ハニーデュークスの女の子   作:雪羊

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ピクシーとイングリッシュスコーン

 

 

ハリーは途方に暮れて辺りを見渡した。視界を掠めた青い小鳥のようなものに気を取られて追いかけたほんの一瞬で、すぐ近くを歩いていたはずのダドリーたちとはぐれてしまったのだ。見晴らしの良いこの場所で、一体どうして見失ってしまったのだろう。

 

海からの心地よい風がハリーの黒いくしゃくしゃの髪の毛を揺らし、夏の朝の日差しに汗ばんだ肌を優しく撫でた。

 

 

 

ハリーたち家族は夏休みにコーンウォールを訪れ、バーノンが思い出作りにと張り切って、小さな蒸気機関車やボートに乗ったり、アーサー王ゆかりの地を訪ねたりと、楽しい日々を送っていた。ホグワーツに入学してから離れて暮らしているバーノンやペチュニア、それにダドリーとゆっくり過ごせるのがハリーはとにかく嬉しくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

不思議なことに、いつの間にかハリーのすぐ近くには少し風変わりなコテージが、海を見下ろすように佇んでいた。白い壁にはたくさんの貝殻が埋め込んであり、まるで物語に出てきそうな家だ、とハリーは思った。

 

ハリーが見上げていると、大きな窓から不意に誰かが顔を出した。

 

思わず息を飲むほどハンサムな若者だった。整った顔の横で大きなイヤリングが陽の光を受けて輝いている。ハリーはこんなに格好良い人は見たことがない、と、思うと同時に耳にかけられた少し長めの燃えるような赤毛も、人懐っこそうなブルーの瞳にもやけに見覚えがあった。

 

 

 

「こんにちは。あの、僕、家族とはぐれて・・・」

 

 

ハリーが言い終わらないうちにまた青い鳥のようなものが目の前を掠めた。しかも今度は大群だ。鋭い嘴に突かれては大変と、咄嗟に顔を覆った腕の隙間から鳥の群れを目で追って、ハリーは気が付いた。

 

それは鳥の群れでは無かった。

 

 

 

鮮やかな青色をした二十センチほどのそれらは耳の大きな小さな人間の様な形をした生き物で、インコが議論しているような甲高い声をあげながら空中でUターンしてハリーの方へ戻ってきた。

 

 

途端にいろいろなことが起こった。青色の何かのうち二匹がハリーの耳を引っ張って、ハリーの身体はぐんぐんと空に浮かんだ。と、窓からそれを見ていた赤毛の若者と、何処からか飛び出してきた勿忘草色のローブを着た波打つブロンドに輝くブルーの瞳のこれまたハンサムな魔法使いが同時に杖を構えて呪文を唱えた。

 

 

「イモービラス 動くな」

 

「ぺスキピクシぺステルノミ、ピクシー虫よ、去れ」

 

 

 

ハリーと青色のそれらはふわん、と空中で動きを止めた。どうやら、赤毛のハンサムの呪文だけが効いた様だった。

 

 

 

「こんにちは。僕はビル・ウィーズリー。君、もしかしてハリー・ポッターだね?ロンと友達の?」

 

 

ハリーを優しく地面に降ろしながら赤毛の青年がハリーの額の傷にちらりと目をやり微笑んだ。何となく予想はしていたものの、ハリーはとても驚いていた。学生時代は監督生と首席を務め、今はエジプトでグリンゴッツの呪い破りとして働いているビルの話をロンから聞いていたので、大人になったパーシーのような人物を想像していたのだ。

 

 

ハリーを空中から降ろすために外に出てきたビルはすらりと背が高く、パーシーは絶対に履かないであろうドラゴン革のブーツを履き、格好良くてとてもおしゃれだった。

 

 

 

「ハリー・ポッター!おお、なんたる偶然!有名人同士、何かの運命に引き合わせられたとしか思えない。たまたま教材探しのためにコーンウォールを訪れたギルデロイ・ロックハートが、獰猛なピクシーたちに襲われていたあのハリー・ポッターを助けた!これは一面大見出しになるぞ」

 

 

ビルとハリーの会話を聞いていた勿忘草色のローブを着た魔法使いが、大袈裟な芝居がかった素振りでそう言った。そして次の瞬間、杖先をビルに向けて叫んだ。

 

 

「オブリビエイト、忘れよ」

 

 

しかしビルの方が素早かった。ビルの盾の呪文によって弾き返された呪文が真正面から魔法使いに当たった。魔法使いはびっくりした顔で辺りを見渡すと、にっこりと輝く白い歯を見せて笑った。

 

 

「やあ、こんにちは。ところで、ここは何処かな?」

 

 

ビルとハリーは顔を見合わせた。

 

 

「あの、青い生き物は何?」

 

 

助けてもらったお礼を言うつもりだったのに、短時間に不思議なことが起こりすぎてハリーの口は思わず質問していた。

 

ビルはにこやかに、爽やかに、ハリーが抱いていた全ての疑問について答えてくれた。

 

 

 

 

 

「あの青い生き物はピクシー妖精といって、コーンウォール地方の魔法生物なんだ。このコテージは、貝殻の家って僕らは呼んでるんだけど、もともと僕たちの叔母さんのもので、子供の頃良く遊びに来てたんだ。僕はいつか暮らしたいと思う程ここを気に入っててね。綺麗にしておくためにイギリスに帰った時は必ず立ち寄ってるんだ。君ももう知ってると思うけど、ピクシーはとっても悪戯好きなんだ。ここには一種のマグル避けもかけられてるし、それで君は家族とはぐれてしまったのかもしれないな」

 

 

そこまで言うとちらりとビルは隣でにこにこしている魔法使いに目をやって声を顰めた。

 

 

「彼はギルデロイ・ロックハートだ。有名人だよ。ちらっと顔を見せに実家に帰ったら僕の母親もすっかりはまっててね。沢山本も出してるみたいだけど、人にいきなり忘却術をかけてきたあたり、どうやらその内容が真実かは怪しいな。面倒だけどこれから魔法省に連れて行くよ」

 

 

 

ハリーは話の間惚れ惚れとビルを見つめていたが、慌ててお礼を言った。賢くて格好良くて魔法も上手くて気取らない。ハリーはロンがコンプレックスを拗らせるのも無理はないと思った。

 

 

 

「いいんだ、それより家族のところまで見送るよ。まだそれほど遠くへは行ってないはずだ」

 

 

 

ビルが言った通りだった。ビルとロックハートと一緒に少し歩くと、すぐにダドリーが駆け寄って来た。5分も歩いていないのに貝殻の家はもう見えなくなっていた。

 

 

「ハリー!一体何処に行ってたんだ?そいつら一体何者だい?」

 

 

ダドリーは力強くハリーの腕を引っ張ると、ビルとロックハートから引き離した。ハリーは慌てて言った。

 

 

「ダドリー、怪しい人じゃないよ。ロンたちの一番上の兄さんなんだ。ビルだよ。僕、妖精のせいで困ったことになったところを助けてもらったんだよ」

 

もう一人はもしかすると怪しい奴かもしれない、というのは、ダドリーも後ろから息を切らしてやってきたバーノンもすごい剣幕だったので黙っておいた。(丁度警察に電話をかけていたペチュニアだけは、二人のハンサムを見比べて、少しだけ頬が緩んでいた)

 

 

誤解が解け、家族で重々に礼を言ってビルとロックハートがパチンと音を立てて消えるのを見送ってからも、ダドリーはハリーの隣にぴったりくっついて離れなかった。

 

 

海辺のこじんまりとした暖かな雰囲気の宿のバルコニーでハリーたちは昼食をとった。コーニッシュパイ、新鮮なシーフードのたっぷり入ったパスタ、バターを乗せた鮮やかな色のサフランケーキを食べ終え、バーノンがすっかりほろ酔いになった頃、ペチュニアが席を立ったのを見計らってダドリーが我慢しきれない、という様子で口を開いた。

 

 

「ハリー、もっと気をつけなくちゃ。一人で妖精にふらふらついて行くなんて。慎重にならなくちゃダメだぞ」

 

「僕、ふらふら付いて行ったわけじゃないよ。多分旅人を惑わす魔力か何かがあるんだと思うな・・・」

 

 

ハリーは言い訳しようとしたが、ダドリーにじっと見つめられて口をつぐんだ。ダドリーが心配性になっている理由はわかっている。賢者の石をめぐって『例のあの人』とその手先に襲われ気を失ったこと、クィディッチの試合中に何故かブラッジャーがハリーを狙い撃ちして箒から叩き落とされたことを、ハリーはダドリーだけには夏休みに入ってすぐ打ち明けていた。

 

バーノンとペチュニアには何も言わなかった。もし言えば、ハリーは鍵のかかった部屋に閉じ込められてホグワーツへは二度と行かせてもらえないだろう。

 

 

「ダドリー、必ず気をつけるから、大丈夫だよ。僕、身を守る魔法を沢山勉強するし、それにホグワーツにはダンブルドア校長先生がいる。一番偉大な魔法使いだってみんなが言ってる」

 

安心させる様に明るくハリーは言ったが、ダドリーは真剣な顔でハリーを見つめて、ゆっくりと言い聞かせる様に言った。

 

 

「いいか、ハリー。俺も、パパも、ママも、いつでもハリーを助けるし護りたいと思ってる。魔法が使えなくたって、そんなことは関係ない。僕たちは家族だ。君は僕の大切な兄弟だ。必ず自分を大切にするんだ。わかったな?」

 

 

ハリーは顔を赤らめてこくんと頷いた。どうしてダドリーがこんなに真剣なのかハリーにはわからなかったし、見つめられながらストレートに大切だと言われるのは何だかとても気恥ずかしかった。

 

 

 

 

「あらあら一体、仲良く何の話をしているのかしら。ママの可愛い男の子たち」

 

ペチュニアが紅茶とたっぷりのジャムとクロテッドクリームを添えたスコーンが乗った皿を持って戻ってきた。

 

 

「何でもないよ、ママ」

 

ハリーとダドリーは同時に答えて、顔を見合わせ、にやりと笑った。小さい頃にハリーやヘーゼルが不思議な出来事を起こした時は、魔法が苦手なペチュニアやバーノンにばれないようにダドリーが一緒に誤魔化してくれたっけ。

 

 

ティーセットの食器には美しい人形の様な妖精と花の模様が描かれていた。スコーンを横半分に切ってジャムとクロテッドクリームをのせて頬張ると、爽やかな甘さが口の中に広がる。

 

 

例え魔法が使えなくても、本当の妖精の姿を知らなくても、優しくて自分を大切に思ってくれる家族がいる。夏休みはまだ半分以上残っているし、旅行から戻れば今度はダイアゴン横丁でロンやハーマイオニーやヘーゼルたちと落ち合い一緒に買い物をする約束もしている。

 

 

こんなにも満ち足りた気持ちで美味しいスコーンを頬張りながら、心配事をしろ、と言う方が難しいだろう。お喋りするペチュニアとダドリーと、うたた寝し始めたバーノンを見つめ、ハリーはにっこりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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