ヘーゼル・フルームは一見普通の、ただし魔法界では普通の、十歳の女の子だった。
父親のアンブロシウス・フルームに言わせると顔は魔法界において特別可愛くてお菓子に魔力を込める特別な力を持つ魔法の天才だったが、母親のアイラ・フルームが甘やかしすぎずきちんと育てたおかげで性格も愛想も良い、両親の営む菓子屋ハニーデュークスの評判の看板娘だった。
ピンクとグリーンの店の内装に合わせたエプロンドレスを身につけて、小さなコック帽をちょこんとかぶりお菓子を袋に入れたりショーケースにケーキを並べたりする姿はまるでお人形が働いているような可愛さで、週末ホグズミードにやってくるホグワーツの上級生たちの多くがめろめろになっていた。
彼女は両親が共働きのため、幼い頃から平日の昼間は遠い親戚か知り合いか何かのスクイブの婆さんに預けられていた。さぞつまらないだろうに、私フィッグおばあさんもニーズルたちも大好きなの、と微笑む姿は余計にそのファンを増やしていた。
その実、ヘーゼルは魔女であるにも関わらずマグルのプライマリースクールに通っている、魔法界においても極めて普通ではない女の子だった。
マグル出身の魔法使い魔女がホグワーツ入学までマグルの中で生活をおくっていることを考えれば不可能ではないが、ホグズミードからわざわざフルーパウダーを使ってマグルの学校に通うなどということは恐らく前代未聞と言えるだろう。
これには二十世紀で最も偉大な魔法使いと謳われるアルバス・ダンブルドアの力添えとヘーゼル・フルームの極めて普通ではない生い立ちの事情があった。
彼女の本当の名前はヘーゼル・P・ポッター。かの有名な生き残った男の子ハリー・ポッターの双子の姉である。
この事実を知っているのは双子本人たちとヘーゼルの育ての両親であるアンブロシウスとアイラ、ハリーを育てているマグルの一家、そしてアラベラ・フィッグなどダンブルドアが信頼するごく一部の者だけだった。
生き残った男の子に関する書籍は沢山あったが、そのどれにも、男の子に双子の姉が存在したことについて書かれたものはなかった。
夏の陽もすっかり落ちた頃、ハニーデュークス店のドアが勢いよく開き、ベルがカランカランと大きな音をたてた。入り口から大きな身体をひょっこりと覗かせているのはホグワーツの森番、ルビウス・ハグリッドだ。
もじゃもじゃの髪の毛と髭の間から黄金虫のような目をきょろきょろさせて商品を並べる手伝いをしていたヘーゼルを見つけるとにっこり微笑んだ。
「やぁヘーゼル。おまえさんを探しちょった。今日は何度もここに来たぞ、え?どこに行っちょった?」
ヘーゼルもにっこり微笑むと店内をきょろきょろと見回した。店じまいの準備をしているアンブロシウスとアイラの他は誰もいない。
「もちろんハリーたちのところよ」
「そうだろうと思っとった!まったくおまえさんたちはウィズリーの双子みたいに仲が良い。それはええことだ」
アイラが答えるとハグリッドが笑ってそう言った。ハグリッドもヘーゼルがハリーの双子であることを知る人物の1人だった。
「明日はハリーとおまえさんの十一歳の誕生日だ!それでその、こんなことをお前さん本人に頼むのは間違っとるかもしれんが、うん」
「なぁに?」
ドアから身体を半分だけ出したままもじもじしているハグリッドにヘーゼルは優しく問いかけた。赤ん坊の頃からホグズミードのパブにくるたびにハニーデュークスをのぞいて何かと気にかけてくれる優しい森番は、ヘーゼルの年の離れた大切な友達だった。
「お前さんとハリーにバースデーケーキを作ろうと思ったんだ。そんで材料も全部買ってある。でも作ろうとして気付いたんだ!おまえさんは俺が知る中でもっとも美味いケーキ屋の娘だってな。」
ハニーデュークスといえばアンブロシウスが仕入れたり開発したお菓子が所狭しと並んでいるが、数量限定で作られるアイラのケーキも根強いファンのいる人気商品だった。
今の季節はベリーをたっぷり使ったロールケーキがショーケースに並ぶとあっという間になくなった。
「そんで俺は自信をなくしちまった。美味しいケーキには慣れとるだろ?初めはお前さんのおっかさんに手伝ってもらおうと思ったんだがな。アンブロシウスもアイラも、ヘーゼルがわしを手伝いたいっちゅうだろうて言うもんで、待っとったんだ」
そう言いながら少し不安そうなハグリッドにヘーゼルはもちろんよ!と微笑んだ。
数分後ハグリッドとヘーゼルは白いエプロンにコック帽の姿でハニーデュークスの二階にあるフルーム家のキッチンに立っていた。
今からケーキ作りをすることを伝えると、母のアイラが(ほんの少し清潔感に欠ける)ハグリッドの出立ちをちらりと見て、2人に魔法をかけてくれたため、見た目だけでいうと大御所のコックと可愛いお手伝いの女の子のような姿になっていた。
実際の作業はまったく逆でハグリッドの大きな手はしょっちゅう分量を間違えて入れすぎていたが、ヘーゼルが手際良く助けたおかげでキッチンは無事にスポンジの焼ける美味しい匂いでいっぱいになった。
アイラからわけてもらったベリーソースをスポンジにたっぷり挟み、ベリーとクリームチーズを少し入れてさっぱりとした味わいに仕上げたピンク色のクリームを綺麗にナッペすると、ヘーゼルは満足気にその仕上がりを眺めてからハグリッドの前に置いた。
「さあ、大事な仕上げはハグリッドよ!」
後はグリーンのアイシングクリームで文字を描けばハグリッドの考えてくれたハニーデュークスカラーのケーキの出来上がりだ。
ハグリッドは大きな手でちょこんとアイシングクリームの袋を摘むと不安そんな目でちらりとヘーゼルを見た。
「ヘーゼル、やっぱりお前さんが描いた方がええんでないか?せっかくのバースデーケーキだぞ、え?」
「せっかくのケーキだからハグリッドに描いてほしいの!」
ヘーゼルのきっぱりした言葉にハグリッドはにっこり微笑んでから真剣な顔になり震える手でこう描いた。
『HAPPEE BIRTH DAE HAZEL AND HARRY』
「ハグリッド、最高だわ!」
ヘーゼルが心を込めてそう言った。ハグリッドの真っ直ぐな優しさは砂糖たっぷりの紅茶みたいに心を温めてくれる、とヘーゼルは思った。
ハグリッドも完璧なケーキの出来栄えに手を叩いて喜んだ。
「明日が楽しみだわい。それになんせ俺は明日初めて大きくなったハリーと会えるんだからな!赤ん坊の頃以来だ」
ホグワーツの校長アルバス・ダンブルドアによってフルーム家以外の魔法族はハリーに会いに行くことを禁止されていた。
ハグリッドはことあるごとにハリーは元気か?マグルにいじめられとらんか?と気にかけては、ヘーゼルからハリーの幸せな様子を聞いて嬉しがっていた。
明日のハリーの十一歳の誕生日、ダンブルドアに命じられハグリッドはハリーと一緒に学用品を揃えにダイアゴン横丁へ行くことになっていた。同じく十一歳の誕生日を迎えるヘーゼルもアンブロシウスとアイラと一緒にダイアゴン横丁でハグリッドとハリーと合流する約束になっている。
「ハグリッド、マグルの家ではきちんと呼び鈴を鳴らしてね。それからあんまり大声で話さないようにした方がいいと思うわ。驚かすといけないから」
ヘーゼルは心配そうに言った。何もかもがきちんと整ったプリペッド通り4番地にハグリッドの大きな身体はどうも似合いそうになかった。
「それとせっかくのケーキをあなたのお尻でつぶしちゃわないように気をつけないとね!」
そう付け加えてリリーにそっくりの姿でジェームズの目をして笑うヘーゼルを見て、もう一度ハグリッドはケーキに願いを込めた。
どうか残されちまったちっぽけなヘーゼルとハリーに幸せがいっぱい訪れますように。