青空に流れの早い雲。あちこちの桜の枝先にはつぼみの濃い色がかすんで見えている。
加州清光は咲き始めた菜の花が広がる野原で、切株に腰を掛け、膝に古風なラジオを抱えていた。
ラジオは今はいない主の私物で、いわば形見だ。ラジオには周波数を合わせるための丸いつまみが二つあり、その間には浮き彫りの紋白蝶の印があった。
ラジオからはオルゴールの音色で優しい旋律が流れている。子守歌のようだ。
加州清光はその旋律に合わせてはなうたを歌っていた。この歌が長く行方の分からない主に届くといいのに、と願いながら。
「あっ、いたいた! 清光~!」
大和守安定が急いで駆け寄ってきた。
「ねぇ、みんな広間に集まってる。こんのすけが任務依頼に来たって」
大和守安定の言葉に加州清光は驚いた。
「は? こんのすけが? 今になって?」
「うん。今まで何年も僕たちをほったらかしだったのに」
「なんか……ちょっと、怪しくない?」
加州清光が眉をひそめて言うと、大和守安定も眉をひそめた。
「まぁ、きな臭いよね。でも、これがこの本丸の現状を変えるなら……」
「分かった。すぐ行く」
加州清光はラジオの停止ボタンを押した。
「強襲……強襲調査とはどういう意味かな」
南海太郎朝尊の疑問に、隣の肥前忠広が口を開く。
「そりゃ、敵が強力に固めてる陣地に俺たちが乗り込んで調べるってことだろ」
「その通りです。これまでの戦場には見られない、新型の強力な敵も確認されています」
こんのすけは肥前忠広の言葉を肯定した。
広間にはこの本丸を構成するわずか九振りの刀剣男士、それに相対してこんのすけが座っている。
「ふむ。では、今までにない新型の強力な敵が出現する、ということは現時点で判明しているのだね。その新型の敵とはどのような形状か、どのようなときに現れるか、どんな能力を有しているのか」
南海太郎朝尊の質問にこんのすけが答える。
「変異がもっとも強い1600年前後に先行調査員が潜入していますが、詳しい形状や出現条件や能力はまだ判明していません」
「調査員……調査員と言ったね。調査隊ではない。つまり誰かが単独で先行調査している、と」
南海太郎朝尊は困ったように首を振った。
「時の政府くんは戦の素人なのかね。それほどに危険な未知の敵陣に単独で調査員を向かわせるとは」
「まぁ、それは今に始まったことじゃねぇ気もするけどな」
肥前忠広はそう言いながら肩をすくめた。
「この任務を受けるか、受けないのか。まずその返答を」
こんのすけは焦れたようすで言った。
「ああ、すまないね。僕は些末なことが気になるのだよ。他の者ならあまり気に留めないようなことがね」
そう言って南海太郎朝尊は意味ありげに微笑んだ。
それまで黙って聞いていた一文字則宗がおもむろに口を開いた。
「戦争というものは情報と兵站がすべてだ。こんのすけ、情報を寄越せ。また、その未知の敵陣と新型の強力な敵に耐えうるよう、能力の強化と保護機能を要求する。そして十分な物資と装備だ」
「……要求は時の政府に伝えます」
こんのすけが返答すると一文字則宗はたたみかけた。
「して、報酬は」
「報酬、ですか」
「報酬の内容は決まっていないのか? ならば」
一文字則宗は手に持っている扇子をパチンと閉じ、それでまっすぐこんのすけを指した。
「任務報酬として、この本丸に主が、元の審神者が帰還できるよう政府は手を尽くせ」
一文字則宗の顔から笑みが消える。
「すべて確約できなければ、この任務は受けられない」
暗い表情に鋭く光る一文字則宗の眼力にこんのすけはひるんだ。