「パパ、ママ、ダドリー!ど、どうして・・・?」
「言ったでしょ。とっておきのプレゼントだって」
ハリーがやっとのことで声を出すとヘーゼルがすました顔で答えた。手には泡立て器とたっぷりのメレンゲが入ったボウルを持っている。
「ヘーゼルが計画してくれて助かったよ。じゃなきゃクリスマス休暇中、ハリーのアルバム見ながら泣いてるパパとママに付き合わされるところだったぜ」
ダドリーが肩をすくめて言うと、バーノンは当たり前だ、と言わんばかりに鼻を鳴らした。
「ハリー、ここに来るには随分骨が折れたぞ。ええ?本当に折れててもおかしくない・・・あのなんとかパウダーとかいう、ヘンテコな移動は・・・」
「でもこうして無事に元気そうなハリーの顔が見れて良かったわ。だってクリスマスに会えないなんて寂しすぎるもの。少し背が伸びたんじゃない?ハリー」
ペチュニアは目をうるうるさせて微笑んで、それからエプロンの端でそっと涙を拭った。
「うわー!ハリーの自慢の家族に会ってみたいって僕、いつも言ってたんだ」
「さっすがヘーゼル、サプライズだぜ。良かったなハリー」
ロンとフレッドが明るい声を出し、ジョージとパーシーもにこにこ笑っていたが、ハリーはバーノンやペチュニアにとってホグズミードという魔法だらけの村にやってくるのがどれだけ恐ろしいことかわかるだけに、体を強張らせたままだった。
バーノンの顔色はひどい乗り物酔いをした後のようだったし、ペチュニアは微笑んではいたが、何かが飛び込んでくるのを恐れるように時折り窓の方をちらちらと見ていた。
「僕、僕クリスマス休暇に帰らないことでみんなに迷惑かけるつもりじゃなかったんだ・・・」
自分でも情けないと思う声でハリーは言った。
「わかってるさ」
ダドリーは立ちすくんだままのハリーの横へ来て肩に手を回した。
「家族なんだから、全部わかってるさ。ハリーの優しさだってことも、ちょっぴり拗ねてるだろうってことも。おかげで完璧なKO勝ちをパパとママに観せれたぜ。いつか絶対ハリーもボクシングの試合、観にこいよ」
そう言うとダドリーは反対側の手で握り拳を作り、かまえてみせた。たった数ヶ月会わなかっただけなのに一段とがっしりしたようだ。
ハリーは胸の中にじんわりと暖かさが広がるのを感じた。
「オーケー、わかった認めるよ。僕小さな子供みたいに拗ねて試してたんだ。クリスマス休暇に帰らなければどれくらい家族が寂しがってくれるのかって」
「結果として家の床は二度と乾かないくらい涙でびしょびしょになったし、ハリーに会うためなら僕たちは魔法の絨毯にだって乗るだろうね。可愛い弟よ、満足したかい?」
ハリーはにっこりと笑って頷くとダドリー、バーノン、ペチュニアにそれぞれ思いきりはぐした。ペチュニアの肩越しにハリーと目が合ったヘーゼルがぱちんとウインクする。
「最高のプレゼントだよ、ありがとうヘーゼル」
「どういたしましてハリー」
それからハリーはこれ以上ないほど楽しく幸せなクリスマスを過ごした。ヘーゼルたちが料理とケーキを仕上げる間(ペチュニアと一緒にアイラとヘーゼルはまったく魔法なしで作っていた)、ハリーたちはハニーデュークスを見て周りいろいろなお菓子を買った。
動物変身ビスケットや、炭酸浮上キャンディーなどヘーゼルが作ったお菓子が沢山商品化されていることにハリーとダドリーは驚いた。パーシーはホグワーツのプディングで当てたシックル銀貨で小さな可愛いらしいお菓子を買い込んでいたし、アンブロシウスはみんなが買った以上に沢山お菓子をおまけしてくれた。
その後店の裏に出てハリーはダドリー、ウィーズリー四兄弟と一緒に猛烈な雪合戦を楽しんだ。
ハリー、ロン、ダドリーのチームはダドリーがあまりに強かったので年上のフレッド、ジョージ、パーシーのチームと互角にやり合った。びしょ濡れになった服はアイラがたちまち乾かしてくれて、バタービールで乾杯すると冷えた身体はすぐにぽかぽかになった。
バーノンは極力魔法を感じるものには近付かないようにしていたが、ハリーがホグワーツから持って来た新品のチェスセットには少し興味を持ったようで、覗きに来てはロンの腕前に始終感心している。
ハリーが思った通りダドリーはすぐにロンと打ち解け、フレッドとジョージを大いに気に入ったが、意外なことにパーシーと一番長く話し込んでいた。
魔法界とマグルの世界について二人が何やら議論している隙に、ハリーとロンはフレッドとジョージに連れられてゾンコをのぞくことができた。
「『叫びの館』にも行ってみるかい?最近はグリムまででるって噂だ」
フレッドの言葉にロンがブルっと身震いした。グリムってなんだろうと思っていたハリーにジョージが囁いた。
「グリム、墓場になんか取り憑く巨大な亡霊犬さ。姿を見たら死ぬって言われてる」
何処からか犬の遠吠えが聞こえた気がしてハリーは足がすっかりすくんでいたので、タイミング良くヘーゼルが呼びに来てくれてホッとした。
七面鳥のサンドイッチ、マフィン、トライフル、ひき肉とナッツの入りのミンスパイがテーブルに並ぶ頃には早めの店じまいをしたアンブロシウスとバーノンはブランデーを飲みすっかりほろ酔いでご機嫌になっていた。
「さぁ、お待ちかねのクリスマスケーキよ」
夕食を食べ終え暖かな紅茶が配られると、ヘーゼルが目をキラキラさせながら木のテーブルに素晴らしいケーキたちを並べた。
ブランデーをまわしかけフランベしたシナモンとドライフルーツたっぷりのクリスマスプディング、砂糖菓子で出来たサンタクロースがチョコレートケーキの丸太に腰掛けているもの、さくらんぼのタルト・・・
どれもマグル式で作られたものだったが苺ののったショートケーキだけは切ると中から色とりどりの百味ビーンズやチョコ、マシュマロ、小さなアイシングクッキーと一緒にぱちぱちと音を鳴らす魔法の流れ星が溢れでた。
瞬く間に綺麗さっぱり大量のケーキが消えたのでバーノンはこれも魔法に違いないと言い張りみんなを笑わせた。
「じゃあ、元気で、またね」
ロンたちの前でペチュニアとバーノンに何度もキスされてハリーの頬は少し赤くなっていた。最後にダドリーと力強くハグするとハリーはダーズリー家、フルーム家に笑顔で手を振り別れた。
ホグワーツに戻り満腹であっという間に眠りに落ちたハリーは『みぞの鏡』の夢を見た。
家族や友達に囲まれたハリーは黒いクシャクシャ頭と明るい緑色の瞳のままで、幸せそうに微笑んでいた。