面影を迎えにいく話   作:はくたかゆき

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2.捨て駒

 こんのすけが一度政府に戻ったあとも、皆は広間に残って話し込んでいた。

「こんのすけのあのようすだと、先行調査員は保護強化の類は一切受けていないだろうな」

 気の毒なことだ、と一文字則宗はため息をつく。

「ねぇ、よかったの? こんのすけを追い返しちゃって」

 心配そうに加州清光が聞くと、一文字則宗は扇子の向こうでにやりと笑った。

「こんのすけはまた来る。おおかた気の毒な先行調査員に何かあったのだろう。急遽別の捨て駒が必要になったからこの本丸に接触したわけだ」

「捨て駒!?」

 堀川国広の目が丸くなる。

「そうでもなければ説明がつくまい。主の帰還に手を尽くせと要求したときのこんのすけのようすを見ただろう。主がいつからなぜ不在なのか、事実の確認すらしなかった。こんのすけはこの本丸に審神者が長らく不在なことを承知の上で訪問したわけだ」

「じゃあこの本丸が、外部との連絡手段もなく漂流を続けていたこともか?」

 そう和泉守兼定が聞くと、一文字則宗はうなずいた。

「知らんわけがないな。この本丸はいつからか政府の観察下にあったのだろう。本丸が襲撃を受け、わずかに残った我々以外は折れたり行方不明。それ以来、主である審神者は何年も行方不明。にもかかわらずその霊力は枯れず本丸は存続している。極めてまれな事象のはずだ」

 一文字則宗は皆を見回しながら続けた。

「捨て駒にするのに都合がいい調査隊。主を失ったにもかかわらず存続し、かつ長期間漂流し外部と隔絶している本丸。これほどの逸材は他にないだろう。だからこんのすけはまた来る」

 南海太郎朝尊が興味深そうにうなずく。

「捨て駒……面白いね。強襲調査の責任者は捨て駒を使いたい。一体どんな不都合が起きたのだろうね。詳しく知りたいものだ」

「次にこんのすけが来たらそこをつつくか?」

 一文字則宗がそう返すと陸奥守吉行は苦笑した。

「こんのすけが気の毒じゃのう」

「ま、ここに配属されたが運の尽きだな。うはははは」

 一文字則宗は愉快そうに笑った。

「あんまりいじめたら可哀そうですよ。こんのすけも現場と上との板挟みの立場ですし」

 前田藤四郎が心配そうに口をはさんだ。

 一文字則宗はもっともだというようにうなずいた。

「うむ。では前田が折を見てかばってやれ。尋問係と懐柔係、役割分担は基本だからな」

「もう……」

 前田藤四郎は眉尻を下げ、やれやれとばかりに苦笑した。

 

 

 こんのすけは翌日に現れた。それだけ事は急を要するらしい。 

「これが強化紋様……」

 加州清光たちは右手の甲に付与された紋様を眺めた。ひし形を組み合わせたようなその紋様は光を放つと、ゆっくりと身体に染み込んでいった。

「能力の強化はもちろん、負傷や損傷も短時間で自然修復します」

 こんのすけはごく簡単に説明した。

「ふふん、破格だな」

 一文字則宗は右手の甲を眺めながらこんのすけに尋ねた。

「この強襲調査では大変なことが起きているそうだが、先行調査員は無事か?」

「それは、まだ……連絡がつかないままです」

 こんのすけの返答を聞いた一文字則宗の口端が上がる。

「なるほど? 大変なことが起きた、先行調査員と連絡がつかぬ、生死が分からぬ。これが現時点での情報のすべてか」

 こんのすけははっとして口をつぐんだ。そして、うらめしそうな上目遣いで一文字則宗を見た。

「この強化紋様を先行調査員は持っているのか?」

「………」

 こんのすけは口をつぐんでいる。

 一文字則宗はこんのすけの目が泳いだのを見逃さなかった。

「やはりな」

 このやり取りで、本丸の全員がおおよその事態を把握した。先行調査員は一文字則宗の推測した通り保護強化の類を一切受けないまま、単独で強敵と相対し、行方不明になった。そしてこの本丸はそれに代わる、体のいい捨て駒なのだ。

 だがこれは同時に、この本丸にとってはまたとない好機だった。うまくいけば行方不明の主を探す糸口がつかめるかもしれない。

 一文字則宗はこんのすけに向き直って言った。

「では任務について聞こう。こんのすけ、話せ」

 こんのすけは少し不満そうにしている。会話の主導権を一文字則宗に握られているのが面白くないようだ。

「……この本丸を暫定的に二つの部隊に分けます。第一部隊は一文字則宗を隊長に、和泉守兼定、堀川国広、前田藤四郎。第二部隊は陸奥守吉行を隊長に、南海太郎朝尊、肥前忠広、加州清光、大和守安定。まずは第二部隊から出陣です」

 こんのすけの指示を聞いた一文字則宗はうなずいた。

「了解した。ま、隠居はしばらく大人しくしておくさ」

「最初の出陣先は幕末、1867年です」

 こんのすけの言葉に陸奥守吉行は首を傾げた。

「ん? 先行調査員のおった1600年前後は行かんでええのか? 変異が強いんじゃろう?」

 こんのすけは答える。

「そちらは急激に変異が広がりすぎて、この本丸では人数が間に合わなくなりました」

「ではそちらは他の本丸が担当するとでも言うのか?」

 一文字則宗の質問にこんのすけはうなずいた。

「はい、その予定です。ですから皆さまにはまず1800年代後半の調査に専念していただきます」

 それを聞いて一文字則宗と加州清光と陸奥守吉行は鋭く目くばせし合った。

 こんのすけが陸奥守吉行たち第二部隊をともなって出陣したあと、一文字則宗は眉をひそめて考え込んだ。

「まさか、この本丸の他にもうひとつの捨て駒があるとはな……」

 

 

 最初の出陣先は1867年11月14日の夜、京都の街中。宿場や酒場がにぎわっている。

 そこから少し離れた人気のない物置小屋の陰で、こんのすけは宙に浮く操作パネルを開いた。

「では任務について説明します。京都見廻組による坂本龍馬暗殺を成功させてください」

 

 

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