ハニーデュークスの女の子   作:雪羊

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ハーマイオニーとハロウィーンのココア

 

 

 

 

 

その日は朝からパンプキンパイを焼く美味しそうな匂いが廊下に漂い誰も彼もが今晩のハロウィーンのご馳走を楽しみにしていた。

 

しかしグリフィンドールの一年生ハーマイオニー・グレンジャーの表情はとても暗かった。

 

 

 

 

 

今しがた終わったばかりの妖精の呪文の授業で浮遊呪文を成功させフリットウィック先生に褒められた時の、ロン・ウィーズリーの不愉快そうな顔がハーマイオニーの目に焼き付いていた。

 

 

またやってしまった、と思った時には遅かった。授業が終わるとロンは授業中ペアだったハーマイオニーと言葉も交わさずさっさと荷物をまとめて教室を出ていってしまった。

 

慌てて後ろからついていったがなかなか声をかける勇気がでなかった。もしかしたらロンはハーマイオニーの悪口を言っているかもしれないと嫌な予感がよぎったが、ロンはハリーやヘーゼルともうすぐ行われるクィディッチの試合について楽しそうに話している。

 

 

「今年のクィディッチ杯はグリフィンドールがいただきさ。なんてったってハリーは百年ぶりの一年生シーカーだ。初練習でキャプテンのウッドにも褒められたんだろう?」

 

「まぁそれを言うならスリザリンにだって百年ぶりの一年生シーカーのドラコがいるんだけどね」

 

恍惚とした表情のロンにハリーが肩をすくめて答えた。ハリーとドラコが一番最初の飛行訓練の授業の時にネビルを見事助けたことで二人がそれぞれの寮のシーカーに選ばれたことはもはや学校中に知れ渡っていた。

 

 

ロンがハリーとヘーゼルに向ける笑顔が、先程自分に向けた表情とあまりにも違うことにまた落ち込んでハーマイオニーは話しかけるのを諦め歩くスピードを落として寮生たちから距離を取った。

 

 

 

 

きっと、あんな風にロンの発音の指摘などしない方が良かったのだ。

 

 

ハーマイオニーはどの授業においても優秀だったしフリットウィック先生は先程の授業で十点も加点してくれたが、自分が友達を作るのが上手くないことにはとっくに気が付いていた。

 

 

 

プライマリースクールに通っていたころからハーマイオニーは特別目立つほど賢く、それに加えて彼女の周りでは不思議なことが起こることが多々あったからかあまり友達がいなかった。

 

 

歯医者を営む優しい両親のおかげで寂しくは無かったが、それでも自分が魔女だとわかった時は驚きよりも嬉しさが勝った。

 

 

私と同じ不思議な力を持った仲間がいるんだわ・・・

 

 

彼女は教科書を読み耽りホグワーツ入学を誰よりも楽しみに待っていた。

 

 

 

 

 

 

しかしいざ寮生活が始まってみるとハーマイオニーは同級生の中にあまり馴染めず、ここでも結局プライマリースクールにいた頃のような気持ちを味わうことが多かった。

 

 

 

ハーマイオニーは立ち止まって自分の足先をじっと見つめた。油断すると涙が出てしまいそうだった。

 

 

 

 

ハーマイオニーにとってヘーゼルとロンとハリー、それにネビルだけが親しい同級生だ。

 

 

いや、親しいと思っているのは自分だけかもしれない。人懐っこいヘーゼルが話しかけてくるので、ヘーゼルが好きらしい魔法薬学の話や、一緒にロンの美しい飼い猫を撫でさせてもらったことがある程度で、ロンやハリーとはそんなに言葉を交わしたことはないし、ヘーゼルはいつだって誰とでも仲良く話している。

 

寮生活二日目からヘーゼルは同室のラベンダーやパーバティと恋愛の話で盛り上がっていたのでハーマイオニーは本に夢中なふりをしてやり過ごした。(「白状しなさいよ、誰に一目惚れしたの?昨日ぶつぶつ呟いてはベッドでジタバタしてるのが聞こえてたんだから!」と二人に詰め寄られるヘーゼルは顔を赤らめながらも楽しそうだった)

 

 

ヘーゼルを除くとハーマイオニーが一番話すのはネビルだったがほとんど授業についての質問に答えるだけで、友達といえるのかはわからない。

 

 

 

 

大丈夫、プライマリースクールの頃とそんなに変わらないじゃない。

 

 

ハーマイオニーは自分にそう言い聞かせたが、あの頃は学校で一人ぼっちでも家に帰れば優しい両親がいた。

 

 

でも今は・・・

 

 

大広間には毎日たくさんのフクロウが飛んでくるが、ハーマイオニーのマグルの両親からはまだ一度も手紙を受け取れていなかった。

 

 

鼻の奥がツンとする。良い友達が出来ますように、と魔法界へ送り出してくれた両親を思い出すともう駄目だった。

 

 

 

いよいよ涙が溢れそうになったその時、大きな榛色の瞳がハーマイオニーを覗き込んだ。思わず涙がひっこみ、代わりにハーマイオニーは驚きの声をあげた。

 

 

「ヘーゼル!ど、どうしたの?」

 

 

「ハーマイオニーこそ浮かない顔してどうしたの?授業がもうすぐ始まるのに珍しく来てないから探しに来たのよ」

 

 

気がつくと随分長い間ここで立ち止まっていたらしい。廊下にはもうほとんど生徒がいなかった。

 

 

「貴女まで授業に遅れるじゃない。私たち友達でもないのにそんなに気にしていただかなくて結構よ。」

 

 

喜ぶ気持ちとは裏腹に卑屈になっていた気持ちがつんつんした言葉になって口から飛び出し、ハーマイオニーはしまったと口を抑えた。

 

しかしヘーゼルはそんなハーマイオニーを見て目をぱちくりさせると、にっこり笑った。

 

 

「私、勝手にもう友達だと思ってたわ。寮では同じ部屋だし、同じ猫好きだし。それに魔法薬学の話で盛り上がってくれるのハーマイオニーだけよ」

 

 

 

そう言ってハーマイオニーの手を取るとヘーゼルは面白い悪戯を思いついた、という様ににんまりと笑った。

 

 

「でも、わかったわ。それじゃどうやったらハーマイオニーにとって私は友達になれるのかしら?今から教室に行ったってどうせ遅刻で怒られちゃうんだから、一緒に授業をさぼっちゃうのはどう?それってすごく友達っぽいと思わない?」

 

 

呆気に取られ何も言えないハーマイオニーの手を引いてヘーゼルは廊下を逆方向に歩き出した。

 

 

 

授業をさぼるなんてありえない。

 

 

そう思いつつもハーマイオニーはまるで月が引力で引き寄せられるようにヘーゼルに付いていった。

 

 

 

罪悪感と高揚感で胸がドキドキしていた。

 

 

 

先生やフィルチに見つからないように空き教室へ駆け込んだり入ったことのない塔に行ってみたりしながら、ハーマイオニーとヘーゼルはいろんなことを話した。

 

 

ヘーゼルの両親のお菓子のお店の話、ハーマイオニーの両親の歯医者の話、どんな猫が特に好きか・・・(「結局どんな猫も大好き」「私も」「いつかミセス・ノリスを触ってみたいの」「わかる!」)

 

 

驚くことにヘーゼルがホグズミードの出身でありながらマグルのプライマリースクールに通っていたこともあり、共通の話題は尽きず時間はあっという間に過ぎて夕食の時間になっていた。

 

 

 

 

 

「だからハリーとは赤ちゃんの頃からの幼馴染なの」

 

 

危ないところでピーブスをかわして滑り込んだ一階の女子トイレの鏡の前で髪を梳かしながらヘーゼルが言った。

 

その赤褐色の艶々とした髪があまりにも綺麗で、ハーマイオニーは自分の栗色の癖毛が何だか急に恥ずかしくなってヘーゼルに気取られないように撫で付けた。

 

 

「だからあんなに仲が良いのね。あんまり一緒にいるから私・・・私、あなたたちが好き同士なのかと思ってたわ」

 

 

ハーマイオニーはそう言ってから顔を赤らめた。似合わないことを言っていると思われないか心配だったがヘーゼルなら馬鹿にしたりしないだろうと、沢山話した今なら思えた。

 

 

 

「まさか!ハリーは弟にしか思えないわ、絶対にね」

 

 

 

ヘーゼルはやけにきっぱり言い切ると、しばらく何か考え込んだ後小声で囁いた。

 

 

「ハーマイオニー・・・絶対に笑ったりせず聞いてくれる?」

 

「ええ、いいわよ」

 

何だろう、と首を傾げるハーマイオニーにヘーゼルはより一段と小さな声で打ち明けた。

 

 

「わたし入学した日にね、スネイプ先生に一目惚れしちゃったみたいなの」

 

 

「えーーー!?」

 

 

 

ハーマイオニーがあまりに大きな声を出したのでヘーゼルが慌ててハーマイオニーに口を手で塞いだ。顔が真っ赤になっている。

 

 

「ラベンダーにもパーバティにもまだ言ってないの。ハーマイオニーなら絶対馬鹿にしたりしないだろうって思ったから言ったんだから」

 

 

ハーマイオニーはにっこり笑った。ヘーゼルが自分と同じように感じていたことが嬉しかった。

 

 

「えぇ、とても驚いたけど絶対に笑ったりなんかしないわ。・・・友達だもの」

 

 

 

 

二人の少女が嬉しそう笑い合ったその時、廊下の方から低いブァーブァーという唸り声のような音と酷い悪臭が漂ってきた。

 

何かしら、ハーマイオニーが口を開きかけた次の瞬間恐ろしい大きなものがトイレの入り口から二人を覗き込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にびっくりしたわ」

 

グリフィンドールの女子寮のハーマイオニーのベッドに並んで腰掛けながらヘーゼルが言った。

 

「マクゴナガル先生がおっしゃる通り、あの時ロンとハリーが来てくれなきゃ私たち今頃死んでてもおかしくないわよ」

 

ハーマイオニーが頷きながら言った。

 

談話室ではトロールが侵入したことによって中断されたハロウィーンパーティーの続きが行われていたが、あわや棍棒で叩き潰されそうになったばかりのヘーゼルとハーマイオニーはとりあえず着替えようと寝室へ直行した。

 

 

ハーマイオニーはピンク色の細いストライプのパジャマに、ヘーゼルは水色のふんわりとしたナイトドレスに着替えて、先程の特別な経験について語り合っていた。

 

 

 

 

「それに、さっきロンが言ったとおりよ。ハーマイオニーがロンに正しい『ウィンガーディアム・レヴィオサー』の発音を教えてなくちゃ、トロールをノックアウト出来なかったわ」

 

「『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』よ。正しく発音しなくちゃ」

 

 

ハーマイオニーがあまりに真面目な顔で返すのでヘーゼルは腹を抱えてベッドに笑い転げた。

 

「からかってるのね?いいわ。貴女が例の彼のどこに夢中なのか、今からたーーっぷり教えて頂きますからね」

 

 

「あら。そんな面白そうなお話、ぜひ私たちにも教えて頂きたいわね」

 

 

ハーマイオニーが言い終わらないうちにドアが開き、ラベンダーが寝室に入ってきた。手には沢山の食べ物が入ったカゴを抱えている。

 

 

「二人ともまだ何も食べてないでしょう?」

 

続いて四つのマグカップを盆に乗せたパーバティが現れた。マグカップの中にはミルクたっぷりのココアが湯気を立てて、コウモリ形のマシュマロがパタパタと羽を動かしながら浮かんでいた。

 

 

ラベンダーとパーバティは窓際の小さなテーブルに所狭しとパンプキンパイ、グリルポテト、茹でた豆、かぼちゃ入りチーズケーキなどを並べると二人を振り向きにっこり笑いながら腕組みをした。

 

 

「さぁ、今日こそ逃さないわよ」

 

 

 

 

ハーマイオニーはついに白状したヘーゼルの想い人を聞いて悲鳴に近い声をあげているラベンダーとパーバティを横目に、砂糖なしスナックに慣れているハーマイオニーには少し甘すぎるココアを幸せに満ち足りた気持ちで飲んでいた。

 

友達がいない惨めな気持ちはココアに浮かんだコウモリ型のマシュマロの様にすっかり溶けて無くなっていた。

 

 

 

 

こうしてハロウィーンの日の夜遅くまで小さな魔女たちのパジャマパーティーは続き、次の日から魔法薬学の教授は一部のグリフィンドールの女生徒たちから向けられる謎の生暖かい視線に悩まされることとなるのだった。

 

 

 

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