面影を迎えにいく話   作:はくたかゆき

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16.ラジオの故障

 加州清光は審神者のラジオを抱えて庭を歩いていた。回廊を歩いていた大和守安定がそれを見とがめる。

「あっ! 清光、また主のラジオ独り占めしてる」

「違うよ! 音がしないから場所を移して試してるんだ」

「音がしない?」

 加州清光は大和守安定にラジオを見せた。

「雑音もしないんだよ。構造分かんないから分解するわけにもいかないし……」

「いつから?」

「うーん……俺だって毎日これ触ってるわけじゃないから……でもこんのすけが調査終了って言いにきたあたりまでは、主の歌が聞こえてたと思う……」

 大和守安定は加州清光からラジオを受け取って、試しに周波数を合わせるつまみを回してみた。

「ほんとだ……雑音もしない。困ったね」

 二人でためつすがめつラジオを確かめていると、厨の勝手口から堀川国広が顔を出して手招きした。

「ねえ、加州さん、大和守さん。ちょっと来て」

 堀川国広は「あれ」と空を指さす。

「厨の窓からあれが見えて……」

 雷のようなひび割れが地面から空に向かってゆるゆると伸びていく。

 加州清光はぽかんとして言った。

「なん……だ、あれ……」

 緊張して見守っていると、やがてひび割れは溶けるように消えた。

「……坂本龍馬の偽史が消滅したときのこと覚えてる? あれにちょっと似てない?」

 大和守安定が言うと加州清光はムキになって

「縁起でもないこと言うなよ!」

 と文句を言った。

「そんなこと言ったってさ……」

 大和守安定は困り顔になった。

 

 

 また別の日は、地響きが起きた。

 そのまた別の日には、短時間だが空の色が急に赤や紫になった。

 おかしな事象の頻度はだんだん、少しずつ増えていった。

 

 

 加州清光は暇さえあればラジオを持って落ち着きなくうろうろするようになった。

 あまり他人のことに口出ししない面影もさすがに心配なって加州清光に声をかけた。

「今日もそのラジオが気になるのか?」

 加州清光は難しい顔でラジオを眺めながら返事した。

「たまに雑音が流れることもあるんだけどさ……」

「それは、そんなに重要なものか?」

「重要っていうか……このラジオから主の歌が流れると、主は、ここに帰って来れなくても、きっとまだどこかで生きているんだって信じられたからさぁ……」

 それを聞いていた和泉守兼定が腕組みしながら言う。

「仕方ないさ。ラジオが壊れても、信じるしかないだろ。信じようぜ」

「うん……」

 加州清光はラジオを眺めながらしょんぼりしている。

 面影は和泉守兼定に尋ねた。

「主の歌、というのは皆がよく歌っているあのはなうたのことか?」

「おうよ。いい歌だろ? オレたちの主が作った歌でさ。どういうわけか、本丸が襲撃されて主が消えちまったあとから、ときどきあのラジオで流れるようになったんだ」

 加州清光はしおれたままラジオを持って行ってしまった。

 廊下に残った和泉守兼定と面影は黙って加州清光を見送った。加州清光が見えなくなると和泉守兼定はしんみりと言った。

「あのラジオから主の歌が聞こえなかったらさ、オレたちは本丸襲撃から立ち直るのにもっと時間がかかっただろうな。だから加州の気持ちは分かるんだ。オレもさっきは加州にはああ言ったけどよ。信じるよすがも絶たれるってのは、まあ、つらいもんだな」

 面影は加州清光が去っていった方向を見つめた。胸が痛むが、自分にはどうしようもない。仲間たちのために何もできないのがもどかしかった。

 

 

 

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