ハニーデュークスの女の子   作:雪羊

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ドラコとヘーゼルナッツアイス

 

 

 

 

ドラコ・マルフォイは浮かない気分だった。

 

 

両親とホグワーツ入学のためにダイアゴン横丁へ買い物に来ていたが、父親は最初から規則を破るのは賢くないとクディッチ用の箒を買ってくれなかったし、それどころか子供扱いしてノクターン横丁へ連れて行ってくれなかった。

 

母親の長いショッピングに付き合う気にもなれず、ドラコはフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーで時間を潰すことにした。

 

マダム・マルキンの洋装店で出会った丸眼鏡の男の子が巨大な森番と並んでアイスを食べている姿を遠目に見送って、何となく自分も食べたくなったのだ。

 

 

 

 

『本日のおすすめ チョコレートとラズベリーのアイス 気分の明るくなるスペシャルナッツトッピング』

 

 

黒板に描かれた文字とアイスの絵が魔法で踊るように揺れているのを横目に、迷わずシンプルなヘーゼルナッツアイスを頼むと店内の窓際に一対だけあるソファー席に座った。

 

 

丸眼鏡の男の子は両親を亡くしたと言っていた。時に息苦しいくらい両親に期待され、今まで親から数日も離れたことのないドラコには彼の気持ちが想像できなかった。

 

 

 

友達になり損ねたな。

 

いつも決まって選ぶヘーゼルナッツのアイスを銀色のスプーンですくいながら、ドラコはそう思った。純血の家柄の集まり以外で初めて同年代の子供に出会い少し浮かれて話しかけたのが、思い出すとなんだか恥ずかしかった。

 

 

フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーのアイスクリームは絶品で、ヘーゼルナッツ独特の風味が舌の上で甘く溶け、ドラコの気持ちも少し明るくなってきた。

 

 

 

ふと窓の外に目を向けると明るい日差しを浴びたパーラー席に自分と同じ歳の頃の女の子が座っているのが見えた。

 

赤褐色の髪をひとつに結び、整った顔に白い帽子が柔らかな影を落としている。風が吹くたびに帽子によく合う白いブラウスのフリルと黄色いスカートがひらひらと揺れていた。

 

 

女の子は父親と母親らしき2人と楽しそうに話していて、彼女が笑うとそこにだけぱっと花が咲いたようだった。

 

 

ドラコは自分の胸が高鳴るのを感じた。それは間違いなく生まれて初めての一目惚れだった。

 

 

運ばれてきた甘そうなサンデーに女の子が小さく手を叩いて喜んび、その無邪気な姿にまたドキリとする。

 

女の子たちには好かれることが多かったしドラコも父親の教え通り紳士的に接していたが、こんな気持ちになるのはまるで初めてだった。

 

 

 

 

いてもたってもいられずドラコは急いで買ったばかりの羽根ペンとインク、母とフクロウ便でやり取りするために揃えた便箋を1枚取り出した。

 

質の良い滑らかな便箋にネイビーブルーのインク(一級品、夜空の煌めき)で何やら走り書くと、それを鳥の形に折り息をふっと吹きかけた。魔力を帯びたを手紙は羽ばたきドアをくぐり抜け、テラス席にいる女の子の前にふわりと舞い降りた。

 

 

この魔法はドラコが字を書くと同時に覚えたものだ。

 

 

女の子はどこからか飛んできた紙の小鳥に喜んで手を伸ばそうとしたが、怪訝な顔をした父親がそれを止めた。

 

父親が杖で小鳥をつつくと手紙がぱっと開き、父親はますます顔をしかめた。手紙にはキラキラと夜空に星が煌めくような不思議な色のインクで、帽子をかぶった女の子の絵が描いてあった。サンデーを前に目をハートマークにしている。

 

 

その下には『君のことを沢山知りたい。僕はヘーゼルナッツのアイスが大好き』とあった。

 

女の子は榛色の瞳で周りをきょろきょろ見回すと、少し頬をピンクに染めて母親とくすくす笑っている。明るいテラス席からはガラスが光って店内のドラコは目に留まらないようで、それがなんとももどかしかった。

 

 

すっかり不機嫌な父親の目を盗んで女の子がポケットに手紙をしまうのを見届けて、ドラコは思わずにやけた。

 

学用品を沢山買い揃えているところをみると、彼女もきっと今年ホグワーツ入学だ。せっかく手紙が好感触だし今すぐ声をかけにいくような無粋な真似はしないでおこう。何より父親が殺気立っている。

 

 

 

焦らずじっくり落としてみせる。

 

狙った獲物は逃さずどんな手段を使っても目的を遂げる狡猾さを持つドラコ少年は、根っからのスリザリン気質だった。

 

 

 

彼女もスリザリンだといいな。

 

そんなことを考えながらいつの間にかスプーンの上ですっかり溶けてしまった最後の一口を流し込むと、ヘーゼルナッツの香りがよりいっそう甘く弾けた。浮かない気分も何処へやら、ドラコはホグワーツへの入学がすっかり楽しみになっていた。

 

 

 

 

 

 

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