なものをしまう癖は他の着物を着ていても適用されるらしい。泣きべそになりながら仕方なくおはぎを食べて口の周りをあんこだらけにしていたので、頭を撫でながら口元を拭いてあげたのを思い出す。

 そんな彼女は雨が嫌いだ。なんでもキューティクルな尻尾がべしょべしょになってしまうからという理由らしい。そのあたりは狐らしいというか動物みたいというか、恵も雨の日に彼女の所へ向かうと機嫌が悪かったりそもそも別の所にある洞穴から出てこなかったりと散々な目にあった記憶がある。

 彼女らしい理由だなと、雨が届かない場所で雨宿りをしていた姿を思い出して苦笑いを浮かべる。

 

 「ふぅ、こんなものか」

 

 拭き掃除を終える。基本、毎日行っているため新しく取り出したふきんも汚れがついていないままだが、手持無沙汰の時は何かしていないと気が済まないのが恵の質だった。

 

 その時、何か視線を感じた。

 

 ふと、外を見る。

 

 雨の向こう、まばらに車が通る向かいの道にある街灯の上で一匹の白い鳥が止まっているのが見えた。

 ――大きさ的にはカラスのように見える。アルビノだろうか、それともそういう鳥なんだろうか。神様の面倒を見ている白とは大きさも2回り以上違う姿に恵は物珍しくその姿を見ていた。

 異質な雰囲気だった。こんな和風な建物が軒並ぶ場所に佇むその姿は、どちらかというと大理石でできた建物にいそうな雰囲気を醸し出している。

 いつからいたのだろうか、恵の勘違いでなければ白い鳥はこちらを見ているようにも感じられた。

 

 赤い瞳だ、紅玉の様な。

 

 「考えすぎかな……」

 

 鳥がこちらを見ているだなんて、少し過敏になりすぎだ。

 珍しく、売り場や裏方にも人はいない。祖父母は用事で出かけているし、従業員も休憩の合間で家に戻り子供たちのお昼を作りに行っている最中だ。ついこの間の喧騒が噓のようである。

 ここ最近、人が多い環境に慣れてしまっていたのかもしれない。

 

 暇な時間の有効活用に少しの間考えた後、何か新作のスイーツでも作ってみよう。そう考えた恵が白い鳥から目をはなし厨房に入った時だった。

 

 チリン、と。

 

 入口に備え付けられていた鈴が鳴った。

 

 その音を聞いて、恵は不思議に感じた。駐車場に入る車の音は何も聞こえなかったからだ。先ほどまで外を見まわし、歩いている人がいないのは確認済みだ。

 なおかつ、今日は雨。人通りがないのであれば、店に来る手段は車だけのはず。

 

(なにか動物でも入り込んできたかな)

 

 案外、先ほどの白い鳥が雨宿りに来たのかもしれない。もしかすると、白と同じく神様の使いである可能性も。

 そんな思考に、自身の環境が非日常に偏りすぎているなと苦笑いしながら厨房を出て表にでる。

 

 けれども、恵の予想は外れではなかった。

 

 「いらっしゃいま……せ?」

 

 少女がいた。白と青のコントラストで彩られた少女が。

 人形のように白い肌の色をした彼女は、この天気には似つかわしくない白いワンピースを着ていた。髪の色は全体的に白色で、毛先に向かうにつれ深い青みがかかっている。肩にかかるかかからないかの髪は露出した肌の雰囲気と相まって、水晶の様に儚げで美しいと感じさせるものだった。目の色は赤く、先ほどの白い鳥と同じ色をしている。

 そして何より、目を引くものがあった。

 彼女の背中から生えている、白い翼。その存在が、彼女が人間ではないということが理解できる。

 

 「あの……」

 

 だが、恵が一番気になったのはそこじゃなかった。

 目の前の少女が誰かに似ている気がするのだ。誰なのかわからないけれど、確かに見たことがあるような。

 しかし、どうしても思い出せない。知っているはずなのに。

 

 子供の頃、父と一緒に。白くて大きな建物の中で。たくさんの女性に囲まれながら、扉の奥で。

 

 こちらを見る紅玉の少女に。

 

 「すいません。聞こえていますでしょうか?」

 

 その言葉に、はっと顔を上げた。

 

 「し……つれいしました。この辺りではお見かけにならない神様でしたもので」

 

 あまり動揺が悟られないようにと口を回す。あながち嘘でもないその言葉に、目の前の少女は怪訝に思いながらも納得したのかこちらを見つめながら口を開いた。

 

 「突然のことで失礼だとは思います。……私はフィーネ、海外から来ました」

 

 そう名乗った彼女に対して、恵は珍しいと感じた。海外神の信仰は今日日どの世界においても一定数は存在する。たとえ海外の神であろうとも日本の土地に縁を持つことができれば離れた場所を自由に移動できるというのが常識だ。けれども、彼女の容姿は見たことがないものだ。この土地に縁がなく、海外からわざわざ来るなど普通であれば朝のニュースで取り上げられていてもおかしくないほどだが。

 

 「フィーネ様ですね。今日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 普通の人であれば少なからずとも動揺していただろうか。いかに神様飽和時代と言えど、非日常の感覚に慣れてしまった自身にあきれつつ、フィーネに問いかけた。

 

 「あ、あの……そのですね」

 

 対して、彼女はなぜか戸惑うように視線を泳がせる。

 

 一体、何の用だろうか。恥ずかしそうに顔を朱に染め、もじもじと両手を合わせ始めた様を見て恵はどうしたものかと頭をひねる。恐らくではあるが、お忍びで来ているほどの神様だ。何か重要な用があるに違いない、そう考えた恵は何を言われても驚かないように心構えた。

 けれども、少しの間沈黙が続き、こちらを見たり見なかったり瞬きの回数が多くなったりし始めたフィーネを見て、とりあえずこちらから助け舟を出そうかと考えた瞬間だった。

 

 

 

 ぐぎゅうう、と。

 

 恵とフィーネ以外誰もいないこの空間で。

 

 「……あ、あのそのあののの!」

 

 顔を真っ赤にしながら半べそ状態でこちらにこれは違うんですと声を高らかに説明し始めたフィーネを見て。

 

 

 

 

 「お口に合うかはわかりませんが……。ちょうど昼時ですしお昼ご飯、一緒に食べませんか?」

 

 正解であろう言葉を。なるべく彼女の尊厳を傷つけぬよう答えながら、神様でもお腹が鳴る音は同じなんだなぁとどうでもいいことを考えながら店のイートインスペースへと案内するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おにぎりの王道と言えば何だろうか。

 日本の携帯食と言えばおにぎりと言っても過言ではないだろう。具のバリエーションも多く、梅や鮭、おかかに昆布、ツナマヨに明太子。はたまた肉巻きやエビ天、チーズなんていうものまである。地方にいけばそこ特有の具材もあるぐらいだ。

 熊本のおにぎりにも特殊なものが1つある。それは――。

 

 「お、おいしいです……!この、なんていうんでしたっけ。辛い、お野菜?」

 

 「辛子高菜ですね、お口に合ってよかったです」

 

 よほどお腹が空いていたのだろう、口元に米粒をひっつけたまま美味しそうに頬張るフィーネを見て、恵はどこか狐の神様と似たようなところがある光景に笑みを浮かべながらお茶を汲んだ。少々特殊な具材の為、お口に合うか不安ではあったが海外の神様でも舌鼓をうってくれているらしい。

 

 「それで、フィーネ様。今回はどのような理由でこちらに?」

 

 その言葉に、フィーネは慌ててリスの頬っぺたみたいに膨らんでいた状態を何とかしようとしたのかあまり噛まないまま白米を飲み込んだ。恵のあっ、という声とともに粘着性のあるお米がフィーネの喉にダイレクトヒットする。

 

 「……っ、んぅ、んん……!」

 

 なんて悲痛な叫び声だ。食べている最中に話しかけるべきではなかったかと反省しつつ、涙を浮かべながら助けを求めるフィーネにお茶を手渡す。渡されたお茶を急いで飲むその姿に、とても失礼だとは思いながらも最初にあった時よりもミステリアスさがなくなったなと感じた。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 「こ、殺されるかと思いました……! こちらの主食は殺傷性が高いです」

 

 「あはは……。あっ、お茶のおかわりいかがですか」

 

 「あっ、ありがとうございます。お茶って飲むと、ほんわかしますね……」

 

 流れるような動きで空になった陶器へお茶を注ぐ。

 

 「そうですね、外も雨で静かですし」

 

 「そうですねぇ、冷えた体が温まります……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 「いやあの、それでフィーネ様はどういった理由でこちらに?」

 

 空間にほんわか空気が流れ始めたのを見て、さすがに恵はまったをかける。本当に恵の知る神様達とはまったく違うベクトルのタイプだ。

 

 恵の問いに、フィーネは椅子から立ち上がり胸に手を当てた。背中の翼が広げ、意を決したように口を開く。ごくりと喉を鳴らす。お忍びで来るほどの神様だ。相当な理由に違いない。

 静寂が店内を支配する。空気が変わるのを感じた。彼女が息を吸い、そして――。

 

 「あなたは神様を信じますか!?」

 

 「すいません、新手の宗教勧誘はちょっと……」

 

 もう間に合ってますと、恵は条件反射で答えた。

 

 静寂が空間を支配する。きょとんとした顔でこちらを見ていた彼女の顔は、時間の経過とともに赤くなっていった。まるでトマトの成長過程を見ているかのようだ。

 

 「ち、違うんです!そういう意味じゃなくてですね、あのそのえぇ~っと……そ、そうです。あなたは今神様の事でお悩みの事がありますね!?」

 

 こんなはずじゃないのにと、フィーネは顔を真っ赤にしながら頭の中で考える。別にそんな難しいことを聞くつもりではなかった。目の前でこちらの問いに対し苦笑いを浮かべている青年に本当はどうしたいのか聞くだけのはずだった。

 けれども、いざ口に出そうとした瞬間に頭の中が真っ白になり咄嗟に出た言葉は勧誘活動の常套句。

 とりあえず、なんとか誤魔化せないかと両手をばたばたと動かして誤魔化しているが背中の羽はフィーネの感情を表すように、恥ずかしさでどこかしなびたようにも見える。

 

(くそぅ、せっかく監視の目をかいくぐってここまで来たのにっ!)

 

 頭の中では理解していたつもりだった。歪な世界で男女分け隔てなく接する稀有な青年、どうしてあんな父親からこんな好青年が生まれてきたのか、神々が人間に与える謎解きぐらい複雑怪奇で人類とは不思議な生物だ。

 純白なる魂。だからこそ、自身を溺愛する主神と姉達は私にあてがおうとしたのだろう。それが本当に情によるものなのか、それとも別の思惑なのかはこの際どうでもいい。

 フィーネが聞きたいのは彼自身の意思だった。それが諦めによる停滞なのか、それとも歩みを止めず進み続けるのか。

 事前に仕入れた情報では、彼は契約の内容を聞かされてから逃げるように祖父母の所に転がり込んだという話だった。歩みを止め、停滞する人間。もしそれが本当だったら、何も言わず受け入れるつもりだった。この世界で役目を全うすることは無理難題に近いから。

 

 けれども。

 

 突然の質問に対し頭を捻りながら悩んでいる目の前の青年を見て、会うまでに考えていた思考は綺麗さっぱりなくなっていた。末端であれど神だからこそわかる人間の本質、悩みに悩みぬいて決意した彼女が恋焦がれる決意の瞳。

 自分はきっとこの先に出る答えを知っているだろう。それが例え主神の望まない答えだったとしても、この歪な世界で出会った自分の望む勇者だったとしても彼女は青年が自分の口で答えてくれるのを待っている。

 少しの時間が流れた。降り注いだ雨がその小さな体を束にして一つの流れへなるように。二人だけしかいないこの場所で聞こえるのは、時刻を刻む時計の針と外で降る雨音だけ。

 

 そして青年の口から出た言葉に、フィーネはここにいない狐の神様に羨望と嫉妬を感じ。

 

 (淡い初恋だったなぁ)

 

 かなわないなぁと、笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




GW休みが終わったのでまた書いていきます。
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