ハニーデュークスの女の子   作:雪羊

17 / 25
スネイプと薬草チャイティー

 

 

 

セブルス・スネイプはニガヨモギを噛み潰したような顔で彼の研究室の椅子に並んで座るアルバス・ダンブルドアとヘーゼル・フルームを睨め付けていた。

 

 

ただでさえ、柄でもないクィディッチの審判を務め、異例の速さでグリフィンドールが勝ち、試合後に問い詰めたクィレルは今日も尻尾を出さず、スネイプの機嫌はすこぶる悪かった。

 

 

 

 

 

 

 

ここ十年間リリーによく似たヘーゼルをホグズミードで遠目に見かけるたび、スネイプは情に近い感情を抱いていた。しかしヘーゼルがホグワーツに入学するとすぐに自分の過ちに気が付いた。彼女の中身は、憎きジェームズ・ポッターにそっくりだ。

 

 

 

 

魔法薬の最初の授業からヘーゼルは目立っていた。ポッター姓を自分のことだと思った、と笑えないジョークを飛ばし、勝手に、しかし完璧にスネイプが出した問いに答えてみせた。

 

腹立たしいことにスネイプはリリーそっくりの顔にニコリと見つめられ内心ひどく動揺し、この思わぬ言動を減点しそびれてしまった。彼女がそれ以降、魔法薬の授業中に一点の減点すら与える隙が無いことを思うと、これは実に悔やまれる失態だった。

 

 

 

ヘーゼルは双子のウィーズリーやリー・ジョーダンとつるんで、あっという間に生き残った男の子である弟よりも目立つ存在になった。スネイプにはヘーゼルが好んで自ら目立つように振る舞っているように見えた。

 

生徒や教師の誰からも好かれて、勉強している素振りもないのに優秀で、そんな自分に酔いしれている。おまけに容姿が特別良いのも上手く利用してそれを鼻にかけている。ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックを煮詰めた様な子供が、天使の様な幼少期のリリーの姿をしているのだ。ヘーゼルの存在はスネイプにとってもはや悪夢だった。

 

 

 

 

 

さらにヘーゼル・フルームは一年生にも関わらず校長に直談判しマグルの学校を参考にした生徒会という組織を作った。立ち上げメンバーが双子のウィーズリー、リー、そして何故かグリフィンドール一年生のネビル・ロングボトムだというのだから、スネイプに言わせれば、ろくでもない生徒の会だ。

 

 

そんな姉に対してハリー・ポッターの方は控えめで、真面目で、いかにもペチュニアに育てられたという感じの子供だった。見た目は嫌になる程父親に似てはいたが、瞳の色が同じだからなのか、彼女の姉に育てられたからなのか、不思議と彼の振る舞いはリリーを思い出させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どういったご用件ですかな?」

 

スネイプが嫌々口を開くとダンブルドアはいつもお得意のキラキラした目で答えた。

 

 

「おぉ、セブルス。今日は折り入って魔法薬学教授である君に頼みがあるのじゃ。週に一度、このヘーゼル・フルームに個人授業をしてくれんかのう。儂はのう、彼女の素晴らしい魔法薬の才能は、更なる学びを得るに値すると思うておるのじゃ」

 

 

 

 

「なるほど、一生徒を特別扱いしろとおっしゃる。しかし残念なことに、彼女はあまり勉学に興味が無いようですな。それに彼女ほど、聡明な、生徒であれば我輩の助けなどいらぬと思いますが」

 

 

 

 

スネイプがたっぷりと皮肉めいた口調で言ったが、ダンブルドアは気にする様子もなく朗らかに続けた。

 

 

「そのとおりじゃとも言えるし、そうではないとも言えるのうセブルス。確かにヘーゼルは勉学よりもお菓子作りに夢中なようじゃからな。しかし彼女には君の助けが必要なのじゃ」

 

 

そこまで言うとダンブルドアはよりいっそう顔を輝かせヘーゼルとスネイプを交互に見つめ、ゆっくりと、力のこもった口調で告げた。

 

 

「ここだけの話、個人授業とは表向きの理由でな。彼女と君には共同で新たな脱狼薬の開発をしてもらいたいのじゃ」

 

 

 

 

 

これはスネイプにとって最悪の依頼だった。いや、多忙なダンブルドアがわざわざ時間をとってスネイプの研究室を訪ねてきたのだから、依頼と言うより指令に近いだろう。

 

 

スネイプはダンブルドアが脱狼薬を必要とする理由に嫌な心当たりがあった。

 

 

 

 

「・・・脱狼薬でしたら既に近年ダモクレス・ベルビーによって開発されていますが。校長の知人にもそれをお勧めになってはいかがですかな」

 

 

 

「もちろんダモクレスの脱狼薬は素晴らしい発明じゃ。しかしダモクレスの開発した脱狼薬を調合出来るのは、君やヘーゼルの様に魔法薬学に優れた極一部の限られた者だけじゃ。セブルス、儂はもっと簡単に脱狼薬が手に入るようにさえなれば、救われる者が沢山いると思うておる。それが来たる日の希望に繋がるとも」

 

 

 

ダンブルドアの静かに燃えるブルーの瞳に見つめられスネイプが押し黙ると、ダンブルドアはその沈黙を肯定と捉えたようだった。

 

 

「ありがとう、セブルス。実は入学して間もない頃、ヘーゼルに素晴らしいお菓子の構想が描かれたノートを見せてもらってのう」

 

 

ダンブルドアに促されヘーゼルがおずおずとマグルの子供が好む様な、お菓子柄の小さなノートをスネイプに差し出した。スネイプがノートを開くとそこには表紙の可愛らしさとは裏腹に、魔法薬を用いた複雑なレシピがびっしりと書き込まれている。

 

 

 

 

 

『強力安眠チョコレートケーキ

 

生ける屍の水薬 (注意、強すぎると一生寝る)

 

アスフォデルの球根の粉末、ニガヨモギ、刻んだカノコソウの根、催眠豆の汁・・・

 

催眠豆は切るよりもナイフの平たい面で砕いた方が沢山汁が出る

 

反時計回りに7回混ぜるごとに、1回時計回りを加えると良いみたい

 

眠りの水薬より効力があるけど味が苦すぎるのが難点・・・』

 

 

 

スネイプは愕然とした。生ける屍の水薬はNEWTいもりレベルの授業で扱われる魔法薬だ。ヘーゼルのノートに描かれた手順は完璧で、試行錯誤の後があり、学生時代にスネイプが一心不乱に書き込んでいた教科書を思い起こさせた。

 

 

 

 

「素晴らしいじゃろう。特に今見て欲しいのはこのお菓子のレシピじゃ」

 

ダンブルドアがそう言うとノートがぱらぱらと捲れ、一際熱量を込めて描かれたページが開かれた。

 

 

 

 

『変身ビスケット ハロウィーン版

 

 

 

狼男ビスケット

 

トリカブトの毒を上手く抽出すれば擬似的な狼人間の状態を作り出せる。だけど副作用が強くて猛毒のトリカブトをお菓子に使うのは難しい

 

 

 

追記・・・主成分ベニテングタケ、ヒヨスで代用できる調合を発見!ほぼ同様の効果

 

ベニテングタケは幸運を呼ぶ効果あり

 

ヒヨスはマンドレイク、ベラドンナ、チョウセンアサガオの植物と組み合わせ向精神作用を利用して幻視や浮遊感を持たせることが可能、副作用もほとんど無し・・・』

 

 

 

 

スネイプはいつの間にかヘーゼルが事細かに書き記した調合方法を夢中になり読んでいた。そこには一年生が考え出したと思えないほど理論的で、芸術的なまでに美しい答えが導き出されている。

 

そして自身も魔法薬に精通しているスネイプは、すぐにこの調合が脱狼薬に活かせることに気が付いた。

 

 

 

 

 

脱狼薬の主成分は猛毒トリカブトであり、ライカンスローピーあるいはウェアウルフィーと呼ばれる感染症を引き起こす狼人間の涎に含まれる成分と、トリカブトから抽出される成分が似通っていることを利用し、脱狼薬を満月の前一週間絶えず毎日服用することで免疫応答を引き出す仕組みになっている。

 

 

 

しかしトリカブトは猛毒であるため調合に失敗すると劇物になり、この複雑な調合が出来る者は限られ、脱狼薬は非常に希少で高価になり、皮肉なことに大多数が貧困層の狼人間にとって手に入れるのは困難だった。

 

 

 

もしこのノートに記された理論を使いベニテングタケやヒヨスを主成分に免疫応答を引き出すことができるならば、調合は簡易になりダンブルドアの言う様に脱狼薬は多くの狼人間の手に入るようになるだろう。

 

 

 

 

 

「・・・新たな脱狼薬の開発に繋がると認めざるをえませんな。ヘーゼル・フルーム、君には確かに通常ではない素質があるようだ。通常の人間であればわざわざ狼人間になるための魔法薬の研究などしない、とも言えるが」

 

 

 

スネイプがジロリと睨み付けると、単純に褒められたとでも思ったのかヘーゼルは頬を赤らめて俯いた。気に触る榛色の瞳が隠れるとリリーにますますそっくりになるので、スネイプは慌ててダンブルドアへ視線を戻した。

 

 

 

 

「それで、校長は彼女の魔法薬の研究結果を交換条件に、これまで一生徒を優遇していたと?」

 

 

生徒会の立ち上げといい、クリスマスの特例のホグズミードへの外出許可といい、ダンブルドアのことなので何か裏があるのではないか、とスネイプは睨んでいたが、まさかこんな形で自分に火の粉が降りかかるとは。

 

 

 

「ヘーゼルの行動はどれも他者を思い遣るものばかりじゃよ。しかし、さすがアンブロシウスとアイラに育てられただけある。彼女の交渉は巧みで話は実に面白い。思えば少々丸め込まれてしまったかのう」

 

 

そう言うとダンブルドアは微笑んだまま静かに立ち上がった。

 

 

 

「では、頼んだぞ。儂はもう行かねばならぬが、後は二人で共同研究の日程を決めておくれ・・・おお、表向きには個人授業じゃったな。出来れば来学期中に新たな脱狼薬が完成する事を願っておる。セブルス、地下牢はちと冷えるのう。お茶でも出して一緒に飲んではどうかの」

 

 

 

余計な一言を残し瞬く間に出ていってしまった校長に心の中で毒づきながら、スネイプは杖をひと振りして机の上に透明の実験器具の様なティーセットを出した。

 

イラクサの葉とラベンダー、カノコソウの小枝を入れたポットを青い炎の上に置くと、地下室はたちまち心地よい匂いに満たされていく。

 

 

 

「催眠豆を砕く時に何の道具を使っている」

 

 

戸棚から催眠豆を取り出すとスネイプは唐突に言った。

 

 

「えっと、キッチンナイフの側面です」

 

 

ヘーゼルは椅子から飛び上がる様にして答えた。

 

 

「それでは不十分だ。催眠豆から汁を取る場合ナイフは銀製のものに限る。魔法薬を完璧に仕上げるには器具の材質にも拘らねばならん」

 

 

スネイプはそう言いながら催眠豆を銀製のナイフの平たい面で砕き、出てきた銀色の汁をポットに加えた。ミルクを注ぎ入れ、沸く寸前まで温めるとそれを二つのカップに分け、最後に小瓶から少々のスパイスを振りかける。

 

 

 

「飲むが良い」

 

ヘーゼルはゆっくりとカップに口をつけると、途端に目を輝かせた。

 

「・・・美味しい!甘味を入れていないのにとっても飲みやすいです」

 

 

 

 

「眠りの水薬からフロバーワームの粘液を除き、代わりに催眠豆の汁を入れる事でやや生ける屍の水薬に近づけることができる」

 

 

スネイプがもし開心術でも使っていれば、ちらっと見ただけのノートの内容を読み取り、改善点をスマートに教えてくれる大人の男にこの少女がどれほどときめいているのか気付いたかもしれない。

 

しかし彼にとっては気に食わない小娘にダメ出しをしたに過ぎなかったし、熱のこもった榛色の瞳を見ようともしなかったので気がつくはずもなかった。

 

 

曜日と時間を決めてさっさとヘーゼルを研究室から追い出すと、スネイプは深いため息をついた。これから毎週ヘーゼルと顔を合わせねばならないと思うとうんざりしたが、それと同時に魔法薬への探究心が刺激されているのを感じていた。これは魔法薬学に携わる者の職業病とも言えるだろう。

 

 

心地良い眠気が迫ってくるのを感じながらスネイプは杖を一振りするとティーセットを片付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでどうやってヘーゼルに伝えたら良いと思う?」

 

 

グリフィンドールの談話室ではハリー、ロン、ハーマイオニー、パーバティ、ラベンダーがひそひそと額を集めていた。

 

 

「とりあえず、明日、ヘーゼルが起きたら女の子たちだけで言ってみるわ。だってショックを受けるに決まってるもの」

 

 

ハリーの言葉にパーバティが深刻そうな表情で答えた。

 

 

 

 

 

「ヘーゼル、ダンブルドアに連れられていなくなったかと思ったら帰ってくるなり倒れるように寝ちゃって、大丈夫かしら?まるで誰かに魔法薬でも飲まされたみたいだわ・・・」

 

 

「案外もうスネイプの秘密を知っちゃったのかもしれないぞ」

 

 

「あら、それで落ち込むようなヘーゼルじゃないわ。逆に燃えるじゃない。私だったら絶対に諦めないもの」

 

 

 

 

心配そうなハーマイオニーをよそに、ロンとラベンダーはこの状況をどこか面白がっているようだ。

 

 

 

 

 

「でもハリー、本当なのね?本当に見たの?」

 

パーバティが聞くとハリーはこくんと頷いていっそう声をひそめた。

 

 

 

 

「うん、スネイプ先生がクィレル先生を追い詰めてたんだ、こうやって手を突いて・・・すごく顔が近くて、ただならない空気感だった。僕、あんまり聞いちゃ駄目だと思ったんだけど、どっちにするか選べみたいなこと言ってたし・・・」

 

 

「完全に決まりね」

 

 

ラベンダーが興奮した口調で続けた。

 

「ヘーゼルがいつも騒いでたじゃない。スネイプ先生はクィレル先生のことばっかり見てるって。だから私、クィディッチの観覧席でも出来るだけクィレル先生の近くをうろうろしなさいってアドバイスしたのよ」

 

 

「ああ!なんて可哀想なヘーゼル。恋敵がクィレルだなんて・・・しかもクィレルは他の誰かとスネイプの間で揺れ動いてるのよ・・・」

 

パーバティが悲痛な声を出したが、ロンはハリーに向かって肩をすくめてみせた。

 

「まぁ、これでヘーゼルも目が覚めるんじゃないか?ヘーゼルがスネイプにほの字なのはもはやスネイプ以外のホグワーツ中が知ってるけど、みんなやめとけって思ってるよ」

 

 

「ヘーゼルに失恋させたいのはみんなじゃないわ、あなたでしょ。私は友達の恋を応援するって決めたの」

 

 

 

ハーマイオニーがぴしゃりと言った。ゴシップに酔いしれる女子二人と嬉しそうなロンに呆れている様子だ。

 

 

 

「とりあえず、ヘーゼルが明日起きたら伝えてみるわ。スネイプ先生のことなら何でも知りたいって言うに決まってるもの。それにまだ勘違いかもしれないし」

 

 

「ヘーゼル、落ち込まないといいけど」

 

 

 

 

 

 

盛り上がる他三人をよそにハリーとハーマイオニーは心配そうに顔を見合わせた。

 

翌朝まったく予想外の反応が返ってくることを、そしてそれを引き金にとんでもないことが起こることを、ホグワーツにいる誰も、ダンブルドアでさえ、知りはしなかった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。