空の輝きが収まると、周囲は元通りの菜の花が咲き乱れる野原になっていた。
風景にまるで変化がないので、表と裏の本丸の統合が成功したのかどうかも分からない。三日月宗近たちは周りを注意深く見回した。間もなくそこへ、裏の本丸の者たちが駆けてきた。
「兄弟……」
山姥切国広が堀川国広を見つける。
「之定!」
和泉守兼定が歌仙兼定を見つける。
彼らはお互いに駆け寄った。
加州清光と大和守安定は表の本丸の者たちから少し外れた場所に面影を見つけ、駆け寄った。
面影は大和守安定に声をかけた。
「大和守、私は約束の時間を守れただろうか?」
不安そうにしていた加州清光と大和守安定は笑顔になり、互いに顔を見合わせた。
「うん、晩御飯の用意はばっちりだよ。三日月たちもそろうと思って、たくさん仕込んでおいたから」
「今夜は宴会、だな」
三日月宗近も加州清光たちに声をかけた。
「三日月、元気だった?」
加州清光と大和守安定は声をそろえ、三日月宗近と手を握り合った。
「ああ。そちらの皆も息災なようだな」
再会を喜び合う加州清光たちの後ろに控えていた前田藤四郎と、一期一振の目が合う。前田藤四郎の表情はこわばったままだ。
「前田……」
一期一振は前田藤四郎に向かって両手を広げた。
呼ばれた前田藤四郎はためらいがちに歩みを進める。
待ちきれなくなった一期一振は駆け寄って前田藤四郎を抱きしめた。
「よく、無事で……」
一期一振は声を震わせた。前田藤四郎は黙ってされるがままになっていたが、やがて細い腕がおずおずと上がって一期一振を抱き返した。
薬研藤四郎と鯰尾藤四郎は目を合わせると、一期一振たちにゆっくりと近寄っていった。
こんのすけは一期一振と前田藤四郎のようすを眺めると満足そうに目を細め、少しうつむくと片方の前足でそっと目尻をぬぐった。
それからこんのすけは面影の前に進み出た。
「面影、要望していた任務報酬の内容に変更はありませんか?」
「ああ、二振り目の私が願った通りに」
面影がそう返答すると、こんのすけはうなずき、片方の前足を差し出した。
「では面影、左手を」
面影は片膝をついて左手を伸ばし、こんのすけの前足に触れた。
すると、面影の左の手甲が輝き、やがてそこに紋白蝶を模した刀紋が浮かび上がった。
こんのすけは宣言した。
「面影に刀剣男士として刀紋を付与します。これにて、大太刀・面影をこの本丸に正式に配属とします」
面影とこんのすけのやりとりを見守っていた皆は笑顔になった。
「二振り目の私が、表の本丸を訪れる直前に、時の政府に要求していた」
面影は左の手甲に記された刀紋をしみじみと眺めて言う。
「強襲調査における私の先行調査の任務報酬として、正式な刀剣男士と認め、この本丸に配属することを」
「先行調査任務の報酬、なるほどな」
三日月宗近は納得したようすでうなずいた。
「則宗から教わった。政府との交渉事は強気でいけと」
面影がそう言うと、三日月宗近は愉快そうに笑った。
「よきかな、よきかな」
皆も打ちくだけて笑った。
笑い声が収まりかけたとき、へし切長谷部はふと何かに気づき、落ち着きなくきょろきょろし始めた。
「それで、主はどこだ? お戻りになったのか?」
「うん、ここに」
そう言って加州清光たち裏の本丸の者が道を開ける。その奥へと全員が目を向けた。
へし切長谷部は上ずった声で何かを言い、安堵の表情を浮かべると、そのままへなへなとその場にへたりこんでしまった。
表の本丸の皆は駆け寄ることも言葉も忘れて主である審神者を見つめた。
やがて三日月宗近は面影を差し招いた。
「面影、我らが主だ。挨拶を」
三日月宗近が導く先にその人は立っている。
面影はいずまいを正して前に進み、その人に向き合った。仲間たちがあれほどに慕い、敬愛してやまない人だと思うと、少し緊張した。
「面影だ。まだ分からぬことが多いと思う。よろしく頼む」
この本丸の主がどんな人物なのかはまだ分からない。ただその人は愛情深いまなざしと笑顔で面影を見つめている。その表情に面影はこの人がまるで今までの何もかもを知り、すべて見通しているかのような、そんな不思議な印象を覚えた。
《終》