ハニーデュークスの女の子   作:雪羊

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ドビーとバタービール

 

 

「そんなに落ち込むなよ、ハリー。一年生シーカーに選ばれて君はもう二回も試合に勝ったんだ。そりゃ負ける時もあるさ。それに生きてただけ運が良かったよ。あのブラッジャー呪われてたんじゃないかって話だぜ」

 

 

ロンが励ますように明るく言ったが、ハリーは暗い顔のままだ。

 

クィディッチの最終戦でハリーたちのグリフィンドールはレイブンクローに大敗してしまった。何故かブラッジャーがハリーを狙い撃ちし、ハリーは試合序盤で箒から叩き落とされ、グリフィンドールチームはシーカー不在のまま戦うことになったのだ。

 

 

「あともう少しで優勝杯だったのに・・・」

 

 

「でも、寮対抗杯はグリフィンドールがダントツで一位だわ。私たちがダンブルドア先生から貰った『賢者の石』の件の加点も大きいし、今年のグリフィンドールは減点が少なかったってマクゴナガル先生がお喜びになってたわ」

 

ハーマイオニーも優しくハリーを励ました。

 

 

「それって、主にフレッドとジョージだよ。去年まではいっぱい減点されてたんだ。『生徒会』に入ってから無茶苦茶な悪戯をしなくなったんで、ママは大喜びだと思うな。僕はあの二人が悪戯もしないで何してるのか、ちょっと不気味だけど」

 

ロンが言うとヘーゼルがくすくす笑った。

 

 

「きっと悪戯より熱中するものを見つけたんじゃないかしら?さぁさぁ、ハリー元気出して。学年度末パーティーよ!それに、夏休みよ!バーノンおじさんやペチュニアおばさんやダドリーと旅行に行くんでしょう?」

 

 

ヘーゼルの言葉にハリーは少し気分が明るくなった。クリスマス休暇にハリーが帰らなかった分、家族でたっぷり思い出を作ろうとパパが張り切って旅行を計画しているらしいのだ。

 

 

「パパったら行き先を教えてくれないんだ。着いてのお楽しみだって」

 

 

ハリーがやっと笑うとロンとハーマイオニーも安心したようにニコニコ微笑んで、それからそれぞれの夏休みの計画をぺちゃくちゃと話しながら大広間へとむかった。

 

 

 

 

 

 

 

大広間の入り口でハリーたちはクラッブとゴイルを従えたドラコと鉢合わせた。

 

「やぁポッター、医務室で寝てなくて良いのかい?君はひどくブラッジャーに好かれてるみたいだね。もう付き合ってるのかい?」

 

「何だよマルフォイ。ハッフルパフ戦でもスニッチを取れなかったくせに、ハリーを馬鹿にする気か?」

 

 

出会い頭に喧嘩腰になるロンをハーマイオニーが、ドラコをヘーゼルが、それぞれじろりと睨んで嗜めた。

 

 

「やぁ、ドラコ、心配ありがとう。マダム・ポンフリーがあっという間に治してくれたよ。御生憎様、彼女は募集中さ、君と一緒でね」

 

わざとらしくヘーゼルの方にちらっと目線をやってからハリーがウインクすると、ドラコはいつものように頬をピンクに染めて肩をいからせながらスリザリンの席へ行ってしまった。

 

 

ロンはまだハリーのために怒ってくれていたが、へーゼル目当てにちょくちょく絡まれるうちにハリーはドラコのことがわかってきていた。案外本当にハリーを心配して声をかけてくれたのだ。言い方がだいぶ捻くれてはいるが。

 

 

 

 

 

学年度末パーティーは素晴らしく、ずーっと忘れないであろう素敵な夜になった。大広間中が真紅と金色のグリフィンドール・カラーで飾られ、獅子を描いた巨大な横断幕が、ハイテーブルの後ろの壁をおおっていた。グリフィンドールがここ最近得た大量得点についての説明をダンブルドアがすると、すでにお祭り騒ぎだったグリフィンドールのテーブルは大喝采でハリーたちを讃えた。

 

「僕の兄弟さ!一番下の弟だよ。マクゴナガルの巨大チェスを破ったんだ」

 

パーシーが他の監督生に自慢する声を聞いて、ロンはひどく日焼けした赤かぶみたいに真っ赤になっていたし、ハーマイオニーはヘーゼルに抱きつき嬉し泣きして、ネビルはみんなに抱きつかれ、人に埋もれて姿が見えなくなっていた。

 

レイブンクローとハッフルパフも喝采に加わり、スリザリンからも渋々といった感じで気のない拍手の音が鳴っていた。ドラコが苦々しい顔をしながらも大きく拍手しているのが見えて、ハリーとロンは顔を見合わせて笑った。

 

 

 

 

 

 

あっという間に洋服ダンスは空になり、旅行かばんはいっぱいになった。ネビルのヒキガエルはトイレの隅に隠れているところを、ロンのレグルスによって発見された。二匹は仲良しなんだ、とネビルが笑った。

 

 

「じゃあ元気でね、旅行楽しんで。ふくろう便待ってるわ」

 

ホグズミードのプラットホームに立ったヘーゼルが窓から身を乗り出したハリーをぎゅっと抱きしめた。

 

「うん、ヘーゼルも良い休暇をね」

 

ハリーが答えるとヘーゼルはその隣でそわそわ待っていたロン、ロンに呆れ顔のハーマイオニーにも軽くハグをして別れをつげると、ハグリッドと並んで動き出したホグワーツ特急に手を振った。ハリーたちも見えなくなるまでヘーゼルとハグリッドに手を振り続けた。

 

 

キングズ・クロス駅の改札口を出ると可愛らしい声と野太い声が同時に耳に飛び込んできた。

 

「まあ、彼だわ。ねえ、ママ、見て」

 

可愛い声の主はロンの妹のジニーだった。

 

「ハリー!おお、やっと帰ってきたぞ!」

 

野太い声は、もちろんバーノンだ。ペチュニアとダドリーもその後ろで満面の笑顔で手を振っている。ハリーも手を振り返すと、ウィーズリーおばさんにクリスマスの贈り物のお礼を言い、ジニーににっこり微笑みかけた。途端にジニーは小さな赤かぶの様に赤くなりおばさんの陰に隠れてしまった。

 

 

 

「ハリーのご家族ですね」

 

「ええそうですとも。ロンのお母様ですね?クリスマスにはお宅のお子様方と楽しい時間を過ごしましたわ。いつもお世話になりまして」

 

モリーとペチュニアが和やかに挨拶したが、モリーの少しまともでない格好に内心面食らっていることにハリーは気付いていた。隣でダドリーもそれを面白がる様ににやにやしている。ハリーは少しの間ロンとハーマイオニーと別れの言葉を交わした。

 

「じゃあ、新学期に会おう」

 

「楽しい夏休みをね」

 

 

ハリーは嬉しそうに顔中を綻ばせ、二人に手を振ると、バーノン、ペチュニア、そしてダドリーの元へと駆け出した。

 

「おかえり、ハリー」

 

ダドリーがヘドウィグの籠を受け取ると微笑み、ハリーの背中を軽く叩いた。ハリーは幸せに包まれるのを感じた。ハリー・ポッターは有名な魔法使いだが、夏休みに期待を膨らませる、ごく普通の男の子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休みに入ってしばらくたったある日、ドラコはあらゆるお菓子で溢れ返ったハニーデュークスに足を踏み入れた。ドラコの目がキラキラと輝き喜びに満ちているのは、沢山のお菓子と、それに囲まれて笑っている、グリーンとピンクのエプロン姿が可愛い女の子が映っているからだ。

 

 

「やあ、ヘーゼル。夏休みを楽しんでいるかい?それとも手伝いばっかりなのか?」

 

ドラコの気取った物言いにも、嬉しそうに顔を綻ばせてヘーゼルはドラコに駆け寄ってきた。

 

「ドラコ!最高に楽しい夏休みよ。一日中お菓子を作ったり並べたり出来るし、それにあなたからお父様と一緒にホグズミードに来るって手紙が届いてからずっと楽しみにしてたの」

 

そう言って無邪気に笑うヘーゼルの、ホグワーツで見るより高い位置でまとめられた美しい赤褐色の髪に、クリスマスにドラコが贈った銀糸の刺繍が美しいリボンが巻き付けてあるのを見て、ドラコの胸はさらに高鳴った。

 

 

「ああ、父上はダンブルドアに会いにホグワーツに行っているんだ。ホグワーツの理事をしているからね。僕は一人でホグズミードに残れると言ったんだけど、お守りを付けられたよ」

 

照れを隠す様に不満げな顔をしてドラコは後ろに控えている屋敷しもべ妖精を顎で指した。ドラコの足元から、テニスボールぐらいの緑の目の小さな生き物が、びくびくと覗いていた。

 

「まあ、ドラコの家にも屋敷しもべ妖精がいるのね!こんにちは、私はヘーゼルよ。お名前を聞いても?」

 

古い枕カバーのようなものを着た屋敷しもべ妖精は飛び上がって驚き、ドラコとヘーゼルの顔を交互に見つめ、恐る恐る甲高い声で答えた。

 

「ドビーめにございます。ドビーと呼び捨てて下さい。ヘーゼルお嬢様」

 

ドビーは細長い鼻の先が床にくっつくぐらい低いお辞儀をした。ヘーゼルもくすくす笑ってお嬢様らしくスカートの端を掴むと優雅なお辞儀を返してみせた。

 

「君は屋敷しもべ妖精を見慣れているのかい?」

 

ドラコはヘーゼルの様子を見て疑問を口にした。屋敷しもべ妖精は多くの場合、豪邸に住む裕福で由緒正しい家庭に仕える。失礼ながら、ハニーデュークスに屋敷しもべ妖精がいるとは思えなかった。

 

 

「ホグワーツには沢山の屋敷しもべ妖精が働いているでしょう?厨房に忍び込んだ時よくお世話になってるの」

 

悪戯っぽく笑うヘーゼルにドラコは驚いた呆れ顔で言った。

 

「おいおい、厨房に忍び込むだって?必要なものがあれば寮付きの屋敷しもべ妖精に持って来させれば良いだろう?」

 

今度はヘーゼルが驚く番だった。二人が楽しく話していると、奥からやって来たアンブロシウスが朗らかに声をかけた。

 

「やぁ、ドラコくんだね。ヘーゼルから聞いているよ。ホグワーツでは他寮であまり話せないからいつも手紙でやりとりしているとか?入学前のダイアゴン横丁で素敵な手紙を送ってくれたのも君だったようだね」

 

言葉は穏やかだったがアンブロシウスの目は鋭くドラコを観察していた。身体を強張らせるドラコに助け舟を出すように、ショーウィンドウにケーキを並べていたアイラが声をかけた。

 

「ヘーゼルといつも仲良くしてくれてありがとう。ヘーゼル、せっかくだから、休憩にしてお友達と少し遊んできたらどうかしら?」

 

 

喜んで飛び上がるヘーゼルに続いてドラコはそそくさとハニーデュークスを後にした。

 

 

 

 

 

「どうする?ゾンコに行って何か見る?それともお腹が空いてる?私、好きでお手伝いしてるんだけど、パパとママが働いた分きちんとお小遣いくれるの」

 

「父上からいくらか持たせてもらったよ。少し散歩して、それから三本の箒に行って何か飲み物が飲みたいな。君の分も当然僕が払う」

 

はしゃぐヘーゼルはエプロンを取ると涼しげな薄いグリーンのワンピース姿だ。眩しそうに目を細めながらドラコは事も無げに答えた。女の子にお金を出させたなどと知ればルシウスは怒ってドラコを置いて帰るかもしれない。それはそれで楽しい夏を過ごせそうだったが。

 

 

「まあ!じゃあ今日はデートね。甘えさせていただくわ」

 

冗談めかしたヘーゼルの言葉にドラコの頬はうっすら赤らんだが、さも暑いようなふりをした。

 

 

 

ヘーゼルとの散歩はとても楽しかった。ホグズミードの店を順番にのぞいたり、郵便局のふくろうを眺めたりするたびに、ヘーゼルはあちこちから声をかけられた。フードを被った鬼婆や、サングラスをつけた吸血鬼など、どんな種族とも臆せず気軽に話すのにドラコは驚かされた。

 

「ホグズミードはイギリスで唯一、マグルがいない魔法族だけの村だもの。特に変身が得意じゃない種族にとっては居心地が良いんだと思うな。小さい頃から慣れっこよ」

 

村はずれの叫びの屋敷を眺めながらドラコがそれを口にすると、ヘーゼルはなんて事ないという風に答えた。

 

 

 

ヘーゼルが屋敷しもべ妖精のドビーを大変気に入ったのも、ドラコには不思議だった。屋敷しもべ妖精は家の貴重な財産だったが、この屋敷しもべ妖精はどうやら少々変わった固体で、たびたび面倒を起こし、ドラコの父も母も、そしていつしかドラコ自身もその存在を疎んでいた。

 

 

「ドビーってとっても面白いわ。ホグワーツの屋敷しもべ妖精たちも優しいけど、こんな風に自分の思ったことをいろいろ話したりしてくれないの」

 

「そりゃそうさ。普通の屋敷しもべ妖精はそういうものだから」

 

 

ドラコはまじまじと屋敷しもべ妖精を見つめた。ヘーゼルの手前ドラコが何も言わないのを良いことに嬉々としてお菓子作りについて語る姿は、怯えている普段と全く違って見えた。ドラコはふと、小さな頃、振る舞いに気を付けるようになどと言われなかった頃はドビーに遊んでもらうのが大好きだったことを思い出した。

 

 

三本の箒につくとドラコはヘーゼルを座らせ、マダム・ロスメルタのところまで行くとバタービールを二つ注文した。代金を払い手持ち無沙汰に手に持っていた革袋を覗くと、ひときわ大きな、金色のコインを見つけた。スニッチの絵が描いてある。

 

ドラコの初めてのクィディッチの試合後に、ハリー・ポッターが渡してきたホグワーツミートパイに入っていた当たりのコインだ。三本の箒でバタービールと交換できる代物だったが、低学年のうちはホグズミードに来る機会がないので、すっかり忘れてしまっていた。

 

 

 

それはほんの気まぐれにすぎなかった。ドラコとヘーゼルの分のバタービールはすでに代金を払っていたし、間接的にポッターからもらったコインをいつまでも大切に持っているのも癪だし、それに、ヘーゼルのドラコに対する評価が上がるかもしれない。

 

 

そんな言い訳を心でしつつ、マダム・ロスメルタに金色の大きなコインを渡すと、ドラコは三つのバタービールを持って席に戻った。

 

 

 

この三つ目のバタービールと、目の前に置かれたバタービールに驚き大きなテニスボールの様な緑色の目をぱちくりしている屋敷しもべ妖精が自分と自分の家族の運命を大きく変えるなどという事を、この時のドラコは知る由もなかった。

 

 

 

 

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