面影を迎えにいく話   作:はくたかゆき

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13.対価と報酬

 面影が春の日差しがそそぐ縁側に座って休んでいると、一文字則宗が茶と菓子を持ってきた。

「一緒にいいか?」

 面影は短く「ああ」と返事した。茶も菓子も二人分が盆に乗っている。一文字則宗には何か自分と話したいことがあるのだな、と分かった。

「お前さんに聞きたいことがある」

 面影は緊張して身構えた。黒い戦装束のもう一人の自分のことを聞かれると思った。

 しかし、一文字則宗はまったく違う話をしはじめた。

「僕は特命調査で監査官を務めた報酬として、自分がこの本丸に配属されるよう要求した。お前さんは強襲調査でこの本丸に協力した対価として、政府に何を要求する?」

「……対価? 報酬……考えたこともなかった」

 一文字則宗は「欲がないなぁ」と笑った。

「……どんな願いでも通るのだろうか?」

 面影が疑問を口にする。

「交渉事は強気で行くべきだ。相手が時の政府なら、なおさらな」

 一文字則宗は菓子皿を面影に差し出してすすめた。

「強襲調査の責任者には一振り目のお前さんに無茶をさせた負い目がある。引き出せるものは引きずり出し、取れるものはしぼり取れ。お前さんにも捨て駒のまま終わってたまるかという気概があるだろう」

 面影が菓子皿を受け取って一口菓子をかじると一文字則宗は聞いてきた。

「うまいか?」

「………あの黒い、私にそっくりな者のことを聞かないのか?」

 一文字則宗が面影と目を合わせる。

「ん? 聞いてほしいのか?」

「………」

 面影は黙って目を逸らした。

「お前さんが自分から話したくなるまで待つさ。かけがえのない仲間だから、な」

 面影は切ない顔をした。

「仲間……私の身には過ぎたものだ」

「理由は知らんがそう卑屈になるな。政府に足元を見られるぞ。何だろうと遠慮はいらん、強気でいろ」

「………もし私が、刀剣男士としては不完全でもか?」

 面影がためらいがちに言うと、一文字則宗は体をゆすって大笑いした。

「うっはははは! 大いに結構。完全なものに何の面白味がある? 不完全なものやいびつなものほど美しく、魅力的だ」

 一文字則宗はキョトンとしている面影の目を見て言った。

「今のお前さんが一番良いのさ」

 面影はどう返答していいものか分からず戸惑っていたが、一文字則宗は気にも留めずに茶をすすった。

「お前さんが何をもって完全と考えるのかは知らんが、そもそもどこの本丸で過ごしている刀剣男士もみな不完全だ。だからわざわざ政府は主を頂点に仲間を作らせ、人間の真似事をさせている。主や仲間との絆、物語を深めることで僕たちは強くなる。そして正しい歴史を守るモノとしてより強く縛られる。ここには主がいないから、不完全で欠けている本丸だな。だがお前さん、それを気にしたことはあるか?」

「……いや、ない」

「そんなものさ。お前さんが楽しそうにしていれば、誰も気にもせん。自分の欠点に苦しんでいるのはどうせ自分だけだ」

 そう言うと一文字則宗は大きな口を開けてうまそうに菓子を頬張った。

 

 

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