坂本龍馬を取り込んだ巨大なムカデは長い体を鞭のように大きく波打たせ、鎌のような鋭い無数の足でキチキチと耳障りな音を立てている。
「こんのすけ、あれはなんじゃ?」
陸奥守吉行がなかば叫ぶように尋ねる。
「分かりません! データにありません!」
こんのすけもうろたえている。
「これがいわゆる『今までにない新型の強力な敵』かね?」
南海太郎朝尊が尋ねるとこんのすけは「おそらくは!」と返答した。
巨大なムカデは暴風のような勢いで尻尾を振った。みな危ういところですかさず退避した。
「弱点はどこじゃ!?」
陸奥守吉行が叫ぶ。
「普通に考えたら頭じゃない!?」
加州清光が叫び返す。
陸奥守吉行と加州清光はうねる巨大ムカデの長い体をかいくぐりながら頭を狙った。鎌のような無数の足に何度も阻まれる。頭に近づいたと思ったとたん、巨大ムカデは鎌首をもたげてはるか高い位置に頭を持ち上げた。
高く飛び上がって頭を狙おうにも、中空で何度も尻尾にはね飛ばされてうまくいかない。
その巻き添えを食った大和守安定は地面に叩きつけられた。
「……真っ二つにして臓物ぶちまけてやる!!」
起き上がった大和守安定はギラギラした目で巨大ムカデの中腹に走り込み、斬りつけた。
陸奥守吉行と加州清光は巨大ムカデの頭を狙い続けている。
「確かに半分にしてしまえばその分頭も低くなるだろうね」
と南海太郎朝尊は言い、大和守安定の援護に回った。肥前忠広は「よし、乗った!」と応えた。巨大ムカデは頭を狙ってくる陸奥守吉行と加州清光に気を取られている間に、どうにか硬い腹を切り裂いた。
耳障りな悲鳴を上げごろごろとのたうって苦しむ巨大ムカデの額を、陸奥守吉行と加州清光が共闘して叩き斬った。
倒した蟲の残骸は坂本龍馬ごと、消し炭のようにザラザラと崩れ落ち、消えた。そしてそのあとには紙の束が落ちていた。ちょうど蟲の頭が倒れ伏していた場所だ。
陸奥守吉行は蛇腹にたたまれた紙束を拾いあげ、ひとつ開いて内容を確かめた。
「これは……家族から龍馬に宛てた手紙、じゃな」
「龍馬、こんなにたくさんの手紙を懐に入れてたの?」
と大和守安定は不思議そうに陸奥守吉行の手元を覗きこんで言う。
「あれだけの激しい戦闘で、あの馬鹿でかい蟲と龍馬も消えたのに、この手紙だけきれいに残る?」
大和守安定の意見を聞いて、南海太郎朝尊も陸奥守吉行の持っている手紙を見ながら首を傾げた。
「どうにも奇妙だね。幻の花といい、よく分からないことばかり起き…、ん? なんの音だろう?」
あちこちでガラスが砕けるような音がし始めていた。見れば、次々と幻の花が壊れている。それは花が散るさまでは決してなく、まるで鉱石が砕けてはじけるようだった。
かと思えば足元が大きくぐらぐら揺れて立つのが難しくなり、空がひび割れて石つぶてが無数に降ってきた。
「なんじゃ!?」
陸奥守吉行はあたりを見回した。
「とにかく急いで退避しましょう!」
こんのすけは宙に浮く操作パネルを開き、帰城の手はずを取った。
本丸の転移装置の祠の前に戻ると、いつもと変わらずおだやかな春の風景が広がっていた。みな青空と桜と菜の花を目にして、ほっと安心のため息をついた。
肥前忠広は「一体なんだったんだ……」とぼやき、大和守安定は「あの時代にあんな大地震あったっけ?」と首をひねる。
こんのすけは急いでモニターを確認し、先ほどまで出陣していた地点で何が起きたか調べようとした。そして、口をぱくぱくさせた。
「……反応が………私たちがさっきまでいた調査地点ごと、反応が消えました」
こんのすけの言葉に加州清光は耳を疑い、思わず「えっ?」と聞き返した。
「まさか、こんなことが起きるとは……」
こんのすけは操作パネルの前で驚愕している。
「正したはずの歴史が自ら崩壊し消滅した……? そんな、馬鹿な……」
こんのすけは信じられない事態に焦ったようすで、パネルをあれこれと操作し、表示される数値や文章を何度も確認し直している。
刀剣男士たちはみな茫然としてこんのすけの背中と操作パネルを眺めた。