ハニーデュークスの女の子   作:雪羊

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ダドリーと動物ビスケット

 

 

 

 

 

プリベット通り四番地のダーズリー家の近くの公園で、二人の男の子と一人の女の子が何やら夢中になって話していた。

 

「ぜったい一緒に行けるわよ!」

 

赤褐色の柔らかそうなおさげ髪に水色の涼しげなワンピースを着た榛色の瞳の女の子が可愛い声で言った。リボンのついたサンダルを履いた足をぶらぶらと揺らしながらブランコを漕いでいる。

 

「僕もそう思うな。そうじゃないなら、僕も行かない」

 

女の子の背中を優しく押しているくしゃくしゃした黒髪にグリーンの輝く瞳に丸眼鏡の男の子が、きっぱりとした口調で言った。

 

 

「そんなこと言ってもなぁ」

 

その隣のブランコを勢いよく立ち漕ぎしながらブロンドの髪をなびかせている他の二人よりも頭ひとつ分大きな男の子が、困ったように笑った。

 

「断言して言うけど俺は魔法使いじゃないや。正真正銘、マゲル、さ!ハリー交代だ」

 

そう言いながらブロンドの男の子はブランコからジャンプして飛び降りた。いかにも運動神経抜群といった様子である。

 

 

「ダドリー、マゲルじゃなくてマグルよ!」

 

女の子がそう言うと3人は仲良さげにくすくすと笑った。

 

「ヘーゼルは間違いなく魔女だけど、僕も本当はマグルかもしれないよ。自分の思うように魔法を使えたことなんてないし」

 

ダドリーが退いたブランコに座りながらハリーがしょんぼりとした声で言った。

 

 

「ハリーこの前犬に追いかけられた時、いつの間にか屋根の上にいただろ?あれは間違いなく魔法だよ。それにもしマグルだっていいじゃないか。そしたら俺と一緒なだけさ」

 

ダドリーの言葉にハリーは微笑んだ。

 

兄弟同然として育った従兄弟のダドリーはハリーよりほんの少し誕生日が早いだけなのに身体も大きくて何でも出来る優しい自慢の兄だった。

 

 

 

「マグルだってなんだって絶対ダドリーもハリーも私も一緒の学校に行くわ。今までずっと3人一緒だったんですもの」

 

今度はダドリーに優しく背中を押してもらいながら、ヘーゼルは口を尖らせて言った。ハリーもその言葉にこくこくと頷いている。

 

困ったなぁと頭をかきながらも、ダドリーはそんな双子の従妹弟たちが可愛くて仕方ないという様子だ。

 

 

 

 

ヘーゼルは遠く離れた魔法使いの村ホグズミードにあるお菓子屋ハニーデュークス店の2階に住んでいたが、不思議なことにどうにかして、本当に不思議なことに、ダドリーやハリーと同じプライマリースクールに通っていた。

 

 

ヘーゼルの母であるアイラ・フルームが必要最低限の魔法(最近は少なくなったがハリーが癇癪をおこして割ってしまった食器やなんかを治すなど)以外は決してダーズリー家の前で魔法を使わないと決めているのでダドリーたちは見たことがないが、ヘーゼルの話によると猫好きのフィッグばあさんの家の暖炉を通って毎日こちらへ来るらしい。

 

 

 

 

ダドリーだってもちろんハリーやヘーゼルとこれからも一緒にいたいという気持ちはあったが、双子よりほんの少しだけ精神的にも大きかったので3人で一生べったりというわけにもいかないこともわかっていた。

 

 

ヘーゼルの父であるアンブロシウスが破顔しながらこの子は天才だ!と溢していたヘーゼルの魔法の才も、ハリー本人的にはいつも困ったことを引き起こしてしまう魔力の暴走も、これから2人が通う予定のホグワーツ魔法魔術学校とやらに行けば開花しコントロールできるようになるのだろう。

 

 

 

幼い頃からハリーの強い兄であろうと何にでも挑戦してきたおかげでダドリーは学校の成績も運動も優秀だった。

 

 

自分ひとりだけが魔法を使えない学校生活を思い描いてみて、ダドリーは小さく首を振ってその嫌な想像を吹き飛ばした。せっかく父の誇りの母校である名門私立スメルティングズに入学が決まったのに、わざわざ劣等生になりにホグワーツへ行くなんてダドリーには考えられない。

 

 

 

 

 

 

つい1週間ほど前のこと。プリベット通り4番地 2階子供部屋 ハリー・ポッター様とエメラルド色のインクで宛名が書かれた手紙が届けられた。ホグワーツ魔法魔術学校からの入学許可証だった。

 

その日のうちにヘーゼルが目を輝かせながら同じエメラルド色のインクで書かれた(宛名はホグズミード村 ハニーデュクス店 2階 小さな部屋 ヘーゼル・ポッターとなっていた)手紙を持ってダーズリー家に現れた。

 

当たり前のことなのだがダドリーにはホグワーツから手紙がきていないことを知ると、この1週間双子はずっとこの調子である。

 

 

 

 

 

「まぁ2人とも我儘言って兄ちゃんを困らせるなよ。明日でやっと11歳になるんだからな」

 

ダドリーがそう言うと自分もこの間なったばかりのくせに!と双子はぶうぶう文句を言ったが、ダドリーはどこ吹く風で誕生日ディナーのメニューを予想してわくわくしている。

 

「ヘーゼルの作ったケーキ美味しいんだよなぁ」

 

つられてハリーまでそう言い出すとヘーゼルはもう!と拗ねて揺らしていたブランコをぴたりと止めた。

 

 

「怒るなよヘーゼル。クリスマス休暇や夏休みになんか、またみんなで遊べるさ」

 

ダドリーが何回目かの同じセリフを言うとヘーゼルは後ろを振り向いてダドリーの顔をじっと見た。榛色の瞳にはうっすら涙が溜まっている。

 

「ダドリーは寂しくないの?私はそんなのじゃ全然足りないわ・・・毎日一緒にいたいのよ・・・」

 

 

大抵のことは何でもそつなくこなすダドリーだったが、女の子の涙には、とりわけヘーゼルの涙にはめっぽう弱く、おろおろするしかない。

 

 

「寂しいに決まってるさ。ただダドリーはどうするのが一番いいかちゃんとわかってるだけだよ。僕たちが本当は頭のどっかでわかってるみたいにね」

 

こういう時に助け船をだしてくれるのはいつも小さな弟だった。ハリーの言葉にヘーゼルもそうね、と呟いて無理に笑ってみせた。その笑顔がよりいっそうダドリーの胸をギュッと締め付けた。

 

 

 

 

 

「そうだわ!私お菓子を作ってきたの忘れてた!」

 

気分を変えるように明るい声でヘーゼルが言った。ベンチにかけて行くと置いてあった鞄の中からピンク色の小さな包みを持って笑顔で戻ってくる。

 

ヘーゼルが白いリボンを解くと、中にはいろいろな形をした小さなビスケットが入っていた。なんとも美味しそうな焼き色だ。

 

「やったー!」

 

ハリーが喜んでひとつをつまみ食べようとすると、ダドリーがその手を掴み周りをきょろきょろ見渡した。

 

「おいハリー気をつけろよ。ヘーゼルの魔法のお菓子だぞ」

 

ダドリーに言われてハリーも慌てて周りを見渡した。公園の反対側の端に、声は届かないが老人が2人、木陰に座っておしゃべりしているようだった。

 

「今回のお菓子はこれだけ離れてれば大丈夫と思うわ。・・・いきなり体が浮いたりしないし」

 

言いながらヘーゼルも老人たちに目をやり、そう付け加えた。

 

ヘーゼルには小さな頃から魔力を持ったお菓子を作り出す才能があった。これは魔法界でもとても珍しい能力だとアンブロシウスが大絶賛していた。

 

 

ヘーゼルの作るお菓子はどれも美味しく、舐めている間地面から数センチ浮くしゅわしゅわしたキャンディーや、食べると瞳が5分間ピンク色になる苺ムース入りのチョコレートなど面白いものばかりだった。

 

 

 

ペチュニアやバーノンを驚かさないように公園や子供部屋でヘーゼルのお菓子をこっそり楽しむのが3人の楽しみだった。

 

 

 

ハリーは自分がつまんだ象の形のビスケットをまじまじと見つめ、それからぱくりとそれを食べた。

 

「パオーーーン。パオッ?!パオーン?」

 

途端にハリーの口から本物の象のラッパのような声が飛び出た。後半は自分自身の声に驚いた様子だ。

 

ダドリーはにやりと笑い自分はライオンの形のビスケットをぽんと宙に投げそれを口でキャッチした。ダドリーの口からはまさに王者の咆哮が飛び出た。

 

続いてヘーゼルもひとつ食べ鳥のような声を出しながら笑っている。

 

 

「これって最高だよヘーゼル!」

 

ハリーが目をキラキラさせて言った。

 

「しかも味までいけてるぜ。そうだな、ヘーゼルのお菓子を年に数回しか食べられないっていうのは耐えれないかもな。」

 

ダドリーが茶化すように言うとヘーゼルはもうっとダドリーの背中を軽く叩きながらも、得意げな顔だった。

 

「・・・毎日どっさり贈るわよ。もちろんフクロウでね」

 

そう言うヘーゼルの頭をダドリーが優しく撫でた。

 

 

 

「これは何の動物の形かな?」

 

ヘーゼルの答えを待たずにハリーがそのビスケットを口に放り込んだ。途端に汽笛の音が鳴り響き、ハリーの耳からは蒸気が吹き出た。老人たちが顔をきょろきょろさせたのでダドリーは慌てて自分の後ろにハリーを隠した。

 

「蒸気機関車よ。自信作なの」

 

 

ヘーゼルの言葉に3人は顔を見合わせると同時に盛大に吹き出し腹を抱えて笑い転げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものようにヘーゼルがフィッグばあさんの家へ(実際にはそこからホグズミードへ)帰り、家族団欒の夕食を終わらせてハリーに続き2階の子供部屋へ行こうとした時、ダドリーはペチュニアに呼び止められた。

 

 

 

「どうしたのママ?」

 

 

お腹いっぱいになって眠い目をこすりつつダドリーが落ち着かない様子の母にたずねると、ペチュニアは言いにくそうに口を開いた。

 

 

「ダドリーは・・・寂しくはないの?その・・・仲良く育ってきたハリーやヘーゼルが魔法学校に行ってしまって。・・・2人の力が羨ましかったり・・・」

 

 

母親からこの様な話をされるのは数回目だった。どうも母は魔女だった母の妹、ハリーやヘーゼルの本当の母親リリーに複雑な感情を抱いていたらしい。ハリーに入学許可証が届いてからずっといつ切り出そうかとそわそわしていたようだ。

 

 

 

「ママ、ちっともだよ。そりゃもちろん寂しいさ。ハリーは僕の大切な弟だもの。ヘーゼルも妹みたいなもんだし。魔法はすごいって思うけど、ハリーやヘーゼルに出来なくて僕に出来ることもいっぱいある。例えば2人とも自転車に乗るのはそんなに上手くないし」

 

 

ダドリーが肩をすくめてそう言うとペチュニアはそう・・・と呟いた。

 

 

 

「まぁ実はこれは小さい頃にアイラおばさんに言われたそのままなんだけどね。でも本当にそう思ってるよ。パパとママがハリーと僕を区別せずに育ててくれたおかげさ」

 

ダドリーはそう言うと少し照れて目を逸らした。最近は親に素直な気持ちを話すのが少し照れ臭くなってきていた。

 

 

 

 

ペチュニアはダドリーの言葉に安心したように微笑んだ。

 

「ママ心配しすぎちゃってごめんなさいね。ママのかわいこちゃん・・・こんなに大きくなって・・・。もうすぐダドリーもハリーも家を出てしまうなんて・・・」

 

 

涙ぐみそうになる母親にダドリーは慌てた。母親の涙はヘーゼルの涙より、なおどうしたら良いかわからない。

 

 

「ママ!すぐに帰ってくるさ!ママが呼んだらその日に帰るよ。ハリーなんか魔法でママが呼んだ一秒後には帰ってくるよ」

 

息子の言葉にふふふと笑い、ペチュニアはそうねと頷いた。

 

「ありがとう愛しのダドリーちゃん。明日はハリーと、それにヘーゼルの誕生日パーティーだものね。2人が買い物に出てる間に張り切って準備しましょうね」

 

 

 

 

 

 

 

おやすみを言い合ってダドリーは子供部屋のドアを開けた。二段ベッドの下の段ですでにすやすや眠っているハリーに布団をかけてやりながらダドリーはヘーゼルの動物ビスケットの味を思い出していた。

 

 

バターの風味とメープル香りのさくりとしたビスケット。一口食べれば笑顔になること間違いなし。ダドリーは魔法のことはわからないがヘーゼルはお菓子作りの天才だということはわかる。

 

 

 

 

 

ヘーゼルのお菓子をなかなか食べれなくなるのは残念だ。その気持ちに嘘はなかったが内心ダドリーはヘーゼルと離れることに少しほっとしてもいた。

 

 

 

もちろんヘーゼルは大好きな従兄妹だ。でもヘーゼルに対する好きがハリーに対する好きの種類とは違ってきていることをダドリーは薄々自分でも認めざるをえなかった。

 

 

ヘーゼルはプライマリースクールでも一番可愛いと噂されていて、悪戯好きのくせに誰より優しくて、ダドリーやハリーにだけはちょっとワガママを言うところも愛おしかった。

 

無邪気にダドリーに抱きついてくるヘーゼルに最近は少しどぎまぎしてしまう自分がダドリーは許せなかった。ヘーゼルはダドリーの弟のハリーと双子、実質ほぼダドリーの妹のようなものだからだ。

 

 

 

今はハリーやヘーゼルがダドリーにベッタリだからガールフレンドを作る隙もないが、これから恋とやらをすればヘーゼルへの気持ちが勘違いだったとわかるだろう。スメルティングズが男子校だと言うことはさておき、だ。

 

 

 

 

 

ハリーがむにゃむにゃと寝言を言ってにやけている。どうやら夢の中でも何か食べているらしい。

 

 

4歳の頃にヘーゼルと姉弟だから結婚できないなんて嫌だ!と泣き叫び自分より早くすっきりと失恋を終わらしているハリーが何だか少し憎らしくなって、柔らかな頬をむにっとつまむと眉間に皺を寄せて寝返りをうった。

 

 

そんなハリーを見て優しく微笑むとダドリーは二段ベッドの梯子を登り、自分のベッドに横になった。

 

 

 

まったく、従兄妹なんて微妙すぎる。

 

 

 

芽生えはじめた淡い恋心に蓋をしてダドリーも眠りについた。時計の針は22時20分。あと数時間でハリーとヘーゼルもダドリーと同じ11歳になる。

 

まだほんの子供の、それでも少しずつ大人に近づこうとしている魔法使いと魔女とマグルの子供たちの寝顔を月が平等に照らしていた。

 

 

 

 

 

 

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